20-2
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「げぇ?! ヴェルっちがまた消えた?!」
「光学迷彩なんて使ってるマスター実在したのかよ! みくるんパネェ~!」
「いいから舞っちは早く対策考えるし!」
やはり高機動ユニット[天津風]には殆ど索敵用のセンサー類は搭載されていないらしく、目の前で光学迷彩を使用したフレイスヴェルグを完全にロストしてしまっていた。だが、姿を消し逃げ回っているだけではもちろん勝てず、一定の時間が経てば効果は消えてしまう。
と、不知火[天津風]の聴覚センサーに空気を切り裂く音とスラスターの噴射音が近くに聞こえてきた。いくら姿を消せるとはいえ、光学迷彩ではドールや装備が発する音までは消せないのだ。この辺りが多くのマスターにとって光学迷彩が不人気な理由となっているらしい。
「ヴェルっち、近くにいる?!」
初風を構えた瞬間、三度目の爆発が不知火[天津風]を襲う。
フレイスヴェルグはあくまで逃げない。このまま敵を追い詰めるつもりなのだ。
「でも、アタシの速さに追いつけないでしょ?!」
不知火[天津風]はブースターを最大加速させ、瞬間的にその場を離れる。数度の爆発でもユニットは安定して稼働しており、まるで限界まで引き絞られた弓から放たれた矢のように空を裂く。数値を比較するまでもなくフレイスヴェルグの最大速度よりなお速い。だが。
「うわッ?!」
「不知火?!」
恐るべき速度で飛んでいた不知火[天津風]をフレイスヴェルグの爆弾が的確に襲う。先程の空域からは相当距離が離れているにも関わらず、フレイスヴェルグはぴったりと追いついてきたのだろうか?
「ヴェルグの翼は残念ながらあなた達のように速くありません。でも……」
「ヴェルグちゃんは相手の行動パターンを的確に予測できる」
光学迷彩の効果時間が終了し、霧が晴れるように空中へと現れたフレイスヴェルグ。彼女は不知火[天津風]が最大速度でこのポイントまで逃げてくることを予め予測し、事前に先回りしていたのだ。その上で、これ以上無いというタイミングで爆弾を投下、見事命中させたというわけだった。
「むっか~! もういい、お遊びはここまで! 舞っち、もうこのバトル終わらせるよ!」
「だから早くしろって言ったし! つーかもうあんま時間残ってないの分かってる?! 初風もそろそろ打ち止めだし!」
「だからわーってるし! ……こーゆー戦い方、泥臭くってアタシあんま好きくないんだけど!」
もうもうと広がる黒煙から飛び出した不知火[天津風]。流石に何度も至近距離からの爆発を受け続けたせいか、[天津風]を構成する装甲や背部ウイングはいくらか損傷を負っているようにも見える。しかし少しもダメージを感じさせない動きで彼女は右手には初風を、左手にはいつの間に抜いたのかビームサーベルを構えた。高速振動刃が空気を震えさせ、緑色のビーム刃がジリと空気を焼きながらまっすぐ伸びていく。
「疾い……?!」
フレイスヴェルグは咄嗟の動きで一撃目をどうにか防御する。だが、そのせいで右手のムニンが破壊されてしまい、続いて二撃目でカラスのクチバシのような額当てが真っ二つに斬り裂かれてしまった。
不知火[天津風]はユニットのブースターと装甲各部に配置されたスラスターを全て使い三次元的機動を繰り広げている。初風の高速振動刃とビームサーベルの二刀流は恐るべき鋭さでフレイスヴェルグの装甲を削り、裂き、両断する。
ほんの一秒かそこらしか経っていないはずなのに、フレイスヴェルグの全身は無数の切り傷でボロボロになっていた。
「うぁ……!」
飛行するために軽量化され最低限の厚さしか持たせていないフレイスヴェルグは全ての斬撃を受け止めることは出来ず、もはや残りHPも僅かしかない。大型ウイングも、腰部のスラスターもギリギリで原型を留めているほどに破壊されてしまった。
「ちょ、ヴェルっちまだ動けんの?!」
それでもフレイスヴェルグは諦めずに翔ぶ。ほとんど停止寸前のスラスターを目一杯噴射し、通常の半分も動かないウイングで複雑な機動を描き不知火[天津風]を撹乱する。
「不知火、そろそろ止めを差してあげよ? もう十分頑張ったって」
「……おけ」
その言葉は哀れみか。舞は既に勝負が着いたものとしてフレイスヴェルグの姿を見るに耐えないと横を向く。不知火[天津風]もそれまでのテンションはどこへやら、いつになく浮かない顔で両手の武器を構えた。
