40-3
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傷だらけの装甲、軋む関節。武装の大半は弾切れかエネルギー不足でまともに動かず、スラスターは左右でバランスが取れていない。
だが、それでも陽炎[雪風]は戦う。ただただ、勝つために。
「……そこっ!」
「っ……! 相変わらずキツイわね!」
刃が潰れて殆ど鈍器と化した大剣が振り下ろされる。本来の威力には遠く及ばないが、それでも直撃すれば大ダメージだ。
叢雲は天之叢雲剣を巧みに使い、その軌道を逸してやる。それでも勢いまでは殺せず、地面に叩きつけられた勢いで飛散した飛礫が彼女を襲った。
「このままじゃ、ヤバいわ……吹雪! 何か案は無いの?!」
『よしきた、まーかせてっ!』
マスターブースで吹雪はディスプレイを操作し、地形を読み取ったり叢雲のステータスなどを改めて自分チェックする。何か良い作戦は無いか、バトルの潮目を変える、何かが。
『吹雪さん、アレを使ってください』
『そうね〜もしかしたら、この状況を打破できるかもしれないわ〜』
『美空……真理センパイ……うん、分かった!』
既に自身のドールが撃破されてしまった美空と真理にできる事は殆ど無い。だが、吹雪は二人の意思をしっかりと受け取った。
『叢雲、この二つの地点に向かって! 今の陽炎ちゃんは遠距離武器が殆ど使えないから、一旦距離を離せば安全だよ!』
「分かったわ! あと、エネルギー管理よろしく!」
吹雪から送られたルート設定に従い、叢雲は一気に駆け出す。それを見た陽炎[雪風]は両肩から突き出した大型チェーンガンを構えるが――――
「……! 照準が……!」
片方は砲身自体が歪んでいるせいか、うんともすんとも言わない。もう片方のチェーンガンは弾丸が発射されるのだが、てんで見当外れな場所を狙っている。
吹雪の見立て通り、今の陽炎……いや、[雪風]ユニットはまともな戦闘能力を有していない。度重なる戦闘で各ユニットは機能停止寸前にまでダメージを負っているのだ、むしろこの形態を維持しているだけでも奇跡と言っても過言ではない。
「……それでも!」
逃げられる前に追いつけばいいだけの話。陽炎[雪風]は真っ直ぐ飛べないばかりか、スラスターがいつ止まるかも分からない状態にも関わらず、必死に叢雲へと追いすがる。
「……! なるほど、ね」
荒野を抜け、今は廃墟と見紛う都市フィールド。その中ほど、指定されたポイントの一つに到着した叢雲はそこに広がる光景を見て納得する。そして地面に落ちていた何かを手に取り、一瞬だけ目を伏せ――――そして、次のポイントを目指す。
続くポイントは森林フィールド。辺りは薙ぎ倒された樹木オブジェクトが消滅し、すっかり伐採されたかのような地形となっていた。と、そこへ不調なスラスター音を響かせながら陽炎[雪風]が追いつく。
「……時間稼ぎのつもり?」
「フン、この私がそんなツマラナイことするわけ無いじゃない。コレを借りに来たのよ!」
巫女服の懐から取り出したのは、フレイスヴェルグのマシンピストル・フギンだ。そのままトリガーを握り込み、タイプライターのような音と共に無数の銃弾をばら撒く。最低限の射撃管制プログラムしかインストールしていない叢雲だが、ただ撃つだけなら十分可能だ。
「……っ?!」
飛来する弾丸を避けるべく、咄嗟にスラスターを吹かす陽炎[雪風]。だが元々集弾性の低い銃器であるマシンピストル、しかも矢鱈滅法に叢雲が撃つのでどこへ来るのかが予想しにくい。
「あら?! このタイプの銃って結構楽しいわね! 癖になりそう!」
「……絶対に銃をもたせてはいけないタイプ……!」
右へ左へステップで回避する陽炎[雪風]。だがどこに飛んでくるか分からない弾丸を避けるのは至難の業だ。そのうちの数発が命中するものの、[嵐]ユニットの装甲に弾かれてしまった。
「……このくらい、ダメージには……!」
「あら、本当にそうかしら?」
大きく跳躍した陽炎[雪風]は、突然にバランスを崩してしまう。[天津風]ユニットの大型ウイングが、ベキリと音を立てて砕け散ったからだ。
叢雲の放ったマシンピストルはその殆どが避けるか弾かれてしまったが、ほんの数発が大型ウイングへと命中していたのだった。本来ならば小口径が何発か被弾した程度ではここまで破壊できない。だが、フレイスヴェルグの作戦と攻撃がダメージを蓄積させていたのだった。
