第二十一話「これであいつらをギャフンと言わせられるのね!」
第二十一話
燦々と日差しが照りつける。初夏、というには少しばかり太陽が張り切りすぎており、吹雪らもすっかり夏の装いとなっている。
「はぁ〜……ようやくテストが終わったよぉ〜」
地獄のような一学期末定期考査が終了したのは昨日のこと。美空の立てた恐るべき計画により、吹雪は学年20位以内を目指すべく猛勉強を強いられていたのだ。
「ハイハイお疲れさま。で、結果はどうなのよ?」
「それが……」
「それが?」
部室へ向かう吹雪の頭の上、器用にバランスを取る叢雲がテストの出来を聞くも、何故か吹雪の声色が優れない。
「学年20位ピッタシ……テストでこんな点数を取ったの、生まれて初めて……」
「あら、良かったじゃない。その割には浮かない顔してるわね」
「いや、もちろん嬉しいよ? 頑張った結果が数字に出てるし。でもね……美空のスパルタっぷりが……」
「ああ……」
吹雪と叢雲はテスト勉強を見てくれた美空の指導を思い出す。普段は物静かな、図書館で一人読書をするような彼女だが、吹雪に勉強を教えているときの美空はまさに人が違った。それまで隠していた別人格が現れたのかとすら思える程だ。
「あ、吹雪ちゃん、それに叢雲ちゃんも〜」
「真理センパイ! ……センパイはテストの結果、どうでした?」
「私はね〜、なんと学年9位よ〜!」
「凄いですね! さっすが真理センパイ!」
「私というより、美空ちゃんが凄いのよ〜。学年違うはずなのに的確な指導するとか、それでいて自分のテスト勉強もこなしてるとか〜」
「あはは……美空曰く、分析さえしっかりすれば傾向と対策は練られます、ですからね」
「私、少し先輩としての自信なくしちゃうわ〜」
「大丈夫ですって! センパイはセンパイにしか出来ないセンパイらしい事が沢山ありますから!」
「あらあら、ありがとうね〜吹雪ちゃん」
そんな事を話しつつ、二人がいつも通り部室の扉を開けるとそこには。
「…………デ……ス」
妙にやつれた先生の姿が。そしてその傍らには先生私物のノートパソコンがグォングォンと冷却ファンの音を響かせなにやら演算処理をしているらしい。
「こんにちは、先生!」
「どうしたんですか〜? そんなになるまでお仕事ですか〜?」
「あ……おまえら……そこのエナドリ……持ってきてくれ……デス」
先生が震える指で示したのは、彼女がいつも愛飲している黒地に蛍光グリーンの独特なマークが目印のエナジードリンクだ。とりあえず言われた通りに吹雪が一本手渡そうとすると先生は引ったくるように奪い取り、大きな口を開けてゴキュゴキュと一気に飲み干してしまった。
「……プハァーッ! カーッ! 生き返ったデス!」
「先生〜、ちょっとオジサンぽいわよ〜」
「へーへーうっせーデス。こちとらテストの採点だけでも重労働なのに、葛城に頼まれたデータ検証も並行してやってたんデスよ」
「あっ、なるほど。そのパソコンが……?」
「そうデス。ようやくそれらしい条件を絞り込めたので黒風白雨の強さをシミュレートやってるとこデス。後はもう待つだけデスねー」
「これであいつらをギャフンと言わせられるのね! 今に見てなさいよ〜あいつら〜!」
「叢雲、まだ弱点が見つかったわけじゃないんだよ?」
「吹雪の言うとおりデス。あくまで黒風白雨のドールがどういう武装を使っているのか、どういうプログラムを組み合わせているのか、そういうのが判明するだけデス」
「すみません、日直の仕事で遅れました」
先生がいかにも部活の顧問らしくシミュレートの内容を解説しようと口を開きかけた瞬間、美空が部室に入ってきた。そして何故か吹雪と真理は急に背筋をしゃんと伸ばしてしまう。やはりスパルタ指導の反動なのか、ここしばらくは美空の姿を認識するだけで二人は緊張状態に陥ってしまうようになっていたのだ。
「いいデスいいデス、二人も今来た所デスし。……吹雪、愛宕、お前らなんでそんなカチコチに固まってるデス?」
「イ、イエ、なんでも……」
「ありませんー」
「?」
「ヤレヤレね……」
* * *
「さて、全員揃ったことデスし、改めて今の状況を再確認するデス。愛宕、部長らしく説明しろデス」
「真理、頑張ってください!」
「分かりました〜。アルテミス、そこで待っててね〜」
吹雪らは部室の奥側、工具箱や使わなくなったエアコンプレッサーが足元に積まれたホワイトボードの前に集まっている。
「まず、私達の目標は8月に開催されるBDG東日本大会の本戦で優勝する事よ〜」
「ハイッ! 優勝してこの学校の知名度を上げて廃校を阻止するんですよね!」
「そうよ吹雪ちゃん〜。それで、私達ブロッサムメイツは無事に本戦へと出場できる事になったわね〜」
「でも、今のままでは優勝は難しいでしょう……チーム・黒風白雨がいる限り」
「美空ちゃんの言うとおりね〜。私達は予選大会の終盤で完膚なきまでに叩きのめされちゃったわ〜」
「陽炎とか言ったわね……あのドール。この屈辱は必ず晴らせてもらうわ!」
「うふふ、叢雲ちゃんはやる気十分ね〜。でもその為にはまだまだやる事がいっぱいあるわ〜」
「ふっふっふっ。その一つはマスターとこのヴェルグちゃんが頑張った。マスターを褒めてもいい」
「そうね、ヴェルグちゃんが黒風白雨の一人、浦沢舞さんとそのドール、不知火とバトルしてくれたおかげで詳細な戦闘データが手に入ったわ〜」
「そして今、そのデータ検証が終わったデス!」
先生がノートパソコン片手に薄い胸を思い切り張る。どうやら先程まで唸っていたパソコンは膨大なデータ処理を終わらせたようだ。
「わ、やりましたね先生! それで、シューちゃん……じゃなかった、黒風白雨の強さの秘密ってなんなんですか?!」
「まぁまぁ落ち着くデスよ吹雪。まずは葛城、ちょいと確認するデス」
分かりましたと美空がディスプレイを覗き込む。ざっとデータに目を通しているのか、美空の黒目がちな瞳が右へ左へせわしなく動いている。
「これは……なるほど……いや、でも……」
「マスター。これはヴェルグちゃんの予想とも合致する。恐らくこれで正しいと思われる」
若干困惑している美空だが、フレイスヴェルグは自信満々に言ってのける。実際に戦い、データを収集した彼女なりの直感のようなものだろう。
「葛城、このデータは案外妥当だと私も思うデス。でなければ他に説明が出来ないデスよ」
「美空! なんなのなんなの?! 早く教えてよー!」
「そうよ、先生も勿体ぶらずに教えてくれてもいいじゃない〜」
手を顎にやり、沈思黙考していた美空は大きく頷く。彼女の中で考えが纏まったようだ。
「分かりました……チーム黒風白雨の強さ……それは常にパワーアップ状態を維持しているからなんです」




