5-2
5-2
「完成ッ! デス!」
「これで完璧ですね……! やりました!」
先生と美空はハイタッチしながら歓声を挙げる。美空がここまで大きな声を出すのは珍しく、思わず吹雪らはそちらの方を見てしまう。
「ホラ、吹雪! こっちに来るデスよ!」
「叢雲さんの装甲が完成しました。ようやくお披露目です」
美空と先生がおいでおいでする先、作業台の上には新品の装甲を纏った叢雲が凛々しく立っていた。
「わぁ……! 叢雲ちゃん、カッコいいよ!」
「ふん、当然よ。この私を誰だと思っているのかしら?」
叢雲はいつもの巫女装束の上からいくつか軽装な装甲を取り付けていた。全体的なカラーリングは青と白で統一されており、彼女のクールな雰囲気によくマッチしている。
額には鬼のような角が生えており、よく見ればそれは何かのメカデバイスだった。レーダーかアンテナだろうか。
「あらぁ〜! 叢雲ちゃん、よく似合ってるわよ〜!」
「わ、凄いですね! 叢雲さん!」
「流石はヴェルグちゃんのマスター。マスターは工作が得意」
吹雪の後ろから覗き込む真理達も絶賛する。そんな周囲の反応に叢雲はつい気を良くしたのか、どんどん上半身を仰け反らせていく。
「叢雲さんは大剣をメインウエポンとし、その他の武装を考慮していないAI構成でした。つまり、大剣一本で敵陣を強襲するバトルスタイルを得意としているわけですね」
「なので、全体的に軽量かつ動き易さを重視した装甲形状にしてみたデス。バイタルパートである胴体はもちろん、腕部及び脚部は最小限のカバーで最大限の防御力を発揮するよう工夫してみたデス」
美空らが説明するのと同時に、叢雲は背中に背負っていた大剣を抜き放ち構える。なるほど、先生が言ったように、大剣を振ったり構えたりするのに合わせて各部の装甲が分割、もしくはフレキシブルに可動することで無理のない動きになっている。
見ようによっては、武士が纏う鎧甲冑の一部を着込んだ巫女さんに見えなくもない。
「……! ふぅ、なかなか動きやすくていいわ。私の戦い方は機動力重視だからこれくらいが丁度いいわね」
「うんうん、叢雲ちゃんの動き、凄く良いよ! ありがとう美空! 先生!」
ぱあっと満開の花のような笑顔で美空に抱きつく吹雪。少し驚いた美空だが、しっかりと彼女を受け止める。
「あ、そうデス。叢雲のこの大剣なんデスけど、ちゃんと名前があったデス。銘まで彫ってあって凝ってるデス」
先生は叢雲から大剣をヒョイとつまみ上げると、慣れた手付きで刀身と鍔、柄に分解していく。
「わ、なんだか本物の刀みたい! って言っても、本物はよく知らないんだけどね!」
「ちょっと! 後できちんと元に戻しなさいよね!」
「ハイハイ、分かってるデスよ。っと、これデス」
先生が手のひらに乗せた大剣の刀身。そこには彫刻刀のようなもので刻まれた銘が。
「えっと……『天之羽々斬』……?」
「アメノハバキリ……日本神話に登場する剣のことですね。スサノオという神様が持っていた剣とされ、ヤマタノオロチ退治にも使われた剣です」
「へぇ〜なんかすっごい剣なんだねー」
「フフン、私にピッタリな由来じゃない。大蛇だろうがドラゴンだろうが返り討ちにしてやるわ」
「あら〜自信満々ね〜? それじゃあ叢雲ちゃんの武装が完成した事だし、性能確認も兼ねて模擬戦でもしない〜?」
言うが早いか、真理は既にバトルフィールドの電源を入れ、コンソールに向かって各種設定を打ち込んでいた。
「そうですね。吹雪さん、叢雲さん、慣らし運転代わりにやりましょう?」
「そうだね、美空! 叢雲ちゃんも良いよね!」
「当然よ、改めて私の本当の実力を見せてあげるわ」
「おっし、そういう事ならこの私が敵役の設定をしてやるデス。愛宕、ちょっとそこ退くデス! ええい、その大きな尻を向こうにやるデス!」
「ちょっ! 先生、そんな所触らないで〜セクハラよ〜!」
* * *
……ブゥウン……
低い唸りをあげてバトルフィールドの投影が完了する。今回は近代的なビル群が特徴の都市が舞台のようだ。
