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16ー2

16ー2


「え〜! それでは、ブロッサムメイツの予選大会突破を祝して……乾杯デスっ!」


 先生の音頭で各自、手に持ったコップを掲げる。ここは予選大会が開催された会場の近くにある居酒屋……ではなく、スイーツバイキング。甘い香りと華やかなインテリアの、女性で賑わうこの空間の一角ではそれらと対照的な雰囲気の吹雪たちがいた。


「…………」


「か、かんぱ〜い……」


「乾杯」


 何故かムスッとした表情の吹雪、そんな彼女とどう接したらいいのか分からない真理、そしていつもの澄まし顔をした美空。それを見た先生は大きなため息を一つ吐き、先程取ってきた一口サイズのチョコレートケーキを頬張る。


「お前ら、もっと喜ぶデス! せっかく予選通過できて、本戦出場が叶ったんデスから!」


「…………」


「そ、そうよ〜? それにここは先生の奢りだから〜しっかり味わわないと勿体ないわ〜!」


「あ、真理先輩。ここのチーズケーキは美味しいのでオススメですよ」


「わ、わぁ〜、それじゃあ後で頂こうかしら〜」


 ぎこちない笑顔を浮かべる真理と、敢えて普段どおりに振る舞う美空。明らかに吹雪を意識しての事だ。


 いつの間にか外は天気が崩れ、じっとりとした湿気が店内にも流れ込んでくる。この粘りつくような重さの空気、それは梅雨のせいだけではなかった。




「……叢雲ちゃん」


「……何よ」


 吹雪はじっとテーブルの上に座り込んでいる自分のドールを見る。その叢雲は背を向けたままだ。


「なんであんな事したの?」


「…………」


「あんな戦い方、叢雲ちゃんらしくないよ」


「………………」


「それに、(マスター)の指示を全然聞いてくれなかった。どうして? やっぱり私じゃ頼りないから? それに本戦でこんなだと」


「……………………仮、よ」


「え?」


「あんたはまだ()マスターよ、忘れたの? ええ、そうよ。あんたの指示はまだまだ遅い、拙い、ありえない。そんなシロート仮マスターの言うことなんかより、私の判断の方がマシだわ。そう思っただけ」


「…………っ!」


「ふ、二人共! ケンカはダメです、ケンカは……」


 一気に険悪な雰囲気になった二人の間に思わずアルテミスが割り込む。先程までのオロオロした様子のまま、その声は尻すぼみに。


「ふん、別に良いじゃないの。結果的に勝ち残ったわけだし」


「良くないよ!」


 テーブルを思い切り叩く吹雪。その音に店内は一瞬だが静まり返り、そして普段どおりの喧騒に戻る。


「……何が良くないってのよ。確かにあいつ(陽炎)には敗けたかもしれないけれど、私一人で戦果はそれなりに稼いだわ」


「あんな自分を犠牲にするような戦い方、それで叢雲ちゃんは勝っても嬉しいの?!」


「う、嬉しいも何もないわよ! 勝つか負けるか、あの場面で勝つ為に必要な事だっただけよ!」


「どうして……! どうして私に相談してくれないの……! もしかしたら二人で考えたら……何かもっといい方法あったかもしれないじゃない!」


「う……うるさいわね! あんたみたいなへっぽこマスター、何人いたって役に立たないのよ!」


「……! 叢雲ちゃんのバカ! この化石ドール!」


「なっ?! ちょっと、言っていいことと悪いことがあるわよ?!」


 椅子を倒しかねない勢いで立ち上がった吹雪はそのまま店を飛び出す。それを叢雲たちはただ見ているだけだった。


「……はっ?! ちょ、吹雪一人で帰っちゃったデス?!」


「え? え? どうする? どうしたらいいの〜?!」


「お、お、落ち着いて下さい真理!」


 ぶすりと不貞腐れている叢雲はその場に座り込み、先生や真理はあわあわと慌てふためく。そして、美空とフレイスヴェルグだけは冷静に対応する。


「皆さん、落ち着いて下さい。吹雪さんは少し様子を見ましょう」


「な、ちょっ! 葛城、お前ちょっと冷静すぎやしないデスか?!」


「吹雪さんと叢雲さんは一度自分を見つめ直す時間が必要なんです。どっちも自分が正しいと思い込んでるし、実際にどちらも正しいです。だからこそ、無理に仲直りさせるのは難しい」


「お、お前……妙に冷静だと思ってたら……そんな事まで見抜いてたデスか?」


 半ば呆れ顔で先生は美空を見やる。そんな彼女はしれっとした顔で。


「私と兄と昔、こういうケンカをよくしてましたから」




 * * *




 どこをどう走ってきたのか覚えていない。ただ、雨の中を無理に自宅まで帰ったから、すっかりずぶ濡れだ。


「……」


 いつものように鍵を開ける。普段は叢雲といろいろ話しながら帰宅するのだが、今日は久しぶりに独り。初めての一人暮らし、引っ越しばかりの頃は少し寂しくて海外にいる両親に何度もメールやビデオ通話をしたりもした。


 それもいつしかそれも減り、すっかり叢雲との生活が日常となっていた。


「……?」


 玄関のドアを閉じると、妙な気配を感じる。というか、部屋の明かりが点いていた。今朝、家を出るときにはきちんと消したはずなのに。


「あ、お帰り〜! 勝手に鍵開けて入ってたよ〜。て、うわ! なんでそんなビショ濡れなの? 早く着替えんなさいな!」


 ひょっこりと顔を覗かせたのは、仕事の都合で海外に居るはずの吹雪の――――


「……へ?! お母さん?!」


 母親だった。



次週の更新は遅れるかもしれないデス。ようやく納車なので持病の「バイク乗りたい病」が発症するかもデス。予めよろしくデス。

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