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8ー4

8ー4


「だ、だいぶ高いわね……!」


 グングンと上昇し、半壊した民家が小さくなっていく。フレイスヴェルグの足にしがみついている叢雲は恐る恐る眼下を見下ろしていた。


「叢雲は高い所苦手?」


「そそそそそんなことないわよ?! た、ただ、こんな高い所からフィールドを見下ろしたこと無いだけで……!」


「ドールが高所恐怖症とは……やっぱりヘン」


「ヘンとは何よ! って、あれ! ビームが来るわ!」


 フレイスヴェルグらの進行方向からあのビームが発射される。相変わらず命中精度は高くないようだが、それでも飛行中は防御出来ないので油断は禁物だ。


「これより回避運動を取る。叢雲はしっかり捕まってるように」


「へ……? あっ、ちょっとぉ!」


 そう言うとフレイスヴェルグは猛禽類のような翼を巧みに操り、次々とビームを避けていく。少しずつ狙いが良くなってきており、それだけ発射地点に近付いているということでもある。


 フレイスヴェルグは全身の体重移動と腰のスラスターをも総動員し、激しい機動を行う。既に彼女は砲撃のタイミングや照準の()()を見抜いており、涼しい顔で飛行を続けるのであった。


「ちょっとフレイスヴェルグ! あんまり揺ら……揺らさないで! 落ちる、落ちちゃうから!」


「叢雲、静かにしないと敵に見つかる」


「もうとっくに見つかってるわよぉ〜!!!」





 * * *





「なるほど、戦力を分散させたというわけですか。果たして、それは最善の手でしょうか? 僭越ながら定石(セオリー)を考慮するならば、3人がかりで私を撃破、然る後にコロッサスとオーシャンを倒すのが最もリスクが低いと存じ上げます」


「ふ、ふん! グローリアさん程度、私一人で十分勝てるって事ですよ! そんな事も分からないのですか!」


 ミサイルの大半を撃ち尽くし、空となったコンテナのいくつかをパージするアルテミス。その少し離れた所ではミサイルの爆風や飛び散った瓦礫の破片でいくらかダメージを負ったグローリアが。しかし、戦闘には少しの支障もないようで、本人は改めて仕切り直しくらいにしか考えていないのだろう。


「グローリア! 油断は禁物ですわ! そして()()()()私達の強さを彼女達に見せつけてやりましょう!」


「ふふふ……承知しておりますわ、麗華お嬢様。私としても負けたままではいられませんもの」


「……麗華さん、グローリア……今日は貴女達を真っ向から受け止めます。あの頃のように……私と、私のアルテミスの強さを思い出させてあげるわ〜!」


 真理と麗華の視線がぶつかり、アルテミスとグローリアが地を蹴る。


 先に仕掛けたのはアルテミスだった。肩部のガトリングガンで牽制しつつ、もう片方のキャノン砲をグローリアの足元へと撃ち込む。だがグローリアは盾で銃撃を防ぎ、砲弾の軌道を読んで左右にステップを踏むように回避していく。


「相変わらず素晴らしい精度ですわ。しかし、私とお嬢様も鍛錬を積んでおりますのよ?」


「くっ……攻めきれない……?!」






 * * *





「見えた!」


 叢雲の眼に、銀髪のメイドドール二人が写る。軽装でそれぞれ手にした火器と剣以外は武器がなさそうだ。そして何故か特徴的なドリルツインテがその先端がこちらに向いており……。


「あれがビーム砲。内蔵火器は製作が大変だけど、強力な武器」


「冷静に解説してないでちゃんと回避なさいよ! 袴の裾が焦げちゃったじゃない!」


 至近距離でビームが掠った叢雲は抗議の声を上げる。しかしフレイスヴェルグはそれを意に介さず、今度は高度を下げ始めた。


「……ちょっと、少しは減速しないの? このままだと地面に激突……っていうか墜落しそうなんだけど?!」


「こんな距離で普通に着陸してたら撃墜される。だから、叢雲はこれから()()する」


「きゃあああぁぁぁ!」


 フレイスヴェルグは掴まれた足をていっ、と蹴るようにして叢雲を振りほどく。当然、空中に放り出された叢雲は重力に惹かれて落下していくしかない。


「じゅっ、十種雲形! 巻雲(けんうん)!」


 天之羽々斬の先端を迫りくる地面に向け、強力なビームの反動で着地の衝撃を和らぐ事に成功。そのまま叢雲はゴロゴロと地面を転がりながら、ようやく停止した。


「フレイスヴェルグ! 後で覚えておきなさい!」


「叢雲、そんなことより前」


 フレイスヴェルグに言われるより早く叢雲はその場から回避する。見れば双子のようなドール、ライフル銃を構えたコロッサスと片手剣を携えたオーシャンが問答無用で攻撃してきたではないか。




「ようやく見つけた! これであのビーム砲を止められるね、美空! ……でもなんか、あの子達の装備ってやたら軽装じゃない?」


 吹雪の疑問に美空は的確に答える。フレイスヴェルグが最初に上空へ上がった時、ある程度把握していたのだ。


「恐らく、コストの問題ですね。グローリアさんのあの装備、かなりのコストになるはずです。それをクリアするためには仲間の武装コストが逼迫するのは当然というわけですね」


