7ー3
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「こりゃ……おったまげたデス……」
「ねぇ?! ここって本当に部室なの?! 私達本当に入って大丈夫?! 偉い人に怒られない?!」
「これは……バロック様式……? なんて豪華な部屋……」
一言で言えば豪華絢爛。技巧を凝らした美しい内装、華美な装丁の家具類、そして美術館で展示されているような絵画や彫刻があちこちに置かれている。
吹雪の語彙力ではこれらの極彩色の彩りを表現する術はないが、敢えて言うならば中世ヨーロッパの王侯貴族の住む城、というのが一番的確だった。
「オ〜ホッホッホッ! 庶民の皆さまが見惚れるのは仕方なくってよ! ですが、まだ玄関ホールで驚かれていてはキリがありませんわ〜!」
「なん……だと……デス?!」
「玄関だけでうちの部室より広い気がするよ?! どうしよう美空?!」
「これが……これがブルジョワジー……」
ゆさゆさと美空の肩を揺さぶる吹雪。だが、当の美空は虚ろな目でなすがままだった。
「んもぅ、皆しっかりして! 私達はここへ何しに来たの〜!?」
パンパンと手を叩き、皆を正気に戻させる。この中で唯一人豪華な雰囲気に当てられていない真理は、ズンズンとやたら広い玄関ホールを抜け、これまた豪華で重々しい扉を勝手に開けて進んでいく。
「ちょ……ちょっと真理さん?! 勝手に入っていっちゃ……!」
「あら、構いません事よ? 何故ならば彼女にとっては古巣も同然、長年過ごしてきた場所ですもの」
「え……?」
吹雪は麗華の言葉に思わず立ち止まってしまう。先程からの態度といい、真理はこの聖マリアンヌ学園とただならぬ関係があるのだろうか。
「皆〜! 早くしないと置いていっちゃうわよ〜!」
* * *
「ここは体育館デスかね……?」
「いえ先生。あくまでもメインホールのようです」
「ねぇなんで二人はそんなに冷静なの?! 本物のお城みたいだよ?! 昔、外国で見たことのあるのと同じだよ?!」
「吹雪ちゃーん? そろそろお口はチャックねぇ〜?」
騒々しい吹雪に少し強めに迫る真理。彼女達がいるのは巨大なホール――――ダンスパーティーでも開かれそうな――――だった。そのホールにはバトルドール・ガールズ用のバトルフィールドがゆったりと4つも設置されていることからもその広さが分かるだろう。
そして部長である麗華を始めとし、二人のお付きのような生徒以下部員らしき生徒らがズラリと並ぶ。
「改めて自己紹介させて頂きますわ。ワタクシは鳳凰院麗華。聖マリアンヌ学園の三年生で、このバトルドール・ガールズ部の部長をしておりますの」
麗華はその豊かな金髪をファサとかきあげ、これが高貴というものですわよと言わんばかりだ。実際、彼女が放つオーラは周囲にある高価そうな調度品や家具類に負けるどころか、例え数々の宝飾品を前にしてもなお圧倒するほどだろう。
「いやいや、この度は練習試合の件を了承してくれて助かったデス。既に電話でも挨拶したデスけど、私が顧問の先生デス。フランクに先生と呼んでくれて構わんデス」
「ご丁寧にどうも、先生さん。普段なら練習試合などといった雑事は承りませんが、今回は特別でしてよ。そしてこの二人が今回、貴女方と戦うチームメンバーですわ〜!」
麗華がいちいち優美な仕草で二人を前に出させる。動作と容姿がまるで鏡合わせのような少女はそれぞれ深く丁寧にお辞儀をしてから自己紹介へと移る。
「初めまして、私は麗華お嬢様のメイド見習いをさせて頂いている鳥井眞紀子と申します。この度はようこそ、聖マリアンヌ学園へ」
「私は双子の妹、鳥井麻妃代と申します。この度は僭越ながら、私共がバトルのお相手を務めさせて頂きます」
まるで人形のように整った瓜二つの顔。ツインテドリルにぱっつん前髪は銀色に輝き、頭にはホワイトブリムを付けている。彼女らもそれなりのオーラを放っているものの、メイド見習いゆえなのか一歩引いた態度を保っている。
「よ、よろしくお願いします! 私は桜ヶ丘第一高校一年、神代吹雪です!」
「同じく一年、葛城美空です。今日はお招き頂きありがとうございます」
「……愛宕真理です」
一年二人は元気に挨拶をするが、何故か真理はうつむき加減にしている。いつもの朗らかさはどこへやら、朝からずっとこの調子だ。
「あらぁ? 桜ヶ丘のBDG部はこれだけですの〜? 1チーム組むだけで精一杯とは落ちぶれたものですわね。ねぇ? 真理さん?」
「……そうですね」
麗華はジロジロと吹雪らを見回し、わざとらしく言ってのける。嫌味たっぷりな言葉にあまり反応したくないのか、それとも麗華と会話したくないのか真理は彼女と目も合わせようとしない。
(な、なんなのこの雰囲気!)
