40-4
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鋭い斬撃が次々と放たれる。陽炎[雪風]は必死に大剣で受けていくが先程までの精彩さは感じられない。おそらくエネルギー切れが近いのだ。
「……たとえ、エネルギーが少なくなっても……!」
「なかなかやるわね! それでこそよ!」
しかし防戦一方で終わる陽炎[雪風]ではない。腰にマウントしていた初風を手に、再び大剣との二刀流で立ち向かう。右から左から、そのコンビネーションはやはり脅威的としか形容出来ず、一瞬にして叢雲は防御側に回らざるを得なくなった。
だが、その一撃一撃は明らかに軽くなっている。エネルギーが尽き始め、とうとう常時バフ効果の割合が小さくなってきているのだ。
それを悟った叢雲は一旦大きな宙返りで間合いを外す。そして天之叢雲剣を思い切り振りかぶり、限界まで力を溜めた。
「これで決める!」
地面から爪先、足首、膝、大腿。下肢のバネを最大限に発揮し、まるで剛弓から放たれる矢のように加速する叢雲。狙うはただ一点。
「……私は! 負けない!」
それを迎え撃つ陽炎[雪風]。両手に握った大剣と初風を構え、一直線に向かってくる叢雲へと振り下ろした。
その瞬間、二人の知覚は処理速度の限界に陥ってしまったのか、とてもスローに見えた。
刃と刃が交わり合う。天之叢雲剣と初風が衝突し、いくつもの火花がゆっくりと生じ、爆ぜる。その直後、初風の峰を叩くように大剣がぶつけられ、その衝撃は三本の剣全体へと伝わる。
一拍の後、天之叢雲剣の中ほどにヒビが入り、そして真っ二つに折れてしまった。
『叢雲っ!』
吹雪の叫び声をどこか遠くに感じつつ、しかし叢雲はにやりと微笑んだ。
陽炎[雪風]の大剣と初風も同様に、折れるか砕けるかしていたからだ。
『陽炎!』
その時、陽炎自身は気付いていなかったが、彼女もいつの間にか笑っていた。
その後のバトルは、まさに筆舌に尽くしがたい、いや、技巧も駆け引きも有ったものでは無い『タダのケンカ』というのが一番正しい表現だろう。
両者とも武器を喪失、いや武器ならばまだある。互いに殴り、蹴り、相手がフラつき隙を見せれば容赦無く攻めたてる。朦朧とした叢雲が頭突きを繰り出せば、お返しとばかりに陽炎は目潰しの砂を投げつけた。
まさに泥仕合。素手同士ゆえ、なかなか残り少ないHPも減っていかない。あまりの展開に、解説兼進行役兼審判でもあるバト子ちゃんが試合を止めようかと逡巡するが、二人の気迫に思わず冷や汗をかき後ずさりしてしまう。
「あんた! 本当に強いわね!」
「ぐっ……なら、さっさとダウンすればいい……!」
「がっ……?! そんなの、お断り、よッ!」
掴みかかった叢雲を無理矢理投げ飛ばし、倒れた所へ陽炎が肘打ちを振り下ろす。それを土に塗れながらも叢雲は足元を蹴り飛ばし、二人はその場でもみくちゃになってしまう。
二人共、無事な箇所は全身の何処にも無い。泥に汚れ、装甲も脱離し、髪の毛もグチャグチャだ。
叢雲の高積雲もとっくに効果が切れ、陽炎も常時バフ効果は無くなっている。エネルギーも殆ど底を尽き、彼女達を動かしているのはもはや気合と根性、それと譲れない意地という、およそ科学的なものでは無い。だが、現実として叢雲と陽炎は限界を超えてなお戦っているのだ。
『叢雲、いっけぇー!!!』
『陽炎……負けないで!!!』
二人のマスターが叫ぶ。その声を、意思を、願いを背に、二人のドールは拳を握り込む。恐らく、次の一撃で勝負が決まる。そう、誰もが確信した。
