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第八話「ただのメイドかと思ったら、騎士サマだったってわけね?」

第八話


「さて、それではルールの確認ですわ」


 鳳凰院麗華はビシッとした表情を決めてバトルフィールドの前へと立つ。


「……さっき、自分のドールに叱られて涙目になってたのに」


「しっ、ヴェルグ。静かにして」


「コホン。えぇー、それでは気を取り直して……。まず、此度の試合はバトルドール・ガールズ公式大会のルールに準拠しますわ」


「へぇ、大会用のルールなんてあるんですね〜」


「オ〜ホッホッホッ! 桜ヶ丘の部員はそんな事も知らなくて大丈夫なんですの〜?!」


「ぐっ……返す言葉がねーデス……」


「吹雪さん、公式大会用のルールは次の3つが基本となります。まず、1チームは3人のマスターと3体のドールで戦うこと。次に相手のチームのドールをすべて撃破すれば勝ちです。いわゆる殲滅戦ですね。そして武装や予備パーツはコスト制ということです」


「他のはなんとなく分かるけど、最後のコスト制ってなんなの、美空?」


「ドールが纏う武装や装甲の性能に応じてコストが決定し、チーム全体で一定のコスト以下になるよう武装を装備しなくちゃいけないんです。そうしないと武器と装甲を極限まで積んだ方が強くなるので、戦闘バランスが崩れてしまいますから」


 美空が説明するには例えば叢雲の場合、彼女が纏う装甲は軽くて薄いので低コストだが、大剣・天之羽々斬は高威力かつビーム兵器を内蔵しているのでそれなりにコストを消費してしまうらしい。


 そして、チーム全体の合計コストが規定のコスト値を超えなければどのようなコスト配分でも構わないという。極端な話、各ドールにコストを三等分してもいいし、一体に高コスト武装を集中させてもいい。その辺りは各チームの戦略と戦闘方針によって千差万別というわけだ。


 さらに、コストは全て消費する必要はなく、余った分のコストは予備パーツ枠として補給用の弾薬や別の武器を登録する事も可能だ。




「へぇ、よく考えられてるんだねー」


「あと予備パーツも重要な要素となります。実体剣しか持たない叢雲さんでも、予備パーツ枠に射撃武器を登録しておけば戦闘中にいつでも取り出せますし、アルテミスさんやヴェルグは替えの弾薬なんかを登録しています」


 吹雪は叢雲と初めてバトルした時の事を思い出す。あの時は真理が全部設定してくれたのだが、確かバズーカ砲などが予備パーツとして登録されており、それを使用したのだった。


「えっと、ドールが纏う武装と予備パーツ、全部の合計コストが決められた値に入ればいいんだよね……あれ? 私、今まで気にしてなかったけどうちのチーム大丈夫なの? オーバーしてない?」


「そこは心配ナッシングというやつデス。私と葛城がそんな初歩的な問題に気付かず、呑気に叢雲の装甲を作り上げるハズが無いデスよ」


「その辺りは予め考慮して叢雲さんの装甲を調節しています。もちろん、チーム全体の合計コストも余裕を確保してありますよ」


「ほっ、良かった! 流石は美空と先生だね!」


「コホン! そろそろ始めてもよろしくて?」


 しびれを切らした麗華はいつの間にか用意された椅子に座り、麻妃代の淹れた紅茶を味わっていた。小さいテーブルの上にはスコーンやカップケーキといったお菓子まで広げられている始末だ。


 そんな麗華は部員に目配せすると、そのうちの何人かが機敏に動きだす。設置された最新型バトルフィールドの設定を行う者、麗華達のドールに武器を手渡す者、紅茶とテーブルセットを片付ける者……その動きはよく洗練されており、まるで予めセットされた動作をなぞっているかのようだ。



『ドールのシステムチェック……』


『AIチェック……』


『武装チェック……』


 設定が終わり、フィールドのシステムがバトルモードへ移行する。各種センサーが起動し、立体映像を作り出すプロジェクターがチカチカと光を放ちはじめた。


『システムオールグリーン』


『バトルフィールド:ランダム』


『バトルルール:公式戦』


『チーム:ロイヤルメイドナイツ』




「チーム?」


「公式大会だとそれぞれのチーム名を登録する必要があるんですよ、吹雪さん」


「あれ? じゃあ私達のチーム名は……」




『チーム:ブロッサムメイツ』




「あ、チーム名は私が考えといたデス。どうせお前らじゃ碌な案を出さないのは目に見えていたデスし」


「えぇー?! でもいい名前だよね、チーム・ブロッサムメイツ!」


 それぞれのチーム名が呼ばれ、ドールらが立っているエントリーデッキが青く光る。叢雲は不敵に微笑み、フレイスヴェルグはいつものポーカーフェイス。アルテミスは後ろに控える硬い表情の真理を気にしつつも、手にしたオリオン・ボウを握り締めていた。




