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「ちょっと、かげろう~! いきなり私の[天津風]とんないでよ! お陰でこっちは裸で戦わなきゃいけないんだよ?! ほとんど裸だよ、ラ!」
「……ユニットはみんなで共有している。それに[嵐]はまだ使えるからそっち使って」
「え~? 私あんまり趣味じゃないんだよね~? こう、泥臭いっていうか?」
「……それより、そっちはどうなの?」
「ん? ああ、メイド騎士さんたちならさっき倒したよ~。[天津風]取られる前に」
「……それなら別に問題なかった」
「あ、怒ってる? 怒っちゃってる? にゃはは、ごめんね~!」
「……黒潮、私の[天津風]とあなたの[野分]、これから交換する」
「別に良いけれど、それだけ陽炎が苦戦するなんてね。後で反省会を開かなくっちゃ」
「ああっ、無視しないでよ!」
「……苦戦はしていない。ちょっと面倒だっただけ」
「ふふふ、ならそういう事にしておきましょうか」
「ふ、二人ともひどいよ~! 私はここにちゃんといるよ~!」
再び陽炎[天津風]の身体が光に包まれ、先程と同じく別の方向から装甲片が飛来する。今度は軍隊の迷彩色のようなカラーをした武装だ。
遠距離環境ユニット[野分]は多数のミサイルパックに大型チェーンガン二門を背部に備え、分厚い装甲と高性能レーダーセンサーを搭載した射撃戦に特化したユニットだ。その制圧火力は三種類のユニットで一番高く、装甲も頑丈だ。その反面機動力は低下するものの、もっぱら足を止めての撃ち合いではどのドールよりも強力だ。
「……捉えた」
地面をえぐり返しながら着地した陽炎[野分]はさっそくそのレーダーを起動し、逃げた二人を見つけ出す。そして背部のチェーンガンを両肩に固定し、全身のミサイルパックを展開する。
「……殲滅する」
* * *
「やー、陽炎を怒らせちった。あの娘、意外と負けず嫌いなんだよにゃー」
まったく反省した様子のない不知火。その足元にはボロボロになったコロッセオとオーシャンが臥していた。
「こ……の……!」
「まだ……負けては……!」
不知火は[嵐]ユニットを呼び出すとすぐさま身につけ、その大剣を肩に担ぐ。ロイヤルメイドナイツのリーダー、グローリアは少し離れた場所で撃破しており、残った二人ももはや戦闘不能に近いダメージを負っている。
「ん~、そういうガッツのあるのは別に嫌いじゃないんだけどさ? ほら、メイドさんてもっと優雅に戦うじゃん?」
どうにか立ち上がろうともがくコロッセオとオーシャン。だが、その奮闘虚しく、分厚い刃が彼女らに襲いかかった。
* * *
「あの陽炎がここまで怒るとは、一体何があったのかしら?」
高機動ユニットを装着した黒潮[天津風]は顎に手をやり暫し想像にふける。
「オラァ! 余所見してんじゃねぇ!」
「海賊舐めたヤツァ縛り首だッ!」
その左右を挟撃する海賊団。チーム・ブラッドパイレーツのアン・ボニーとメアリ・リードだ。二人は己の得物、ボロボロになったフリントロックピストルとカトラスナイフで反撃を試みたのだった。
「あら、まだそんな元気があったの? 流石は海賊さんってところかしら?」
黒潮[天津風]の視線の先には、無数のミサイル直撃を喰らい撃破されたチームリーダー・アルビダの姿が。大海原の覇者、ブラッドパイレーツですらも黒風白雨の一人、黒潮には敵わなかったのだ。
「さっきまでは力押しの戦い方だったけれど、今度はこの[天津風]の優雅な舞を魅せてあげるわね?」
大型ウイングとスラスターが空気を切り裂き、黒潮[天津風]は腰に差した複合兵装・初風を抜き放つ。彼女の持つたおやかな雰囲気とは裏腹に、いつの間にかその場は圧倒的な圧力に支配されていた。
* * *
「……?! 多数の熱源反応! ミサイル!」
フレイスヴェルグが咄嗟に探知したのは陽炎[野分]が放った無数のミサイル群。一体これほどの弾薬を予選終盤までどこに残しておいたのか、呆れるほどの数が二人に迫ってくる。
「くっ……迎撃します!」
「ヴェルグちゃんも!」
アルテミスはアーチェリーモードのオリオン・ボウを、フレイスヴェルグはフギンとムニンをそれぞれミサイルの群れへと向ける。可能な限り連射された銃弾とビームアローは先頭のミサイル迎撃に成功し、誘爆を繰り返していく。だがしかし、すぐさま第二波、三波と襲いかかってくるではないか。
「わわっ?! 銃撃です! どこから?!」
さらには遥か彼方からチェーンガンの掃射まで。アルテミス並の飽和火力が一帯を火の海へと変えていく。ミサイルが爆裂し、大量の銃弾が逃げ場を削り取る。もはや身動き一つ取れないまでに追い込まれてしまう二人だが。
「ヴェルグちゃんさん! 私が盾になります、その間に空へ!」
フレイスヴェルグの前に仁王立ちとなったアルテミス。だが、いかに彼女の分厚い装甲といえども、これほどの火力に晒されては長くは保たない。
「……残念だが、ヴェルグちゃんのウイングはもう」
見れば、その漆黒に染まった翼には大きな穴が。スラスターもどこか故障しているらしく真っ黒な煙を吐き出していた。
「そ、そんな……」
* * *
ビビーーーッ!
試合終了を告げる電子音が会場全体に響き渡る。そしてクラシック風の勝利を祝うファンファーレがスピーカーから流れ出した。
『試合終了~~~! な、な、な、なんとッ! 三つのチームが同時に敗退! これはどういう事だ~~~?!?!』
司会進行兼解説役であるバト子ちゃんの大きな声とともに、メインディスプレイに三分割して映し出されたのはブロッサムメイツ、ロイヤルメイドナイツ、ブラッドパイレーツの撃破されたシーンだ。なんと、この三つのチームが同時刻、同じタイミングで撃破判定を発しているというのだ。
「……こ、言葉が出ねぇデス……」
「そんな……神代さん達は……」
観客席でバトルの様子を見守っていた先生と生徒会長は思わず息を呑む。
『え~、一位通過は問答無用でチーム・黒風白雨の皆さんです! 無名のルーキーながら、その圧倒的実力を見せつけてくれました! 素晴らしいバトルをありがとう! さぁ観客の皆さんも拍手ッ!』
会場はいつの間にか黒風白雨を称える拍手とコールとでまぜこぜになっていた。この予選大会で初めて公式バトルに参加した無名のダークホース。ドールの戦闘性能もさることながら、新機軸である戦闘中に武装を互いに交換するという戦法を披露したことで一気にファンが増えたのだろう。
『本来ならばもう一チームが予選通過する筈なのですが、候補となる三チームは奇しくも同タイミングで撃破されてしまいました。この場合はですね、黒風白雨を除いた全チームの戦果……つまりどれだけ他チームのドールを倒したか、ダメージを与えたかなどを集計し、トップチームが予選通過となりますっ! え~、会場の皆様はもう暫くお待ちくださいね~!』
大会運営のスタッフが慌ただしく走り回り、何やら作業に負われている。どうやら全チームの戦果を集計しているのだろう。その間、会場中のディスプレイにはバト子ちゃんの持ち歌とダンスが流れていた。




