表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
74/129

23-3

23-3


 小さなパーツをそっとつまむ。力を入れすぎず、しかししっかりと。


 そのまま別のパーツにはめ込む。こんなに小さいのに、ぴったりと嵌め合いに収まる。


 もう一つのパーツを同様にしてはめ込む……は……め……。


「あーっ?!」


 力を入れすぎて指先から小さなパーツが飛んでしまい、思わず吹雪は叫び声をあげる。


「吹雪さん、力をあんまり入れすぎては……」


「うわーん! 分かってるよー! それよりパーツ、パーツどこいったのー?!」


「こういうときは焦らず慌てず、まずは机の上をよく探し、それでもなければパーツを踏まないよう慎重に床を……あ、ホラ。ありましたよ」


 あたふたしている吹雪とは違い、模型作製に慣れている美空はパーツ探しも慣れた様子で見つけてしまった。そんな美空を尊敬の眼差しで見つめる吹雪。


「すっごい……美空……よく見つけれたね!」


「慣れもありますけどね。こういう小さいパーツはピンセットを使ってもいいですよ」


 手渡されたピンセットを使い、おっかなびっくりパーツを摘む。美空の助けもあっていくつものパーツは次第に形を成していき、なんとなく輪郭を形成していく。パーツ同士の嵌め合いを確認しながら組んでいきようやく完成――と思いきや、吹雪はそれを分解していくではないか。


「ねー美空ー? なんで一度作ったのをもう一度バラバラにしなくちゃいけないの?」


「今の作業は仮組(かりぐ)みというものです。市販のキットはそのまま作っても(パチ組み)ちゃんと組み上がりますし、バトルにも使えます。でもこういう自作パーツはきちんと接着剤で固定して、さらに塗装もしないと想定した性能が出ないんですよ」


「はぁー、結構たいへんなんだねー?」


「なに他人事みたいに言ってるんですか。さ、バラしたパーツを洗剤で洗って乾かしますよ。塗装の下準備です」


「は、は~い……」


 準備を終えたパーツを塗装ブースへと持っていく。そこでは美空がすでに用意していた塗装に必要な道具が並んでいた。塗料の入ったビンに、よくわからないビン(有機溶剤)、それからよくわからない機械(エアコンプレッサ)と、吹雪にはよくわからないものばかり。


「塗装のコツは薄く吹いて、少しずつ色を乗せるイメージです」


「最初は灰色なんだねー」


「サフグレーという、いわゆる下地の色です。化粧と同じで下地をしっかり作ることで発色がよくなるんですよ」


「なるほど!」


 美空の指導通りに塗装を進めていく。塗っては乾燥機、塗っては乾燥機を繰り返すこと約二時間。味気ないモノトーンだったパーツが鮮やかな色に変わり、吹雪はその出来に自分でも驚いてしまう。


「で、出来た!」


「……うん、初めてにしてはキレイに塗装できています。最後に、表面保護のためにトップコートを吹いて今日は終わりにしましょう」


 こくりと頷く吹雪。ほぼ完成間近の新武装。


 しかし、叢雲はこの武装を受け取ってくれるだろうか。やはり不安を拭いきれない美空だが、肝心の吹雪は呑気な表情をしている。吹雪と叢雲、マスターとドールの問題ともいえるが、事は本戦大会に関わってくる。


(吹雪さん、頼みますよ……?)





 * * *




「ねえ、叢雲。ちょっと話があるんだけど?」


「ん? なにかしら」


 次の日。学校は夏休みだが、グラウンドでは運動部系の生徒が暑い日差しに負けない声を出している。今日も今日とてBDG部の面々は部室で特訓や作業をしていた。


「じゃん! これ!」


「なによ……って、これ……剣?」


 吹雪が差し出したのは一振りの剣。ドールが使うものとしては標準的なサイズで、鋭い刃を備えた刀身は質実剛健という言葉を連想させる。鍔の部分は刀身に比して大きく、中央に嵌められた宝石のような石が淡い青に揺れていた。


「えへへ、これね! 私が作ったんだよ! 初めての工作! といっても私はデザインと組み立てばっかりで美空や真理センパイ、先生にたくさん手伝ってもらったんだけどね」


「へぇ……」


 剣を受け取った叢雲はしっかりと柄を握る。それは初めて握るはずなのに、なぜか手に馴染む気がしてくる。片手でも両手でも扱えるが、その重量は片手でも楽に扱えるちょうどいいくらいだ。


「……フッ! ハァ!」


 思い切り踏み込み、剣を振るう。虚空を裂き、風を切るような感触。剣の重心も叢雲が扱いやすい位置にあるのか、普段と違和感なく触れている。


「天之羽々斬と同じ重心バランスにしたんだ。けっこう苦労したんだよー? 主に先生と美空が」


「……そうね、とても初めて作ったとは思えない出来だわ。それに……十種雲形も使えるの?」


 と、鍔にある石がポゥ……と輝き出す。叢雲の思考とリンクし、剣に蓄えられたエネルギーが漏れ出ているのだ。


「そう! 羽々斬よりもコンパクトなのに同等のエネルギー容量があってね、回復速度が早くなってるんだ! ほら、羽々斬は大きくて強いけど対戦相手によっては攻撃力が過剰すぎたり、もっと小回りが効いたほうがいいときもあると思ったんだ」


