19-3
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フレイスヴェルグと不知火[天津風]が苛烈な戦いを演じているバトルフィールド。それを少し離れた場所から覗き見る怪しい二人組がいた。
(わ、わ! 二人共なんか凄いよ?!)
(吹雪ちゃん、あんまり身を乗り出すと見つかっちゃうわ〜!)
(……改めて観察すると、やっぱり手強い相手ね)
カーレースゲームの筐体の陰に潜んでいたのは、あのファミレスでテスト勉強を続けている筈の吹雪達だった。ちなみに叢雲は吹雪の頭の上にちょこんと乗っている。
『いいですか吹雪さん、大会優勝も大事ですがそもそも私達は学生です。学校を守るよりも以前に自分の成績をきちんと守ってください』
ファミレスを出ていくとき、美空は吹雪にそう釘を差した。普段の物静かな印象からはちょっと想像できない圧に吹雪は首を縦に振るしかなかったのだが。
(ね? やっぱり来て正解だったでしょ〜?)
(は、はい……)
吹雪は大人しく勉強しようとしていたのだが、真理が突然「長時間続けて勉強するのは効率が悪いわ〜少し気分転換しましょ〜」と強引にファミレスから連れ出してしまったのだ。
(でもでも、ここにいるのが美空にバレたらどうしましょう……?)
(心配ないわ〜その時は一緒に怒られてあげるから〜)
(…………え?!)
(あの子、怒ると結構しつこそうよね)
(それより吹雪ちゃん、バトルが動くわ〜!)
真理に促され、吹雪がバトルフィールドの方へと意識を向けると――――
「そりゃそりゃそりゃ!」
「…………ッ!」
初風を素早く振るい、的確にフレイスヴェルグを追い詰めていく不知火[天津風]。舞台は大空から地上に広がる大草原へと移り変わったが、以前として不知火[天津風]の優勢でバトルは続いている。
何度も初風の高速振動刃を受け続けたナイフは二振りとも刀身を削られ使い物にならなくなった。防御手段が無くなり必死に回避しているフレイスヴェルグだが、やはりすべての斬撃を避けられるわけではない。
「……そこ!」
「うわっ?!」
だが、一方的に撃破されるのを待っているフレイスヴェルグではない。焦らずじっくりと不知火[天津風]の隙を見出し、フギンとムニンのマシンピストルで至近距離から銃撃を加えているのだ。
「なーかなかやるねー! ヴェルっち、案外強いじゃん!」
「ちょっと不知火〜? あんま遊んでる時間はないんだけど〜?」
「わ〜ってるって、舞っち! なるはやだしっ!」
(真正面からの攻撃は97%で回避か防御され有効打にはならない……不意の一撃か、死角からの攻撃しかまともに通らない)
普段は表情の薄いフレイスヴェルグも今ばかりは苦しさを隠しきれていない。ギリギリの勝負を続けながら、裏では不知火[天津風]と彼女の武装を入念に解析しているせいで彼女のAIは相当な負荷が掛かっているのだ。
(いくら高性能なドールといっても、これは異常な数値……攻撃速度、防御性能、反射速度……あまりに常識から逸脱している。ヴェルグちゃんはちょっと混乱中)
ふと、フレイスヴェルグのAIは唐突に――――人間で言えば一種の閃きのような――――とある可能性に気付く。だがその可能性はあまりに非現実的であり得ない。だがひょっとしたら。何度もその可能性を演算し、そして否定される。だがもう一度、もう一度と演算を否定される度にフレイスヴェルグの確信は強まっていった。
「マスター、ヴェルグちゃんはちょっと試したい事が出来た。……高確率で負けるかもしれないけれど」
「ヴェルグ、それは一体……? いえ、分かりました。あなたの思うようにやってみて下さい」
「ん、ありがとうマスター」
美空は短いやり取りの中でフレイスヴェルグの強い意思を、彼女の覚悟を尊重することに決めた。自分がそうだったように、フレイスヴェルグもブロッサムメイツの一員として何かを成そうと心に決めた事を理解したのだ。
(残りの武装を確認。フギンとムニンは弾数が少ない。投下用の爆弾はまだ沢山だけど、あの速さでは有効な一撃は難しい。ナイフも折れた二本きり。となると取れる作戦は……)
フレイスヴェルグは意を決すると腰部のスラスターを吹かし、一旦不知火[天津風]との距離を離す。と同時に、周囲へ大量の煙幕弾をばら撒いた。
「うわっ?! なにこれケムい!」
「不知火、警戒しないとヤバいよ!」
舞と不知火[天津風]はこの煙幕に乗じてフレイスヴェルグが一か八かの強襲に打って出るものと予想し防御を固める。だが、一向にその様子はなく、次第に煙幕も晴れていく。そして――――
「……アレ?」
「ちょ、ちょーっと! ヴェルっち何処行ったのさー?!」
フレイスヴェルグはそこにはおらず、ただ一人不知火[天津風]がポツンと立っているだけだった。
「え? なにこれ放置プレイ? アタシそういう趣味無いんだけど〜?」
「い、いいから早く探すし! もう時間が無いんだから!」
「やっば! 舞っち、焦らすようなこと言うなし!」
すぐに背部のユニットを起動し空高くへと昇る不知火[天津風]。上空から周囲を探索するが、この障害物や遮蔽物が一切ない草原の筈なのにフレイスヴェルグの痕跡は全く掴めない。
(戦闘能力は非常に高いけど、あのユニットの索敵能力は低い。迎撃というよりは強襲に重きを置いた設計ゆえ。ヴェルグちゃんはそう分析する)
不知火[天津風]が発するブースターの音を真上に聞きながらフレイスヴェルグはその場でじっとしていた。だが彼女の姿は何処にも見えないのたが、これはどういうことなのか。
答えは至って単純明快。フレイスヴェルグは光学迷彩効果のある特殊なクロスを纏っていたのだ。BDGのルール上、光学迷彩は実装されてはいるものの、効果時間の短さ、低レベルなセンサーにすら看破されてしまうなど不遇な扱いでいわゆる産廃認定されている。
だが、フレイスヴェルグの支援機や偵察機としての性質上、こういった目眩ましな装備も使い方次第、と美空は以前から携帯させていたのだ。
これがもし、砲戦仕様のユニット[野分]であれば火器管制システムと一体になったレーダーやセンサーによりたちどころにフレイスヴェルグは見つかっていただろう。それにこの光学迷彩の効果はコストの都合上、冷却時間を挟んであと数回しか使えない。
(今のうちに仕掛けを作っておかないと……)
だが、フレイスヴェルグはこのまま隠れ続けるつもりはないらしい。不知火[天津風]の、黒風白雨の強さを解き明かす為の攻勢を開始するべく、静かに行動し始めた。




