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「ヴェルグちゃん、飛翔する」
短い助走の後、フレイスヴェルグは背中のウイングを勢いよく開いた。と同時に下半身をロングスカートのように覆うスラスターを点火、加速度を増してフィールド上空へと舞う。
彼女が纏っているのは、あの日みんなに披露した武装と装甲だ。大きく開かれた漆黒の翼、空気抵抗を考慮した装甲は黒と銀が煌めく。今のフレイスヴェルグはまさに天空を駆ける猛禽類といっても過言ではない。
「ヴェルグ、まずは敵の数を減らしましょう。爆撃準備」
「ヴェルグちゃんは完璧に了解した」
美空の意図を短い指示で理解したフレイスヴェルグは上空を一度旋回した直後、殺到する標的くんの群れへと急降下した。標的くんが手にしたマシンガンからは豆鉄砲のような気の抜けた発射音が響くが、しかし何度も当たればそれなりのダメージになる銃弾が彼女を迎撃する。
「……見える!」
眼がキラリと光るエフェクト付きでキメ顔をとるフレイスヴェルグ。だが、言葉通りに彼女は対空攻撃を次々と避けていく。フレイスヴェルグの戦闘AIは分析・戦況把握に特化した構成で、武装もそれに合わせて索敵や探知、通信機能などが強化されている。
的確に敵の位置と数を見極め、最も効果が高いポイントを瞬時に割り出していく。そして、正確無比な姿勢制御によって狙った場所へと何か小さな物体をウエポンコンテナから投下。それは無誘導タイプの爆弾であり、円筒形に小さな安定翼が付いたオーソドックスな種類だ。
「……爆散!」
翼を巧みに操作し、急降下から反転。運動エネルギーを位置エネルギーへと変換していく。
眼下では爆風に巻き込まれた標的くんが何体も吹き飛ばされていた。
「ヴェルグ、次はターゲットリンク。アルテミスへ照準とレーダー情報を共有して」
「ヴェルグちゃん、処理能力をフルに発揮する」
猛禽類のくちばしを思わせるヘルムの両サイド、長く伸びたアンテナを介し、アルテミスと情報ネットワークを構築させる。上空から見下ろす敵の位置、分布は全て彼女へと伝わっていく。
「アルテミス〜? 上手くやってね〜?」
「わっかりました! ヴェルグちゃんさんからのデータを元に射撃プログラムを展開……凄い、これなら地球の裏側まで狙えそうですよ!」
遠くから叢雲の「そんなわけないてしょ!」というツッコミが聞こえるが、しかし激しい発砲と爆発音によってかき消されてしまう。
「オリオン・ボウ、バーストモード!」
アルテミスが叫び、両手で構えていた狙撃銃の銃身部分が上下に分かたれる。ガシャリと音を立てて変形し銃身がリムに、そこれスコープやグリップが取り付けられたアーチェリーのような形状となった。
左手でリムをしっかりと持ち、右手でグリップを握りしめながら引き絞る。それと同時に金色のエネルギーが収束し、矢の形状を形作っていく。
「シュート!」
アルテミスは自身の名前の由来となった女神さながらに、フィールド上空へと向けて一撃を放つ。鋭く飛翔したビームの矢は放物線の頂点に達すると、無数の小さな矢に分裂して敵へと降り注ぐ。
フレイスヴェルグのデータから算出した狙いはただの一発も外れる事はなく、全弾が標的くんの胴体を精確に穿っていた。
「わ! アルテミスちゃんもヴェルグちゃんも凄ーい!」
「ふふ、ありがとうね〜」
「ヴェルグがみんなの役に立てたなら幸いです」
「ふむ。ヴェルグちゃんの索敵とアルテミスの射撃コンビネーション、これは強力デス!」
「ちょっと、あんた達! 私の八面六臂、快刀乱麻の活躍を忘れてないでしょうね?!」
声がする方、そこにはビルとビルの間、大通りの中央に佇む叢雲が。そしてその視線の先には大挙する標的くんの一団が。
「む、叢雲ちゃん! 前、前! 敵が来てるよ?!」
「吹雪、少しは落ち着きなさいな。この私を誰だと思ってるのかしら?」
肩に担いだ大剣、天之羽々斬を手に不敵な笑みを浮かべる叢雲。すると彼女は深く身体をしゃがませ、一気に地面を蹴り飛ばす。
「やぁぁああ!」
一閃。横薙ぎに大きく振り抜いた天之羽々斬はその分厚い刃と長い刀身による切断力を遺憾無く発揮し、5体の標的くんを纏めて両断してしまった。
「まだまだいくわよ!」
振り抜いた大剣の遠心力を利用し、そのまま背後に回り込んだ標的くんを弾き飛ばす。続けて上段からの袈裟斬り、鋭い突きを繰り出して接近する敵を蹴散らしていく。
「凄い、凄いよ叢雲ちゃん!」
吹雪の称賛が聞こえ、ニヤリと口角が上がる。叢雲はさらにギアを一段上げたとばかりの猛攻を仕掛けていく。彼女の体捌きと剣技は相当のもので、素人目にも叢雲の強さを感じとるには十分だった。
「ふふん? どうかしら? 私の実力は……あら?」
