15ー2
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ブロッサムメイツと陽炎[嵐]が一進一退の攻防を繰り広げるなか、そこからフィールドを南に行った場所では別の戦闘が行われていた。
「コロッサス、オーシャン! 今です!」
「はいっ!」
「そこっ!」
合図と共に螺旋状のビームが大地に着弾し、大爆発を引き起こす。
彼女らはチーム・ロイヤルメイドナイツ。聖マリアンヌ学園、鳳凰院麗華率いる強豪チームだ。そしてその相手は――――
「うわわ! もう、あっぶないなー!」
背部のウイングと一体となったスラスターを吹かしつつ、グローリアらの頭上を高速で移動するドール。青と白を基調とした軽装甲を纏った彼女はチーム・黒風白雨の一人、不知火だ。
「くっ……! これでも駄目ですか……!」
『グローリア、焦ってはいけませんわ。相手は一人、じっくり追い詰めるのですわ』
「承知致しました、お嬢様。二人共、牽制をお願い。私は機を見て一撃を仕掛けます」
その言葉に、瓜二つなメイド姿のコロッサスとオーシャンはそれぞれ左右に跳び、手にしたライフルで不知火へと射撃しながら移動していく。そしてリーダーであるグローリアはその大型脚部――――まるで馬のような四肢をした――――の調子を再確認した。
3対1と状況だけ見ればメイド騎士達が優勢なのだが、グローリア達は不知火に有効打を一つも入れられずにいた。それは不知火の装備している高機動ユニットが原因だった。
(私達ロイヤルメイドナイツはコロッサスとオーシャンが足止め・牽制しながら私が強力なランスチャージで相手のペースを乱すのがセオリー……しかし、この相手にはそれが全く通じない……!)
不知火は比較的強力な武装を携えてはいないものの、その高い機動力を武器に非常に厄介な動きで仕掛けてくる。飛行や滞空能力はさほど高く無いが、大出力のスラスターが生み出す圧倒的な推力は並のドールでは追いきれないほどだ。さらに彼女の卓越した運動性能が加わり、グローリアらの攻撃を蝶のようにひらりひらりと躱していく。
「んもー、そんな単調な攻撃じゃ退屈しちゃうよ〜?」
「それならば、こちらなど如何でしょうか?」
いつの間にか接近する事に成功したオーシャンは鋭く右腕を振るう。彼女のメインウエポンである細身の片手剣は確かに不知火を捉えた筈だった……のだが。
「うーん、60点くらいかな? 剣速はまぁまぁだけど〜、太刀筋に工夫が足りないかな〜って思っちゃうな、この不知火さんは!」
そして不知火はその手に握った複合兵装・初風をオーシャンよりも疾く正確に振り抜いた。
「がっ……?!」
白と黒を基調とした、メイド服の上に取り付けられた装甲がたちまち切り裂かれる。不知火が手にした武装は陽炎が持っているものと同じく高速振動ブレードとレールガンを組み合わせたもので、恐ろしい切断力を遺憾なく発揮していた。
「んじゃ、トドメ〜……っと、危ないにゃー!」
スラスターを点火して素早く前方へと逃げる不知火。その直後、彼女が居た筈の空間を先程と同じビームが焼いた。
「オーシャンはやらせません」
「あっははー! はっずれ〜!」
コロッサスとオーシャンは頭部のドリルツインテが強力なビーム砲となっており、直撃すれば大ダメージ必至の必殺兵器である。だが、不知火の圧倒的な機動力の前には虚しい威力でしかない。
「油断は禁物ですわよ?」
「……?!」
不知火の進路を予め予測していたグローリアはその四脚での走破性を最大限に活かし、さながら本物の馬のように高く跳躍した。狙うは不知火の正中線中央、胸部装甲ただ一点のみ。右手に抱えた大振りな馬上槍、何者をも貫くその鋭い切先が恐るべき速度で不知火に迫る。渾身の力を込め、天高くグローリアは必殺の一撃を放った。
「ひゅー! い、今のはちょっちヤバかったかも……!」
「……なんてこと、これを躱すなんて……」
だが不知火は複合兵装・初風の刀身を立て、どうにか槍の穂先を滑らせるように後方へと逸してしまった。空中でバランスを崩すグローリアだが、不知火もギリギリの攻防だったようでその後の追撃はなかった。
『ちょっとちょっと、しらぬい~! あんまり気を抜いてちゃダメだよー! 相手はあのロイヤルメイドなんだから!』
「わかってる、わかってるってばマスター!」
マスターがプリプリ怒っているのを不知火はなんとか宥める。だが怒られるのは当然で、今のは殆ど偶然に避けられたようなものであったことを不知火のAIはちゃんと気づいていた。その証拠に、彼女の初風はグローリアの一撃を逸しただけの筈なのに、その刀身は使い物にならないほどひび割れていた。
「コレはちょっと駄目だねー。あとはビームサーベルしかないけど……」
初風を腰に仕舞い、代わりに背部から伸びたサーベルの柄を掴み引き抜く。緑色のビームが刃を形成し、低コストながら比較的強力な部類に入る人気の武装だ。
「へっへー! それじゃあ、第二ラウンドいってみよーか!」
「……全く、その無邪気な顔が憎たらしいですわね」
屈託のない笑顔を向ける不知火と、苦し紛れに微笑み返すグローリア。たった一人にここまでいいようにされているという事に屈辱を感じるが、それよりも彼女のAIが驚異と感じているのは。
(これだけ戦闘能力の高いドールなのに、まだ何か隠している能力でもあるのでしょうか……?)
実力は申し分ない。武装の使い方も、機動力の活かし方もおそらく全国レベルと遜色ない程の性能とAIを備えている。だが、それとは異なる余裕をグローリアは感じ取っていたのだった。
「グローリア様」
「いかが致しましょう」
「……」
背後にコロッセオとオーシャンが控える。今度の不知火はその圧倒的機動力とビームサーベルで仕掛けてくるだろう。そして、恐らくその天高く吹く風を受け止めきれない。
「我々はお嬢様の為に最後まで正々堂々、優雅に戦い抜くまでです。二人共、よろしくて?」
無言でうなずく双子のドール。その表情は見るまでもない。
「よーし、この高速機動環境対応ユニット、[天津風]の本領発揮しちゃうよー! どこまで耐えられるかなー?」
不知火[天津風]はその航空機のような背部ウイングを左右に展開し、高出力スラスターを力強く轟かせた。全身の装甲はその瞬間の空気抵抗に合わせて微妙に形状を変化させ、常に最適な空力性能が得られる。
まさに天津風。その流れを止めることは何人たりとも叶わない。




