第九話「まあ私の戦闘データなんて完璧でしかないから、きっとつまらないわよ」
第九話
「と、いうわけでやってきました! ……で、ここはどこなの?」
「吹雪さん、先程説明しましたよ……?」
「んも〜! 吹雪ちゃんったら、ここに来た目的を忘れちゃ駄目よ〜!」
BDG部の三人は今、学校から三駅離れた街の中心部まで来ている。オフィス街や市庁舎が近くにあり、ショッピングモールや昔ながらの商店街が集まっているため、ここはいつも人で賑わっている。
吹雪らはそんな駅前の大型ゲームセンターにやってきていた。休日ということもあり、店内は普段よりも騒がしいくらいだ。
「えーと、私達は今ゲームセンターに来てて……? あっ、BDGのフィールド!」
吹雪が見つけたのは最新型のバトルフィールド。そこではドールたちが激しい戦闘を繰り広げている。
「そうね、でも今日はバトルしに来たわけじゃないのよ〜?」
「私達は今度の東日本大会、その参加申し込みに来たんです」
「あ、そうだったそうだった!」
バトルドール・ガールズ公式運営が開催しているいくつかの大会、そのうち今度の夏に行われる東日本大会への参加申込はインターネットでも可能なのだが。
「折角だからたまには息抜きしましょう〜」
という部長の鶴の一声でお出掛けが決定したのだ。
「わ、わ! 見て美空、真理先輩! あのドール、すっごくかっこいいよ!」
「吹雪ちゃ〜ん? 他の人のバトルを観戦するのもいい勉強になるけど、今は申込を済ませちゃいましょうね〜?」
バトルが行われているフィールドに釘付けの吹雪を二人掛かりで引きずりつつ、申込用紙の置いてある受付カウンターへと向かう。
受付カウンターではアルバイトらしき店員が休日シフトで忙しそうに応対したり作業を行っている。その横に、ドールの印刷された大きなポップスタンドと申込用紙の置かれたテーブルがある。見ればそれなりにの枚数が捌けているらしく、用紙の残りは少なくなっていた。
「えっと、氏名、年齢、住所……」
「チーム名は『ブロッサムメイツ』で決まりですね。カタカナにします? それとも英語?」
「カタカナにしましょう〜。それから吹雪ちゃん、美空ちゃん。ふたりともドールとスマホを出しておいて〜? ついでにアルテミスも起きて〜」
吹雪はなんで?という顔で、美空はちゃんと知っているのか、それぞれバッグからいつものドールケースを取り出す。アルテミスもケースから出され、すぐ近くの荷物置き用のテーブルに腰掛ける。
「ふぁ……あら、ここは初めて来るわね。……ちょっと騒々しすぎないかしら? 目がチカチカするし、私はあんまり好きじゃないわ」
「ヴェルグちゃん起床。マスター、おはよう」
「叢雲ちゃん、ヴェルグちゃん、こんにちは。早速なんだけどここに立って貰えるかしら〜?」
真理が指差したのはバトルフィールドにあるものと同じ六角形のエントリーデッキ。その横に設置されているタッチパネル式のディスプレイには「ENTRY」の文字が。
「真理先輩、これは何ですか?」
「ここでね〜ドールとマスターの公式登録が出来るのよ〜。今回は大会出場の為に登録するんだけど、他にもポイントランキング戦やカスタマイズコンテスト、それから色んな記録へのアクセスにも使えるのよ〜」
テキパキと慣れた手つきでパネルを操作する真理。アルテミスは既に登録済みらしく、今回は叢雲とフレイスヴェルグの二人を公式データベースに登録するのだ。最後にドール管理用のスマホアプリとデータベースを同期させ、マスター情報を紐付けさせた。
「ん〜? やっぱりと思ってたけど、叢雲ちゃんは未登録のままね〜。前のマスターさんが登録してれば何か手掛かりになると思ってたんだけど〜……第一世代だとデータベースがまだ無い頃なのかしら〜?」
「フン、別にいいわよ。少なくとも今は仮マスターで退屈はしてないし、無理に探さなくても構わないわ」
「叢雲ちゃん、そろそろ私の仮マスターから昇格は……」
「まだまだね。もっと私のマスターに相応しい品格と実力を身につけてから言いなさいな」
「あうぅ……」
「……さてと、これで登録はできたわ~。データを閲覧したいときはスマホのアプリやウェブからも見れるわよ」
「さっそく見てみましょう。まずはヴェルグから……」
「きっとヴェルグちゃんの素晴らしい戦闘結果が載っているに違いない」
すぐに美空はアプリをスマホにダウンロードし、データベースにアクセスしてみる。ドール固有のIDを入力すると画面にはフレイスヴェルグの姿とともにこれまでの戦闘結果や蓄積された各種データなどが表示される。
「えっと何々……? ヴェルグちゃんは平均被ダメージと与ダメージが低めだね。あ、でもこのアシストっていうのが高いよ」
「ヴェルグは皆さんの支援がメインですからね、このアシストというポイントは味方への援護行動などが評価されるんです」
「だからね、ほら。アルテミスは与ダメもアシストも高いのよ~?」
