第二十三話「あんたを勝たせるために私は最大限の努力をするし、勝つためだったら武装の一つや二つくらい、使いこなしてやるわ」
新年一発目の更新デス! 今年もよろしくデス!
第二十三話
夏真っ盛り。天高く登った太陽は容赦なく照りつけている。強い日差しはジリジリと焼かれたアスファルトには陽炎が立ち上っていた。
「はぁー! やっぱり部室は快適だねー!」
「まったくね。こうも暑いといくらドールでも熱に回路がやられちゃうわ」
部室に備え付けられたエアコンから吹き付ける涼風を身体全身に浴びる吹雪と叢雲。夏仕様の学生服は薄手の生地だが、それでもこの暑さのなかを歩いてくるとどうしても汗がビッショリになってしまう。
「お二人共、少し休んだら今日も始めますよ」
パソコンの前に座ったまま、何やら作業をしている美空が背中越しに話しかけてくる。その横では金髪くせっ毛を一つに括った先生が自前のノートパソコンを睨みつつ唸っていた。
「先生は何をそんなに難しい顔しているんですか?」
「うむむ……いや、例のアレのエネルギー効率を計算してるんデスよ。ホラ、アメノ……」
「あっ! 先生、分かりましたから! まだそれは……!」
「おっと、叢雲にはまだ秘密の約束デスね。失敬失敬」
「ちょっと、先生まで私に隠し事? これで碌でもない事企んでるんなら、怒るからね」
あはは、と苦笑いでその場をごまかす吹雪。しかし当の叢雲は慣れてしまったのか、それとも諦めたのかあまり詮索しないようになっていた。
「吹雪ちゃ~ん? そろそろいいかしら~?」
「あっ、真理センパイ! はい、そろそろ始めましょうか!」
「お願いね~。もうみんな準備できてるわ~」
バトルフィールドの操作パネルをタッチしていく真理。するとフィールドが起動し、立体映像が描画されていった。
「よぉ、今日は接近戦の特訓だ! アタシたちの攻撃をなるべく全部避けられるくらいにはなってもらうぜ!」
「へっへ、油断してると血祭りにあげてやるぜ!」
「覚悟しとけよォ? 泣いたり笑ったりできなくしてやんよ!」
対戦相手の自陣には薄っすらとホログラム状のチーム・ブラッドパイレーツの姿が。バトルフィールドの通信機能を使えば遠隔地同士のフィールドを接続し、このようにタイムラグ無しでバトルすることが可能なのだ。
『まぁ毎回毎回、遠征してると交通費もバカになんないしねー』
『でも部室にフィールド持ってるって良いよね!』
『私たちはずっと近所のゲーセンで練習してたしね。プレイ料金稼ぐためにバイト増やしたこともあったっけ』
姿は見えないが彼女らのマスターの声も聞こえてくる。待たせては悪いと思った吹雪はマスターブースのパネルを操作し、すぐさま叢雲をエントリーデッキへと乗せた。今回は叢雲一人に対しブラッドパイレーツ三人の練習モード。実戦同様のルールと設定だが、実績や戦績に影響しないためこういった特訓によく使われている。
「それじゃあ今日も特訓お願いします!」
「フン、今日こそはアンタたちをギャフンと言わせてやるわ!」
叢雲は愛用の大剣、天之羽々斬を肩に担ぎ勢いよくフィールドへと飛び出した。
「ハ、言ってくれる! やっちまうよ!」
「あいよキャプテン!」
「なます切りだァ!」
ブラッドパイレーツはキャプテンであるアルビダとカトラスナイフ使いのメアリが前衛を、そしてやや後方にフリントロックのようなピストルを持ったアンが突撃する。彼女たちのバトルは非常に荒々しく、並のドールでは一方的に蹂躙されることで有名だ。
それに対して叢雲は天之羽々斬を片手で持ち、一気に相手の懐へと飛び込んだ。
「どう? この距離じゃあ上手く連携できないでしょ?」
叢雲の狙いはアルビダ、あるいはメアリの至近距離に張り付くことで他の仲間が援護できない状況を作り出すことだった。ブラッドパイレーツのような強豪チームは仲間同士の連携も高いレベルにあり、それを無効化するのは実際のところ有効な手段の一つともいえる。
「ぐっ……ちょこまかと!」
