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6-3

6-3


「…………!」


 叢雲と皐月のバトルを分析する美空の顔が少しずつ曇っていく。彼女の脳内で戦闘結果を様々にシミュレートしているのだが、その結果はどれもが芳しくないものばかりだ。


「美空ちゃん、駄目よ? この戦いは吹雪ちゃんと叢雲ちゃんの力だけで勝たなくちゃいけないわ。私達がサポートするのはいいけれど、()()()()のは違うと思うの」


「……それは、理解しています」


 思わずアドバイスしようと咄嗟に開きかけた口をキュッと閉じ、美空は吹雪のほうを心配そうに見る。吹雪は叢雲を助けるべく様々な指示を出してはいるのだが……。


「叢雲ちゃん! み、右! あ、いや左!」


「ちょっと! 指示が遅いわよ!」


「ごめーん! あっ避けて避けて!」


 吹雪の指示はどれもがワンテンポ遅く、叢雲がそれを認識する頃には相手が次の動作に入っている。必然、叢雲は自分の判断のみで戦うしかなかった。


「ふっ、そちらのますたーは初心者と聞いていたが、ここまで拙いとはな! 叢雲殿の実力が飛びぬけている分、もったいない!」


「うる……っさいわね!」


 皐月の言葉に少しカチンときた叢雲は手にした大剣、天之羽々斬を思い切り地面に向けて叩きつけた。その一撃で大きな穴が空き、大地が砕けると表現するしかない程に地面が隆起、あるいは陥没していった。さらには衝撃波も巻き起こり、そのお陰で皐月は一旦間合いを外さざるを得ず、後方へと大きく跳び退った。


「皐月、気をつけなさい。そのドール()相当強いわよ」


「承知。単純な戦闘能力では拙者を超えている事、剣を交えて良く分かった。油断は禁物という奴だな」


 美しい波紋が浮かぶ刀を正眼に構えなおすと、皐月は叢雲の出方を窺う。大剣の威力は恐ろしいものがあるが、動きをよく見れば彼女にとって回避することは造作もない。


「うう……どうしよう、叢雲ちゃん?!」


「あんた! 情けない声なんて出さないの! それより、そこから見てて何か気付かないの?! アイツの動きの癖だとか、一瞬の隙とか!」


「そ、そんな事言われても~!」


 思わず涙声になってしまう吹雪。漫画やアニメだとここらで何かヒラメキがあるのだろうが、なかなか現実にそんな旨い話はないらしい。


「チッ、私がどうにかするしかないってわけね……!」


 天之羽々斬を両手で持ち直し、少し余裕のない表情の叢雲。皐月の斬撃はなるべく避けるか大剣で防御しているが、それでもいくらかダメージを喰らっている。残りHPはまだ余裕があるが、しかしこのままではジリ貧なのは間違いない。


 大剣を下段に構え、姿勢を低く突撃する。斜め下から上方への斬り上げ、そこから一転して袈裟切り、続いて三連続の高速突き。叢雲は怒涛の連撃でこちらのペースに持ってこようとするのだが。


「皐月、回避と防御に集中! しっかりと見切れば怖くはないわ!」


「承知!」


 全ての攻撃をいなされ、あるいは躱されていく。その事が叢雲に更なる焦燥感を抱かせ、一つ一つの動作に精彩さを欠かせる悪循環となっていく。





「叢雲ちゃん……」


 どうしていいのか分からない吹雪。自分の指示はどうしても遅く、先読みしようにも経験の浅い彼女では的確な読みが出来ない。益々もって叢雲の足を引っ張るばかりだろう。


(どうすれば……どうすればいいの?!)


 握った手のひらはじっとりと汗ばみ、気が付けば口の中はカラカラに乾いていた。不安と無力感に苛まれ、吹雪は自身が何をしたらいいのか頭の中が混乱してくる。


(生徒会長と皐月ちゃんはこんなにも強い……それなのに、私は何も知らずに大会優勝って言って……)


 あの日、この部室でみんなと誓った大会優勝。そして、学校の廃校を阻止する。


(先生も言ってたけど、大会に出場する人たちは生徒会長みたいに強い人ばっかりなんだろうな……)


 頭では理解しているつもりだった。しかし、吹雪が戦ったことのある相手は同じ部の美空と真理だけ。まさに井の中の蛙(世間知らず)、というやつだ。


(やっぱり、私なんかじゃ駄目なのかな……)


 涙が溢れだし、目の前がぐにゃぐにゃになってくる。こんな情けない顔は叢雲には見せられない。そう思った吹雪は咄嗟に俯いてしまった。






「ちょっと! あんたが()()()どうするのよ!」


 叢雲の声だった。あの時と同じ声。諦めるなと叫ぶ声。


「あんた、もしかしてこの私が負けるだなんて思ってないでしょうね?! ちょっとでもそんな馬鹿馬鹿しい妄想したらビンタ百連発よ!」


「叢雲ちゃん……」


 広大な荒野では今も叢雲が大剣を振るっている。いつの間にか残HPは半分を切っているが、それでも彼女は少しも諦めてはいなかった。


「私は何をしてたんだろ……」


 吹雪は嫌な考えを心の隅に追いやる。




 負けちゃうかも。


 相手はこんなに強いんだし。


 だって(だから)私は初心者なんだ(仕方ないよね)




(それがどうした!)


