18ー2
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桜が丘市の中心部は主要駅の周囲に繁華街やビジネス街が広がっており、市内で最も賑わっているエリアである。都会過ぎず、かと言って地方過ぎず。自然の残る山林と開発された土地が混在する住心地の良さが売りの街だ。
そして学校帰りの学生は大抵、この駅周辺をブラついたり遊んだりするのが常だ。なので、この光景も学期末が近づいたこの時期ではあちこちで見られる風物詩のようなものだ。
「うーん……?」
「吹雪さん、ここはこの公式を使って……」
「あ、そうか!」
「数学はとにかく公式を覚えて、それから練習問題をこなすのが秘訣よ〜」
ブロッサムメイツは現在、重大なミッションが課せられている。それは『吹雪の赤点回避』だ。
ことの発端は先生の「吹雪、お前他の教師から目を付けられてるから一学期の期末試験で赤点とか取ってたら大会どころじゃないデス。今から猛勉強しとけデス」とのお達しだ。
実のところ、吹雪の成績はそこまで悪くはないのだが、ここ最近はBDGについての調べ物や大会に向けて特訓が続いたお陰で宿題を忘れたり小テストで芳しくない点数が続いてしまったのだ。
「うぅ……みんな、ありがとう〜」
「まったく、あり得ないわね! 私のマスターたるもの文武両道に秀でていないと!」
「叢雲ぉ〜! 私、頑張るからそこで見守ってて〜!」
と、美空と真理に苦手な数学や物理を見てもらいながら叢雲の愛ある(?)叱咤激励を受けていた。その甲斐もあって、最近疎かになっていた箇所もなんとか復習でき、どうにか期末試験への対策は一通り済みそうだ。
「ん? んんん?」
と、その時。明るい茶髪の、ちょっとギャルが入った女子高生が吹雪らの方を見て唸る。たまらず真理が話しかけてみるが、三人とも彼女に心当たりは無かった。
「あの〜、何かご用ですか〜?」
「あ、ジロジロ見ちゃってゴメンねー! あのさ、もしかしなくてもブロッサムメイツの人っしょ?」
「あ、はい。それはそうなんですけど〜……えっと〜」
「ちょっと、あんた一体誰よ?」
「む、叢雲ちゃん!」
「あはは、またまたゴメンねー! アタシは浦沢舞ってんだ~! ヨロー!」
舞と名乗ったこの少女は三人となかば無理矢理握手を交わし、初対面とは思えない距離感で接してくる。どうやらこれが彼女の普通なのかもしれない。
「あ、どうも……」
「アナタが吹雪ちゃん? へぇ、フツーに良い子そうじゃん! まったく、秋華は何をウジウジしてんだか……」
「え、シューちゃんのお知り合いですか?!」
「そうそう、ていうかアタシの名前聞いても分からない……? ちょっちショック!」
「浦沢舞さん……チーム・黒風白雨の一人で、不知火というドールのマスターです。吹雪さん」
「お、説明ありがとねー! そうそう、その不知火のマスターがアタシってワケ! ほら、出ておいで!」
ギャルらしく自分好みに盛ってあるスクールバッグから取り出したのは、これまた色とりどりのストーンで派手に盛られた何か箱状のもの……どうもドールを仕舞うためのケースらしかった。
「んぁ~? お、舞っちじゃん。皆はもう集まったの? って、あれれ?」
そこにいたのはあの予選大会では直接戦闘していないものの、ディスプレイでよく見たドール……不知火だった。ピンク髪をゆるふわウェーブにし、メイクもネイルもバッチリ。着ている服もドール用デフォルトのものではなく、ティーン向けファッション雑誌の表紙そのままでもおかしくない程のものを着こなしていた。
「秋華と風はまだだよ~。それより、ホレ! ブロッサムメイツの皆さん! ここで偶然見つけちゃってさ~一度は挨拶しとかないとって思ってね~!」
「チース、私が不知火でっす! ヨロヨロ~!」
「……私、こういうノリ嫌いだわ」
