第二十話「フン、あのフレイスヴェルグよ? また何かロクでもないことを企んでるに違いないわ……」
第二十話
(真理センパイ、ヴェルグちゃんは何をやってるんでしょう……?)
(私にも分からないわ〜。でもきっと、あの子の事だから何かしら意味のある行動だと思うわ〜)
フレイスヴェルグと不知火[天津風]が戦闘を続けているバトルフィールドを少し離れた場所から覗いている吹雪たち。彼女らは先程からフレイスヴェルグの行動の意図を図りかねていた。
(フン、あのフレイスヴェルグよ? また何かロクでもないことを企んでるに違いないわ……)
叢雲のやや呆れた様子に吹雪は苦笑いで返すが、あながち間違ってもいないのだろう。
(美空は何か考えがあって、このバトルを受けたんだよね……)
美空は常に冷静に物事を判断できる性格だ。だからこそ、舞と不知火が吹雪に挑んできた勝負を引き受けたことにも彼女なりの意味がある筈なのだ。
(美空、ヴェルグちゃん……!)
* * *
「ちょいちょいちょーい! マジで何処行ったの〜?! 全然見つかんないじゃん!」
「不知火〜! ゴチャゴチャ言ってないで早く探すし!」
変わってバトルフィールドでは。
どこまでも広がる青い空を、透き通るように鮮やかな蒼い翼が切り裂いていく。高機動ユニット[天津風]を装備した不知火が縦横無尽に空を翔けながらフレイスヴェルグを探しているのだ。
突如として姿を消したフレイスヴェルグ。彼女はBDGではいわゆる使えない装備として認識されている光学迷彩を纏っていたのだ。大抵のドールであれば簡単に見破れるはずのそれを不知火[天津風]の装備ではセンサーが貧弱なのか、それとも単に彼女が焦ってまともに捜索できていないだけなのか。とにかくフレイスヴェルグはまんまとこの隙に作戦の準備を完了させたのだ。
光学迷彩の効果時間が終了し、スゥと周囲の景色と同調していた布地が顕となる。そしてフレイスヴェルグはそのマント状の光学迷彩を腰のウェポンコンテナへとバサリとはためかせながら仕舞い込んだ。
「おっ?! ようやく見つけたし! 不知火!」
「おっけーい! 散々探し回らされたぶん、覚悟しちゃってよ~!」
眼下にその姿を捉えた不知火[天津風]はまるで猛禽類が獲物を狩る時のように急降下する。もちろん、鋭い爪とクチバシである複合武装・初風の切っ先を向けて。
だが、標的として狙われているはずのフレイスヴェルグは何故かその場から動こうとしない。回避も、防御もせず、ただ不敵な笑みを浮かべるだけだった。そしておもむろに人差し指を迫りくる不知火[天津風]へと向け、ぽつりと呟いた。
「お前はすでに……ヴェルグちゃんの罠に掛かっている」
「?!」
不知火[天津風]が急降下する先、フレイスヴェルグが立っている周囲は何の変哲もないタダの草原が広がるばかり。ドールの足首ほどの高さしかない青々とした草が生えているそこに、彼女は何か嫌な気配を感じたのかウイングとブースターの向きを変え急制動を掛ける。その判断が功を奏したのか、直後に不知火[天津風]の真下の空間が突然爆ぜたのを回避することに成功した。
「ちょッ?!」
「いつまで避けられる?」
フレイスヴェルグはそのままバランスを崩しかけた不知火[天津風]に二丁のマシンピストルで追撃を加えていく。しかし敵も流石といったところか、ブースターを無理やり吹かせて強引に回避したところを更に無茶な機動で弾丸を避けていく。
「こッ! これくらいッ! ちょうッ! よゆッーだしッ!」
「めっちゃ必死じゃん!」
「うっせーし!」
