9ー2
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ぎゅうぎゅうに詰められたゲームやアニメのキャラクターのぬいぐるみ。他にもお菓子などがゲームセンターの袋に沢山入っている。
「凄いわね〜吹雪ちゃん。こんなに沢山取る人、見たことないわ〜!」
「ゲームセンターの人も軽く引いてましたね」
「あはは、クレーンゲームだけは昔から得意だったんだー! ほら叢雲ちゃん、くまさんですよ〜」
「……もふもふして良いわね……コレ」
叢雲は自身より少し大きなくまのぬいぐるみを抱きしめ、その柔らかさを全身で堪能していた。意外にも彼女はこういうぬいぐるみなどが好きなようだ。
ゲームセンターでひとしきり遊んだ三人は近くのファミレスへとやって来ていた。リーズナブルな価格設定で、高校生のお小遣いでも安心な店だ。
「マスター、それは何?」
フレイスヴェルグが指差して尋ねたのは美空が注文したフルーツケーキだ。みんなそれぞれ、ケーキとドリンクのセットメニューを注文している。
「これは嗜好の一品シリーズ季節の厳選フルーツたっぷりケーキ(期間限定)だよ」
「なるほど……マスターはやっぱり甘いものが好き、と」
「ここの嗜好の一品シリーズはお手軽な値段と上品な甘さが特徴……いくらでも食べられます」
「確かに美味しいわね~! このショコラもしっとりした甘さとほろ苦さが最高だわ〜!」
「美空のオススメはどれも絶品なんですよ、センパイ!」
真理と違い電車通学の二人は放課後、たまにスイーツや新作お菓子を求めて街に繰り出すことがある。その度に美空はどこから情報を仕入れるのか、彼女が見つけるスイーツはどれも外れが無い。あまりの美味しさに、今も三人はお代わりのケーキを注文したところだ。
そんな至福の時間。だがしかし、予期せぬ出来事が彼女らに襲いかかる。
「でもマスター。ちゃんとカロリー計算してる?」
何気ないフレイスヴェルグの一声。その瞬間、吹雪と真理はケーキを食べすすめるスプーンが止まった。
「大丈夫。ちゃんと計算しているし、私はあまり食べても体重に反映されないから」
「そう。なら良かった。ヴェルグちゃんは一安心」
さらなる不意打ちを食らってしまい、二人の手はかすかに震えニコニコ顔のまま冷や汗をかいている。
「ちょっとアンタ……どうしたのよ、そんな変な顔して?」
「ま、真理?! どうしてそんなに脂汗をかいているんですか?! お店の人に頼んでエアコンを調節してもらいましょうか?!」
不思議そうに己のマスターの顔を見上げる叢雲とアルテミス。ドールは人間のような食事が必要でないため、こういった知識には乏しいことが多く、それがかえってマスターの心を傷つけてしまうこともあるのだ。
「ね、ねぇ真理センパイ。うちの部活でも今度から走り込みとか取り入れません? ほ、ほら、マスターとはいえバトルには体力も必要でしょうし!」
「そ、そうね吹雪ちゃん! 大会に向けて精神と体力を鍛える目的でグラウンドを走ることにしましょう~!」
「吹雪さん、真理先輩、バトルドール・ガールズにマスターの体力はあまり関係が……」
「駄目だよ美空! これからはきっと激しい戦いが増えるんだよ?! そんなとき、最後に物を言うのは一に体力、二に体力だよ?!」
「そうよ~美空ちゃん! あなたは平気かもしれないけれど、私達にとっては死活問題なのよ~!」
「は、はぁ……」
二人の凄まじい勢いと迫力に押され、美空はよくわからないまま納得せざるを得なかった。その横ではフレイスヴェルグがうんうんと頷き、しかしてそのセンサーは吹雪と真理の身体を密かにスキャン、その結果に彼女のAIは無慈悲な判定を下すのであった。
(吹雪は前月よりも1.3パーセント、真理は2.1パーセントの増量……ヴェルグちゃんのセンサーは服の上からでも完璧にお見通し)
余談だが、週明けから始められたBDG部のグラウンド走り込みは結局三日で自然消滅したという。
* * *
「それにしても、結構色んな人がドール持ってるんですね~」
吹雪らは店を出て駅前通りを歩く。夕方前の、少し独特な時間帯。
「どうしたの? 吹雪ちゃん?」
