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「ふぁー、また負けちゃった……」
「途中まで私のペースだったのに……!」
3Dホログラムが解除されたフィールドで叢雲がペタンと座り込む。いくら3体1とはいえ、想定される大会本戦では今のような戦い方をしていては負けてしまうだろう。特に、黒風白雨を相手にしては。
「よォ、またアタシらの勝ちだな」
「あースッキリしたぜ!」
「手応えねェぜ!」
「くっ、言いたいように言ってくれちゃって……!」
通信越しにブラッドパイレーツのドールらが話しかけてくる。しかし乱暴な物言いは叢雲のプライドを刺激するだけだ。
「う〜ん。叢雲ちゃんの戦い方は悪くないけれど〜」
と、今の模擬バトルを見ていた真理が口を挟む。
「やっぱり戦況によっては天之羽々斬は大きくて扱いづらいのかもね〜?」
「あー、真理センパイもそう思います? 集団に囲まれた時や他の子と連携する時はちょっと不便な気がするんですよね」
「ちょっと、私の剣にケチをつけるつもり?」
『いやいや、あの大剣をここまで巧みに扱えるのは凄いよー?』
「あ、紬さん」
ブラッドパイレーツのリーダー、アルビダのマスターである西海紬は淡々とした調子の口調で叢雲の剣技を褒める。
『確か第一世代のドールなんだってね? それでここまでバトれるのは正直驚きだしー、大剣の扱い方も上手いよ。どうやって仕込んだのさー?』
「あ、あはは……」
『でも大剣一本で本戦を勝ち抜くのは厳しいかもねー。レベルが高くなってくると、どのチームも色んな対応力を重視してるからさ。例えば飛び道具……は一応でも技があるから……うーん、短刀みたいな取り回しのいい武器を隠し持つとか?』
「そっかー。ねぇ、叢雲はどう思う?」
二人の会話を聞いていた叢雲だが、その表情はあまり芳しくない。何か彼女なりに思うところがあるのか、手に握っていた天之羽々斬に視線を落とす。
「……この先、もっと手強い相手がいるのも分かってるわ。生半可な事ではあの陽炎に勝てないのも理解している。でもね、私はこの剣で戦ってきたのよ。この羽々斬でね。それを変えるのは……私の信念に反するわ」
「……そっか。叢雲がそう言うなら仕方ないね」
「あの、吹雪さん? ちょっと……」
「え、なに美空? って、ちょっ、痛、痛いって!」
突然、首根っこを掴まれ部室の端の方へと引っ張られる吹雪。ようやく離してもらえたと思った矢先、無表情ながらどことなく怒っている美空の顔が。
(どうするんですか?! もう例の叢雲さん専用武装は完成間近というところまで来てるんですよ?! 今更、叢雲さんが使いたくないって言っても……!)
(あー、うん……どうしよう?)
(……もう!)
「二人共、部屋の隅でなにやってるデスか。あ、そうそう……内部機構の方は終わったデスよ。これからプリンターで出力開始する予定デス」
「さすがは先生ですね、もう設計を終わらせるとは。今度、私にも教えてください」
「フッフッフッ! 私の頭脳をなめんなデス! ……と、言いたいところデスが、今回は元の武装を参考に小型化しただけデスからね。そこまで難しいもんじゃあないデスよ」
「ありがとうございます、先生!」
「私たちが手伝えるのはここまでデス、吹雪。あとはお前が組み立てるデスよ」
「……はい!」
吹雪の返事を横から見ていた美空は一抹の不安を抱える。元は吹雪の発案で叢雲の新武装を作るという事だったのだが、当の本人が武器を変えたくないと考えている以上は素直に受け取らない可能性がある。
(叢雲さんの性格上、無理矢理押し付けては逆効果でしょうし……かといって彼女の考えを変えるのは骨が折れそうです)
心の中でため息を吐きつつ、美空は先生を手伝って3Dプリンターの設定を行っていく。モデリングデータを再確認し、粉末状のBDプラがセットされたタンクをセット。そしてパソコンのエンターキーを押すと小気味好いサーボモーターの音が唸りはじめ、出力が開始された。
(吹雪さん、叢雲さんの説得をお願いしますよ……?)