だがいつまでも不規則な機動で避けるのも限界がある。ここは一度地上付近まで降下し態勢を立て直さないことにはどうにもならないと不知火[天津風]のAIは瞬時に判断した。そうと決まれば話は早いとばかりに身体をクルリとひねり、華麗な機動で銃弾を掻い潜りながら再び急降下する。
「ヴェルグちゃんの予測では95パーセントの確率でその地点に降りる。計算の妥当性を確認」
しかし、その行動をフレイスヴェルグはすでに見切っていた。いや、そうなるようにマシンピストルの射線を制御し、不知火[天津風]の行動と機動を誘導していたのだ。そして、その先には再び小規模な爆発が待ち受けていた。それも、彼女を取り囲むかのように。
「ぐッ?!」
「不知火?!」
爆破に巻き込まれたものの、不知火[天津風]は咄嗟の防御で大きなダメージになるのを防いだ。ついでにブースターを最大限に噴射することで爆風を軽減している。
しかしそれでも彼女の纏う装甲は薄く脆い。これは飛行性能と高機動性を高い次元で両立させる為に最低限の装甲厚しか持たせていないせいだ。フレイスヴェルグは自分と同じ飛行型である彼女の弱点を理解し、そこを突いている。
「だい……じょうぶっ! 威力自体は大したことないし!」
「まだまだ終わらない」
次なる攻撃として再びフギンとムニンのマシンピストルが火を吹く。短時間に大量の銃弾をばら撒けるこの二丁の大型拳銃は威力は控え目なものの、扱いやすく集弾性能に優れている。その為、当て続けることができれば不知火[天津風]の薄い装甲なら大幅にHPを削れる可能性があった。
「不知火、また爆弾が仕掛けられてるかも! 完全にヴェルちゃんのペースに嵌められてる!」
「このままじゃヤベーって事?!」
「だから、そろそろ反撃っしょ!」
一瞬、舞と目を合わせた不知火[天津風]は一気にブースターを噴射し、上空へと逃れた。フレイスヴェルグも逃すまいと追いすがるようにウイングを展開し上昇するが、やはり加速度でも負けているのは否めない。
「ヴェルっち、これでも喰らうし!」
不知火[天津風]は空中で急にターンし、直下のフレイスヴェルグに向けて初風の銃口を向けた。青色の静電気が銃身全体に奔り、コンデンサーの低く唸るような音が聞こえたかと思うと次の瞬間には超高速に加速された弾体が発射された。
通常の携行火器が装填する弾丸よりも小さなソレは、しかして圧倒的な速度を得ることによって大きな運動エネルギーを秘めている。BDGにおいてレールガンとはその威力と射程から強力な武装として有名だが、実際に使いこなしているドールとマスターは意外と少ない。
「射線の予測は可能」
対するフレイスヴェルグのセンサーは初風の銃口の向きとこれまでの発射タイミングからレールガンの軌道を完璧に予測する。だが――――
「ヴェルグ!」
まるでレーザー光線のような軌道でレールガンの弾体はフレイスヴェルグの肩装甲を吹き飛ばす。いくら軌道を予測できても、即ち回避可能というわけではないのだ。
「……っ! だいじょうぶ、致命傷は避けた」
吹き飛んだ装甲パーツはあくまでバトルフィールドがリアルタイムで描画している映像に過ぎないが、フレイスヴェルグの戦闘プログラムはそのダメージが与える身体機能低下をきちんと反映していた。それはつまり、左腕がほとんど使えなくなってしまったということだ。
「ホラホラ! もう一発!」
初風のレールガンモードで精確に狙いをつける。高機動ユニット[天津風]では遠距離狙撃できないが、この距離ならば不知火自身のセンサーでも十分に一点を狙うことは十分可能だ。ウイングとブースターの角度を調節し、身体がブレないよう制御する。そして、フレイスヴェルグの眉間を狙いすまし。
「……冷却時間終了」
フレイスヴェルグが姿を消した直後、レールガンの弾体は何もない空間を斬り裂くだけに終わった。