そしてそれぞれ3人のマスターはフィールドの同じ側に集まっている。基本的にBDGは対人戦がメインだが、こうしてフィールドの設定で対COM戦も行えるのだ。ちなみに、吹雪たちが入学式の日にBDG部に訪れた時も真理とアルテミスはこのCOM戦で戦闘訓練を行っていた。
「さて、改めて今回のルールを説明するデス。叢雲、ヴェルグちゃん、アルテミスは同じチームとしてコンピュータが設定したNPCを撃破していくデス。一定の数を撃破した時点でクリアというわけデスね」
「ようは襲いかかってくる奴らを片っ端から倒せばいいんでしょ? 楽勝だわ!」
「端折りすぎ。叢雲は脳筋の疑惑アリとヴェルグちゃんは分析する」
「誰が脳筋よ、誰が!」
「ふ、ふたりとも! 敵が来ますよ!」
あわあわと叢雲とフレイスヴェルグの間に割って入るアルテミス。わたわたしているドール達目掛けて敵であるNPCキャラが大挙して走ってきた。今やその数はバトルフィールドの三分の一を埋め尽くすほどになっている。もちろんそれらは全て映像であり、実体は存在しない。それゆえ、これだけの数を出現させることが出来るのだ。
敵として設定されているのはいかにも雑魚っぽこくて安っぽい造形をした鈍色のロボットだ。ブリキのおもちゃ然とした円筒形の胴体、ジャバラの腕と足、頭部はドーム状の形にどこか憎めない顔……のようなものが付いている。正式な名称はあるはずなのだが、殆どのマスターは『ブリキ缶』だとか『バケツ』と呼んでおり、唯一まともなあだ名が『標的くん』なほどだ。
「アルテミス! 貴女の本気を皆にみせてあげて〜!」
「っ! 分かりました、真理!」
マスターの指示を受け取り、アルテミスはその場にしっかりと立つ。彼女が纏うのは、アースカラーをメインとした分厚い装甲だった。まるで現代的な戦車が人型になったかのような直線的で無骨な、しかしそれでいて機能的なデザイン。
これが彼女の本気装備、以前に叢雲とフレイスヴェルグと模擬戦をした時とは異なる、真の姿だった。
アルテミスの背部バックパックからはキャノン砲とガトリングガンが一門ずつ、肩や脚部にはミサイルコンテナが装備されており、メインウエポンとして両腕で構えているのは長い銃身の狙撃銃オリオン・ボウだ。
まさに動く要塞、あるいは火薬庫。動くものは全てがマト、圧倒的な火力でフィールドを支配する狩猟の女神様。
「叢雲さん、ヴェルグちゃんさん! 少し離れててくださいねっ!」
二人が返事をする前に、アルテミスは全ての兵装を起動させる。
「いっきまっすよぉぉぉおおお!!」
コンテナのハッチが一斉に開き、無数のミサイルが飛翔する。次いでキャノン砲からは白煙と共に榴弾が、砲身が勢いよく回転し始めたガトリングガンからは銃弾が雨あられのように発射された。
立ち並ぶビルにミサイルが着弾し、小規模な爆発がいくつも連鎖する。爆風やビルの破片で標的くんがまとめて十数体は消し飛び、運よく逃れたとしても榴弾がまき散らす大量の破片かガトリングガンの餌食となっていく。
そして狙撃銃の銃口からは極細のビームが放たれ、近づいてくる標的くんの胴体を的確に撃ち抜いていく。激しい射撃の中、アルテミスはしっかりと照準を定め、一つ、また一つと引き金を引いていった。
「ちょっと! これじゃあ無茶苦茶よ!」
「物凄い火力……雑魚敵とはいえ、こんなに蹴散らすなんて」
「二人共、油断は禁物ですよ!」
押し寄せる波を押し返すかのようなアルテミスの射撃だが、大軍となった標的くんの進撃速度は止まらない。それどころかビル群を抜けて両サイドから回り込もうとしているではないか。
「叢雲ちゃん、敵があっちこっちから来るよ!」
「ヴェルグ、あなたも迎撃に移って」
マスターからの指示で叢雲とフレイスヴェルグは同時に走り出す。
「私は右翼! フレイスヴェルグは左翼を、アルテミスはそのまま中央で敵の勢いを削いで!」
「了解。マスターの指示が一番だけど、叢雲の判断も聞き入れるヴェルグちゃんなのであった」
「こっちは任せてください! 二人とも、気をつけてっ!」




