最終話 バトルドール・ガールズ!
最終話
「…………」
呆然と立ち尽くす黒潮[野分]。
足元には撃破されたアルテミスが。
「本当なら……私が撃破……されていた……」
その表情は暗く沈み、立ち尽くすほかない。
もし、アルテミスの武器が壊れなかったら?
もし、アルテミスの全武装が自身にのみ向けられていたら?
AIはもしものシミュレーションを繰り返し、その度に感情プログラムが停止しそうになってしまう。
『黒潮、しっかりして! あなたはまだ撃破されてないのよ。だから、早く陽炎を助けてあげて?』
「え、ええ……。[野分]ユニットの弾薬は殆ど使い切ったから……[天津風]ユニット、借りていくわね。不知火」
黒潮の全身が淡く光だし、その場に装甲や武装がパージされる。重々しい音だけが森林の奥に消えていき、そしてその向こうから紺碧の色をした装甲が飛来してきた。
「……相当のダメージ。ブロッサムメイツ、よっぽどの強敵だという事か……私も覚悟しなきゃいけないわね」
一瞬で[天津風]ユニットを纏い、調子の悪いスラスターをなんとか制御しつつ黒潮は宙に浮いた。万全ではないが、陽炎の支援くらいはできるだろう。
「絶対に勝つ……勝つって、なんなのかしら……」
その問いに答えるものはいない。ただただ、黒潮[天津風]のAIは自問自答し続けるのだった。
* * *
赤い砂塵が吹きすさぶ荒野。ゴツゴツとした岩が転がり草木は殆ど生えない、この荒涼とした大地に響くのは鋭い金属音。
「こ……のォ!」
「……見切っている」
叢雲が放った袈裟斬りを陽炎[嵐]は大剣の腹で滑らせて受け流す。しかし叢雲は姿勢を崩すことなくそのまま大剣を抑え込もうとするが。
「うわっ?!」
もう片方に握られた初風の超振動ブレードが鼻先を掠めた。陽炎[嵐]は右手に大剣を、左手に初風・超振動ブレードの二刀流を完璧に使いこなしている。
叢雲の予想では大ぶりな大剣に振り回されるのではないかと考えていたのだが、しかし相手はやはり黒風白雨だ。その遠心力を上手くいなし、それでいて大剣の振りをコンパクトにすることで叢雲と互角以上に立ち回っている。
「……そこ!」
大剣を叩きつけるように振り下ろし、叢雲はどうにか天之叢雲剣で受け止める。かなりの衝撃だが、吹雪特製のこの長剣はちょっとやそっとではヒビすら入らない。だが、陽炎[嵐]の狙いはこの次にあった。
「あ、危なっ! このっ! 止めなさいよ!」
大剣で叢雲をその場に留めつつ、初風をレールガンモードに切り替え至近距離で連射する。紫電を纏った刀身から放たれる加速弾体は叢雲の装甲を容易に貫く威力、一発でも喰らえば一気に不利となる。これを身体を思い切りよじって躱すが、装甲の一部が削られ、あるいは吹き飛んでしまう。
「止めろって言ってんのよ! 十種雲形・巻積雲!」
大剣を受け止めていた天之叢雲剣が淡く、青白く発光する。その刀身から九つのエネルギー弾が放射され、衝撃で陽炎[嵐]の身体ごと大剣を吹き飛ばした。
「……なかなかやる」
「相変わらずの上から目線!」
この機を逃すわけにはいかない。叢雲は一気に畳み掛けるため、全エネルギーを長剣に集中させる。
「十種雲形・乱層雲! 続いて、層積雲!」
十種雲形・乱層雲は蓄えられたエネルギーを叢雲の上半身にフィードバックさせることで瞬発力を増強、神速の斬撃を可能にする技だ。そして層積雲はエネルギーを刀身に纏わせることで斬撃の威力を高める。