「む、叢雲ちゃん!」
「お、ハッキリいうねー! 私はそういうの嫌いじゃないよ~! でもこの性格は今更キャラ変できないからゴメンね~!」
何やら渋い顔をする叢雲と、それと対照的ににこやかに笑っている不知火。どうやら本当に気にしていないらしく、むしろ好意的に接してくるではないか。というよりもベタベタと叢雲にボディタッチしまくっている。
「な、何なのよあんた! 馴れ馴れしいわ!」
「え~? いいじゃんいいじゃん! この巫女服カワイイし、もっとよく見せてくれてもいいじゃん!」
「ちょっと吹雪! ぼさっと見てないで助けなさいよ!」
「あわわ……!」
「アハハ! めっちゃウケるー!」
すっかり舞と不知火のペースに巻き込まれてしまい、その場がカオスになりかけてしまう。だが舞はふと思い出したとばかりに話題を切り替えてきた。
「おっとそうだった……ねね、吹雪ちゃん今ヒマ?」
「ヒマ……ではないですけれど、テスト勉強は一段落ついたかな?」
「あ、もしかして期末の? やっべ、もうそんな時期か……じゃなくて、ちょっちアタシとバトろうよ! 勉強の息抜きってやつ!」
「え、ええ?!」
「ほら、この前の予選じゃアタシと不知火はブロッサムメイツと直にバトってないじゃん? だからってわけじゃないんだけどさー、アタシ個人として実力を知っておきたいみたいな? いや、別に弱いとか思ってないよ? ただね~?」
ただね? その言葉の続きを舞は口にしなかったが、吹雪と叢雲にはなんとなく理解できた。ひょっとすると美空と真理も分かったかもしれない。
『本当に本戦で戦えるだけの強さがあるのか?』
ブロッサムメイツの予選突破はまぐれでも偶然でもない。純然たる実力で他のチームを上回った。だが客観的事実として黒風白雨と同等の実力があるか、と問われれば。
吹雪は目の前に立つ舞を真正面から見る。彼女の態度はこちらをバカにしたり、下に見ている様子はない。おそらく彼女も秋華と同じく、いや他チームと同様で真剣に大会優勝を目標に努力してきたのだろう。だからこそ、同じ予選ブロックから出場する吹雪らの強さに懐疑的なのかもしれない。
それならば。吹雪と叢雲は瞬間、目と目をあわせる。
「分かりました、その勝負を受け――――」
「吹雪さんはまだ物理Ⅰと世界史が残ってますので駄目です。期末テストまであと十日、みっちり対策して全科目平均点以上を取るのが目標ですから」
「え? いや美空、その目標初めて聞いたんだけど?」
「美空ちゃん……?」
「問題ありません。私が構築したスケジュールに従えば効率よく全ての教科を満遍なく復習出来ます。今はBDGよりも期末テスト、学生たる身分である以上、勉強をおろそかには出来ません」
いつになく言葉の端々に圧を含ませる美空。その有無を言わさない迫力に思わず叢雲も少し後ずさってしまった。
「え~? そりゃま、勉強は大切だけどさ~? あ~! も~!」
行き場のないフラストレーションをどうしようかと舞は頭を抱え込んでしまった。彼女はすっかりバトルモードに入っていたようで、この展開は想像していなかったらしい。とはいえ、テストや勉強の事を言われれば強く出られないあたり、見た目はこうだが彼女も根は真面目なのかもしれないと吹雪はチラリと思う。
「うっそ、叢雲っちとバトれると思ってたのに~! しょーっく!」
「ちょっと、やめてよその呼び方!」
不知火もわざとらしく驚いて見せる。しかし、マスターとは異なりどこか状況を楽しんでいるようだ。
「舞さん、安心してください。何もバトルしないとは言ってませんよ?」
「?! それじゃあ……!」
俄に喜びパァッと顔が明るくなる舞。しかし美空はその場にいる全員の予想しなかった事を澄し顔で言ってのけた。
「ええ、私とフレイスヴェルグがお相手します」
「へ?」
「は?」
「あら~?」