 グローリアの巨大なバックパックから変形したあの四脚は質、性能が共に高い水準で製作されている。しかし、その代償としてチーム・ロイヤルメイドナイツの総コストの大部分を使ってしまうのだ。その為、コロッサスとオーシャンの武装に回せるコストは必然的に少なくなってしまう。


「そっか、だからああやって前衛はグローリアちゃんに任せて、後方からの援護射撃に徹してるんだ」




「見つかってしまっては仕方ありません」


「我々は己の仕事を全うするのみ」


 銀のドリルツインテ(ビーム砲)を下ろし、コロッサスはライフルをフレイスヴェルグに、オーシャンは片手剣を叢雲にそれぞれ向けた。


「ヴェルグちゃん、迎撃に入る」


「私に剣で挑もうなんていい度胸じゃない」


 フレイスヴェルグは腰から二丁のマシンピストル・フギンとムニンを抜き、叢雲は天之羽々斬を握り直す。


 二人の目的は相手をここに留めること。アルテミスがグローリアを撃破する為に、彼女らの砲撃を食い止めること。




 グローリアの圧倒的な攻撃力に耐えられるのはアルテミスの重装甲しかない。そう判断した美空とフレイスヴェルグは、アルテミスにグローリアとの一騎打ちを提案したのだ。ある種、過酷な提案だが、アルテミスと真理はそれを受け入れ、そしてそれを実行に移した。


 3人の戦いが、それぞれで始まった。





 * * *





 ――――ダララララッ!


 小刻みに鳴り響く銃声。フレイスヴェルグのフギンとムニンがばら撒く銃弾は一発一発が小さいものの、その連射力は侮れない。


「メイドさんはすばしっこい。一つ勉強になった」


「あら、ご存知ありませんでしたか。メイドとはあらゆる仕事をこなさなければなりませんので、その動作は機敏に、そして優雅でなくてはなりません」


 コロッサスはその言葉どおり、機敏に、そして優雅にスカートをはためかせて銃撃を回避していく。あのドリルツインテから放たれるビームは威力がある反面、至近距離では自らも巻き添えになる可能性があるため使用できないらしい。コロッサスは軍用の物を模したライフルで応戦していく。汎用の市販パーツだが、丁寧に作り込まれていてその威力と精度は決して侮れない。


「……狙いが正確……これはよほどの訓練を積んでいるとヴェルグちゃんは判断した」


 ライフルから放たれた銃弾をフレイスヴェルグは自らのウイングで防御する。飛行用の翼は基本的に薄く、本来ならば装甲にはなりえない。しかし銃口の向きを計算しウイングへの入射角を可能な限り浅くすることで貫通せずに済むのだ。


「見事な防御です。正直言って、驚嘆ですが……」


 そう言うとコロッサスはその場で膝立ちになり、しっかりとライフルを握り込んでブレを抑制する。そうして正確に三点バースト(連射)を3回、合計9発の銃弾を撃ち込んできた。


「くっ……!」


 最初の3発はフレイスヴェルグの頭部を正確に狙っており、彼女は回避するために一瞬だが動きが鈍ってしまった。そのほんの僅かな一瞬に残りの3発ずつがフレイスヴェルグの両足へと命中する。


「ヴェルグ!」


「……まだヴェルグちゃんは戦える!」


 幸いにも、汎用品ゆえに撃たれたダメージは大きいが機能不全を起こす程ではなかった。フレイスヴェルグはその場で派手に転がりながら追撃の銃弾を躱し、腰のスラスターを噴射することで再び立ち上がった。


「流石に今のでは倒せないですか……ですが、先程より動きが鈍くなっておりますわ」


「自己診断……運動性能の低下48%を認める。でもまだスラスターが……」


「あら残念。そのスラスターは調子が悪そうですわ?」


 コロッサスのライフルが瞬く間に火を吹く。その狙いはフレイスヴェルグの腰部に接続されたスラスターユニットだった。


「……ヴェルグちゃんは負けない。これは負け惜しみでもなんでもなく、分析の結果」


「申し訳ありませんが、麗華お嬢様とグローリア様のため、止めを刺させてもらいます」


 ゆっくりとフレイスヴェルグに近づくコロッサス。ここに来て油断するようなヤワな訓練を積んでいるはずも無く、確実に撃破するため至近距離……というほどでもなく、かといって狙いを過たない程度の距離で立ち止まる。


 何も言わずライフルの銃口をフレイスヴェルグの胴体に向ける。予想される残りHPから、残りの銃弾を全て使うまでもなく撃破可能な筈。


「んー……もう少し左が良かった。ヴェルグちゃんの予測も甘いと反省。これはプログラムの修正が必要」


「……? 一体何を仰ってい」


 瞬間、コロッサスがいる場所で小さな爆発が連続して何度も巻き起こる。


「でも撃破するには十分なダメージ。ヴェルグちゃんの勝利」


 ――――フレイスヴェルグが足を撃たれ、地面に転がった時。既に彼女はそこへ爆撃用の爆弾を多数埋め込んでいたのだ。


 後はこの短時間で収集したコロッサスの行動パターンを分析、そして予測される結果を基に誘導するだけだ。


「お疲れ様、ヴェルグ」


「ん、マスターの指示のお陰。この勝利は二人のもの。ぶいっ!」




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