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第五話「これが私の装備……悪くないわね!」

第五話


「うーん……うーん……」


 いつもの放課後、いつものBDG部部室。そこでは吹雪が机に向かってウンウン唸っていた。


「それでね〜? マスターの指示を受けてドールは自らの判断で行動するんだけどね〜? 案外、人間の出す指示ってファジー(あいまい)な表現が多いの〜。たとえば、敵の攻撃が来たときに私がアルテミスへ向かって『右』って叫んだ時、彼女のAIは複数の可能性から……」


「うーん……うーん……」


「ま、真理! 吹雪さんの頭から煙がっ!」


「あらあら、少し休憩しましょうか〜。アルテミス、あなたもそろそろ電池が減ってる頃だし、少し充電してきたら〜?」


「了解です! 電池残量……23%……授業を再開するときは呼んでください!」


 アルテミスが向かったのはドール用充電デバイスだ。円形の白いお皿のように見えるソレは、ドール内部にある全固体電池をワイヤレス充電できるようになっている。形状はいくつかバリエーションがあり、他にもベッドや椅子のようなオシャレな家具タイプも販売されている。


「ヴェルグちゃんは電池まだある。吹雪、これ飲んで気分転換」


 代わってフレイスヴェルグが吹雪と真理の下へやってくる。抱きかかえるようにして持ってきたミニペットボトルを吹雪は受け取ると、すぐさま蓋を開けて一気に喉へと流し込む。


「ぷはぁ……あ〜糖分が脳に染み渡るよ〜!」


「5分休憩したら再開するからね〜」


「ゔっ……真理さん、結構スパルタ……!」


「あら〜? なんでもやるって言ったのは吹雪ちゃんよ〜? それにこれでもかなり噛み砕いて解説してるんですからね〜?」




 吹雪らの通う桜ヶ丘第一高等学校の廃校案を回避する為、夏に開催される公式大会優勝を決意したあの日から一週間。


 BDG部の面々はそれぞれに自分のできる事を始めていたのだ。


 吹雪は真理とアルテミス、フレイスヴェルグらにバトルドール・ガールズの戦闘についてのレクチャーを、美空と先生は叢雲の装甲を製作している。


「先生、肩の装甲はこういう形状に……」


「いやいや葛城、大剣を振るう時に邪魔にならないよう、ここをこう分割してデスね……」


「なるほど……こういう方法が……ではそれに合わせて手甲ももう少し小さくしますか?」


「デスね。叢雲の動きを阻害しないよう、なるべく軽量かつフレキシブル、それでいてカバーできる範囲を最大限に広げるデス」


「……もう好きにひて……」


 どうやら装甲形状について白熱した(?)議論が交わされており、その代償として叢雲はアクションフィギュアよろしく全身の関節を弄りたい放題にされていた。


 先生は自前のノートパソコンにインストールされている3Dモデリングソフトを起動し、次々と複雑な形状を作り込んでいく。吹雪にはどういう作業しているのか分からなかったが、おそらくあれで図面を作っているらしかった。


「向こうは楽しそうだねー!」


「疑問。叢雲がおもちゃにされてるだけ」


「さあさ、吹雪ちゃーん? そろそろ再開するわよ〜? さ、アルテミスも起きて〜?」


「むにゃむにゃ……真理〜どこですか〜」






 * * *






 その日の夜。


「叢雲ちゃん、今日もお疲れ様!」


「ほんっと、くたくたよ! 全身をいいように玩ばれて……!」


「あははは……。でも、そのお陰で叢雲ちゃんの武装がもう少しで完成しそうなんでしょ?」


 吹雪が一人暮らししているアパート。その一室。


 築10年の、古いとも新しいとも言えないそこそこな物件。両親が海外へ行ったり来たりの生活をしている為、こうして吹雪が学校に通うために賃貸アパートを借りているのだ。


 女子高生一人とドール一体が暮らすには丁度な間取り。引っ越して間もないため、まだ私物が少なくスッキリとした印象の部屋で、女の子らしく可愛らしいカーテンやワンポイントの小物で飾られている。


 吹雪はお風呂から上がり、濡れた髪を丁寧にタオルで拭きながらベッドに腰かけつつローテーブルの上にいる叢雲と話していた。


「まあ、ね。これだけ身体を弄られてるんだもの、私にピッタリで優雅な装甲にするよう注文をちゃんとつけといたから。アンタも楽しみにしてなさいな」


「うん! 期待してるね!」


「……アンタは不安そうにしないのね?」


「んん? どゆこと?」


 吹雪の頭上にクエスチョンマーク()が浮かぶ。それを横目で見ながら叢雲はこの数日ですっかり定位置になったワイヤレス充電機能付ドール用ベッドに腰掛ける。部室で余っていたものを真理から貰ったのだ。


「大会優勝のことよ……。なんていうか、私があそこで発破掛けたからアンタは引くに引けなくなってないかと思ってね」


 叢雲が言っているのは、先生に吹雪の覚悟を試された時の事だ。先生に生半可な覚悟とやる気では、とてもではないが優勝など出来ないと言われた吹雪は思わず黙り込んでしまった。


 それを叢雲の言葉を受けて、彼女は大会優勝への決意を改めて固めたのだった。


「ん〜、不安なのは確かに不安だよね。だって、私はまだ叢雲ちゃんと出会って2週間ちょっとしか経ってないシロートだし。それに大会に出てくるような人は、きっと真理センパイみたいにすっごく強い人たちばっかりなんだろうし」


「…………」


「でもね、私は思うんだ。美空やヴェルグちゃん、真理センパイイとアルテミス、それから先生! みんなが居てくれれば、こんな私でも頑張れるって。あ、もちろん叢雲ちゃんもだよ?!」


「ハァ……アンタの頭はとことん能天気ね」


「ヒドい?! ……それにね、叢雲ちゃんを初めて見た時、ビビって何かを感じたんだ。うまく言えないんだけど……こう、叢雲ちゃんとならなんでも出来る気がしたんだ。そう! これは運命!」


「……ほんと、何言ってるのかしら。この子は」


 プイと思わず顔を背ける叢雲。しかし、その頬はやや赤みが。


「おお! ドールって内部の色相?を変化させて顔を赤らめたりするって本当だったんだね! かわいいよ!」


「なっ?! バカ! こ、これは……違うわよ!」


「ん〜! そんなこと言っちゃって〜! 叢雲ちゃんのツ・ン・デ・レ!」


「…………()マスター契約、やめようかしら」


「え、それって()マスターに昇格ってこと?!」


「違うわよバカっ!」


 今度こそ本当に怒ってしまったらしい叢雲はトスンとベッドへと寝転がる。人間のと同様、彼女の体型通りにマットレスがやや沈み込む。


「ゴメンゴメン……! もう遅いし、そろそろ寝よっか。おやすみ、叢雲ちゃん」


「……フン!」


 手早く髪の毛を乾かし、就寝の準備を整えてから照明を暗くする。自身のベッドに潜り込んだ吹雪は目を閉じながらほほ笑む。この数日の間、こうして叢雲と一緒に生活しているのだが、少しずつ彼女の事が分かってきた気がしてくるのだ。こういう事を言うと叢雲はスネてしまうので内緒にしているが、それでも彼女の態度にも険が取れてきている。


(よーし、明日もがんばるぞぉ……!)





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