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「そ、そりゃあ、私だってなんとなく……分かります。きっと、強い人がたくさん参加するんですよね」


「んなもん当たり前デス。いまやBDGはeスポーツの定番の一つに数えられているんデス、それだけ競技人口も多ければ技術も才能も無ければ簡単に勝ち抜くことは出来ないデス。そんな猛者たちを相手に、吹雪、お前はどれだけの事が出来るデスか?」


「れ、練習や特訓ならこれから!」


「大会に出るような奴らはそれこそ何年も激しい練習を続けているデス」


「それなら……叢雲ちゃんをもっと強くカスタムして!」


「ほほう? お前はさっき工作もろくにした事が無いと言ってたデスよね?」


「えっと、えっと……他には……」


 先生の言葉に思わず黙り込んでしまう吹雪。




(ちょっと、なんであの先生は吹雪を追い詰めるような言い方するのよ! 私がぶん殴ってやろうかしら!)


(どうどう。先生は生半可な覚悟では大会優勝は出来ないと言っている。ヴェルグちゃんは空気が読める子)


(私達は大人しく事の成り行きを見守りましょう……下手に口を出さない方が良いです、叢雲さん)


 ドールたちも先生のキツイ言い方に思う所はあるものの、それが決して間違っているとは思えなかった。事実、吹雪はドールのマスターとしては半人前であり、カスタム技術も未熟だ。そんな彼女が果たして大会優勝などと大言壮語していいものか。


「わ……私は……! 私は……」


「吹雪、お前の考えと気持ちは理解できるデスが、それだけで全国レベルの大会に挑むのは無謀デスし、これまで努力してきた他のマスターとドールに失礼デス」


「うぅ……」


 あまりの正論に吹雪はその場でうなだれてしまった。先生としてもこのような言い方は本意ではないらしく、少しばかり申し訳なさそうな表情が見え隠れする。


「ま、他の方法を……」


「ちょっと待ちなさい!」


 沈み切った空気を一太刀に斬り裂くかのような凛とした声。皆が声の主を探すと、それは果たして叢雲だった。


「黙って聞いていれば好き放題言ってくれるわね、先生! ()にも私のマスターに向かっていい度胸じゃないの!」


「なんデスか、叢雲。何か反論があれば聞くだけ聞いてやるデス」


「反論なんて大したものじゃないわ。私が言いたいのは一つだけよ……吹雪、よく聞きなさい!」


 そう言って叢雲は大きく息を吸い込み、あらん限りの声で叫ぶ。


「吹雪! アンタがやる前から諦めてどうするのよ! 相手が強くてこっちが未熟?! ちゃんと練習してる奴らに失礼?! ()()()()()知ったこっちゃないわよ!」


「……!」


「一つだけじゃない……」


「シッ! ヴェルグちゃん、静かにしてましょう!」


「いいこと? この私の仮マスターたるアンタはもっと相応しい振舞いが求められるの! もっと胸を張ってシャキンとなさいな! ()()()()()()()()()、心配しなくてもきっちり私が勝ち進んでやるわよ! それから、そこの先生に言ってやんなさい! アンタの気持ちを!」


 叢雲に発破を掛けられ、吹雪の瞳に力が戻る。相棒であるドールに、ここまで言われてはマスターとして下を向いているわけにはいかない。そして腰に手を当て仁王立ちになっている先生へと再び向き直った。


「先生! 私は先生の言う通り、初心者中の初心者です! でも、それでも大会に出て優勝します! それが、この学校を救う事に繋がるなら、廃校にならない為なら……私はなんだってやります!」


