第十六話 「あんたみたいなへっぽこマスター、何人いたって役に立たないのよ!」
第十六話
「叢雲ちゃん!」
静音性の高いドローンがぐったりした叢雲を運んでくる。黒風白雨以外の各ドールは撃破されたと同時に機能がシャットダウンされ、自力で動けないのだ。
吹雪は丁寧に叢雲を受け取ると、ブースに備え付けられたテーブルに横たわらせる。アルテミスとフレイスヴェルグも同様に並べられた。
「吹雪さん大丈夫です、すぐに目を覚ましますから!」
「叢雲ちゃん……」
「ん……あら? ここは……」
目を瞬かせ、ゆっくりと身体を起こす叢雲。人間の寝起きのように頭がぼーっとしているのか、自分の身に何が起きたのかを認識するのに僅かな時間を必要とした。
「……負けたのね、私達」
「……そんな……真理!」
「マスター、ヴェルグちゃん達に状況の説明を」
美空たちは互いに顔を見合わせ、少し困ったような顔をする。その不安な様子がドールにも伝わり、いくらか肩をこわばらせてしまう。
「えっと……どこから説明したらいいか……。チーム・黒風白雨はそれぞれ3つのチームを相手取り、互角以上の戦いを繰り広げました。そして彼女たちはお互いの武装を交換するという戦術を用い、私達を撃破……」
「……ッ!」
叢雲はあの時の事を思い出したのか、苦々しい顔をする。フレイスヴェルグもアルテミスも、顔には出さないが悔しいという気持ちは同じだろう。
「で、でもね〜? 私達の撃破と、他チームの撃破が偶然重なっちゃったのよ〜!」
「?! それって……!」
「なるほど、そういう事」
「え? え? どういう事なんですか真理?」
「……勝ち抜けたシューちゃん……黒風白雨以外のチームの戦果を集計して、そのトップが予選通過出来るんだって。今はその集計中」
吹雪の説明に思わず目を瞠る叢雲。まだ結果は分からないが、どうやら首の皮一枚繋がっている状態だ。それも、かなり危ういが。
「叢雲ちゃん……あのね」
いつになく真剣な表情の吹雪が、叢雲に話しかけたのと同時に会場中のスピーカーからバト子ちゃんの声が響いた。
『会場の皆様! お待たせしましたー! それではバトル結果を発表させて頂きます!』
ディスプレイというディスプレイにバト子ちゃんの顔が大きく映し出され、一応演出のつもりなのだろうか花吹雪が舞い散る。BGMには、いつものバトルリザルトで流れる楽曲のアレンジバージョンが。
『え〜、バトルロイヤルを最後まで生き残ったチーム・黒風白雨を除いた19チームの全戦果を集計致しました! これは他チームのドールを撃破したり、沢山ダメージを与えたなど、様々なバトル結果を加算していきます。なので、序盤から中盤で敗退したチームにもチャンスはあるって事なんですよ〜!』
そしてディスプレイにはランキング形式の表示が映される。戦果ポイントは出ているが、チーム名はこれから発表ということなのだろう。
『それでは! 第5位! チーム・阿修羅! 惜しくも大本命チームはこの順位! 中盤での敗退でしたが、累積与ダメージ量などその実力に間違いはありませんでした!』
チーム・阿修羅のマスターはブースから立ち上がり、観客席の方へと手を振る。人気チームの予選敗退に多くの観客は落胆するが、それと同じくらいに励ましの声が上がる。
『続きまして、第4位! チーム・ブラッドパイレーツ! その荒々しいバトルで戦果も大量獲得! 大健闘でしたがあと一歩及ばず! そして3位にはチーム・ロイヤルメイドナイツ! 優雅な戦いぶりと的確な試合運びが功を奏し、この順位に!』
「麗華さん……」
真理はちらりと麗華たちのいるブースの方を見る。遠くなのでよく見えないが、それでも堂々と立ち上がって観客の声援に応える彼女の姿はよく分かる。
