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「っ……! ガトリングの弾が切れました!」
そう言うと、アルテミスは肩部の装着していたガトリング砲を基部から切り離す。その分身軽にはなったが、あまり楽観視できるような戦況ではなかった。
『叢雲ちゃん、ヴェルグちゃんの援護がくるよ! 一拍置いてから斬りかかって!』
「フレイスヴェルグ、しっかり狙いなさい!」
遥か上空から真っ逆さま、垂直降下してくるフレイスヴェルグは二丁のマシンピストル、フギンとムニンを掃射する。その狙いは陽炎[嵐]の周囲。
「ッ……!」
咄嗟に身をかがめて防御する陽炎[嵐]。彼女の纏う装甲を無数の銃弾が叩くが、あまり大きなダメージは見込めない。そこへ叢雲が天之羽々斬を思い切り振り抜く。
「そこッ!」
BDプラ製の大剣同士が激しく衝突し、本物さながらの金属音が響く。叢雲の連携を見抜いていた陽炎[嵐]は十分に余裕のある動作で大剣で防御したのだ。
「……簡易シミュレーションの結果よりも戦闘時間がオーバーしている……不思議」
どうしてこのチームはまだ倒されていないのか? そんな納得のいかないような、変な生き物でも見つけたような顔をする。陽炎[嵐]の戦闘AIが短時間とはいえ習得したデータとそれに基づくシミュレーションでは、このチーム・ブロッサムメイツという格下のチームは既に撃破済みだった。
「ただのデータでこの私を測るなッ!」
全身のバネを使って叢雲は陽炎[嵐]の大剣を上方に弾く。一瞬だがガードの空いた隙を狙い、後方からアルテミスがオリオン・ボウで狙い撃つ。しかし、金色に輝くビームは僅かに彼女の装甲を焼いたにすぎなかった。
「今の連携も予測していたのに……どうして?」
どうして、の後に続く言葉は何なのか。チーム全員の連携攻撃など、とっくに把握し見切っている筈。別に陽炎[嵐]が不利、というわけではない。だがしかし、有利とも言えない戦況だった。
「陽炎がここまで押しきれないなんて……[嵐]ユニットも装備しているのに!」
黒風白雨のマスターブースでは彼女のマスター、秋華が一人呟く。三人のドールが装備している各ユニットでは、[嵐]が一番突破力に優れている。その武装を以てしても決定打を与えるには至っていないとは。
「流石はブッキーのチームって所かしら……ね」
『叢雲ちゃん、エネルギーはどう?!』
「まだ駄目よ、十種雲形は巻雲一発が限度! 戦闘中じゃ回復速度が遅い!」
『かと言って時間稼ぎが通用する相手じゃないし……!』
吹雪と叢雲はこの苦しい状況の打破を試みる為、天之羽々斬のエネルギー回復を期待しているのだが、こうも激しい戦闘ではなかなかそうもいかない。それどころか、少しでも攻撃の手を緩めると一瞬で撃破されてしまいそうなギリギリの綱渡りのような緊張感が走る。
『……! えっ、そんな?! 叢雲ちゃん、あと三十秒後にそのエリアが禁止地帯に入るって! 急いで退避しなくちゃ!』
吹雪の見つめるディスプレイ、その上面には禁止エリア予報が流れていた。広大なバトルフィールドをいくつものマスに区切り、時間経過ごとにエリアを禁止地帯にすることでバトルを硬直させない工夫なのだが、時としてこのようにバトルを中断しなくてはならない事態もありうる。
「……確か、その禁止地帯に留まっていたら大きな継続ダメージを受けちゃうのよね?」
『え? あ、うん、そうだけど……? どうしたの?』
「悔しいけれど、私達三人じゃコイツは倒せない……。それはハッキリしてるわ。それなら、やるべきことは一つよ」
叢雲の言葉は強く、淀みのない覚悟が滲み出ていた。吹雪からは彼女の後ろ姿しか見えないが、その表情は心に秘めた決意と同じくらい硬いのだろう。
「アルテミス、フレイスヴェルグ! もう十数秒後にはこのエリアが禁止地帯になるわ! 一旦ここは後退よ!」
「ヴェルグちゃんは了解した。ここより西、障害物の沢山あるエリアへ移動を提案」
「わっかりました! 最後のミサイルを煙幕と足止めに使います! 皆さんはそのタイミングで離脱を!」
『叢雲ちゃん、叢雲ちゃん! ねぇ何をしようとしてるの?!』
吹雪の呼びかけはアルテミスの放ったミサイルの爆発にかき消されてしまった。直接ダメージを与えるのではなく、陽炎[嵐]の周囲を取り囲むように着弾させその動きを封じ、大量の土煙を巻き上げたのだった。