 どこまでも、どこまでも真っすぐな言葉。吹雪の眼に迷いは無く、きゅっと結んだ口はただの意地やその場の思い付きでここまで言っているのではないという証。


 平坦な道ではないのは承知、簡単に優勝が出来るはずが無い。


 でも。


 それでも、一筋の望みがあるのなら、吹雪は前に進む事を決めたのだ。彼女の相棒、叢雲と共に。


「……先生! 私も協力します、吹雪さんのカスタムは私が手伝いますから……!」


「美空……!」


「ふふふ~もちろん私も協力するわ~! 自慢じゃないけど、バトルに関してはこれでも自信があるのよ?」


「真理センパイ……!」


「ヴェルグちゃんはいつでもマスターに従う。その東日本大会優勝を望むのなら、それを叶えるだけ」


「わ、私も真理を手伝いますよ! いつでも練習相手になりますっ!」


「ヴェルグちゃん……アルテミス……!」


「これで決まったも同然ね。ま、この私が直々に戦ってあげるんだもの、優勝以外にあり得ないわ」


 吹雪の意志は固まった。美空とフレイスヴェルグの気持ちは一つ。真理とアルテミスは互いに頷き合う。そして、叢雲は揺るぎない自信を以て、皆が先生を見る。




「…………うむ、よく言ったデス! お前ら!」


 渋い顔をしていた先生の表情が途端に柔らかくなる。


「それだけ言ってのける気概と覚悟があるなら私は止めることはしないデス。それに、部活の顧問としてちゃんとバックアップしてやるデスよ。ただし、あれだけ言ったんデスから途中で投げ出したり諦めたりしたら許さないデスからね!」


「先生……! ハイっ! 私、叢雲ちゃんと一緒に……美空とヴェルグちゃん、真理センパイとアルテミスの皆と頑張ります!」


「美空、吹雪に武装や装甲のカスタムや製作をみっちり教えてやるデス、私も手伝うデスよ。それから真理はこれから毎日バトルシミュレーションで吹雪と叢雲を鍛えてやってくれデス。戦闘データはバッチリ解析してやるデス」


「美空、真理センパイ……未熟な私ですが、なにとぞよろしくお願いします!」


 二人に向かってペコリとお辞儀をする吹雪。


「私こそよろしく、吹雪さん。ですが客観的にみて私達には時間がありません。だから、かなりのスパルタになるので」


「覚悟しておいてね~? この前みたいにアルテミスも私も手加減はしないわよ~!」


「は、はひっ!」


「ふん、ちょうど良いくらいだわ。私の仮マスターなんだからそれくらいの()()()は耐えてみなさいな」





「そうと決まれば話は早いデス。まずは叢雲の装備を完璧にしなくちゃいけないデスね」


 先生はそう言いながら叢雲を自分の手のひらに乗せる。叢雲の武装と呼べるものは先日の戦闘で使った専用の大剣しかない状態で、このままではまともなバトルにはならないのだ。


「早速私の出番ですね。先生、叢雲さんのバトルコンセプトから決めていきましょう」


「ふふふ……久々に血が騒ぐデス……!」


「ちょっ……! あんまり変なのにはしないでよね?!」


「先生! 美空! 私は何をしていればいいでしょうかっ?!」


「そうデスね、吹雪はまず愛宕とアルテミス、ヴェルグちゃんとバトルの基礎を学ぶデス。なぁに、お前と叢雲の戦い方はだいたい察しがつくから、こっちは安心して任せるデス!」


「……叢雲さんは大剣装備……となると装甲は……ブツブツ……」


 すっかり叢雲の専用装備製作に頭が一杯なのか、美空はなにやら独り言を零しながらその場でクルクル歩き出してしまう。先生に至っては、昔の漫画かアニメに登場する悪役科学者ばりのアヤシイ笑みを浮かべて若干怯えている叢雲の方を見ていた。


「そうね~バトルの基本、ドールへの指示出しや戦術の組み立て方、相手の戦術予想、教えることは沢山あるわ~!」


「真理が楽しそうです! 私も気合が入りますっ!」


「ヴェルグちゃんはマスターのお手伝いがしたい……けど、ここは我慢。ヴェルグちゃんは我慢のできる子」


「お、お手柔らかにお願いしますー!」





 吹雪と叢雲を中心に、BDG部は結束を高める。


 目指すはバトルドール・ガールズ公式戦東日本大会での優勝。そして、桜が丘第一高校の廃校を阻止すること。


 その道のりは険しく困難を極めるだろうが、そうするだけの理由が彼女らにはあるのだ。


 どれほどの強者が立ちはだかるのか、どのような激戦が待ち受けているのか。吹雪らはまだ知らない。そんなものは知ったこっちゃない。そんな事で諦めたりしない。


 その思いを胸に、彼女たちは一歩を踏み出した。





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