第二十二話「ふふふ、私の練習相手にはちょうどいいじゃないの」
以前の更新から時間が空いてしまってすみません! エタらせるつもりは無いので、気長に待っていただけると幸いです。
第二十二話
とある月曜日の朝――――
「ふぁぁあ……全く、毎週月曜の朝から職員会議なんて必要ないデスよ……ねむ」
「あぁ、先生。ちょうど良い所に」
「ん? ああ、教頭先生……おはようございますデス」
あくびを噛み殺しながら職員室に入った直後、なにやら業者風の男性と話していたらしい教頭に先生は呼び止められる。今日は特に遅刻をしてるわけでもなし、他にも心当たりのないままとりあえずカバンを自分の席に下ろしてから教頭のもとへと向かった。
「どうもBDG部宛に大きな荷物が届いているんですよ。ちょっとサイズが大きすぎるので先生、責任持って受領しておいてください」
「へ? いや、部でそんな大きなモノ購入申請してないはずデスが……?」
「とはいっても、現に荷物が届いているんですよ。校庭の方へトラックが止まっているそうなので、早く搬入してもらってください。あ、くれぐれも怪我や事故のないよう、お願いしますよ」
「ええ……?デス」
「あ、じゃあ設置場所お願いしまーす」
一体なんのことかさっぱり分からない先生。そしてそんな事を気にした様子のない配送業者の若い男性は呑気な声をあげるのだった。
* * *
「うーん……うーん」
その日の放課後、教室から部室へと向かう廊下で吹雪は何やら唸りながら歩いていた。
「吹雪さん、あんまりよそ見しながら歩いていると危ないですよ」
「うーん……だってさ、美空。なかなか良い構造が思いつかなくって……どうしてもサイズが〜!」
「気持ちは分かりますけど……」
「一体なんの話よ、吹雪?」
ここ最近の定位置となってきた吹雪の頭の上から叢雲が尋ねる。すっかり慣れたもので、普通に歩いている程度ではバランスを崩して落ちることはないらしい。
「あ、いや、叢雲には関係な……くはないけど、今はまだ駄目!」
「何よ、気になるじゃない。何を隠してるのよ」
「それより……お二人共……あれ」
美空はなぜかその場で立ち止まり、部室の方を指差している。吹雪と叢雲はその方向を見ると。
「……部室の壁に」
「大きな穴が空いてるわね」
見れば、いつも見慣れた部室の壁は無惨にも破壊され、作業員が何人も出たり入ったりしいるではないか。
「あ、吹雪ちゃん、美空ちゃん〜!」
「ちょっと、私もいるわよ!」
と、廊下の向こうら真理が駆けてくる。彼女もこの事態に驚いているらしく、やたらと慌てた様子だ。
「真理センパイ! ぶ、部室の壁に穴が!」
「……何か作業しているみたいですけれど」
「私にも何がなんだかよ〜!」
「あー、お前ら集まったデスか」
どこからか先生の声が聞こえてくる。吹雪らはキョロキョロと探すと、どうやら部室の中にいるようだ。
三人が恐る恐る部室へと入ると、そこには――――
「わぁ、なにこれ?」
「お、大きいわね〜……」
「こ、これは……まさか!」
部室の一角に設置された、かなり大型の機械。巨大な箱のような形状をしており、その脇には新品のパソコンも据え付けられている。どうやら美空は何の機械か分かったようだが、吹雪と真理はピンとこない。
「宛名は聖マリアンヌの鳳凰院からデス。まったく、こんなデカイ荷物を寄越すとは……デス」
「あら〜……これが〜……」
真理は何日か前の、麗華との電話の内容を思い出した。プレゼントとは言っていたが、まさかこれの事だろうか。
「先生、これ何の機械なんですか?」
「吹雪さん、これは3Dプリンターですよ。それも恐らく最新式の!」
やたらテンションが上がっているのか、美空は目をキラキラと輝かせながらそろり、そろりと機械の方へと近づく。それがかえって怪しい不審者のような挙動となり、普段の冷静な彼女からは想像も出来ないほど興奮しているようだ。