叢雲が大剣をカッコよく構えてドヤ顔を決めているうちに、いつの間にか標的くんの包囲網が形成されていた。彼女の周囲360度に敵が立ちはだかる光景は、さながら映画かアニメのワンシーンだ。
「わ、わ! 囲まれちゃったよう!」
「だから、慌てるんじゃないわよ。そうそう、この天之羽々斬……名前と一緒に、使い方も少し思い出せたわ」
そう言うと叢雲は両手で持った天之羽々斬を水平に構えた。そして一気に身体ごと大剣を振り抜き、まるで独楽のようにその場で一回転。
「十種雲形・巻層雲!」
瞬間、天之羽々斬の軌跡から薄白いビームが全周に放射され、叢雲を中心に広範囲の標的くんが吹き飛ばされた。恐ろしく切れ味の良い円形ノコを思わせ、あまりの威力に近くのビルが切断されて少し斜めにズレてしまった程だ。
「続いて、十種雲形・巻雲!」
上段から一気に大剣を振り抜く。そのビームが斬撃状に形成され、一直線に敵の群れへと襲いかかる。まさに飛ぶ斬撃といったもので、叢雲が最初から遠距離武器を持たない理由の一つがこれだった。
「天之羽々斬は大きな刀身にビーム兵器のパーツが内蔵されてるんデス。なのでこのように斬撃をビームとして発射できるんデスねー。コイツの製作者はきっと変態デス」
「え……? 私の叢雲ちゃん、カッコ強すぎじゃない……?」
「誰があんたのものよ、私は私のもの!」
文句を言いながらも残りの標的くんを蹴散らす叢雲。その戦いぶりはまさに鬼神か武者巫女か。一騎当千とは彼女の為にあると錯覚するには十分な活躍だった。
* * *
「これで最後!」
天之羽々斬がラス1の標的くんを左右に両断する。ぱぁっと光る粒子に変換され消えていく標的くんを背後に、叢雲は大剣を背中のホルダーに納めてカッコよく決めている。
『ミッションコンプリート!』
バトルフィールドから合成音声が流れ、吹雪らの目の前に経過時間やスコア、撃破数といったリザルト画面が表示される。次第にビル群の映像もモザイク状に消えていき、元の真っ白なフィールドへと戻っていく。
「なかなかやるじゃないデスか、お前ら。愛宕とアルテミスに匹敵するスコアを記録するとは、なかなか出来ることじゃないデスよ」
「まぁ本当! アルテミス~これは私達もうかうかしてられないわよ~?」
「むっ、これは更なるトレーニングが必要ですね!」
「ヴェルグ、お疲れ様。装備に違和感はない?」
「大丈夫、マスター。すこぶる調子が良いとヴェルグちゃんは自己診断する」
「叢雲ちゃん、カッコよかったよー!」
「ふん、当然ね。でも、アルテミスに撃破数で負けるなんて……今度は私が勝つわ!」
ドールとマスターはそれぞれ互いを労う。先生はその様子を感慨深げに眺めつつ、それでいてきちんと顧問としての仕事をこなす。
「愛宕は特に指摘する所はないデスね、流石デス。葛城もヴェルグちゃんとアルテミスをデータリンクさせる手腕は見事デス。ただ、もうマスターとして少し視点を広く持つともっと戦闘を有利に運ぶことが出来るようになるデス。この辺は場数を踏んで感覚を掴むデスよ」
「そうですね先生、次からは意識してみます」
「せんせいっ! 私は?! 私と叢雲ちゃんは?!」
「叢雲はなかなかどうして戦闘経験値の豊富なドールですし、接近戦はかなりのレベルのようデス。ただし……」
「ただし?」
「吹雪、オメーはまだまだひよっこデス! 殆ど叢雲が勝手に戦闘を進めてたじゃないデスか! あと叢雲! オメーはもう少し仲間と連携することを意識するデス! ヴェルグちゃんかアルテミスに援護を求めればそもそも敵に包囲なんかされる状況にはならなかったデス!」
「うう、怒られた……」
「う、うるさいわね! 私はあの戦い方が性に合ってるの!」
「ええい、つべこべ言うなデス! これはみっちりと指導が必要デス! 愛宕、葛城! お前らも吹雪たちの特訓に付き合うデス!」
「分かりました先生。すぐに特訓メニューを考えましょう」
「あらあら、これは大変ね~?」
「叢雲さん、私達もバックアップしますからどんどん頼ってくださいね!」
「同意。ヴェルグちゃんは支援が得意」
「……気が向いたらね」
プイとそっぽを向く叢雲。だが、フレイスヴェルグとアルテミスはその様子を見てほほ笑む。まだ短い付き合いだが叢雲の性格からして素直に援護を要請する筈がない。
「叢雲はやはりツンデレ。テンプレ乙」
「ちょっ?! ……いい度胸ね、フレイスヴェルグ! あっ、待ちなさい!」
「拒否。ヴェルグちゃんは逃走する」
広いフィールド状で追いかけっこし始めるフレイスヴェルグと叢雲。それを見て思わず笑いだす吹雪たち。
部室の窓からは夕日の赤が差し込み、そろそろ下校時刻だ。
ゆっくりと、しかし着実に実力をつけるドールとマスターたち。彼女たちの戦いは続く。




