14ー2
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「ヴェルグちゃんさん!」
派手な音を立ててフレイスヴェルグは地面に叩きつけられた。その向こうには炎に包まれたイグニッシュの姿が。
「予選大会でこのモードになるたぁよ? 思ってたより楽しいバトルだなぁ? マスター?」
『まーな! と言うわけでイグニッシュ! そいつら一気にぶっ潰すぞ! バーニングモードは燃費悪過ぎだからな!』
「わぁーかってるぜ!」
イグニッシュの燃える瞳とアルテミスの瞳がぶつかり合う。その圧倒的存在感に、思わずアルテミスの思考AIはフリーズ仕掛けてしまう。彼女はAIでありながら、人間で言うところの恐怖を感じてしまったのだ。
「オラァッ! 余所見してんなよ!」
僅かな隙を突かれ、アルテミスの頭部に強い衝撃が奔る。ヘスティアの持つグレネードランチャーの砲身、それが思い切りぶつかったのだ。
「うぐッ……!」
よろめきながらも、どうにか倒れずに済んだ。しかし、チリチリと焼けるような熱気を感じた時にはさらなる追撃がアルテミスを襲う。
「オラオラァッ! 地獄の業火で燃え尽きろォ!」
イグニッシュの強烈なアッパーで空中に吹き飛ばされる。アルテミスの強固な胸部装甲はたった一撃でヒビが入ってしまった。
チーム・バーニングフレアのリーダーであるイグニッシュのみに搭載されたバーニングモード。これは一種の強化状態であり、ドール本体のエネルギーを過剰消費することで一時的に身体能力を向上させる事ができるのだ。
全身を包む炎はエフェクトではあるが、相手にダメージを与えると同時に自身のHPを徐々に削っていく。マスターであるボルケーノが言っていたように劣悪な燃費と継続ダメージによる短時間の強化モード。しかしながら、そのバフ効果はデメリットを十分に上回るものだった。
「へっへー! 華麗な逆転劇とはいかなかったな!」
「灰☆燼!」
『イグニッシュ! そいつはアホみたいに硬いから一気に撃破しねーと後が面倒だぞ!』
「おっしゃあ! 二人はもう一人の黒いやつを……って、アイツ何処に行った?!」
「うぉ?! さっきまでここに倒れてたのに?!」
「忽☆然!」
イグニッシュたちはキョロキョロと周囲を見渡すが、そこにはフレイスヴェルグの姿は無い。かなりのダメージを負っていた筈であり、そうそう簡単に逃げ切れるものでは無いはずなのだが。
「……ん? なんだァ……? ……煙?」
すると、彼女らの周囲に何故か煙が広がりだした。バーニングフレアの三人が放つ炎攻撃は実際にはエフェクトであり、煙が出るようにはなっていない。するとこれは何処から……?
「油断大敵。ヴェルグちゃんはここ」
上空から声が聞こえてきたかと思うと、そこには黒い怪鳥の姿が……いや、ウイングを展開したフレイスヴェルグだった。
彼女はイグニッシュの注意がアルテミスに向けられている間に上空へと飛翔していたのだ。そしてウエポンコンテナからいくつもの煙幕弾を投下し、イグニッシュらの視界を封じ込める事に成功した。
「今更煙幕だァ?! そんなもんがアタシらに通用するかァッ!」
「通用しなくていい。これまでは時間稼ぎだったから」
意味深なフレイスヴェルグの言葉。それをイグニッシュはただの負け惜しみと受け取り、周囲の白煙から離脱すべく力強く大地を蹴る。
「ヘスティア、ウェスタ! 煙幕を抜けるぞ!」
「あいよリーダー!」
「……」
「……おいウェスタはどうした?!」
イグニッシュとヘスティアは後ろを付いてきていたはずのウェスタがいない事に気付く。次第に煙幕が風に流されていき、元の丘が見えてきた。
「なっ?!」
「ウェスタ!」