* * *
(私の信念…ね。ふふふ、我ながら女々しい事を言ったものね)
大剣、天之羽々斬。全長は叢雲とほぼ同じ、分厚く幅広の刀身は切断力に優れており、青白い刀身と深い蒼が特徴的な一振りだ。内蔵されたビーム発振器とエネルギーコンデンサにより、十種雲形という叢雲固有の技を発揮する事が出来る唯一無二の武装。その戦闘力は叢雲と同時期に製作と思われ、当時から強力だったと考えられる。
(装甲の方は劣化しちゃって廃棄したから、もう残ってるのは私自身とこの天之羽々斬だけ……吹雪のドールになるって決めたのに、昔の事に拘るなんて)
あの日、あのとき。叢雲は改めて吹雪のドールとして戦うことを決心した。失われた記憶の向こう、彼女を作り上げた元のマスターのことは今でも分からず、どうして叢雲をBDG部の部室に置き去りにしていたのかも思い出せない。それでも、だからこそ今のマスターである吹雪と共に歩くことにしたのだ。
だが、叢雲にとっては元のマスターとの繋がりとでも言える代物があの天之羽々斬なのだ。あまり感傷的なことは言いたくないが、やはりあの大剣以外の武器を使うことには抵抗感を覚える。
「叢雲さん、どうしたんですか?」
「アルテミス……」
今、叢雲はアルテミスやフレイスヴェルグらと一緒に部室の作業台の上で寝かされている。その横では真理と先生が彼女らの武装を丁寧に分解・清掃している。ほとんどプラモデルのパーツのようなバトルドールの武装だが、定期的なメンテナンスはスムーズな各部の可動と不意の破損を防ぐので推奨されている。
「……なんでもないわ」
反対側の作業机では吹雪と美空が先程から何か作業をしている。そういえば3Dプリンターがどうのこうのと言っていたので、おそらく出力した部品を組み立てているのだろう。そんな事を思い出しながら叢雲はそっけなく答えた。
「まーたそんな事言って! 叢雲さんは何かあるとすぐに『なんでもないわ』ってカッコつけちゃうんですから!」
「ぐっ……そ、そんなことないわよ」
「発声に普段とは異なるゆらぎを感知。端的に言って叢雲は焦っていると推測。ヴェルグちゃんの診断はよく当たる」
「アンタねぇ……!」
「はーい叢雲ちゃん、このパーツ合わせてみて~? どう、キツくないかしら~?」
「ちょ、ちょっと……」
ちょうど良いタイミングで真理が叢雲を抱き上げ、そのまま整備していたパーツを次々と装着する。仕方なく叢雲はおとなしくされるがまま。その様子を見てアルテミスとフレイスヴェルグはお互いに顔を合わせ、やれやれといった風に笑う。
「ん……問題ないわ。干渉もないし、いつも以上に動ける気がするわ」
「そう、良かったわ~。……叢雲ちゃん、これは一つおねえさんからのアドバイスなんだけど~」
唐突に真理は叢雲の頭を撫でる。多少は驚いたものの、真理の柔らかい雰囲気と相まって叢雲はその手を払いのけようとは思わなかった。
「あなたと吹雪ちゃんは相棒同士なんだから、思ってる事ははっきり言った方がいいと思うの~。一人で悩むより、その悩みを相手と共有できるのが相棒なんだから」
「……」
「そうですっ! 私と真理は何も言わなくても通じあえる相棒です! 二人に言葉は不要なんですよっ!」
「疑問。それでは真理のはっきり言った方がいいというアドバイスと矛盾している」
「ええっ?! あれっ?!」
「まったく、アルテミスったら~。でも言葉にしなくても通じる思いもあるし、あながち間違いじゃないわね~」
「ふふふ、本当にアルテミスらしいわね……」
あたふたするアルテミスと、それを慈愛の眼差しで微笑む真理。そんな二人を見た叢雲は再び吹雪の背中を盗み見る。
「そうね、些細なことだけれど……一応言っておこうかしらね」