「……まだ、ウイングが壊れただけ……!」
「残念ね、私のターンはまだ終わっちゃいないわよ!」
そう言い放つと同時に叢雲はダッシュ、少し離れた目標地点に倒れているアルテミスごとキャノン砲をぐいと持ち上げた。
「……なっ……?!」
「アルテミス、後で謝るわ!」
長剣の切っ先で基部を破壊し、まるでバズーカ砲のように肩へと担ぐ。だがしかし、そのままでは専用武装であるアルテミスのキャノン砲を発射出来ないはずなのだが。
『叢雲! ケーブルを天之叢雲剣に!』
「りょーかい!」
キャノン砲基部からだらんと垂れ下がったケーブル端子をむんずと掴み、そのまま天之叢雲剣、そのコアユニット部へと無理矢理ねじ込む。確かに、キャノン砲側のコントローラーを誤作動させれば発射できるかもしれないが、なんにしてもやる事が無茶苦茶だ。
「……そんな方法では絶対に発射できない」
「やれば分かるわよ、やれば!」
目視で狙いを付ける。だが、陽炎[雪風]も黙ってやられるわけにはいかない。スラスターを無理矢理吹かし、一気に距離を詰めようとした。
「このっ、このっ! 発射しなさいよ、このポンコツ!」
アルテミスが聞けば烈火の如く怒りそうなものだが、今は静かにスリープモード。しかし、やはりこのような方法では発射出来ないのか。
「……悪あがき……!」
「足掻いて何が悪いの……よ! こうなりゃ最終手段だわ!」
「……!」
天之叢雲剣に接続されたキャノン砲は、しかして弾頭が発射されることは無かった。ならば、このまま爆発させてしまえばいい。
強制的にエネルギーを送り込まれたキャノン砲は内部の弾頭にまでオーバーロードしてしまい、砲身内部で暴発してしまう。当然、その爆炎は至近距離にいた叢雲、そして今にも斬りかかろうとしていた陽炎[雪風]を巻き込んでいった。
そのダメージは両者ともに深刻で、特に陽炎[雪風]は[野分]ユニットのチェーンガンが基部から脱落してしまう。そして片膝を突き、どうにか倒れないようにするだけで精一杯のようだ。
対する叢雲もあちこちの装甲が吹き飛ばされ、天之叢雲剣もかなり傷ついている。エネルギーはまだ回復途中だが残りHPはかなり少なく、そしてなにより、彼我の性能差は未だ覆せていない。
一見すると互いに五分と五分の戦いではあるが、現在も常時バフ効果を受けている陽炎[雪風]の方がスピード、パワー、装甲……それら数値の上では若干有利と言えるだろう。
とはいえ、ここまでくればどちらが勝つかは誰にも分からない。バトルに絶対は無いのだ。
「……なんて……愚かな……自分までダメージを負って……」
「いたた……でも、あんたにもダメージは与えられたから良いのよ!」
『叢雲、大丈夫?!』
「大丈夫……じゃないけど、まだ戦えるわ!」
『ここが踏ん張りどころだよ! 陽炎ちゃんもかなりダメージ溜ってるし、次の一撃で勝負が決まる!』
「あら……吹雪の癖に、随分と落ち着いてるじゃない? この絶体絶命のピンチなのに」
「へへ……悪い? これでも私、叢雲のマスターだもん!」
「そうね……それでこそ私のマスター合格よ!」
長剣を握る手に力が戻る。その表情は凛々しく、美しく、そして不敵に微笑む。
視線の先には、今にも倒れそうな陽炎[雪風]が。しかしその瞳から闘志が消えることはない。
「……私は……秋華の為にも……絶対に勝つ……勝たなきゃ……!」
「あんた……その凄まじい気迫は買うわ。でもね、勝つ勝つって言ってるけど、その先を見てないと勝負には絶対に勝てないのよ」
「……どういうコト」
「私にとって勝つのは当たり前、多くの観客が私に向かって拍手喝采驚天動地、万歳三唱で褒め称えるっていう光景をイメージするのよ!」
「……意味不明。思考AIがバグってるのでは?」
「それにね、本当に強いドールは……どんな時でも真っ直ぐ前を向いてる本当に強いマスターがついているものよっ!」
『叢雲、エネルギーが五割まで回復したっ! 今だよ!』
叢雲の全身が光り輝く。最後のエネルギーを使った十種雲形・高積雲が発動したのだ。全身にエネルギーを漲らせ、見違える程の動きを見せた叢雲は天之叢雲剣を片手に陽炎[雪風]へと斬り込んでいく。
「……秋華がっ! 弱いはずなんて、ない!」
「フン、あんたのマスターがどんなヤツかは知らないけど、うちの吹雪はどんな時でも諦めないのよ!」