『さぁっ! 皆さんの推しチームはまだ呼ばれていませんか?! 並み居る強豪チームを押し退けて予選通過出来るのはどのチームなのか?! それでは第2位の発表です!』
まだブロッサムメイツの名前は挙げられていない。だが、叢雲たちが苦戦したバーニングフレアが残っている。それに直接戦っていない他のチームが上位に食い込む可能性も多いにあるのだ。それを分かっている吹雪たちは祈るような気持ちでメインディスプレイを見つめる。
『戦果ポイント第2位! 燃えるドール魂はここにある! チームバーニングフレア!』
バーニングフレアの名前が表示された途端、会場から大きな歓声が上がった。やはりその炎のような苛烈な戦い方と、キャラの濃ゆいドールとマスターが人気なのだ。
『バーニングフレアの皆さんはご存知の通り、あらゆる火炎系の武器を使用しています! そのダメージ量は直接的、間接的に大きなポイントになっていました! 特に地形破壊のポイントも大きいですね! しかし、1位とは僅差で惜しくも予選通過とはなりませんでした!』
「あの人達が2位……!」
「大丈夫よ、吹雪ちゃん。きっと私達が1位なんだから〜!」
「…………」
真理は吹雪の不安を取り払おうと努めて明るい声で励ますが、美空にはそれがどこか無理をしているようにも聞こえた。
『さぁ、いよいよ第1位の発表です! 果たしてどのチームが黒風白雨と共に本戦へと駒を進めることが出来るのか?!』
会場の照明が暗くなり、ディスプレイ周りだけが明るく照らされる。スピーカーからはドラムロールが流れはじめ、否応にも吹雪の心拍数は上がってしまう。叢雲もどこか落ち着かない様子で上を見上げ、その手は固く握られていた。
『予選大会戦果ランキング第……1位! そのチームとは…………』
チーム名が呼ばれるその一瞬、ほんのちょっぴりの時間の間。吹雪たちは自然と手を繋いでいく。無意識に手を繋いだのは不安と弱気、そして絶対に勝つという強い気持ち、そして仲間への信頼の表れだった。
『…………チーム・ブロッサムメイツ! なんと黒風白雨と同じく無名の新人チームが本戦出場を果たしました〜! ブロッサムメイツの皆さん、おめでとうございます!』
会場が歓声に包まれる。それは無名のチームが自分の推しチームを下しよもや予選通過するとは思わなかった驚きと、新人ながらベテラン並のバトルを繰り広げた事への賞賛だ。
「……やった……の?」
「ええ、私達は無事に本戦へと出られます」
「やったわよ〜二人共〜!」
ギュッと手を握り合う三人。嬉しさと驚きと、達成感がまぜこぜになり吹雪はどこかフワフワと落ち着かない。だが、この会場の大歓声が自分たちへ向けられていることを認識すると、思わず目の前が涙で滲みそうになる。
「やった……やったよ、皆……!」
「ふん、全くヒヤヒヤさせてくれるわね。ま、私が勝つのは当然のことだけれど」
「ま、真理〜! やりましたぁ〜!」
「皆、気が早い。マスターの目的は大会優勝」
ドール各自もそれぞれにやりきった満足感に包まれる。しかしフレイスヴェルグが言うように、ブロッサムメイツはここからが本番なのだ。東日本大会優勝、彼女らはようやくそのスタート地点に立ったと言っても過言ではない。
『ブロッサムメイツの皆さん、改めておめでとうございます! それでは表彰式がありますので、チームメンバーとドールの皆さんは会場の――――』
バト子ちゃんのアナウンスが続けられ、会場は冷めやらぬ熱気に包まれる。だがそれとは対照に、吹雪の心は冷静になり叢雲へのとある感情が大きくなる。
(叢雲ちゃん……!)