そこには地面に臥すウェスタの姿と、一人の大剣使いが立っていた。
「テ、テメェ……! よくもウェスタを!」
「よぉーし、そこを動くなよ?! 念入りにブッ殺してやるぜ!」
「全く、さっきから聞いていれば下品な言葉遣いね。もっと私のように優雅に振る舞ってみなさいな」
「ウルセェッ!」
怒りで我を忘れたイグニッシュはその大剣使いに殴りかかる。疾く強烈な一撃は、しかしてその分厚い刀身の大剣に阻まれてしまった。
「へぇ、パワーアップってやつ? それなら私も対抗してみようかしら」
「チッ、何を喋ってやがッ……?!」
その瞬間、イグニッシュの視界がグニャリと歪み、気が付けば自分が地面に吹き飛ばされている事に気付いた。
「十種雲形・高積雲!」
その大剣使い、叢雲の身体が青白く輝きだし、エネルギーが迸る。十種雲形・高積雲とはイグニッシュのバーニングモードと同様に、天之羽々斬のエネルギーを叢雲自身にフィードバックさせる事で身体能力を一時的に向上させる技だ。
「舐めんなゴラァ!」
「熱苦しいのと喧しいのはキライなのよ、私」
再度、突撃を仕掛けたイグニッシュを羽々斬で軽々と受け流す叢雲。バーニングモードの彼女の動きに易々と対応し、さらには追撃を敢行する。その動きに合わせ、青白い光の軌跡が尾を引いていく。
「へっ! 掛かったな!」
受け流され吹き飛ばされたイグニッシュはにやりと微笑む。そう、それは彼女の作戦の一つだった。ゴロリと地面を転がりつつもすぐさま姿勢を立て直したイグニッシュは大地に突き立てられたソレを掴む。
イグニッシュのメインウエポンである火炎放射器。被弾し普段の火力を発揮出来ない為、ここに突き立てていた彼女の武装。その方向にわざと吹き飛ばされたふりをし、見事回収したイグニッシュはバーニングモードの炎すら利用して極大の火力を作り出した。
「今度こそ消し炭にしてやらァッ!」
「やれやれ、ね」
自身の何倍もの大きさとなった火炎弾。それを前に叢雲は普段どおりの冷静さで立ち向かう。
高積雲の放つ青白い光がフワリと揺らめき、叢雲は静かに天之羽々斬を振りかざす。そして流れる水を思わせる滑らかさで目前の焔を斬り裂いてしまった。
「だから言ったでしょ? 私の名前は炎を消す雲を呼び出す神剣なのよ」
地面が砕けるほど蹴り、叢雲は瞬間移動のような速度でイグニッシュの目の前へと接近する。
「クソォ!」
最後の悪あがきとばかりに火炎放射器を投げ付けるが、叢雲は難なくそれを斬り裂いて払う。さらにはフレイムソーを起動して斬りかかるが。
「あんたも分かってるんでしょう? 近接戦では私の方が上だって事」
数合打ち合った後、叢雲は天之羽々斬を思い切り振るい、イグニッシュの手からフレイムソーを弾き飛ばした。
そして無防備となった身体目掛けて袈裟斬りに両断する。
一撃で残りのHPを全て削られたイグニッシュは自動的に撃破判定が下され、その場に倒れる。その直後、小さな爆発エフェクトに包まれてしまった。
「な……イグニッシュがやられた……だと?!」
遠くからその様子を見ていたヘスティアは愕然とする。あの強力無比なイグニッシュを真正面から破れるドールはそう居ないはずだ。あの大剣使いはどれほどの性能なのか。
「チッ、癪だがここは退いておくぜ……!」
『ヘスティア〜! 逃げて逃げて〜! だいじょーぶ、一人でも残ってればチャンスはあるんだから!』
仲間を二人も撃破され、形勢逆転されたバーニングフレア最後の一人、ヘスティア。満身創痍ではあるが、まだ戦闘可能な込んでいの彼女と、彼女のマスターは一度撤退する事を選択する。だが、それを逃がすまいと光る眼が。
「そうは……させません!」
「ヴェルグちゃんからは逃げられない」
