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「さて、これからはどうするのかしら?」
甚大な地形破壊の被害にあった森林エリアから少し離れた市街地エリア。ここらはビルや商業施設が建ち並び、ドールが隠れるのにはうってつけである。だが、他のチームも同じ事を考えている可能性が高く、不意の遭遇に気をつけなければならない。
「先程のアルテミス・はっちゃけ砲撃によって五体撃破、十体のドールに大きなダメージを与えることに成功した」
「ヴェルグちゃんさん~、変な技名つけるの止めてくれませんか~?」
アルテミスの一斉射撃の威力と範囲は凄まじく、周囲の敵を薙ぎ払ってしまった。相応の弾薬消費はしてしまったが、撃破数とブロッサムメイツの被ダメージ量を考慮すればこれが最も効率の良い戦法であった。
「みんな殆ど無傷でもう八体撃破! これは幸先いいね!」
「吹雪さん、まだまだ戦いは始まったばかりです。油断は禁物ですよ」
「美空ちゃんの言う通りね~。近場の敵チームに大きな手傷を負わせたのは良いけれど、他のチームからは警戒されるわね~? 作戦通りとはいえ、ここからが大変よ~」
「ヴェルグちゃんから報告。ヴェルグちゃん達を狙っていると思しきチームと、離れるチームがいくつか確認できた。そのうちいくつかは衝突している模様」
フレイスヴェルグのウエポンコンテナには簡易ドローンが仕込まれており、隠れ潜んでいる建物の周りにセンサーとして配置していたのだ。そして彼女の索敵結果に一同はある意味予想していたという表情をする。
「さてさて、私達は確実に最後の二チームに勝ち残って本戦出場しないといけないわ~」
「そのためにはいかに敵を撃破しつつ、極力自分たちの被弾を減らすかですね」
「えっと、こういうバトルロイヤルでの鉄則は……」
「敵チームの位置把握、有利な場所からの一方的な攻撃です」
「というわけで~ここからは一人ずつ、確実に撃破していくことを念頭にバトルを進めていきましょう~」
「わっかりました! 叢雲ちゃん、頑張ろうね!」
「フン、問題ないわ。近づいてくる敵はみんな返り討ちよ」
「引き続きヴェルグちゃんは……」
「ヴェルグは空からではなく、地上から索敵に専念して」
「了解した。確かにそろそろ上空の警戒が強くなる頃合い。飛んでる最中に狙撃は勘弁」
「真理! 私はどうしたらいいですか?!」
「アルテミスはオリオン・ボウでの狙撃に集中してね~。予備があるとはいえ、後半のためにも弾薬は残して置きたいしね~」
三者は三様に指示を受け取る。まだまだバトルは序盤、最後まで勝ち残るには今後の立ち回りが重要になってくるのだ。
「それでですね、あと十分程で最初のエリア制限が始まる頃です。それを踏まえて安全地帯を確保できそうなエリアをいくつか見繕っておきました」
「ヴェルグちゃんが探しておいた。褒めていい」
美空とフレイスヴェルグはグリッドで仕切られた全体マップで説明する。身を隠せる障害物があり、敵を待ち伏せしやすいエリア。それでいて、いざという時に脱出しやすいような――――
* * *
「……ブッキーのチーム、やるじゃない」
モニターの端に表示される撃墜情報。そこにはチーム・ブロッサムメイツ所属のドールが次々と撃破しているといったログが流れていく。
ブロッサムメイツがいた森林エリアや市街地エリアとはフィールドの真反対にある荒野エリア。そこには一体のドールが大きな岩場に隠れ潜んでいた。
「…………」
「ん、分かってるわ。バトルロイヤルの鉄則は確実に敵を倒しながら、確実に身を守る。そうでしょ、陽炎」
陽炎と呼ばれた朱色のドール。彼女こそは吹雪の幼馴染、八雲秋華のドールは小さくコクリと頷く。
まるで夕焼けのような朱の髪と瞳。それでいて表情は凍てつく氷のように固い。少し癖っ毛の髪は腰まであり、少女でありながらどこか大人びた印象を与える。
「それにしても派手にやったわね。お陰でフィールドのこっち側にいるチームも向こうに行っちゃったわ」
「……何が目的……?」
「そうね、ただの自信過剰でないとしたら……場を混乱させることかしら?」
秋華は口元に手をやり、戦況を分析する。
「見て、陽炎。派手に暴れたブロッサムメイツを排除しようとこの森林エリアを中心に沢山のチームが向かっていると思われる。そりゃ、あんな火力を見せたんだもの、早めに潰しておかないと後半戦になるほど脅威だわ」
彼女の言うとおり、ブロッサムメイツの放ったエリアまるごと殲滅するかのような大火力、放っておいて良いことは何一つ無い。
「それに優秀な索敵役がいるみたいだし、呑気にバトルしていたら遠距離から撃破されてしまう。と、どのチームも考えるハズ。そして半分くらいのチームはなるべく近づかないように、そしてもう半分はあんな無名のチームは自分が倒してやると思うわ」
そうすると、何が起きるのか。それは不意の遭遇戦だ。
「例えブロッサムメイツを倒すのが目的でも、敵は敵。この短時間で共闘に持ち込めたチームは少ないでしょうし、焦ったチーム同士で小競り合いが発生する……いえ、もうしてるわね。とにかく、そうやってわざと敵チーム同士を戦わせているのよ」
「……意外と大胆」
「大胆、ね。そうかもしれない」
陽炎に同意しつつも、秋華の脳裏には別の考えも浮かぶ。それは、バトル前に再開した吹雪のあの表情。
(本気で大会優勝を目指している……なら、勝つための作戦はいくつも練っている……?)
