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40ー2

40ー2


 避けられるはずのない一撃を避け、無尽の斬撃を放とうとする叢雲。


 回避か、それとも防御か。はたまた、反撃か。そのどれもが、今の陽炎[嵐]には不可能だった。


「……もう、エネルギーが」


 残された殆どのエネルギーをレールガンに投入したせいで、もはや殆ど動けないに等しい。もう、何も出来ずに斬られるのを待つだけだった。


 動け、動け。陽炎[嵐]の腕が僅かばかりに持ち上がるが、しかし、それだけだ。手にしている初風すら、持つのに精一杯。気を抜けばそのまま倒れてしまうだろう。


「もらった!」


 青白い軌跡を描きながら、エネルギー刃を纏った天之叢雲剣が袈裟斬りに振り下ろされる。このタイミング、角度、そして相対する陽炎はもう行動できない。勝利を確信した叢雲。


 だが、両者の間に割って入る影が。


「陽炎!」


 鋭い斬撃音が荒野に鳴り響く。そこに居たのは、前面装甲を両断された黒潮[天津風]だった。


「……黒潮!」


「流石、ね……今の一撃であれだけ残ってたHP全部削られるなんて……」


 力なくその場に倒れる黒潮[天津風]。追撃を覚悟していたが、どうやら叢雲の方もエネルギー切れのようだ。彼女もその場に膝を突き、苦しそうに顔を歪めている。


「陽炎、あのね? 私、バトルに勝つってこと、よく分かんなくなっちゃった。今までは楽しくバトルして、それで勝利するのが当たり前だったからかしら……」


「……黒潮、それ以上喋らなくていい。一旦、退いて体勢を立て直そう」


「ふふ、駄目よ。ここで退いたら本当に負けちゃうもの。だから、お願い……私の代わりに、勝って」


「黒潮!」


 わずかに残っていたHPが完全に尽き、黒潮のステータス表示が撃破の赤文字へと変わる。これでブロッサムメイツ、黒風白雨共に最後の一人同士となってしまった。


「最後の最後に……余計なことをしてくれたわね……ぐっ」


 長剣を杖代わりになんとか立ち上がる叢雲。しかし、エネルギーは少ししか回復しておらず、あまり激しい動きは出来ないようだ。


「でも、今度こそ終わりよ」


 通常のドールであれば時間経過でエネルギーは自然回復する。しかし、陽炎らは常時バフ効果を得るかわりに、そのエネルギーは自然回復しないというデメリットを背負っていた。こうなってはもはや、ただ撃破されるのを受け入れるしかない。




 * * *




「陽炎!」


 黒風白雨のマスターブースでは、秋華の悲痛な叫びが木霊する。HPこそまだ残っているものの、エネルギーは殆ど底をつき、武装の大半は使用不可能。装甲もだいぶ傷ついており、もう何度も攻撃を受け止めることは出来ないだろう。


「陽炎、よく頑張ったよ……もういい。もういいから……」


 その目は充血で真っ赤になり、その声は震えている。両隣にいる舞と風はその様子に声を掛けることを躊躇ってしまう。


『…………』


 ここから逆転の目など、存在しない。たとえ秋華が負けたくない、ここで終われないと思っても、マスターの気持ちだけではどうにもならないのだ。あくまでバトルドール・ガールズは、ドールが戦っているのだから。


『……私は、秋華の為に、勝ちたい。だから……』


 ディスプレイの向こうにいる陽炎が立ち上がる。ふらつきながら、しかしその瞳からは光が失われていない。その両脚には、まだ力が残っている。


「な、何を……陽炎!」


『武装……パージ』


 弱々しい光と共に、[嵐]ユニットがその場に落下していく。一体、陽炎は何をしようとしているのか。


『……秋華、()()を実行する』


「アレって……まさか?! 駄目よ、調整なんて全然できてないし、それに、今まで一度も成功しなかったじゃない!」


『……そんなこと、関係ない』


「でも!」


『でもじゃない!』


 陽炎の叫びに、思わず秋華は気圧される。あの大人しい陽炎が、マスターの言うことは何でも素直に聞く陽炎が。


『……今なら、叢雲の言った言葉の意味が分かる気がする。私は……私はマスターに反抗する。だから、見てて。秋華』




 * * *




『気を付けて、叢雲! 陽炎ちゃん、何かやるつもりだよ!』


「フン、そんなの見れば分かるわ……それより、エネルギーは?」


『今、二割を越えたとこ! 十種雲形はぎりぎり……残りHPも多くはないから、次が本当の本当に、最後だよ!』


 叢雲は目の前の光景にやれやれとため息を吐いた。今や、陽炎の周囲には朱、蒼、翠のパーツが取り囲んでいる。黒風白雨の環境対応ユニット、[嵐]、[天津風]、[野分]だ。


「まったく、最後の最後で厄介そうなのを……」


 それらの装甲や武装が入り乱れ、まるで竜巻のように陽炎を包む。大半のパーツは破損しているが、その中でも比較的無事な装甲片が光りだした。


「……()()()対応ユニット[雪風(ゆきかぜ)]」


 静かな声で陽炎がつぶやく。それと同時に、[嵐]ユニットの装甲、[天津風]ユニットの大型ウイングとスラスター、そして[野分]ユニットの大型チェーンガンが彼女の全身に装備されていく。


 全環境対応。それはつまり、近接格闘戦、高速空中戦、遠距離砲撃戦といったおよそあらゆる距離と戦闘方法を一体のドールに集約するためのユニット。それが[雪風]。


 大剣と初風・超振動ブレードのコンビネーションと、高推進力のスラスターによる圧倒的な機動力、そして大型チェーンガンの制圧力を併せ持つ、まさに()()の武装だった。


『……でも、完璧じゃないね。武装同士のバランスが……』


 吹雪の指摘する通り、全環境対応ユニット[雪風]は理想の武装を目指すあまり、それぞれの要素が非常に高いレベルで纏まっていなければ直ぐにでも破綻してしまうのである。高機動の為には装甲と武装を削らなくてはならず、しかしチェーンガンの重量、さらには近接に特化した可動域を備えた装甲と、それぞれが相反してしまい、それが原因で秋華は[雪風]の完成を見送ったのだ。


「あくまで理想、ね。そんなものは夢でしかないもの」


 さらに、これまでの激闘で各武装は限界に達している。果たして、まともな戦闘が出来るのだろうか。


『止めて陽炎! 無茶よ、そんな状態で!』


「……たとえ、未完成でも。たとえ、無茶だと言われても……私は戦う!」


 [天津風]ユニットのスラスターがオレンジ色の噴射炎を吐く。身体のあちこちが悲鳴のように軋み、真っ直ぐに飛ぶことも出来ない。だが、それでも陽炎[雪風]は叢雲へと吶喊する。


「ぐっ……この!」


 各ユニットに残されたエネルギーをかき集めても初風・超振動ブレードは機能しておらず、しかし叢雲へとその刀身を叩きつける。それを天之叢雲剣で捌くが、陽炎[雪風]の勢いに押されてしまう。


「私は! 勝ちたい!」


「吹っ切れすぎよ、あんたは!」


 がむしゃらとしか形容できない太刀筋は、しかし叢雲の行動を封じ込めている。これまでの戦闘で叢雲が負ったダメージも少なくはなく、下手に一撃を貰ってしまうと一気に不利となるかもしれないからだ。しかし、それ以上に陽炎[雪風]の気迫とでもいうべきものに圧倒されてしまっていた。


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