20-3
20-3
「それで、どうして二人がここにいるんでしょうか? 確か、私はきちんとテスト勉強をしておいてくださいね。そう言ったはずですが」
「み、美空……!」
「え、えっとね~? これには深いワケがあって~」
「言い訳は無用です。真理先輩がいながらどうして……これは後でお説教です」
「えぇ?!」
「と、その前に……私とヴェルグはやることが出来ました。今日はもう帰りますね」
「マスター、ヴェルグちゃんは一刻も早くデータを解析したい」
美空とフレイスヴェルグは手早く片付けると、そのまま急いでゲームセンターから出ていく。あまりのテキパキした動きに口を挟む間もなく、後に残された吹雪と真理は思わず見つめ合ってしまった。
* * *
「秋華、ほんっとーにゴメン! ほら、このとーり!」
ゲームセンターを出てから舞はずっと両手を合わせて謝り続けている。何度も謝られては流石の秋華も怒りがどこかに行ってしまったようで、ヤレヤレといった感じで舞の頭にチョップを入れる。
「いった?!」
「ハイ、これで許してあげるわ。それにブッキーのチームの人にあんな事を言わせちゃったら怒るに怒れないし」
「あ、だからバトル仕掛けたのは私からで……」
「分かってるわよ、そんな事。でも、あの場であのおっとりお姉さんが丸く収めようとしてたんだから、それを蒸し返そうとするとあの人にも悪いわよ」
「あう……分かりました、もうこの話題は言いません」
秋華はもう一度チョップを入れるが、舞は甘んじてそれを受ける。
「それにしても……私達のチーム結成以来、初めてのピンチってやつじゃない?」
「へ? どゆこと?」
「ブッキーのチームはきっと強くなる……でも、私達は」
「あぁー、そっか。確かにヤバい……のかな?」
「本当に分かってる……? とりあえず、風さんと合流して今後の対策を練りましょう。といっても、出来ることは限られてるんだけれど」
すっかり暗くなった繁華街を通り抜けていく二人。思わぬところで吹雪と再会してしまった秋華は、しかしそれまで心の中でモヤモヤしていたものが少し晴れていることにようやく気づく。そして。
「……あ、ブッキーの連絡先を聞くの忘れてた……」
* * *
翌日。放課後、BDG部の部室にて。
「というわけで、チーム黒風白雨の詳細なデータを解析してみました」
そう切り出した美空は先生のノートパソコンを借り、どこから持ってきたのかプロジェクターに接続し部室の壁に何やら映像を出す。
「昨日、黒風白雨の浦沢舞さんとそのドール、不知火さんと戦ってみて各種データを測定しました。ヴェルグ?」
「このヴェルグちゃんにかかればどんなドールでも丸裸。各種データはこのミーミルが記録している」
ノートパソコンの陰から出てきたフレイスヴェルグは自身の手のひらに乗せた丸い機械を吹雪たちに見せる。なにやらカメラのレンズのようなモノにプロペラが付いたような形状のそれは美空の説明によると、いわゆるドローンの一種らしい。
「最近、ドローン型の武装を作ってまして。これはその雛形です。武器は搭載していませんが、このカメラでバトルのあらゆるデータを観測できるようにしています」
「これにマスターのスマホで撮影したバトルの様子を取り込んで、ヴェルグちゃんが細かい分析を行った。そしてマスターと検討した結果……」
「あの換装ユニット……というより黒風白雨の強さが改めて数字で現れました」
タンと美空がエンターキーを押すと、プロジェクターの映像にはいくつものグラフや表が映し出される。どうやら黒風白雨のドールとブロッサムメイツのドールの性能を比較しているらしい。
「黒風白雨のドールはあくまで推定値ですが、それでもかなりの精度になっているはずです。各種パラメータ、戦闘能力を単純に比較すると……陽炎さんの数値は叢雲さんの180~200パーセントほど上回っています。単純に二倍の性能差があるってことですね」
「他のドールも似たようなもの。ちなみにヴェルグちゃんたち以外のドールとも比較したのがこっちのデータ」
「結果は殆ど変わらず、ロイヤルメイドナイツやバーニングフレア、ブラッドパイレーツのドールと比較しても能力差は歴然としています。これでは私達が惨敗したのも無理はありませんね」
「次に武装。これはなかなか面白かった」
「まずは三人の共通武装である初風というブレードですね。皆さんも体験したとおり、この武器はレールガンと高速振動ブレードの複合兵装です。二つの武装をこれほど威力を保ちつつコンパクトに作り上げているのは驚きです。もはや芸術の域ですね」
「レールガンは強力な反面、コスト調整とエネルギー消費が激しい武器。高速振動ブレードはモジュールが肥大化しやすいけど、威力とエネルギー消費のバランスが良い」
「遠近両方の戦闘に対応できる良い武装ですね。今度会ったら製作過程を聞いてみたいです。と、それよりも重要なのがこの換装ユニットですね。名前はそれぞれ[嵐]、[天津風]、「野分」と呼ぶそうです」
