21ー2
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「パワー……アップ……?」
「あら〜? でも、それだとおかしいわね〜」
「そう、普通ではあり得ないことなんです」
「???」
真理は美空の言っている意味が分かったものの、何か矛盾点を見つけたようだ。一方で吹雪はなんの事かよく分かっていない様子。
「あ、吹雪さんにも分かるように説明しますね。まず、叢雲さんの十種雲形……その一つにドールの身体機能を向上させる技がありますよね?」
「ええ、十種雲形・高積雲ね。あれを使うと約一分間、パワーやスピードが三倍近く上昇するわ」
「エネルギー消費が結構大きいから多用できないんだよね。でもその分、強力で一発逆転も可能だよ!」
「はい、予選大会ではチーム・バーニングフレア戦で使用しました。そういえば彼女たちのドールも同じようなスキルを使ってましたね。ああいう、身体能力や武装にバフ掛けするスキルがあるんですが、チーム・黒風白雨のドールは常時、それが掛かっているようなんです」
「はー、なるほど。いつも高積雲を使ってるようなものだったら、あんなに強いのも納得……んんん?」
「吹雪ちゃんも気付いたわね〜? そう、バフ系スキルは一定時間が経つと効果が無くなっちゃうの〜。特に倍率や効果が高いものほどデメリットも付随してくるのよ〜」
「でもでも! シューちゃんの陽炎は予選大会中、ずっと強いままでしたよ?! もしかしてルール違反……?!」
「ま、チートなら話はずっと早かったんデスけどね。これにはちょっとしたカラクリがあったデスよ」
そういうと先生はホワイトボードに何やらイラストを書き始める。どうやら大きな水槽と、それに取り付けられた蛇口のようだ。
「大雑把に解説すると、ドールのパワーはこの蛇口をひねって出てきた水の量みたいなもんデス。普段はどんなにひねっても一定の限界があるデス」
キュキュッと描き足すのは蛇口から流れ出す水。
「一度に沢山流れ出すと、すぐに貯めていた水が無くなっちゃうからです。要はガス欠ですね」
「ふむふむなるほど……ということは、叢雲ちゃんの高積雲は一瞬だけ水をドバーっと出して沢山パワーを引き出すって事なんだね!」
「そうよ〜。強力だけど、その分だけ水は減っちゃうから使い所を間違えるとエネルギーが無くなっちゃってバトルで不利になっちゃうのよ〜」
「そして、この水を貯めておける水槽の大きさは武装によって多少の増減は出来るんデスが、まぁ大した差にはならないデス。ビーム兵器やエネルギー消費の大きな武装中心のドールにとっては死活問題デス」
「……でもやっぱり変じゃない? それならシューちゃん達のドールはこの水槽の水がすぐに無くなっちゃうはずだよ?」
吹雪の指摘する通り、黒風白雨のドール達は予選大会ではバトルロイヤル方式という長丁場のバトルを戦いきった。美空や先生が言うようにパワーアップ系のスキルを使っているとすれば、これほどの長時間ではどこかで効果が切れなくてはおかしいのだ。
「ここが黒風白雨の妙手なんです。彼女たちは一般的なバフ系スキルよりも少しエネルギー消費を抑えるように調節することで、その分を効果時間を長くしているんです。他のバフに比べると倍率は小さいものの、これなら効果を長くキープできる……というのが私達の結論です」
「んん……それってつまり……?」
「要するにデスね、普通の蛇口から流れる水の量が1とすれば、叢雲のスキルはその量を短時間だけ10にする感じデスね。ところが黒風白雨のドールはこの水の量を2か3くらいでずっと流しっぱにしてるんデスよ」
「そうする事で他のドールを上回る性能を持ちながら、あれだけのギミックを備えた武装を制限コスト内に収めることが出来るってわけね〜。敵ながら勉強になるわ〜」
「そっか……きっとシューちゃん達はシューちゃんなりに大会優勝を目指してるもんね。少しでも勝つために、強くなるために努力して、色んな工夫してるんだもんね」
ギュッと吹雪は拳を握りしめる。自分たちだけが努力しているわけではない。頑張っているのは吹雪だけではない。その事を改めて実感しているのだ。
そして秋華にあの時言われた、あの言葉。
『簡単に優勝を口にしないでくれる?』
今ならその言葉の重みがよく理解できる。吹雪が想像するよりも、秋華とその仲間たちは長い時間をかけて研鑽を積み、数え切れない場数を踏み、そして用意周到とも言える準備を整えてきたのだろう。それこそ、吹雪のような新米マスターの口から優勝という言葉が出てきた事に苛立ちを覚えるほどに。
吹雪の目標は大会の優勝。秋華の目標も同じく大会の優勝。しかし、その先に見ているものは異なっている。
ブロッサムメイツが優勝することで吹雪たちの通う高校の知名度が上がり、また成績優秀な部活動を擁するという事で廃校の危機を回避する為の手段に過ぎない。だが、秋華たち黒風白雨は恐らく純粋に大会の優勝というただ一点を見ている。BDGという競技で己の強さと修練の成果を世に知らしめたいのだ。
「……ねぇ、あいつらの強さは理解できたんだけれど。そもそもどうやって倒せばいいのよ」
ぽつりと叢雲が口を開く。確かに、今回の戦闘データ検証は黒風白雨妥当の糸口を見つけるためのものだ。吹雪はそれを思い出し、期待の眼差しを美空へと向けた。だが――――
「…………」
何故か美空は顔を逸してしまう。こころなしか「何も聞かないでくれ」と言わんばかりの雰囲気を纏っている。
「先生……?」
「あー……その……デス」
先生の方へと視線を移すと、こちらはバツの悪い顔をして何か言い淀んでいる。これはもしやと思い、真理の方を見ると。
「これ、どうしようもないわね〜。弱点らしい弱点がないわ〜」
「…………え?」
弱点が無い。
「吹雪ちゃん、ステータスアップなんかのバフ系スキルなんかはね〜? 初心者から上級者まで幅広い層が使う万能スキルなのよ〜。それこそ効果時間の短さやエネルギー効率くらいしかデメリットが無いのね〜」
「逆に言えばそのデメリットをどう許容し、バトルに活かすかという点では玄人向けではありますが」
「基本的には単純なパワーアップだけデスからね。そこからデメリットを増やしてバフ倍率を上げたり、反対に倍率を下げる事でデメリットを軽減するのが一般的デス。今回のは後者を極端に調整したバージョンといった所デスか」
「そうね、私の十種雲形・高積雲は一分間という時間制限とエネルギー消費というデメリットのお陰で高い倍率でパワーやスピードなんかのステータスが向上するわ」
「うーん……あ。例えばさ、叢雲が高積雲使った状態なら陽炎たちに勝てるんじゃない?」
「吹雪さんの言うとおり、恐らく倍率と素のステータスから考えると叢雲さんの勝率は高いでしょう。ですが、一分間の間に三体を倒すとなると……」
「そうね〜、一対一ならともかく実際のバトルは三対三ですからね〜。それにあの娘たちならそれくらいの対策を考えてておかしくないわ〜」
「私としても一人が相手なら効果時間内で倒す自信はあるけど……三人同時に相手をして勝つのはちょっと、ね。流石に一度きりの試合ならリスクが高過ぎるわ」
「む〜ん……」
あの叢雲ですらはっきり勝てると言わないあたり、よほど現実的ではないのだろう。その事が吹雪にの渋い顔をさらに渋くさせてしまう。
「あ、あの! これは私からの提案なのですが!」
と、静まりかえった部室にアルテミスの声が響く。
「私達は私達で基本的な性能を上げることって出来ませんか?」