「……まだ、勝負は終わってない」
フレイスヴェルグは必死に飛びながら反撃の機会を伺っている。だが、左腕は使えず右手のムニンは破壊されてしまった。腰部のウエポンコテナにはいくらか爆弾が残っているが開閉ハッチが壊れて使えなくなっている。
つまり、今の彼女に武器は何もない。
「ヴェルっち、アタシ相手に一人でよくやったよ? それはすっげぇ誇っていいからさ」
不知火[天津風]は初風とビームサーベルを大きく構え、一気にフレイスヴェルグへと距離を詰める。いくら複雑な機動で動き回っているとはいえ、高機動ユニット[天津風]を凌駕するほどではない。一瞬のうちに捕捉され、間合いに入る。鋭い二刀が迫り――――
「こぉらぁー! 舞! 不知火!」
バトルフィールドの外から聞こえてきた怒号に思わず不知火[天津風]はビクリと動きを止めてしまった。
「げ、秋華……?!」
「舞……? これは一体どういうことなのかしら?」
そこには青筋を立て、やや怒りで引きつり気味の八雲秋華が立っていた。
「いや、あのね、これは……」
「私達は大会が終わるまで野良バトル禁止ってあれほど言ってたでしょう?! 何やってるの!」
「えっとその……」
凄まじい秋華の剣幕に舞はしどろもどろになってしまっている。そんな二人に美空はどう声を掛けてよいものかと思っていると別の人物が話しかけてきた。
「ごめんなさいね~? 実は私達のせいなの~」
「……ブッキー?! と、そのチームの方……」
そこにはニコニコ顔の真理と物凄く困った表情の吹雪、そしてその頭の上で器用にバランスを取りながら叢雲が仁王立ちしていた。
「実はね~あのファミレスで偶然会った浦沢舞さんにどうしても勝負してほしいって私達から頼み込んでしまったの~。それで彼女は嫌々ながらも私達の申し出を受けてくれたのよね~?」
「へ? いや、ちが……」
「だから悪いのはこちらの方なのよ~、なのであんまり彼女を責めないであげて頂戴~?」
「……そういう事なら仕方ありませんね。でも、このバトルはもう中断させてもらいます」
何か真理に言いたげな秋華だったが、小さくため息を吐くとすぐにバトルフィールドを操作して試合を終了させる。途端にホログラムが消失していき、ボロボロだったフレイスヴェルグもエフェクトが消えて元の無事な姿に戻る。
「あ、あのね、シューちゃん!」
「…………」
「…………」
どう話していいか分からないといった雰囲気の吹雪。だがそれは秋華の方も同じようで、しばし無言の時間が流れていく。そしてとうとう我慢できなくなった叢雲が口を挟み込んだ。
「ああ、もう! まどろっこしいわ! あんた、秋華とか言ったわね!」
「……なにかしら?」
「この前の予選は私達の完敗だったわ。ドールの実力も、マスターの技量も、全部あんた達のチームが遥かに上回っていた。その点については認めるわ」
やけに素直に負けを受け入れていると秋華は心の中で少し驚く。この吹雪のドールは見た目や言動からしてプライドがやたら高いと思っていただけに意外だった。
「だけどね。私と吹雪は一度や二度負けたくらいで諦めるような根性をしてないの。いい? 私達ブロッサムメイツは決勝戦で必ずあんた達に勝つから……覚悟してなさい」
「……へぇ?」
「シューちゃん、予選大会のあの時、シューちゃんは大会優勝するって私の目標に怒ってたよね。今ではシューちゃんが怒った意味がわかるよ」
吹雪も意を決し、秋華に自分の気持ちを、考えを伝える。
「あの予選大会で戦った人たちはみんな強かった。それってつまり、沢山のマスターとドールが真剣に大会で優勝するために努力してきたってことだよね。シューちゃんのチームも、すっごく頑張ってきたからあんなに強かったんだよね」
「……そうね。少なくとも私は安易な気持ちでバトルしていないわ」
「うん、それはよく分かった。あの子……陽炎ちゃんの強さからも凄く伝わってきたよ」
秋華の目を真っ直ぐに見る吹雪。堂々と、叢雲のマスターらしく。
「それでも……それでも私は、私達は優勝を目指すよ。そのためにはシューちゃんたちよりもっと頑張って強くなって、それで……倒すから」
「そう。ブッキーの意思は分かったわ」
秋華は短くそれだけ言うと、すぐ横で小さくなっていた舞の腕を掴みながら店内を後にする。
「吹雪、よく言えたわ。褒めてあげる」
「ん、ありがとう叢雲」