「あら、どうしたの? 私はまだ一発も被弾してないのだけれど? さっきまでの威勢はどこへ行ったのかしらね!」
挑発のつもりなのか、叢雲はわざと攻撃を仕掛けず回避に専念している。アルビダらが言った全部避けてみろ、という挑戦の意趣返しなのかもしれない。
「叢雲、特訓なんだからちゃんとやってよ?!」
「わかってるわよ、吹雪! んじゃあ、そろそろ仕掛けるわ!」
そう言うと叢雲はアルビダとの距離を狭めたまま、大剣をコンパクトに振り抜いていく。自身の身長ほどもある天之羽々斬が華麗に舞う様子は一種の舞踊を見ているようだ。
「なかなかやるねぇ! でもそれだけじゃあ勝てないよ! アン!」
「あいよキャプテン!」
アルビダは後方に構えていたアンに目配せをする。その意図をすぐさま理解した彼女はアルビダ越しに叢雲へとその照準を定めた。
「なっ?! アンタら正気なの?!」
「へっ! これくらいのダメージ、気合でどうにかなるのさ!」
なんと、アンはアルビダに当たるのもお構いなしに次々と銃撃してきたのだ。どうにか回避しようとするが、アルビダはダメージを無視しながら叢雲へと攻撃してくるので思うように動けないでいる。
『いや、ダメージはダメージだからね。フレンドリーファイアでもきっちりHPは削られるから』
『そーだよ! あんまり無茶しないでよね!』
マスターである紬や杏里が文句を垂れるが、そんなことは聞こえないとばかりに叢雲への猛攻は続く。
「くっ……この!」
「楽しいダンスだなァ! このカトラスも踊りたがってるぜ!」
さらにそこへ大振りなナイフを煌めかせメアリーがすぐ側まで接近してくる。ナイフにしては大きいとはいえ、小回りの効くカトラスを叢雲の天之羽々斬で捌くのはなかなかに難しい。
「オラオラァ! さっきまでの威勢はどうしたンだい!」
「このまま十六等分にしてやらァ!」
「……ッ! この、調子に乗らせておけば……!」
進退窮まる叢雲は咄嗟に天之羽々斬を両手で握りしめる。その瞬間、彼女の全身が青白く発光していく。十種雲形・高積雲のエネルギーが漏れ出た光だ。
天之羽々斬に蓄えられたエネルギーを叢雲自身へと還元することで一時的な身体能力を向上させる高積雲。一瞬にして叢雲はアルビダとメアリーの包囲から抜け出すことに成功する。
『叢雲、時間制限に気をつけて!』
「分かってるわ! 一気にカタを付ける!」
思い切り天之羽々斬を振り抜き、再度攻撃を仕掛けようと地面を駆ける。圧倒的な速度とパワーで勝負をつけようとした叢雲だが。
「覚醒モードかい!? いい加減、何度もやってりゃこっちも慣れるンだよ! アン! メアリー!」
各種パラメータが上昇し、先程より動きが素早くなった叢雲を前にしたアルビダは部下二人に合図を飛ばす。威勢よく返事をしたアンとメアリーは一旦その場を離れ、アルビダは背中に背負っていた巨大な大砲を力強く掴んだ。
「これでも喰らいな!」
「なっ?!」
と、何を思ったのか。アルビダは地面に向けて大砲を撃ち込んでしまった。当然、叢雲には何のダメージも与えられず、辺りは舞い上がった土埃が立ち込めていく。
「くっ……何も見えない?!」
いや、アルビダの狙いはこれだった。わざと土埃を巻き上げることで叢雲の視界を奪うと同時に、一瞬だがその動きを止めること。そのわずかな隙さえあれば。
「ヒャッハー! 後ろががら空きだぜェ!」
「三十二等分に切り刻んでやらァ!」
少し離れた場所でタイミングを見計らっていたアンがピストルを連射し、メアリーはカトラスナイフを振りかざしながら突撃していった。
「こ、このっ!」
なんとか応戦しようと叢雲はもがくが、相手の位置は掴めずにただ天之羽々斬を振り回すだけ。高積雲発動中はいくらか防御力も上がっているとはいえ、アンとメアリーの連携攻撃の前には無意味だった。それに何より、大振りな攻撃はすべて見切られてしまい、結果的に隙だらけの叢雲は次々と攻撃を食らっていってしまう。
「は~い、そこまで~! 叢雲ちゃんのHPが無くなったので一旦終了よ~」