上空からはフレイスヴェルグのセンサーがヘスティアをはっきり捉え、スナイパーモードのオリオン・ボウがターゲットを狙い澄ます。
「げっ、ヤベ!」
一条のビームが彼女を貫き、さらには上空から二丁のマシンピストルから吐き出された銃弾が襲う。
逃げ場の無い攻撃に晒されたヘスティアのHPはゼロとなり、さらにはグレネードランチャーに誘爆。巨大な火柱となって周囲を赤く染め上げてしまった。
* * *
「やりました〜危なかった〜!」
その場にペタンと座り込むアルテミス。彼女にしては珍しく戦闘中にも関わらず気が抜けてしまったようだ。それだけ激しく消耗してしまったという事なのだろう。
『やったねみんな! 強敵を撃破だよ!』
『お疲れ様〜と、言いたいところなんだけとね〜。まだまだ戦いは続いてるのよ〜?』
『ヴェルグ、引き続き周囲の警戒と探索を。他のチームの戦闘状況は分かる?』
「了解マスター。ちょっと待ってて」
空を旋回していたフレイスヴェルグはそのまま高度を上げ、哨戒モードに入る。残る敵チームは3つ、どこかで戦闘しているかもしれないが、その様子はここでは分からない。
「ふぅ、それにしても間に合って良かったわ。ギリギリのエネルギー回復だったわね」
『叢雲ちゃん、天之羽々斬のエネルギーはどう?』
「ん、今は一割って所ね。この状態だと十種雲形はあんまり使えそうにないわ」
大量のエネルギーを消費する大技、積乱雲。更にはドールの身体能力を最大限に向上させる高積雲。幾らかエネルギー回復したとはいえ、立て続けに十種雲形を使った叢雲の総エネルギーは殆ど底を尽きかけていた。
「でも、残ってるチームも私が撃破するわ。あんた達は大船に乗ったつもりでいなさいな」
『あはは……こんな時でも叢雲ちゃんは叢雲ちゃんだね!』
「マスター! 動体反応が急速に接近! 数は1!」
周囲を警戒していたフレイスヴェルグから緊急の連絡が入る。瞬間的に戦闘態勢へと入った叢雲とアルテミスはそれぞれ武器を構えた。
そこに現れたのはバーニングフレアとは異なる色味の朱。大剣を背負い、シンプルだが精巧に作られた装甲を纏っているドール。
「……あの人たちを倒すとは……意外」
「何よ、次に倒されたいのはあんた? 他のメンバーはどうしたのよ」
「……情報は少ないけれど、私一人で十分。マスターの判断……私もそう思う」
「へぇ……随分と上から目線なのね? あんた、名前は?」
「…………陽炎」
眼の前の口数少ないドールと対峙した叢雲はすぐに理解した。このドールは今まで戦ったどのドールよりも強いのだと。
(これは……ちょっとマズいかもね……)
天之羽々斬を正眼に構え、相手の出方を伺う。そのやや後方ではアルテミスが全武装を起動し、陽炎をターゲッティングしている。フレイスヴェルグも上空から彼女を密かに狙い続けている。
「…………」
陽炎は無表情のまま、叢雲をじっと見ている。その瞳は何を考えているのか。
『シューちゃんのドール……チーム・黒風白雨……!』
マスターブースでは吹雪がディスプレイ見たまま、その手をギュッと握り込んでいた。予選大会の直前、数年ぶりに再開した親友とのやり取りが思い起こされる。
「簡単に優勝を口にしないでくれる?」
そう言い放った秋華の眼は真剣そのものだった。実際、彼女の所属するチームの活躍を見ればその言葉の重みが伝わってくる、理解できる。秋華たちは、いや、これまで撃破してきたチームは、全員がこの予選を突破し大会優勝を目指しているのだ。
だが、それはブロッサムメイツも同じこと。学校を守るため、短い期間ながらも吹雪達はここまで努力してきた。それを少しでも秋華に知ってもらいたい。
「だから、倒すよ。シューちゃん」
その言葉を合図に、叢雲は敵へと斬りかかった。