(かつてない程、険悪なムードです。真理さん……どうしたんでしょう)
「さぁさぁ、部員同士の挨拶の次はドールのお披露目デス! まだ昼前とはいえ、すぐに時間が経ってしまうデスよ!」
空気を読んだのか、先生は一旦この場を仕切りだす。麗華はなにやらまだ言いたげな表情をわずかに見せるが、すぐに切り替えて隣にいる雅紀与にドールを持ってくるよう指示する。
そして真理はそれを見ながら安堵したのか、小さくため息を吐いた。
「ヴェルグちゃんはフレイスヴェルグと言います。よろしく」
「私が叢雲よ。で? この私にわざわざ倒されるのは誰なのかしら?」
バトルフィールドに立つフレイスヴェルグと叢雲。そして麗華たちのドールがそこへ現れた。と、共に何らかの立体映像が徐々に映し出されていく。
「皆様、初めまして。私が麗華お嬢様のメイド、グローリアと申します」
金の刺繍が施された真っ赤な絨緞、一目見て分かる豪華な内装へと変化したバトルフィールドの中央。そこにはメイドさんが立っていた。
グローリアと名乗ったドール。麗華と同じ長く綺麗な金髪、柔らかくも意志の強そうな瞳。いかにもなメイド服の上には何やら西洋風甲冑のような装甲を取り付けていた。白銀に輝くそれは滑らかな曲線で纏められており、所々に美しい装飾が施されている。そう、その見た目はまるで……。
「何よ、まるでメイド騎士サマ?」
「はい、私の仕事は麗華お嬢様のお世話と、その敵を打ち砕くことにございます」
「どうかしら、ワタクシの素晴らしいドールは! グローリアは如何なる敵をも屠ってみせますわ! アナタ方のような貧相なドールでは果たして何秒持ち堪えられるかしら?! オ~ホッホッホッ!」
麗華は口元に手をやり、高らかに笑って見せる。その清々しいまでに傲慢な姿は恐らく彼女のドールであるグローリアに対する自信と信頼の裏返しでもあるのだろう。
「あ、私知ってるわ。こういうの悪役令嬢っていうのよね? 漫画で読んだことあるもの!」
一体いつの間にそんな知識を仕入れたのか、本物の令嬢を前に叢雲は少し興奮気味だ。
そんな主人をニコニコ顔で見つめるグローリア。たおやかで柔和な雰囲気を持つ彼女だが。
「麗華お嬢様! いつもいつも言っているでしょう?! そのような言動はご自身の品位を貶めるのだと! 淑女たるもの、相手を敬い、皆を立てることで初めて己の気位を周囲に示せるのだと! そんなだから初対面の叢雲様にもこのように認識されているのですよ!」
「ヒィ!」
凛とした声でキツい言葉を浴びせるグローリア。それが例え主人だろうと、いや、主人だからこその愛の鞭というやつだろう。彼女は彼女なりにマスターを思って叱っているのだが、当の麗華は少し涙目になりながらグローリアのお説教にシュンとしてしまっている。先程までの見事な悪役令嬢っぷりは欠片も無くなってしまった。
「全く、久しぶりに真理様と再会できたというのにそのような態度、このグローリアは許しませんよ!」
「グローリア様、麗華お嬢様へのお説教はその辺で」
「お客様の前ではしたないです」
「あら、私としたことが……皆様方、これは申し訳ありませんでした」
グローリアの左右に現れた二体のドール。眞紀子と麻妃代の双子のドールなのだろう、彼女たちにそっくりな顔立ちをしており、大きな銀髪ツインテドリルと黒を基調としたメイド服が特徴的だ。装甲もメイド服に合わせて作られており、武装したメイドさんといった装いとなっている。
「皆さま初めまして。私が眞紀子様のドール、コロッサスです」
「皆さま初めまして。私が雅紀与様のドール、オーシャンです」
コロッサスとオーシャンはスカートの裾を少し持ち上げ、丁寧なお辞儀をしてみせる。いわゆるカーテシーというやつなのだが、ドールが行うと可愛らしさが際立つようだ。
「あの……麗華さん、グローリアさん、そのお久しぶり……です。コロッサスさんとオーシャンもお元気そうで」
おずおずと前に出てきたのはアルテミス。彼女も真理と同様に何故か浮かない顔をしている。
「これはこれは、アルテミス様。ご無沙汰しておりました。麗華お嬢様共々、グローリアは皆さまを歓迎致します」
「こ、これで揃ったようですわね?! 早速ですがお手合わせ願いますわ! ホラ、眞紀子、麻妃代! 準備をなさい!」
側に使える眞紀子からシルクのハンカチを受け取り涙目を拭いつつ、麗華は急いで戦闘の用意を進める。これ以上グローリアのお小言を貰いたくないらしく、チラチラとそちらの方を気にしつつ他の部員にも指示を出していた。
「あの、真理センパイ……」
「大丈夫よ、吹雪ちゃん。確かに私はここの学園と少しだけ因縁があるけれど……バトルにそういった私情は持ち込まないわ」
普段は見せないような真理の表情。それは何か思い詰めているようでもあり、どこか諦めにも似た感情が滲み出ていた。




