第十一話「いきなりで悪いけど、私達は大会優勝を目指してんのよ。こんな所で躓くなんてありえないわ」
第十一話
「いくわよ、フレイスヴェルグ! アルテミス!」
「合点承知。ヴェルグちゃんは飛翔する」
「ヴェルグちゃんさん、お気をつけて!」
バトル開始と同時にチーム・ブロッサムメイツのドールらは走り出す。叢雲とアルテミスはそのまま眼前に広がる森林地帯を、フレイスヴェルグは単機で空へと上がる。
ブロッサムメイツの長所は、それぞれのドールの得意なことが異なることだ。例えば叢雲やアルテミスは接近戦と射撃戦に優れ、単独での戦闘能力は全国クラスのドールと比較しても遜色ないレベルに達しているといえる。そしてフレイスヴェルグは――――
「こちらヴェルグちゃん。遠くではもう戦闘が始まってる模様」
「分かったわ、ヴェルグ。引き続き周囲の索敵と地形の把握に努めてちょうだい」
「了解、マスター」
空を飛行しての広範囲探知。
射撃を得意とするドールならばレーダーやセンサーの類を強化している場合が多いが、それはあくまで地上からの探知だ。フレイスヴェルグのように空から索敵するというのは思った以上にアドバンテージを得られる。
「マスター、叢雲とアルテミスの前方に動体反応。数は3。恐らく他のチームと思われる」
予選大会に参加している各チームはそれぞれある程度離れた地点からのスタートであり、最序盤はこうして積極的に敵を探すチームとそうでないチームに分かれる。おそらく、この敵チームは前者なのだろう。
「ようし、叢雲ちゃん! やっちゃって!」
「アルテミス、まだ始まったばかりだからね~? 一発で決めちゃって~!」
「フン、誰に言っているのかしら? アルテミス、まずは敵の足を止めて!」
「わかりました! いきます!」
アルテミスはその場に立ち止まり、手にしているオリオン・ボウを即座に構える。目の前には鬱蒼とした森の木々しか見えないが、彼女にはハッキリと敵ドールの位置が分かっていた。
「……スナイプ・モード!」
一条の光がまっすぐに伸びる。ここからでは分からないが、アルテミスにはその一発が命中したという確信を持つ。
「お見事。今ので一体撃破を確認」
上空からフレイスヴェルグの報告が入る。アルテミスの射撃センサーとフレイスヴェルグのレーダーは既に同期しており、アルテミスが本来探知出来ない距離や環境でも正確に敵を狙えるのだ。立体的な視点と飛行可能、そして精密狙撃という特性は、この二人の相性が抜群だということを再認識させられる。
「私も忘れないでよ!」
そう叫びつつ、アルテミスが射撃した方向へと一気に跳躍する叢雲。その手に握った、自身の身長ほどもある大剣・天之羽々斬を軽々と振り回し周囲の木々を薙ぎ払いつつ敵へと接近する。
「十種雲形・巻雲!」
メキメキと倒れる大木の向こう、そこへなにかの影を見た叢雲は先手必勝とばかりにエネルギー弾を撃ち込む。天之羽々斬から放たれた塊状のビームは大木を木っ端微塵に破壊し、さらにはその奥にいたドールらしき影をも吹き飛ばす。
「なっ?! この一瞬で仲間がやられ……?!」
恐らく敵チームのリーダー格らしきドールが驚愕の表情で立ちすくんでいた。バトル開始からおよそ二十秒、ようやく殆どのチームが態勢を整え他のチームを探し出す頃合だ。なのにこの速攻は何なのだ、と言わんばかりに。
「いきなりで悪いけど、私達は大会優勝を目指してんのよ。こんな所で躓くなんてありえないわ」
いつの間にか背後へと忍び寄っていた叢雲は大剣を素早く振り抜く。とっさに防御姿勢を取ろうとしたチームリーダーのドールだが、羽々斬の剣速は見た目の重さを少しも感じさせないほど疾い。僅かな差で大剣の刃が敵リーダーの腹部へとめり込んだ。
「ぐぁっ?!」
「まずは1チーム脱落ね!」
大ダメージを負い、さらには吹き飛ばされた敵ドールに撃破判定の爆発のエフェクトが。バトルフィールド上空の大型ディスプレイの一つにその様子が映し出されており、文字通りの秒殺に観客席からは大きな歓声が上がる。
「凄いわ~! 予選大会最初の撃破よ~!」
「さっすが叢雲ちゃん!」
