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遠征当日。
強い日差しが差す春の陽気。スマホの天気予報アプリによると、今日から数日間は晴れが続くそうだ。まさに遠征日より。
「お弁当と水筒持った! タオルに帽子、熱中症対策に塩アメ! えっと、他には〜」
「ちょっとあんた、もしかして遠足気分になってない?」
「ふぇ? だって皆でお出掛けだよ? 叢雲ちゃん」
「何言ってるの! これから行くのは敵の本拠地、どんな卑劣な罠が待ってるのか分かったもんじゃないわ! もっと気を引き締めなさいな!」
「……叢雲さんの言ってるのは極端ですが、私も概ね同意しますよ? 吹雪さんはもう少し緊張感を持ってください」
「そんなー?! 美空まで?!」
「マスター、マスターのおやつに用意したクリームパンがかばんに入らない。大ピンチ」
「あぅ……」
「……やっぱり美空も楽しみにしてたんだね!」
吹雪らがきゃっきゃと遠征準備を進めているBDG部部室。今日は連休初日、これから件の聖マリアンヌ学園に赴こうとする直前だ。
「みんな、お待たせ〜」
「あ、真理センパイ! もう遅いですよ〜!」
「……? 真理先輩、おはようございます」
少し遅れてやってきた真理。吹雪は全然だが、真理の微妙な違和感に気付いた美空。が、それがなんなのかまでは分からず、真理も普段どおりに振舞っているためあまり追及しないようにする。
「おーし、皆揃ったデスね? それじゃあ早速出発するデス。行程はこの前説明したとおり、電車で最寄り駅まで行き、そこからは迎えの車が来てるそうデス」
「よーし、いっくぞ〜!」
「ちょっと! あんた、自分のかばんを忘れてるわよ!」
* * *
聖マリアンヌ学園があるのは吹雪らが通う桜ヶ丘第一高校のある県のお隣だ。途中で電車を一本乗り換え、およそ一時間の距離。ただ、最寄り駅から学園までは遠く、ここに通う生徒は専用の通学バスを利用するか、自家用車での送迎が基本らしい。
それは何故か。理由は単純明快。学校の敷地面積が物凄く広く、小さな山を一つ切り崩して校舎や付随する施設を建てているからだ。まるで一般庶民と壁を作るかのように世俗から離れた立地、とは付近の住民の言だ。
「えっと、迎えの車ってどれですかね?」
「んん? 駅のロータリーで待ってる筈なんデスが……」
聖マリアンヌ学園への最寄り駅で降りた一行は辺りを見回している。先生によれば、ここからは学園の車が待っている筈なのだが。
「桜ヶ丘第一高校、BDG部の皆様ですね? お待ちしておりました」
そこへ現れた初老の男性。この強い日差しの中でも黒いスーツをビシッと着こなし、ゆったりとそれでいて無駄のない動き。丁寧に撫でつけられた白髪と穏やかな表情は漫画か何かに出てくる老執事を思い起こさせる。
「申し遅れました。私はお嬢様の専属運転手を務めさせて頂いております、時田と申します。皆様を学園までお連れするよう、お嬢様から申し付けられております」
(せ、先生! どーいうことなんですか?!)
(んー、よく分かんないデスけど、たぶんこの人が迎えみたいデスね。とりあえず車に乗り込……む……デス)
と、先生が目にしたのは黒塗りの超が付く高級車。いわゆるストレッチ・リムジンと呼ばれる映画か何かでしか見たことのないような車種だ。長く延長されたボディは運転席と後部座席が分けられ、それこそ5、6人は余裕で乗り込めそうだ。そして丁寧に磨かれたボディは艷やかに陽光を反射し、少しの汚れも見当たらない。
「どうしたの〜みんな? 早く乗りましょう?」
溢れ出る高級感を前に若干怖気づいている吹雪らを尻目に真理はなんてことない風に運転手、時田に後部座席のドアを開けさせ、妙に優雅な仕草で乗り込んでしまった。その慣れた所作に見惚れていた吹雪らも慌ててあとに続く。
「……わ、私、こんな高そうな車なんか乗ったことないよ?! 大丈夫かな?! 怒られないかな?!」
「凄い静音性……サスペンションも一級品ですけど、運転手さんの技術も凄い。路面の凹凸を少しも感じさせないなんて……」
「吹雪はパンピー感丸出しでみっともないデス! 葛城は……まぁ、いつも通り……? お前ら、愛宕を見倣ってもっと堂々としてるデス!」
「そういう先生は膝がガクガク震えてるわよ〜? それにこのくらい、普通の車でしょ〜?」
真理の発言に思わず言葉を失う一行。普段はそうでも無いのだが、時折彼女は妙に世間とズレた感性を発揮するようだ。
そんな事とは露知らず、真理はコテンと首を傾げて不思議そうに皆を見る真理なのであった。
* * *
「到着致しました。足元にお気を付けてください」
時田がドアを開け、恭しくお辞儀をする。それにおっかなびっくりしつつリムジンを降りた吹雪らは、目の前の光景にまたも圧倒される。
「えと、これが……部室?」
吹雪は思わず指を指して時田に尋ねてしまった。それもそのはず、目の前の建物はどう見ても欧風なデザインの、ちょっとしたお城だったからだ。
「その通りでございます」
「学園の門に入ってからここに到着まで三十分以上……見える建物は大きなビルにスタジアム、広大な庭園にそして大きなお城……ここ本当に学校なんですか?」
「うーん、そしてまるまる一つの建物が部室とは……デス」
「私の家より大きい……部室よりも小さな家のうちって一体……」
吹雪は頭の上に?マークをいくつも浮かべ、先生はすっかり呆れ顔。美空に至っては現実というものを嫌というほど噛み締めていた。
「ふぅ……変わってないわね」
「? 真理センパイ?」
「なんでもないわ〜。さ、入りましょう?」
真理が先頭になり、部室の扉を開こうとしたその瞬間。
「オ〜ホッホッホッ! お待ちしておりましたわ! 桜ヶ丘第一高校の皆様!」
盛大な高笑いと共に、3人の少女が中から現れた。
「私は聖マリアンヌ学園のバトルドール・ガールズ部部長、鳳凰院麗華ですわ〜!」
自信に満ち溢れよく通る声。その表情は強気で、瞳は見るものを射抜くかのよう。美しい金髪は長く縦にロールしており、まさにその威容はお嬢様。
ひと目見てわかるほど高級な布地と縫製がされたブレザー服を優雅に着こなし、堂々と立つ姿は西洋絵画か何かのよう。
その後ろに傅く二人はまるで双子のようにそっくりな背格好と顔立ちで、こちらは銀髪の髪をドリル状のツインテールにしていた。やや小柄ながら、二人も優美な雰囲気を纏っている。
「……お久しぶりですわね、真理さん? 何年ぶりかしら〜?」
「……そうね」
意味深な眼差しと言葉を向ける麗華。それに対し、真理はどこか空虚な表情でポツリと呟いた。
「え? え? 真理センパイ、もしかしてお知り合いなんすか?!」
「フフフ……その話は追々ゆっくり……。それよりも、中へどうぞ? ようこそ。我が『ロイヤルメイドナイツ』の居城へ……!」
麗華が仰々しい仕草で吹雪らを城へと招き入れる。