「でも真理センパイ、累計被ダメージすごく大きいし、平均命中率っていうのが低いですよ〜?」
「そ、それは私のバトル回数が多いし回避が苦手だから仕方ないんです! それに射撃主体のドールは命中率が低くなりがちなんですから! 真理は悪くありません!」
「あはは、ごめんねアルテミス! え~と、叢雲ちゃんはと……」
「まあ私の戦闘データなんて完璧でしかないから、きっとつまらないわよ」
「……平均被ダメージも与ダメージも大きくて、アシストはほとんど無い……」
データから叢雲の戦闘を読み取ると、1戦闘当たりの敵に与えるダメージも多いが、こちらが貰うダメージも多く、それでいて仲間への貢献度が低いという評価だった。特に格闘攻撃の平均ダメージ値はかなり高いので典型的な前衛タイプと言える結果だろう。
「ちょっと! まるで人を猪武者みたいに言わないでよ!」
「いやーでも叢雲ちゃん、今でもよく命令無視して敵に突っ込むよね? あれ、なにこのジャイアントキリングって表示?」
「あら~凄いわね! このジャイアントキリングっていう称号は滅多に取得できないのよ~?」
「……検索したら出てきました。総合ポイントの低いドールが、ポイントの高いドールを何体も撃破することで得られる称号みたいです。勲章や実績みたいなものですね」
「えっと、それってもしかして生徒会長や聖マリアンヌの人たちと戦ったからかな?」
「きっとそうです。生徒会長と皐月さんや、」
「麗華さんたちのグローリアちゃんたちはベテランのドールですからね~、アルテミスと初めて戦った時のバトルも加算されてるはずだし〜ある意味当然かもね~」
「そっか、叢雲ちゃんは相手が強ければ強いほど燃えるタイプなんだね!」
「別に私はそんな熱血キャラじゃないわよ。もっとこうクールで知的で、それでいてドールとしての魅力溢れる……」
「魅力溢れる叢雲はツンデレがよく似合うとヴェルグちゃんは評価する」
「そうそうツンデレ……って、誰がツンデレよ!」
「おかしい。叢雲の称号一覧にツンデレが載っていない。これはシステムの不具合を疑うべき」
「そんな称号あってたまるかってのよ! あ、こらヴェルグ! 待ちなさい!」
「マスターのカバンの中に戦略的撤退。ヴェルグちゃんはドロンする」
スルリとバッグに潜り込むフレイスヴェルグと、それを追って美空に飛び掛かろうとする叢雲。それを間一髪で吹雪がキャッチした。
「まぁまぁ叢雲ちゃん、他にも称号があるよ? えっと、『突撃野郎Bチーム』『ブレードマスター』『破壊者』…………」
「何?! ブレードマスターはともかくとして、他のは何なのよ!」
「突撃野郎はバトル開始から10秒以内に敵へ格闘攻撃を10戦行う、破壊者は地形やオブジェクトに1万ダメージ与えるのが取得条件ですね」
「破壊者の取得は比較的簡単なのよ? ほら、アルテミスも持っているし〜」
アルテミスの称号一覧には『破壊者』の他、『ウエポンマスター』『鉄壁のガード』『敏腕スナイパー』などがあった。重武装、重装甲の彼女に相応しく、豊富な火器を扱ったり敵の攻撃を防いだ実績が反映されている。
「ヴェルグは……あった。『大空の覇者』『監視者』『支援機』……うん、想定通りで安心です」
フレイスヴェルグはその運用目的に合致した称号が多い。滞空時間に応じて貰える大空の覇者や、敵を多く発見したり大量のアシストポイントなど、味方の支援を優秀にこなした結果だ。
「こうしてみると、私達のチームって得意な事が全然違うんですねー! 叢雲ちゃんは接近戦で敵の頭を抑えて、アルテミスちゃんが後方から迎撃、ヴェルグちゃんは空から索敵してみんなを助けて……」
「そうですね、役割をそれぞれ分担しているチーム構成です。格闘、射撃、支援、それぞれに特化しているからこそ、チームワークが大事だと思います」
「全国には色んなチームがあるけど、私達みたいに役割を特化させるチームもあれば、ドールの武装を同じものにして色んな局面に対応させるチームもあるわ〜」
「どっちが強い、とは一概に言えませんが、様々な相手への対応力では個々を標準化させた後者が有利ですね。対して、バトルの主導権を握りやすいのは何かに特化させた前者の方です」
「なるほどなぁ、戦い方一つにも色々あって、チームによっても変わってくるんだねー!」
「あらあら、吹雪ちゃんもだいぶBDGの事が分かってきたようね〜」
「あははは……二人の特訓と指導のお陰です!」
「まぁまぁ。申込もこれで完了、せっかくのお休みですし何か遊びませんか?」
「賛成! 何する?! あっ、向こうにクレーンゲームがあるよ!」
「私はレースゲームやってみたいわ〜! こう見えても得意なのよ〜?」
「私はフライトシミュレーターを少し……」
吹雪らはそれぞれ好きなコーナーへそれぞれ向かう。こんな所でも得意な事がバラバラなチーム・ブロッサムメイツなのであった。