 吹雪は思い切り自分の両頬を手のひらで叩く。大きな音が部室に響き、皆が驚くがそんな事は気にしていられない。ジンジンと痛む頬が逆に頭をスッキリとさせてくれる。


「フン、ようやく目が覚めたようね?」


「ごめん、叢雲ちゃん! 」


 零れそうだった涙を拭い、口を真一文字に結ぶ。それからフラフラしないようにしっかりと両足を踏ん張る。意思の宿った瞳は力強く叢雲の背中を見つめ、そしてその先にいる皐月と成実直子へと向けた。


「私にできる事……それは叢雲ちゃんが有利に戦えるようにすること……!」


 先ほどとは異なり、しっかりとフィールドを見据える吹雪。ひたすらに何もない荒野が広がる今回の戦闘は地形に頼った戦いは難しいだろう。それならば、やはり皐月の動きをよく観察して隙をみつけるしかないか思案する。


(……駄目、皐月ちゃんの動きは叢雲ちゃん並みに鋭くて速い……素人の私じゃ動きを見抜くのは時間が掛かり過ぎる。っと、あれは……?)


 吹雪が見つけた何か。それを基に、彼女はもしかしてと何かを閃いた。


「叢雲ちゃん、ここのポイントに皐月ちゃんを誘導して! それから……」


 手元のコンソールパネルに吹雪は作戦を打ち込んでいく。相手に聞かれたくない伝達事項はこうして無線通信にてドールへと直接伝えることが出来るのだ。


「……なるほど? 試してみる価値は十分にありそうね!」


 吹雪の作戦内容を理解した叢雲はすぐさま行動に移る。大剣を器用に操り、皐月の足元へと斬撃を集中させていく。避けるのは難しくないが、大剣のリーチを上手く活用して逃げ場を狭めているのだ。


「ほう、何を思いついたかは知らぬが……!」


「油断しないで皐月! ここは一旦距離を取って……!」


「もう遅い! この場所があんたの墓場よ!」


 皐月が足元の違和感に気付いた時にはもう遅かった。そこは先ほど、叢雲が天之羽々斬で地面を砕いた箇所だ。あちこちで地面がデコボコになっており、これでは機敏な動作は難しいだろう。


「何をこれしき! 多少、足元が不安定でも……!」


「これでもまだ平気な口を叩けるかしら?!」


 叢雲は何を思ったのか、その砕かれた大地に大剣を思い切り突き刺す。何をするのか理解できない皐月は一瞬だが次の行動が遅れてしまった。


「叢雲ちゃん!」


「十種雲形! 積雲(せきうん)!」


 天之羽々斬の刀身が青白く輝き、凄まじいエネルギーが収束する。そのエネルギーはビームとして切先から放出され、フィールドをさらに破壊していった。本来は大量のエネルギーを一条のビーム砲として相手に撃ち込む大技、辺り一帯はまるで大地震かのように揺れ、地割れが起きていく。


「何ッ?!」


 バトルフィールドは常に高度な物理演算処理によって描写されており、ミサイルの爆発やビームの着弾などによって地形に穴が空いたり、高層ビルが粉々に砕け散ってしまう。それらはただのエフェクトではなく、実際にドールの行動に影響を与えたり、時にはダメージ判定のあるオブジェクトとなるのだ。


 叢雲の攻撃で大地はさらに砕け、周囲に大小様々な(つぶて)が弾丸のように跳び散っていく。皐月は咄嗟に腕を十字に組んで防御するが、少なくないダメージを負ってしまった。ここにきて、機動力重視の軽装甲が裏目に出た形だ。


「皐月?!」


「なん……の!」


 直子は急いで皐月のステータスを確認すると、まだなんとか戦闘続行は可能だ。思わぬ奇策を受けてしまったが、決定的なミスではない。これからいくらでも挽回できる。


 すぐに冷静さを取り戻した直子はすぐさま追撃を指示するが。


「むっ、どこへ消えた?!」


 いつの間にか皐月の視界に叢雲はいない。


「言ったでしょ! ここがあんたの墓場だって!」


 上空から響く凛とした声。そこには大きく跳躍した叢雲が大剣を振りかざしていた。


「いけぇー! 叢雲ちゃん!」


「やぁぁぁあああ!」


 重力加速度と天之羽々斬の重量、それらが合わさった鋭い一撃が皐月の無防備な身体を襲う。咄嗟に回避しようとしたが、粉々に砕け散った大地では踏ん張りが効かずに跳び退ることができなかったのだ。


 大地をさらに砕いたのは礫で攻撃するためではなく、足場を不安定にして動き回れなくするためだったのだ。それが吹雪の、彼女が諦めずに叢雲へと託した作戦だった。


「……見事!」


 刹那の瞬間、彼女の装甲ではまともに受け切ることが出来ず、さりとて刀で受けようものならば真っ二つに折られると彼女のAIは判断した。そして、叢雲の強力な一撃を受けた皐月がその場に倒れ込む。





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