「いえ、なんていうか……BDG部のみんなや叢雲ちゃんと出会うまでは私、ドールって全然知らなくて、だからこうして街に出てもあんまり気づかなかったんですけど……」
大会申込みに訪れたゲームセンターはBDGでのバトルを楽しんだり、先程のファミレスではドールとの会話で盛り上がっている者がいた。年齢も様々で中学生らしき少女や、中には年配の女性も楽しそうに自分のドールと会話している。
「そうですね、BDGはバトルがメインですけど中には話し相手としてだったり、AI学習のためなんかに広く普及しているそうですし」
「美空ちゃんの言うとおり、ドールはなんていうかお友達感覚なのよね〜。内蔵されたAIがそれらしく振る舞うっていうのは理解できるんだけれど、実際にこの娘たちと触れ合うと生きてるって感じがするのよ〜」
真理はそう言いながら手のひらに乗せたアルテミスの頬をチョイチョイとつつく。それを彼女はどこかくすぐったそうにしていた。
「あ、それなんとなく分かります! 私も叢雲ちゃんと友達になれた感じ、しますもん!」
「ちょっと、誰が友達よ。私とアンタはただのドールと仮マスターなんだから、そこん所は勘違いしないでよね?」
彼女らしく毅然とした物言いだが、当の叢雲は吹雪のバッグから少しだけ見えている先程のぬいぐるみに前から抱きついて、これでもかという位にもふもふしながら発言していた。その緩みきった表情について誰もがツッコみたいのを我慢しながら二人のやり取りを見守っているのだ。
「えぇー?! そんな、叢雲ちゃんは最近になって私だけに実は心を開いてくれるようになったと思ったのに〜!」
「……待ちなさい。これは聞き捨てならないセリフね! いつ、誰がアンタなんかに心を開いたってのよ!」
「えぇー? 今朝も集合時間に寝坊しそうになったのを起こしてくれたし、昨日は買い忘れそうになったゴミ袋を教えてくれたし、あ、そうそう! この前は……」
「そ、それはアンタがだらしないからでしょ?! 少しは世話をする私の身にもなりなさいな!」
(母親ですね)
(ママだわ〜)
(お母さんです……)
(叢雲はツンデレだけでなくオカン属性もある。ヴェルグちゃんはまた一つ学習した)
他の4人は異口同音の感想を抱いていたのだった。
「でも、いつもありがとうね! 叢雲ちゃん大好き!」
「バ、バッカじゃないの?! こんな所でやめなさいよね?!」
「あ、みんな! アレ!」
突然吹雪が何かを指差す。その方向には……。
『……バトルドール・ガールズ公式大会! 絶賛申込受付中!』
駅前大通りに面した宣伝用の街頭ディスプレイ。そこには武装したドールらがめくるめく激しい戦闘を繰り広げるプロモーション映像が流れていた。
派手なエフェクトとテンポの良いBGMが盛り上げ、最後にはBDG東日本大会の開催日程などがアナウンスされるという、よくあるCMだった。
「……みんな、優勝目指して頑張ろうね!」
「まずは予選大会ですよ、吹雪さん」
「そうね〜、でも私達なら絶対に勝ち抜けるわ〜!」
吹雪と美空、真理はそれぞれ互いを見つめあい、しっかりと頷く。公式大会に出場するドールとマスターはどれも強敵揃いだ。しかし、吹雪たちブロッサムメイツはこの短期間ながら特訓を積んできたのだ。
生徒会長と皐月、聖マリアンヌ学園の鳳凰院麗華とグローリア率いるロイヤルメイドナイツ。彼女らを打ち倒したのは偶然やまぐれではなく、吹雪たちの努力と想いが実を結んだからだ。
目標は東日本大会優勝。
その前哨戦とも言える予選大会は一ヶ月後に迫っていた。
「ねぇ、ところでどうして私達は大会に出るんだっけ?」
「叢雲さん……それ本気で言ってます?」
「ヴェルグちゃんもドン引き」
「な、何よっ?! 少し忘れちゃっただけじゃない! アルテミス、その疑うような目はやめなさい! ジト目もやめてフレイスヴェルグ!」
「そんな事言われてもですねー」
「ヴェルグちゃんのこのプリティなお目々はもともと。心外」
ドールはドールたちで、その結束を確かにして……いるのかもしれなかった。
「う、うるさいわね! 普段温厚な私でも怒るわよ!」
「叢雲のAIはいつも怒りん坊。ヴェルグちゃんが弄ってあげようか?」
「キーッ! その減らず口を閉じさせてあげるわ!」
「あ、あははは……」