「……私は! 勝つ!」
「ふふ……アンタとのバトル、楽しかったわよ。陽炎」
叢雲の拳が淡く光りだす。完全にエネルギーが無くなるその直前、最後の力を振り絞り発動させるのは、十種雲形・高積雲。
高積雲とは、小さな塊が群れをなし、斑状または数本の並んだ帯状の雲のこと。すなわち、叢雲と呼ばれる雲でもある。
「優勝するのは! この私達! ブロッサムメイツよ!」
ほんの、ほんの僅かな差。高積雲の効果によって、ごく微量ながら叢雲の拳が先に届いた。いや、そんなものは関係ないのだろう。ただ叢雲の、ブロッサムメイツの想いが強かった、それだけの事なのだ。
『クッ、クロスカウンター?!?! 果たして……勝者は……?! チーム・黒風白雨の陽炎か?! それともチーム・ブロッサムメイツの叢雲か?!』
興奮を隠しきれないバト子ちゃんは、しかし静かに勝負の行方を見守る。同時に倒れた二人のうち、先に立ち上がったのは。
「いったー……傷跡、残らないわよね?」
『黒風白雨、陽炎……撃破! 従って勝者は、チーム・ブロッサムメイツーっ!!!』
『叢雲、やったね! 優勝だよ?! 私達が勝ったんだよ!』
「吹雪、そんなにはしゃがないの……ほら、勝者は堂々としてないと」
『でも、だって……私達……ぐすっ……』
「あーあー、泣かないの……もう、困ったマスターだわね」
『やりましたね、皆さん。ヴェルグもお疲れ様でした』
「むくり。やれやれ、叢雲の戦い方はヒヤヒヤさせられる。しかし……よくやった、叢雲。ヴェルグちゃんは素直に褒めてあげる」
「……ぷっはぁー! あれ? 試合終わっちゃいました? え? ど、どっちが勝ったんです??? 真理ー?!」
『あらあら、アルテミスはお寝坊さんね〜。大丈夫、私達が勝ったのよ〜!』
起き上がったアルテミスらも嬉しそうな様子で勝利の喜びを分かち合う。観客席の盛り上がりも最高潮に達し、割れんばかりの歓声が響き渡る。そんな中、マスターブースに近づく人影に吹雪は気付いた。
「あ、シューちゃん……」
そこにいたのは、陽炎を手に抱いた秋華だった。一瞬、吹雪はどう話しかけていいものか戸惑ったのだが、つぶやくように秋華が口を開いた。
「ブッキー、あの時は……その、ごめん」
「ふぇ?! あ、あの時って?」
「ほら、予選大会の時……ブッキーが言った優勝するって話。あの時は、えっと……」
「ああ、いいよいいよ。私は全然気にしてないし。それよりさ、すっごく強かったよね陽炎ちゃん!」
「え? あ、ありがとう……その、そっちの叢雲……も強かった。いや、実際負けちゃったんだけどさ」
「ふん、気安く呼んでくれるわね、人の名を!」
いつの間にかマスターブースに戻っていた叢雲は腕を組み、尊大な態度で仁王立ちしていた。だが、吹雪の手に掴まれ、そのままいつもの定位置に載せられた。
「こ~ら~? 叢雲、シューちゃんにそんな態度しちゃ駄目だよー!」
「むぎゅ! こ、こら! かっこ悪いから降ろしなさい!」
「ふふ……二人は仲がいいのね?」
「どこが!」
「そうだよ!」
ギャーギャーと騒ぎ出す叢雲と吹雪を楽しげに見つめる秋華。ふと手元の陽炎を見やる。
「陽炎。ブロッサムメイツは強かったね……」
「……うん。でも……」
「でも?」
「次は……勝つ。今度こそ」
「……うん、そうだね。次は私達が勝とう!」
『おめでとうございます! バトルドール・ガールズ東日本大会、優勝はチーム・ブロッサムメイツ! それではこれより表彰式を…………』