バトルロイヤル形式は実力以上に運も左右すると言われている。優勝候補と言われるチームだとしてもバトルの展開によって敢え無く脱落するかと思えば、全くの無名チームが最後まで勝ち残る事もままある。
運も実力の内、という言葉もあるようにチームがただ強いだけでは優勝を望めないのだろう。様々な要因を味方につける事ができるような、例え逆境すらも追い風にするようなチームでなければ勝ち残れない。
(……あの時の私、ブッキーに酷いこと言っちゃったかな……ううん、殆ど初心者のブッキーが大会優勝とか、それは流石に誰が聞いてもBDGを舐めてるとしか思えない)
あの吹雪の顔は覚悟を決めた顔だ。だが、それが逆に秋華の心を苛立たせた。
(私だって何年もバトルの経験を積んで、優勝を狙えるような仲間を見つけて、それでようやく参加したんだ。それを、ブッキーは……!)
「……マスター」
(あー、もう! ムシャクシャする! 久しぶりに、本当に久しぶりにブッキーと再開できたと思ったのに……! なんであの頃みたいに楽しく会話できなかったの?)
「……マスター!」
「……あぁ、何? 陽炎」
「……呆けてないで、指示を」
「ごめんなさいね、ちょっと考え事。それじゃあ作戦通り、私達は各個に動いて敵チームの戦力を削る。いいわね?」
「……了解……ッ!」
と、同時に陽炎が臨戦態勢へと入る。どうやら近くに敵がいるようだ。
「ちょうどいいわ、陽炎。今なら奇襲を掛けられる。一気に殲滅するチャンスよ」
マスターである秋華の言葉を聞き終わると同時に、陽炎は音もなく駆け出す。
バイタルパートを重点的に保護する装甲は揺らめく流線型、各部の装甲はフレキシブルに稼働し、さらに小型スラスターは軽快な運動性能を与える。そして極限までチューニングしたAI構成と、豊富な戦闘経験値は様々な戦局と相手に対応可能だ。
小型のバックパックには二対の偏向スラスター、そして一振りの大剣がマウントされている。長く、真っ直ぐ、分厚いブレードは並の装甲では防ぎきれないだろう。他にも腰には独特の形状をした幅広のブレードナイフ、両肩には大型と小型ブーメランが二基。そして左前腕には小型のシールドが。典型的な接近戦特化型の武装だ。
「……陽炎、吶喊する」
背部の偏向スラスターを点火させ、一気に加速する。あまりの速さと複雑な機動、その姿はまさに真夏の揺らめく陽炎のようだ。
両手を後ろに回し、長い大剣を抜き放つ。その刀身からはなんとビーム状の刃がチリチリと空気を灼きながら出現したではないか。
そして一閃。たった一撃で二人のドールを撃破してしまった。
「なっ?! て、敵――――」
「…………」
さらにその場でクルクルと何度も回転し、まるで棒きれのように軽々と大剣を振り回す。まずは手にした武器を、次いで盾を。さらに分厚い装甲を切り裂き、無防備な素体を剥き出しにさせる。
「……トドメ」
陽炎は腰に装備していたブレードナイフを反対の手で抜き放ち、二度三度と斬りつける。ブゥンと低く妙な唸りを上げる刀身は一秒間に何万回と振動するという超振動刀だ。そして鍔の下部に取り付けられた引き金を引く。
刀身の中程から覗く銃口。そこからは電磁加速によって音速を超える高密度弾体が放たれた。これこそが陽炎のメインウエポンである初風。超振動刀とレールガンのコンビネーションウエポンだ。
一瞬にして三人のドールを、それも陽炎一人で撃破してしまった。だが、当の陽炎もマスターである秋華も、そのことに対して特に感慨深いものはない。それくらい出来て当然という自信が備わっているからだ。むしろこの程度、とすら思っているフシがある。
「さぁ、陽炎。私達こそ予選を勝ち抜いて、大会優勝をこの手に掴むわよ」
「……それが、マスターの望みなら」
八雲秋華とそのドール陽炎。彼女たちのチーム・黒風白雨の進撃が始まる。