「二人共、油断は禁物ですよ。ヴェルグが別のチームを発見……どうやら複数のチームに囲まれたようです」
叢雲たちの戦いを見ていた吹雪と真理は思わずハイタッチして喜ぶが、常に冷静な美空は刻々と変化する戦場を注視していた。
「あらあら、今ので他のチームに目を付けられたかしら~?」
「どうします? 真理センパイ?」
「美空ちゃーん? この近くにちょうどいい地形はないかしら~?」
「そうですね……あ、ここなんてどうでしょう?」
「いいわね~! それじゃあアルテミスはこの地点へ移動、叢雲ちゃん、ヴェルグちゃんは上手く敵を誘導してくれないかしら~?」
「ヴェルグちゃん、任務了解」
「まったく、私を顎で使おうなんて身の程知らずね……と言いたい所だけど、仕方ないから乗ってあげるわ」
「よっし! チーム・ブロッサム、この調子で行くぞぉー!」
* * *
「……奴らはこの先に?」
迷彩模様の装甲を纏った一人のドールが通信に呼びかける。その背後には似た武装のドールが二人。
「ええ、あの飛行型が降下するのが見えた。間違いないよ」
「……それにしても、あのチームの情報が何も無いというのはおかしくないか?」
「うーん……でもあんなチーム、事前の調査で見たどのブログやSNSでも見なかったよ?」
「それにしてはマスター、ルーキーだとしたらなかなかやるようだぞ? それともこの時の為に実力を隠していただけなのか……?」
軍人然としたドールは茂みに姿を潜めつつ暫し考える。
彼女たちはチーム・デザートストーム。全員が軍人のようなチームで、まるで特殊部隊をモチーフにした武装と堅実な戦闘が特徴だ。そして、チームリーダーであるストームワンはこの状況をどうしたものかと悩んでいた。
戦闘開始から数十秒、その短い中で中堅どころのチームを容易く撃破してみせた謎のチーム。登録名はチーム・ブロッサムメイツというらしいが。
(タイプはそれぞれ近接、遠距離に特化した攻撃型、それと飛行する援護型か……意外と厄介なチームだな)
このドールが一番懸念しているのは飛行型の存在だ。まだまだ実戦に耐えうる飛行可能なドールは少なく、この予選大会でも数体しかいないハズ。飛行ユニットの製作と戦闘に耐えうる飛行技術は一朝一夕で身につくものではなく、相当に訓練と経験値を積まなければならない。その上、軽量化のために武装も限られるとあってはなかなか標準的な装備からは縁遠い。
「だが、実際に空を飛ばれるとこれほど厄介とはな……」
現実の戦闘でも、バトルドール・ガールズでも、空を飛行するというアドバンテージは非常に大きい。単純に上方にいる側はあらゆる行動が有利になり、下方にいる側は攻撃も防御も不利となる。さらには敵の位置を把握したりといった索敵にも優れ、相手の機先を制することは即ち勝敗に関わってくる。
先程見せた秒殺劇も、あの飛行型ドールのお陰といっても過言ではないだろう。それだけにあのチームを早めに潰しておかなければいつ襲われるか分からない。しかしあの索敵能力だ、迂闊に近づけば簡単に迎撃されてしまうだろう。
「ストームワン、どうする? 仕掛けるか?」
「ふむ、ストームツーか……マスターはどう思う?」
ストームワンのAIは、ここは交戦を避けるべきとの判断を下す。しかしそれを口に出さず、己のマスターの判断を仰いだ。この予選大会はバトルロイヤル方式。無理に強敵と戦う必要はなく、最終的に勝ち残ればいいのだ。
「そうだね、私はここでブロッサムメイツを潰したほうがいい気がする……なんか、上手く言えないけれど、あのチームは他のチームとは違う感じがするんだ」
「そうか、マスターがそう言うならそうなんだろう。よし、ストームツー、ストームスリー、散回して接近する。おそらく周囲にいた他のチームも奴らを狙って集まっているはずだ、そいつらと交戦している背後を撃て」
ドールの性格は十人十色、武人のように清廉潔白を良しとするドールもいれば、効率最優先で倫理もフェアプレイ精神も後回しなドールもいる。そして、このデザートストームは勝利のためには効率と確実性を重んじるチームだった。
「作戦開始だ!」
ストームワンの掛け声を合図に、三人は素早く移動しだした。