「3Dプリンター……って、あの?」
「そ、それにしては……大きすぎるわね〜」
「そりゃそうデス。コイツは企業や大学の研究室なんかで使うような専門的なやつデスからね」
「そう、これならば縦横高さ1メートルくらいのサイズは余裕で出力出来ますよ! いや、むしろ注目すべきはその精密性! きっと小さくても大きいサイズでも歪み無く高い精度が出せるのでは……! ああ、早く試してみたい!」
「み、美空が……」
「人が変わっちゃったわね〜」
「なんか目がヤバくなってない?」
思わず頬ずりをしている美空。そんな彼女を生暖かい目で見守る仲間たち。だがそんな事はお構いなしとばかりに淀みない早口で解説していく。
「いいですか、皆さん。この3Dプリンターは光硬化方式のプリンターで、その特徴は非常に高解像度の立体物を出力出来るんです。その精度はこのカタログによると、なんと2マイクロメートル。ヤスリがけも必要ないほど滑らかな表面になるはずです。それにこの機種は複数のヘッドを持っているので、同時に数種類の材質を出力できるわけです。例えばBDプラとABS、PP、PSなど……それに水溶性樹脂を併用することで可動部を備えた造形も出力可能になっています。しかも出力に掛かる時間も従来より……」
「こりゃ、葛城。あんまりトリップするんじゃないデス。えーと、このプリンターは聖マリアンヌ学園から送りつけられた代物デスが……愛宕? 心当たりは?」
「ああ、はい〜。麗華さんがプレゼントを用意するとは言ってましたけど〜……まさか、こんなものだとは思わなかったわ〜」
「こ、こんな凄そうなもの、本当に貰っちゃっていいんでしょうか?! すっごく高価そうですよ?!」
「庶民感覚丸出しデスね、吹雪は……とはいえ、確かにコイツは普通に購入しようとなると……据付費用やらコミコミで○○○万円くらいするんじゃないデスか? まったく、お金持ちの感覚は解らんデス」
その金額を聞いて思わず頭がクラクラしそうになる吹雪。慌てて叢雲は髪の毛を掴んで振り落とされそうになるのを防ぐが、当の吹雪はそれどころではなくなった。
「い、いや○○○万円って……?! そんな大金、私達払えませんよ?!」
「まぁ、高校生には少し手が出ないわよね〜。でも別に絶対無理ってほどじゃないでしょう〜?」
「……忘れてたデスけど、愛宕も向こう側の人間だったデス」
一般庶民との金銭感覚の違いを思い知らされ、吹雪は世の中の広さを知った。そう、この社会には純然たる格差があるという事を……。
「ま、貰えるもんは病気以外なら有り難く受け取るデス。お前ら、後で向こうの学園に電話でもしてお礼でも言っておくデス」
「それより先生、早く出力してみましょう。用意の良いことにきちんと粉末材料も送られてますし」
美空が空けたダンボールには白や黒色、何色かの粉末が詰まった袋がぎっしり入っていた。それらは全て3Dプリンター用の粉末樹脂だが、それぞれ20Kg単位で積まれているので使い切るには何年掛かるだろうか、というほどあった。
「葛城、ちょっとは落ち着くデス。まだ据え付け作業とパソコンのセットアップが終わってないデスよ。いやまぁ、気持ちは分かるデスが……」
「ねぇ、美空! これがあればアレが作れるんじゃ……?!」
「そうですね、吹雪さんの考えているアレもこの3Dプリンターなら上手くいきそうです」
「また私に内緒の話? まったく、吹雪にしてはいい度胸ね!」
「まぁまぁ叢雲……楽しみは後にとっておいたほうが楽しいよ!」
「まぁ今日は据え付け作業で部室が使えないデス。お前ら、今日は早く帰って明日に備えるデスよ」
先生の言うとおりプリンターの据え付けはこれから最後の調整に入るようで、さらには搬入時にこじ開けた扉や壁などを元に戻す作業もあるようだった。
「あ、それならちょうどいいわ〜! みんなに会ってほしい人たちがいるのよ〜」




