19ー2
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「くっ……疾い?!」
「ほらほら、アタシのスピードはこんなもんじゃ無いよ〜!」
バトルフィールド上空、どこまでも碧い空が拡がるなか。漆黒の羽根と蒼藍の翼が何度も交差し、火花を散らす。
フレイスヴェルグは両手のマシンピストル、フギンとムニンの弾倉を巧みに交換する。地上へと自由落下していく空の弾倉はすぐに見えなくなり、銃口から吐き出される鉛の飛礫は目標を目指して――――
「そんな攻撃、見え見えだっつーの!」
美しく塗装された蒼い、戦闘機のようなウイングのフラップとブースターの推進軸が連なって可動する。その運動エネルギーと空力特性がまたたく間にバトルフィールドによって演算処理され、その結果不知火[天津風]は。
「この銃撃も避ける……ヴェルグちゃんはデータを更新中」
「ヴェルグ、もう少し粘ってちょうだい」
「了解した。ミーミルもバッチリ稼働中」
フレイスヴェルグは先程から何度も銃撃を繰り返し、その度に不知火[天津風]に回避され続けていた。とてつもない推進力を秘めているブースターは自在に方向を変える事が出来る構造となっており、一見して不可能な機動を難なくこなしていくのだ。
(この速度であんな小さな旋回半径……なんて機動力と推進力……換装前提の装備だから性能は控え目だと見積もっていたけれど、大きな間違いですね)
そして美空はフレイスヴェルグの様々な実験に対する不知火[天津風]と舞の反応をつぶさに観察していた。彼女が装備している高機動ユニット[天津風]の機動性能を一通り試してみたが、その性能はフレイスヴェルグを大きく上回るものであり、恐らくはまだまだ本気を出していないということも推察出来る。
「ヴェルグ、次は接近戦に移行して。あのブレードの性能を確かめます」
「了解。でもヴェルグちゃんの装備で接近戦用はナイフだけだけど?」
「分かってます。程々で大丈夫」
「ん」
不知火[天津風]が放ってきたレールガンの一撃をくるりとバレルローン気味に回避したフレイスヴェルグは、そのまま一気に彼女へと接近する。手には腰のウエポンコンテナから抜いた二振りのナイフが握られていた。
「んん〜? ウチの不知火相手にちょっとやけっぱちな気がするぞ〜! そんなんじゃあ期待外れなんだけどなー?」
舞の読みは半分当たり、もう半分は外れだ。がむしゃらに見える攻撃は美空とフレイスヴェルグが事前に打ち合わせた演技の通り。だが不知火[天津風]との圧倒的性能差がフレイスヴェルグの動きを制限させ、普段よりも動きに精彩さを欠いているのも事実なのだ。
「ちょりゃっ」
「おそいおっそーい!」
不知火[天津風]に対して真正面からナイフで斬りつける。自身の運動エネルギーと、上から下へ斬り下ろす勢いが合わさり小ぶりなナイフでもそれなりのダメージが見込める筈だ。
しかし不知火[天津風]は片手で腰の複合武装・初風を抜き放ち、余裕でフレイスヴェルグの二連撃を防いだのだった。高速振動する刃先が低く唸りナイフの刀身を簡単に削るのを見て美空は不味いと咄嗟に感じ取る。
「ヴェルグ!」
ナイフを受けた初風を器用に振り抜き、フレイスヴェルグ目掛けて袈裟斬りに斬り払われる。高速振動刃が硬質の物体を斬り裂く独特の音が鳴り響き、それと同時にフレイスヴェルグの身体から力が失われそのまま重力に惹かれて落下していった。
「飛行型だし、結構装甲薄いっしょ? 今ので決着ついたんじゃね?」
勝利宣言のつもりなのか、その場で滞空しながら初風を華麗に構えて握る不知火[天津風]。だがマスターである舞は刹那の瞬間を見逃さなかった。
「不知火っ! スグにソレを振り払って!」
「へ?」
何のことか分からない不知火[天津風]を小規模な爆発が襲う。威力こそあまり無いが、至近距離、それも油断しきった所に食らった一撃は予想以上に彼女のAIを刺激したようだ。
初風による斬撃の瞬間、フレイスヴェルグは腰部のウエポンコンテナから爆撃用の爆弾を不知火[天津風]に気付かれないよう射出していたのだ。肉を切らせて骨を断つ、というには程遠いがそれでも一矢報いた形だ。
「カッチーン! いい度胸してんじゃん! このアタシを怒らせたらどうなるか、教えてやろーじゃんよ!」
「今のはアンタが油断してただけっしょ、ジゴージトクってやつじゃね? いいから早く倒すし」
「うっさいしバーカ!」
「あ、こら! マスターをバカって言うな!」
「バカはバカだよ、このバーカバーカ!」
舞と不知火[天津風]が口喧嘩しているその間、地上ではどうにか寸前でスラスターを吹かすことで地面に激突するのを免れたフレイスヴェルグが片膝を着いていた。派手に斬られた割にはあまりダメージを負った様子はなく、簡単な自己診断を済ませてすっくと立ち上がった。
「マスターが作ってくれた装甲をこんなに傷つけて……ヴェルグちゃんはおこ」
「……ふぅ、咄嗟の回避は間に合ったようですね。それにしてもあのドール、あらゆる状況への対応が高水準で纏まっている……?」
今までの戦闘で不知火[天津風]に関するデータはそれなりに集まった。高機動戦闘に始まり射撃や格闘戦、一通りのあらゆる戦闘に高いレベルでの性能を発揮している事が分かった。だが、それが逆に美空を悩ますことになってしまった。
通常、ドールの戦闘能力の大部分は後付の武装で決まってくる。性能がよく、丁寧に製作されたパーツほどバトルに反映されやすい。だが、実際の試合では高性能な武装ほど高いコストを掛けられるのでマスターはその調整に四苦八苦することとなり、大抵は何か一方向に特化させる場合が多い。
だが、黒風白雨のドールが装備する換装可能なユニット群はすべての能力があまりに高性能すぎるのだ。性能だけで言えば、陽炎が装備していた接近戦用の[嵐]は叢雲の、黒潮の砲撃戦用の[野分]はアルテミスの、それぞれの武装よりも遥かに強力でありながら、それでいて異なる戦いにも対応可能と推察される。
(そして空戦能力、機動力、加速力……そのどれをとっても、この高機動ユニットはヴェルグを超えている。それなのに遠近問わない戦闘力……)
性能を底上げしつつ、それでいてコストを下げる方法は何通りか考えられる。特定の戦闘方法に特化させたり、いずれかの性能を犠牲にするのがそうだ。
だがしかし、彼女らが装備しているユニット最大の特徴である換装システム、これを搭載しつつ高性能を両立さそるには必然とコストオーバーしなくてはならないというのが美空の見立てだった。
これこそ美空がずっと疑問に思っていた最大の問題。戦闘中にお互いの装備を換装させる戦法、その問題点の一つである敵に隙を見せてしまうというのを例えクリアしても、この高コスト武装という二つ目の問題が立ちはだかるのだ。そしてそれを実証するかのように、ネット上のBDGフォーラムやSNSでは規定コスト内での武装作りに難航しているといった書き込みが多かった。
「その謎にこそ、黒風白雨の強さの秘密がある……という事ですね」