「……あなた一人?」
「ええ、もう少し私と踊ってくれないかしら?」
煙が晴れ、そこに残っていたのは陽炎[嵐]と叢雲の二人だけだった。
『叢雲ちゃん! はやく逃げて! もうすぐそのエリアは!』
『ど、どうして叢雲ちゃんがそこに残っているの~?!』
『不味いです、吹雪さん! ヴェルグたちは既に離脱していて援護に戻る時間が……!』
「私じゃあんたに敵わないかもしれない。でもね、ここに釘付けにくらいは出来るわよ」
「……そういう事」
両者はそれ以上、言葉を交わすことは無かった。どちらともなく駆け出し、互いの大剣をぶつけ合う。二合、三合。それは必殺を狙った渾身の一撃であり、戦闘を少しでも引き延ばそうとする計算された一撃だった。
『叢雲ちゃん! いいからそこから逃げて!』
視界が紫色に変化していく。とうとう禁止地帯になったのだ。叢雲の全身には火傷のような、電流が走るような不快感が襲いかかる。恐らく残りHPも見る見る間に減っていっているのだろう。無線から聞こえてくる吹雪の声がどこか遠くに感じられる。
「……ダメージ限界点まで、あと十秒」
「ならその十秒、私が奪い取ってあげるわ!」
離脱する素振りを見せない陽炎[嵐]の姿にどこか安堵する。もし全力で逃走を図られた場合、今の叢雲では追撃できないかもしれなかった。今や、エリアから受ける継続ダメージ量はそれほどまでになっているのだ。
天之羽々斬が水平に薙ぎ、虚空を斬り裂く。それをひらりと跳躍して回避した陽炎[嵐]は、その勢いを利用して叢雲へと斬りかかる。
一進一退。どちらも自滅覚悟で相手を撃破しようとしている。
(私がこいつを道連れに撃破すれば……私達は……ブロッサムメイツは勝てるかもしれない!)
叢雲のAIはただその事だけを演算している。自身が欠ける事による戦力低下は否めないが、もはや予選大会は佳境。この終盤に五体満足のドールは少なく、どのチームもギリギリの戦闘を強いられている。それにフレイスヴェルグとアルテミスの実力は申し分なく、例え二人だけでも十分に勝ち残る可能性はある筈だ。
『叢雲ちゃん、どうして?! そんな戦い方は駄目だよ!』
「うるさいわね、そんな事はどうでも良いのよ。それに私達は何があってもこの予選大会を勝ち抜かなくちゃいけないんでしょ」
『それはそうだけど、でも駄目なんだよ!』
「…………もう遅いのよ。あと数秒で私も、こいつも撃破判定。後は二人に任せるわ」
そして叢雲は目の前の敵に改めて向き直る。陽炎[嵐]もだいぶ消耗しているのか、先程よりは動きに精彩を欠きだした。
「……まさかこんな事になるなんて」
「フン、散々見下してきた罰よ。仲良くここで倒れましょう?」
「……悪いけれど、あなた一人で倒れて」
叢雲は咄嗟に大剣を構えたが、陽炎[嵐]はその場で両手足を広げたまま動かない。最後の悪あがきかと叢雲は思ったが、それは間違いだと後になって気付く。
「……不知火、ちょっと[天津風]を貸して」
そうボソリとつぶやいた陽炎の全身が赤く光だす。それは全身に纏った装甲が幾何学模様に割れ、そこから漏れ出した光だった。
「な、何をするつもりなの?!」
叢雲の問答を無視し、陽炎はその場で大きく跳躍する。と、遥か南の方から何かが飛来してくるではないか。それは陽炎が今まで纏っていた装甲とよく似た形状の、色味が異なるパーツ群だった。
無数の装甲片はまるで意思があるかのように陽炎を取り囲み、そして自動的に装着されていく。近接環境ユニット[嵐]とはその設計思想を異にするデザインと背部ユニット。それはつい先程まで遠く離れたエリアで戦闘していた不知火が纏っていた高機動環境ユニット[天津風]そのものだった。
「戦闘中に武装を変更しているの……?!」
「……私はこれより離脱する。そういえば、あなたの名前を聞いてなかったけれど……もういいや」
あくまで普段どおりの無表情。陽炎[天津風]は大型ウイングとスラスターの轟音を響かせながらあっという間に空を駆ける。後に残されたのは叢雲ただ一人。
「ま、待ちなさい! 待ちなさいよ! そんな……私……!」
紫に変色した空に叢雲の声がこだまする。だが、それを聞き届ける相手は既にいなかった。