今の天之叢雲剣は青白く輝く大剣となり、その一撃は天羽々斬をも軽く超えるだろう。それが目にも留まらぬ速さで振るわれるのだ。
「はぁぁぁあああ!」
一呼吸のうちに放たれた十の斬撃が陽炎[嵐]を襲う。両手に持った得物で防御するが、その一撃一撃はとても重い。あまりの威力に[嵐]ユニットの固有武装である大剣は徐々に刃が削られるほどだ。
「くっ……!」
後方へステップで回避した陽炎[嵐]は大剣を地面に突き刺し、肩に装備されたブーメランを投げつけた。
しかし、高速の太刀筋によって文字通り粉々に斬り刻まれてしまう。これでは時間稼ぎにもならない。
近接環境ユニット[嵐]の固有武装は一撃重視の大剣と牽制用にブーメランしか無い。これは黒風白雨のドール全員が複合兵装・初風を所持している事もあるが、本来の目的は武装を絞ることでコスト圧縮と、対応させる戦闘プログラムが煩雑になるのを防ぐ為だった。
「……だからといって!」
それが裏目に出た形だが、陽炎[嵐]はこれくらいで戦意喪失したりはしない。
一直線に突っ込んでくる叢雲に対し、初風・レールガンを構える。陽炎[嵐]は残り少ないエネルギーの殆どをレールガンの出力に回し、無数の斬撃をも貫通させるつもりなのだ。
コンデンサーが大きく唸り声を上げ、紫色の放電が初風の周囲に迸る。この一撃で叢雲を倒せなければ、おそらく黒風白雨の敗北が決まってしまうだろう。
「……マスターの為に! 絶対に負けたりしない!」
ぎりぎりまで叢雲を引き付けてから、そのトリガーを引く。キャパシティの限界まで蓄積したエネルギーは加速弾体へと驚異的な加速スピードを与える。その運動エネルギーは銃身と弾体の摩擦で一部がプラズマ化してしまうほど。
「フン! そんな覚悟、こっちはとっくの昔に済ませてるのよ!」
最大威力のレールガンを前に、叢雲の全身が青白い光に包まれる。十種雲形・高積雲が発動したのだ。
天之叢雲剣に蓄えられたエネルギーが叢雲の全身を駆け巡り、あらゆるパラメータが上昇する。陽炎ら、黒風白雨のドールは常時バフ効果を発動させる事でその性能を高めているが、高積雲は時間制限と多量のエネルギーを消費することでそれをさらに上回るバフを受けることが出来るのだ。
初風の銃口、トリガーを引く指、陽炎の視線。それらがゆっくりと、まるで動画のスローモーション再生のように見えた。
(叢雲、銃器の類は発射されてからでは避けられない)
(そうですよっ! あ、でも相手の眼を見ると弾を撃つタイミングは分かりますね! こう、撃つぞ!っていうのが伝わってくるというか……)
(アルテミス、その説明は不明瞭。ふむ、しかしその発想は面白い。叢雲、後でヴェルグちゃん謹製のプログラムをインストしてあげよう。これで銃口の向きや視線からおおよその弾道が分かるようになる……はず)
それは少し前の会話。ブロッサムメイツの特訓時に戯れに叢雲が言った言葉が発端だ。
(まったく……二人には感謝しないとね)
銃口から放たれた加速弾体は、本来ならばドールの視覚センサーでも捉えられない速さだ。だが、叢雲はその弾丸が見えたような気がした。
「見切った!」
「……なっ?!」
時間にすれば一瞬にも満たない、刹那。最大威力で放たれた加速弾体は青白い刀身によってその軌道を僅かに逸らされてしまった。
逸らされた角度はごくごく僅か。音速を超えるような速さの物体と剣が接触する時間など、刹那よりもさらに短い時間だ。だが、そのほんの僅かな角度でも、今の叢雲の身体能力であれば回避することは十分だった。
「これで終わりよっ!」




