8ー2
8ー2
爽やかな風が吹き、グローリアの金髪を揺らす。
白銀の装甲を上半身に纏い、騎馬のような下半身は黒を基調としたカラーリングで塗装されている。右手には天之羽々斬ほどもある巨大なチャージランス、左手には細長くシールドを構えたその姿はまさに。
「へぇ……ただのメイドかと思ったら、騎士サマだったってわけね?」
「これはこれは叢雲様、畏れ入ります。ですが、一切の手加減は出来かねますのでご了承くださいね?」
グローリアがランスを前面に突き出したかと思うと、ほぼノーモーションで突撃を開始した。その鋭い穂先はアルテミスを狙っている。
「アルテミス、しっかりなさいな!」
「た、助かりました! 叢雲さん!」
その凄まじい突進力を天之羽々斬でなんとか逸らす叢雲。グローリアとアルテミスの間に割って入り、咄嗟の対応に遅れたアルテミスを庇う形で防御を固める。
「ヴェルグ、叢雲さんを援護して」
「ヴェルグちゃんは了解した」
「……あ、アルテミスは……!」
「真理! 防御ですか?! 攻撃ですか?!」
いつも自分のペースで戦闘を進める真理にしては珍しく指示が不明瞭で、そのせいでアルテミスはどうしたらいいのか分からずにその場で固まってしまっている。マスターとドールの連携が取れてない証拠だ。
「……アルテミスさんは一度後退してください。遠距離からの牽制に努めて」
「わ、分かりました! ここは美空さんの指示に従います!」
彼女らの状況を見かねた美空の指示を聞き、アルテミスは肩部のガトリングガンで弾幕を張りながらグローリアから距離を取る。
「くっ……! この衝撃力は厄介ね……!」
「お褒めに預かり、誠にありがとうございます。ですが、まだまだ激しくなりますのでご注意くださいね!」
4本の脚を軽やかに動かし叢雲へと突撃を繰り返すグローリア。その機動力と通常のドールの倍近い質量によるチャージランスは掠めるだけで大ダメージ必至だ。
それをどうにか持ち前の身軽さと大剣での防御で凌いでいる叢雲。だが、このままでは長くは持ち堪えられないだろう。
「叢雲、砲撃が来る。ヴェルグちゃんは一旦上空からの援護に切り替える」
フレイスヴェルグの忠告通り、やはり西の方からビーム砲が放たれた。先程よりも精度が良くなっているのか、それともグローリアとの連携が取れだしたのか、叢雲は回避が難しくなっていると感じる。
「突進とビーム砲を躱すのは……思ったより大変ね!」
「叢雲ちゃん!」
一条のビームが叢雲を容赦なく襲う。しかし天之羽々斬を盾にどうにか防いだ。
「残念ですが、その隙を見逃すほどグローリアは甘くありません事よ〜! おやりなさい、グローリア!」
麗華の良く通る声と、4つの蹄が大地を駆ける音が重なる。瞬間、ビームを防ぎきった直後の叢雲を側面から槍の穂先が貫かんと襲いかかった。
――――ギィイイン!
「……あら、なかなかやりますわね。庶民のドールにしてはよく訓練されてます事、褒めて差し上げますわ!」
「麗華お嬢様、そのような発言は対戦相手への失礼に当たります。後でお仕置きですから覚悟しておいて下さいね」
「ヒィ……!」
「……ぐぅ……漫才してる余裕を見せるなんて、随分と舐められたものね……!」
大きなダメージを負った叢雲は腹部を押さえながら天之羽々斬を杖のように突いてなんとか立ち上がる。グローリアの一撃は躱すことは出来なかったものの、羽々斬をランスにぶつけることでその威力を緩和させたのだった。
「叢雲ちゃん、ここは一旦後退だよ! ダメージが大き過ぎる!」
「……癪だけど、その方が良さそうね……フレイスヴェルグ!」
「聞いている。煙幕弾を投下後、集結ポイントを送信。叢雲とアルテミスはここまで後退して」
上空を旋回していたフレイスヴェルグは器用にビーム砲を回避しつつ、腰部のウエポンコンテナから小さなボール状の煙幕弾をいくつも投下していく。
すぐに広がった煙幕は辺りを覆い隠し、グローリアが叢雲らを追撃することは出来なくなってしまった。
「グローリアは周辺を捜索しなさい。眞紀子、麻妃代。コロッサスとオーシャンはその場で待機させなさい。今のうちにエネルギーチャージですわ」
「オーシャンたちのビームで辺りを焼き払ってはいかがでしょうか、麗華お嬢様」
「麻妃代、それでは優雅な戦い方ではなくてよ。ワタクシ達はいつ如何なる時もエレガントに振る舞うべきですわ!」
麗華は高笑いしながら余裕を見せつけるが、その視線の先には静かに微笑んでいる姿がかえって恐ろしいグローリアが。グローリアのお仕置きだけはなんとしてでも避けたいお嬢様だったのであった。
* * *
「……どうやら追ってはこないみたいね?」
叢雲らはフィールドの東端に位置する集落、その中でも大きめな教会内部に隠れていた。
「ヴェルグ、周囲の警戒を怠らないで。それで吹雪さん、叢雲さんのダメージは?」
「うん、残りHPは半分ってところ。一撃でこんなにやられちゃった……」
グローリアのチャージ攻撃の威力は凄まじく、いくら叢雲の装甲が軽量タイプだという事を加味してもあまりあるダメージだ。何かしら対策を講じなければ、あっという間に叢雲は撃破されるだろう。
「ちょっとアンタ、アルテミス!」
「ひゃっ、ひゃい!」
突然叢雲にビシリと指を突きつけられたアルテミスは思わず竦んでしまう。
「一体どういうつもりなわけ? アンタが右往左往してるからこっちは不利な状況に立たされてるのよ?」
「うぅ……すみません……」
「ちょ、ちょっと叢雲ちゃん!」
憤る叢雲をどうにかたしなめる吹雪。しかし、アルテミスの表情は曇ったままだ。
「……いえ、吹雪さん。叢雲さんの言うとおりです。一体どうしたんですか、真理先輩」
「…………」
真理は美空の追及に思わず目を逸してしまう。
「数日前から様子がおかしいと思っていましたが、先輩は普通に振る舞おうとするのであえて聞きませんでした。ですが、このままでは私達の敗北は必至です」
だから、理由を聞かせろと言外に迫る。
「…………」
「ま、真理は何も悪くないんです!」
「アルテミスちゃん……?」
咄嗟にマスターを庇うアルテミス。
「いいですよね、真理? 皆にあの事を話しますよ?」
「…………ええ」
後輩からの追及に観念したのか、それとも一人で抱えるのも限界だったのか、真理は力なく頷く。
「真理は……小学校から中学校まで、この聖マリアンヌ学園に通っていて、バトルドール・ガールズ部にも所属していたんです」
「え?! てことは、あの麗華さん達とも知り合いだったってこと?! でも、なんで高校は今の一高にしたの? たしか聖マリアンヌはエスカレーター式で進学できるんじゃ」
「それが……当時、中学生だった真理と、あそこにいる鳳凰院さんは仲があまり良くなくて……それで……」
あまり言いにくいことなのか、アルテミスは少し言い淀んでしまう。しかし、その事がかえって真理と麗華の確執を想像させる。
「ことの発端は、麗華さんがBDGの対戦を挑んできたことだった筈です。最初は真理も楽しそうにしていたんですが……その……」
「アルテミス、そこから先は私が話すわ」
真理は静かに、しかし目線は俯き加減に話し始めた。