次の映像は黒風白雨のドール、陽炎、不知火、黒潮の三人がそれぞれユニットを装着している姿だった。それぞれが近接戦闘、高機動戦闘、遠距離戦闘に特化していることもあり、大きくシルエットは異なるのだが。
「一見してバラバラな武装に見えますが、背部ユニットや各装甲パーツは全て互換性があると思われます。これほど系統の違う武装をそれぞれバランス良く仕上げているとは……それからこのデータがユニット自体の性能を表したものです」
「以外な事に、これらのユニットは完全に一点特化した性能をしていない事が分かった。例えば近接特化の[嵐]でも中~遠距離戦闘にある程度対応可能な事が判明した」
「これは三人の共通武器である初風を効率よく運用するためですね。つまり遠距離に特化した[野分]でもブレードを使った近接戦闘を水準以上にこなせるということです」
「まさに全環境対応ユニットとは良く言ったもの。ヴェルグちゃんもビックリ」
「あ、あの~」
それまで静かに美空とフレイスヴェルグの講義を聞いていた吹雪がおずおずと手をあげる。実際は怒涛の情報量に頭が追いつけずにパンク寸前だったために静かだったわけだが。
「はい、吹雪さん。なんでしょうか?」
「えっと、つまり……シューちゃんのチームはすっごく強いってことが分かったって事?」
「吹雪、あんたもう少し頭の良い質問しなさいよ……」
呆れ返る叢雲だが、美空は至って真面目な顔でさらりと返答する。
「そうですね」
「あのチームの強さは異常。ほとんどチート」
「ええ……?」
「身も蓋もないわね……」
「で、でも、美空ちゃんとヴェルグちゃんがデータを分析したのよね~? 何か弱点とか見つかったんじゃないの~?」
吹雪と叢雲は期待の眼差しを美空に向ける。確かに、陽炎らがいくら強くともなにかしら弱点があってしかるべきだ。そうでなくとも、多少は付け入る隙があれば。
「それがですね、弱点らしきものは今の所見つかっていません。現状ではどうシミュレーションしても勝てませんでした」
「無理。やっぱりあのチームはチート」
「ええ……?」
「駄目じゃないの……」
「で、でも~」
半ば絶望的な宣告に吹雪たちは見るからに落胆してしまう。だが、美空とフレイスヴェルグの二人は全く動じていない。
「言ったでしょう? 今はまだ、と。大丈夫です」
「ヴェルグちゃんが身体を張って得たデータ、それは確実に残っている」
「そしてその分析とバトル結果からと私とヴェルグはある仮説に達しました。その仮説を先生に検証してもらっているところです」
「あ、どうりで今日は部室に先生来てないんだね」
「その仮説が証明できればどうなるのかしら~?」
「もちろん、私達ブロッサムメイツが黒風白雨を倒す足がかりになるはずです」
その言葉に俄に活気づく吹雪たち。秋華たちは強敵だが、何も本当にチートなわけではない。
「喜ぶのはまだ早いですよ。まずは決勝戦までたどり着けなければいくら対策しても意味がありませんから」
「そうだね、本戦は強いドールとマスターが一杯いるもんね!」
「私達もまだまだレベルアップしなきゃね~」
「で、ここからが本題です。ヴェルグ」
「了解、マスター」
美空が何やらフレイスヴェルグに指示を出すと同時に、プロジェクターの映像に大きな文字が映し出された。
『完璧!期末テスト対策(神代吹雪編)』
「え?!」
「吹雪さん、昨日はきちんとテスト勉強しておいてくださいと言っていたのに、それをほっぽっていましたよね? 私達は学生、勉学にも力をいれないといけません」
「これがマスターの作ったカリキュラム。これでテストは安心安全」
フレイスヴェルグが机の上にドサリと置いたのは山のような参考書などだった。
「あの……美空さん……?」
「先生からは赤点を回避しろとの事でしたが、私の目標は違います。全教科総合で学年20位以内に入るよう頑張りましょう」
「あ、あははは……またまた、美空ったら冗談が上手いんだから……」
「いえ、私は本気ですよ?」
「吹雪ちゃん、BDGも大事だけど、テストも同じくらい大事よ~?」
「ちなみに真理先輩のテスト対策もバッチリ組み上げてきました」
「あ、あら~?」
『完璧!期末テスト対策(愛宕真理編)』
「失礼ながら先輩の成績を勝手に拝見させて頂きました。もともと成績が良い真理先輩は学年10位以内を目指しましょう」
「え、えっと~私は自分のペースでテスト対策するから~」
「真理センパイ、あの時一緒に怒られるって約束しましたよね……?」
「あら~……」
ガッチリと真理の肩を握った吹雪の目からはもはや生気が失われていた。もはや一蓮托生、死なばもろとも。どうせ逃れられないのなら、道連れは多いほうが良い。美空はあまり自己主張しないタイプだが、一度決めたことは頑として曲げない頑固な一面があったのだ。
「それでは皆さん、テスト勉強がんばりましょうね」
美空のどこまでも真面目な顔を前に、それ以上は何も言えない吹雪と真理は力なく頷くのであった。
叢雲「あんたのマスターはテスト勉強ってやつをしなくていいの?」
ヴェルグ「マスターは一学期の中間テストで学年5位」
叢雲「あっそ……」