「ふーん?」


 確かに天之羽々斬はかなりの大型剣に属するほうで、その重量と切れ味からトップクラスの攻撃力を持っている。しかし、その大きさが仇となり閉所での戦闘や超接近戦では不利な立ち回りを強いられることがある。実際、昨日のブラッドパイレーツとの戦闘でも一対三という数の不利よりは、羽々斬の間合いを取れなかったことが敗因に起因している。


「あのね、吹雪……」


「あ! でもね! その、叢雲の好きにしていいよ! 羽々斬の方が使いやすいとか、今までと戦闘スタイルを変えるのが嫌だと思ったら、私は叢雲の考えを尊重するから!」


「あ、いや、そのね?」


「叢雲も羽々斬に思い入れがあるだろうし、その、私が作った剣は……記念?にでもとっておいて」


「吹雪!」


「ひゃ、ひゃい!」


 たまらず叢雲は大きな声を出してしまう。そのせいで少し離れたところにいた美空や真理、フレイスヴェルグとアルテミスが何事かとこちらの方を見ている。が、叢雲は半ばそれを無視して吹雪に話しかけた。


「あのね? その、そういうことで私に気を使わなくていいのよ……吹雪が一生懸命、私のためにこの剣を作ってくれたっていうのは……理解できるし、そりゃあ、羽々斬は私の大事な剣だけど……」


 言いたいことと、実際の言葉が上手く噛み合わない。頭の中(AI)ではもう考えがまとまっているのだが、なぜかそれが口に出せない。それがどうしようもなくもどかしく、叢雲はメンテのために立てかけられた天之羽々斬をちらりと見やる。


 天之羽々斬(アメノハバキリ)。鮮やかな空色をした叢雲の大剣。おそらく以前からずっと使っていたのだろう、表面は細かいキズがあちこちに入っており、何度も手入れをした痕がわかる。それはきっと、叢雲が失くしてしまった過去の勲章。


 そして、今、自分の手には別の剣が握られている。丁寧に作られたそれは新品で、性能も申し分ない。この数日、吹雪が自分にバレないよう隠れて作業している事は正直いって腹が立ったが、蓋を開ければ何のことはない。このくらい、隠さなくてもよかったのに。


「えっと……前のマスターのことなんだけど……まだ知りたいっていうのは本当だし、羽々斬がそのマスターとの繋がりみたいなものだから、簡単に変えたくないっていうのは私の気持ちなんだけど……」


「……叢雲」


 今は後ろ手に隠しているが、吹雪の指は慣れない工作の途中で怪我してしまったのだろう、ところどこに絆創膏が巻いてある。BDGに興味を持つ前までは工具も握ったことがないような吹雪が、自分のために作ってくれたというこの剣。それを思うと。


「でもね? 私はもう、今は吹雪のドールなの。だから、あんたを勝たせるために私は最大限の努力をするし、勝つためだったら武装の一つや二つくらい、使いこなしてやるわ。だから……吹雪の頑張りを、記念にとって置くなんてできない」


「……うん、ありがとうね」


「……お礼を言うのはこっちのほうよ。吹雪、私のために作ってくれて……本当にありがとう」


 二人は互いに見つめ合い、ふわりと笑う。これ以上、言葉は要らない。改めて叢雲はその剣を握り締めた。




「どうやら、無事に受け取ってもらえたようですね」


「吹雪ちゃん、叢雲ちゃん、良かったわね~! 後で鞘の位置も調整しましょうね~」


 と、様子を見ていた美空と真理がやってくる。


「……むぅ。マスター? ヴェルグちゃんにも新武装を」


「叢雲さん、その剣かっこいいですね! ところで、名前はなんていうんです?」


「そういえば……吹雪、この剣に銘はあるの?」


「もちろん! ぴったりの名前を付けてあるんだ!」


 そう言うと、吹雪はホワイトボードに大きく書き出していく。


「天之……叢雲剣?」


「そう、天之叢雲剣(アメノムラクモ)! 叢雲とおそろいの名前! かっこいいでしょー!」


「本来、叢雲というのは高積雲の別称なんですが、古代日本における神剣の名前としても有名ですね。いろんな言い伝えがあって、草原の草を切り払って火事を防いだり、雨雲を呼び寄せたと言われています」


「神話によると、大蛇を退治した時に見つかったとそうね~。まるで和製ドラゴンスレイヤーかしら~?」


「アメノムラクモ……ふふ、私に相応しいわ。吹雪にしてはやるじゃない」


「えへへ、色々調べたんだから!」


「最初、ドイツ語の辞書を引いてたときはどうしようかと思いましたけどね」


「あっ、美空! それは内緒にしてって……!」


「叢雲ちゃん、クーゲルシュライバーとかじゃなくて良かったわね~」


「真理センパイまで!」


 顔を真っ赤にして怒る吹雪と、それをみて思わず吹き出してしまう叢雲。それに釣られてみんなも、そして吹雪も笑いだしてしまう。




「吹雪、本当にありがとうね」


「ううん。本戦大会、優勝しようね!」


「もちろんよ。この天之叢雲剣でみんなぶった切ってやるんだから!」




 本戦大会まであと少し。ブロッサムメイツは最後の仕上げへと臨む。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です! こだわりの逸品。これは持ち替え無理じゃろって思ってましたけど、なんと。 また喧嘩するのかなって思ってましたけど、なんと。 二人の気遣いが重なり合った感じでちょっと涙出そう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