『セッティングコンプリート』


『ゲットレディ……3……』


『2……』


『1……』




『バトルドール、ゴー!』




「始まったよ! 叢雲ちゃん、まずは周囲の地形を確認して!」


「分かってるわよ、そんな事!」


 フィールドへと飛び出した叢雲へ吹雪の指示が飛ぶ。ここ最近の特訓のお陰で彼女もマスターとして成長しているのだ。


 叢雲が辺りを見回すと、そこは起伏に富んだ丘と小さな池、端の方には洋風な民家が立ち並ぶ集落のあるフィールドだった。見晴らしの良い丘エリアと障害物のある集落エリア、この2箇所で異なる立ち回りを求められる中級者向けのステージだ。


 叢雲たちチーム・ブロッサムメイツがいるのは丘と集落の境目となる東端だ。この反対側、西端の丘陵地帯にグローリア率いるロイヤルメイドナイツがいる筈だ。


「叢雲さん!」


「ヴェルグちゃんはマスターの指示通り、皆と合流した」


「さて、それで次はどうするのかしら?」


 ドールがマスターへと指示を請う。吹雪はこの中で戦闘経験豊富な真理の意見を聞こうとしたが……。


「真理センパイ?」


 当の真理はフィールドの方をどこかぼんやりと眺めているだけだった。


「真理、真理! しっかりして下さい! もう戦闘は始まっていますよ!」


「オ〜ホッホッホッ! その通りですわ!」


 麗華の高笑いが聞こえたと同時に西側(敵のいる方)から眩い光が奔る。


「叢雲ちゃん、皆! 避けて!」


 それは白銀の高出力ビームだった。合計4本もの光条が地面に着弾し、その箇所が真っ赤に融けていく。


「チッ、もう私達を捕捉したっていうの?!」


「……いや、これはまだ照準を絞りきれていない。恐らく当てずっぽうに撃ち込んでいるとヴェルグちゃんは分析する」


「た、確かに全然当たりませんけどぉ!」


 ビームは強力だが、落ち着いて軌道を読めば対処可能なレベルだ。アルテミスも叢雲とフレイスヴェルグに倣って重量級の武装ながらも必死に回避していく。


「何よ、見掛け倒しじゃない。さっさとあいつらを叩くわよ!」


「あら、わたくし共のおもてなしはまだ始まったばかりでございますわ?」


 咄嗟に武器を構える叢雲たち。彼女らのすぐ近くには大きなバックパックを背負ったグローリアがピンと伸ばした背筋のまま、にっこりと微笑んでいたのだ。


「……この距離を短時間で移動してくるとはね。なかなかやるじゃない?」


「叢雲、アルテミス、気を付けるべきだとヴェルグちゃんは提言」


「油断しないで下さい! 彼女、グローリアは……!」


 静かに微笑んでいたグローリア、するとそのバックパックがパーツごとに分かれ、次々と展開していく。まるでパズルが組み上がっていくかのようなギミックでその真の姿が完成する。


「な、なんなのこれ……?!」


「……ヴェルグちゃんは驚愕した。コレま?」


「これがグローリアの本当の戦闘形態です……!」


 その姿は()()()()


 グローリアの下半身は大型バックパックが変形したパーツに納められてしまっている。まるで神話やファンタジー作品に登場するケンタウロスさながら上半身は人の姿、下半身は馬を模したメカで構成されていた。


 恐らく、この状態のグローリアは馬のようにスラリと伸びた脚部によって機動力が著しく強化されるのだろう。バトル開始直後というこの短時間で広大なバトルフィールドを横断できたのはこういう理由があったのだ。




「少々手荒な対応となりますこと、先にお詫び申し上げます。それでは……蹂躙を開始致しますので、皆々様におかれましては一撃で倒れません事をお祈り申し上げます」



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