第十九話「あの子、怒ると結構しつこそうよね」
第十九話
「こんにちは、風さんいる?」
「もう秋華さん、遅いですよ」
「ごめんなさい、ホームルームが長引いちゃって」
チーム・黒風白雨の待ち合わせ場所である、いつものファミレス。八雲秋華はその入口でチームメイトである萩谷風を見つけた。
ウェイトレスの恰好をしている風はこのファミレスでアルバイトをしており、今も少し忙しそうに料理を運んでいる最中だ。
「あれ、舞はまだ来てないの?」
「それが……あのね……?」
「?」
* * *
吹雪たちがテスト勉強をし、秋華たちが待ち合わせしていたファミレスから少し歩いた所。ビルとビルに挟まれる形で少し奥まった立地のゲームセンターがあった。何人かの客がチラホラとしか見えないなか、BDG用のバトルフィールドでは美空と舞が向かい合っていた。
「こんな所にもフィールドあったんですね」
「そ、この穴場感がいいっしょ〜?」
二人はそんなことを話しながら、それぞれ自分のドールをセッティングしている。美空はフレイスヴェルグの武装を取り付けながらチラリと舞のドール、不知火を盗み見る。
「フンフンフーン♫」
(やはり、あの子の武装は高機動型……これで条件は一つクリアですね)
不知火の全身には透き通るような青を基調とした装甲群が取り付けられており、背部には大型ウイングとブースターが組み合わさったユニットを背負っている。手にはレールガンとブレードが一体となった武器を持ち、戦闘準備は万端といった様子だ。
あの予選大会で黒風白雨が見せた戦法。それは近接格闘・高機動戦闘・長距離砲撃戦のそれぞれに特化させた三種類のユニットを各ドールに装備させ、試合の状況変化に合わせて互いのユニットを換装させるというものだった。
通常、ドールの持つ武装はマスターが専用に作った物を持たせる場合が多いが、敢えて市販の汎用品を持たせる事で戦闘中に交換したり、撃破された仲間の武装を使用する事はある。
(それでも、多くのマスターは戦闘中に武装を交換する前提の戦い方を採用しない……)
美空があの試合からずっと引っ掛かっているのはそこだった。確かに試合中に臨機応変な対応が可能となる黒風白雨の戦法は非常に有効だ。だが、現実としてそういった武装の交換を戦法として組み込んでいるチームは皆無だった。
(この戦法の問題点は大きく二つ。一つは、そもそも戦闘中に武装を交換するような隙を見せるのは致命的だという事。高レベルなチーム同士のバトルは一瞬の隙が命取りになる。そして二つ目は……)
「ちょいちょ〜い! みくるん、こっちはもう準備出来たよ〜? 早くバトろうぜー!」
「……分かりました、舞さん。お願いね、ヴェルグ」
「フンス、ヴェルグちゃんに任せるといい。マスター、あの子……倒しちゃっても構わんのだろう? あ、これフラグ?」
美空と舞はそれぞれバトルフィールドのエントリーデッキの前に立つ。青白い光がフィールドを包み、ブゥンと機器の駆動音が響き出した。
(吹雪さんと真理先輩にはああ言ったけど、ちょっと強引だったかな……)
吹雪と真理には上手く言いくるめてあのファミレスで勉強して待つようお願いしてある。本来の目的である期末試験の対策はもちろん、この場に余計な人間が居ないことで舞と不知火が油断してくれないかという期待もあった。
(私だってブロッサムメイツの一人……情報収集と分析には自信がある)
美空の目的は何も舞に勝つ事ではない。いや、そもそも単騎で有力チームをいくつも撃破するようなドール相手に、今のフレイスヴェルグでは相手にもならないだろう。だが、それで構わない。
舞と不知火に気付かれないよう、美空は学生服のポケットからスマホを取り出しカメラを起動させる。手元を見ずに操作し、バトルフィールド全体が収まるよう動画撮影を開始した。
大会本戦で黒風白雨と当たるのは決勝戦以外にはない。だとしても、今ここで敵の秘密を解き明かさない訳にはいかないのだ。無謀な試みではあるが、いやだからこそ美空は単身での勝負に賭けたのだ。
「よっし、不知火! 一気に終わらせちゃって!」
「へっへ〜ん! フレイスヴェルグって言ったっけ? アタシの美しい舞、見せてやんよ!」
「それじゃあヴェルグ、作戦通りに」
「ヴェルグちゃんに掛かればどんな時も安心安全。マスターは大船に乗って待っといて」
『セッティングコンプリート』
『ゲットレディ……3……』
『2……』
『1……』
『バトルドール、ゴー!』
バトル開始の合図と同時に二人のドールはスラスターとブースターを最大噴射し、勢いよく上空へと翔び立っていった。
* * *
「もうっ! なんで舞は勝手な事をするかな……!」
急いでファミレスを飛び出した秋華は一人毒づきながら走る。風から聞いた舞の身勝手な行動、それは黒風白雨の方針からは外れたものだったからだ。
(大会が終わるまでは野良バトルは一切禁止だってこと、忘れちゃったの……?! もしバトルに時間を掛けすぎて……万が一にも私達への対策を立てられちゃったら……!)
秋華の知る舞はよくふざけるし人の話を真面目に聞かない性格だが、人との約束を破るような人間ではなかった。
『だーいじょぶだいじょぶ! 私ってばギリ堅いのがウリな所アあるし〜?』
(いや実際、舞は見た目あんなだけど、以外にルールとかマナーに厳しいし……でも、だったらなんで? しかも、ブッキーのチームにちょっかい仕掛けるなんて!)
ギリ、と強く噛んだ歯が鳴る。舞の真意が見えないのが歯がゆい。吹雪とどう接していいか分からない。チームメイトなのに、友達なのに。
秋華の心の内は吹雪のこと、舞の暴走、大会のこと……多くの事でぐちゃぐちゃになりそうだった。
「……今は一刻も早く、舞を止めなきゃ。もしバトルが始まってたら、タイムリミットがくる前に」




