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「あなたの火力は怖いけどね、一対一なら私のほうが上だったようね?」
まるでお茶会を楽しんでいるかのような笑みを浮かべる黒潮[野分]。実際、彼女のAIは楽しいという感情プログラムの占有率が増えていた。
『チャンスよ、黒潮! ここでアルテミスを倒せればブロッサムメイツの攻撃力は一気に落ちるわ!』
「はぁ……了解よ。仕方ないけど、このまま押し込んであげる!」
どこか物憂げなため息を吐きながらも、相変わらず各武装はこれでもかと弾薬を消費している。しかし、その仕方ないという気持ちは本当のものであった。これほど火力で真正面から撃ち合える相手というのはなかなか居ないし、このまま終わらせるのは勿体ないと思えるほどなのだ。
「真理! どーしましょう!? このままじゃあジリ貧ですよっ!」
『そうは言っても、この後の作戦もあるから弾薬は少しでもセーブしておきたいのだけれど~』
堪らずに脚部のホバーを起動し、滑るようにその場を離れるアルテミス。このホバー走行の利点は身体の向きを相手に向けたまま前後左右に移動できるため、常に装甲の厚い正面で攻撃を受け続けることが出来るのだ。さらに、各砲口もある程度の命中精度を犠牲にそのまま発射可能だ。
とはいえ、現状ではアルテミスが不利と言わざるをえない。唸りを上げるマシンガンは銃身過熱の警告音が鳴り止まず、キャノン砲はミサイルの至近弾でいくらか歪んだらしく先程から狙った地点を逸れ続けている。幸い、エネルギー消費はそこまでなのでオリオンボウはまだ連射可能だ。
「いた、いたたっ! 真理が作ってくれた自慢の装甲でも、この銃弾の雨あられじゃあ全部は防ぎきれません~!」
装甲を貫通するような一撃こそ無いものの、しかし少しずつ、確実にアルテミスのHPは削られていく。チェーンガンの銃弾が肩部装甲を激しく叩き、迎撃を免れたマイクロミサイルは足元に着弾して爆風と共に小さな飛礫を周囲に撒き散らす。
このままでは打つ手が無い。
「いっその事、賭けに出ますかっ……!」
『アルテミス、何をするつもり〜?』
「ふふふ、真理はそこで見ていてくださいっ!」
一度決めたら行動は早い。各武装を停止させ、アルテミスはホバーの出力を最大にまで上げる。砂埃と白煙を後方に吹き飛ばしながら一気に加速した。
「……? あの子、こっちに向かってきてるわね……?」
『逆転の一撃を狙っているつもりなのよ。黒潮、止めを刺してあげなさい』
もう少し心躍る銃撃戦が続けられると思っていた黒潮[野分]はどこかやるせない表情で射線を集中させる。ホバー走行のアルテミスはかなりの速度で接近してくるが、真っ直ぐこちらに向かっているだけなので照準は容易だ。
「いたっ! いたたっ! でも、我慢ですっ!」
「か、硬いわね……!」
既に通常のドールなら三回は撃破しているであろう弾薬量を叩き込んでいるにも関わらず、アルテミスの装甲はその役目を十二分に果たしている。とはいえ、直撃弾でなくともHPは削れていっているのだ。
「……かく、じつに……当てるため……にはっ! そこですっ!」
かなりの距離を接近したアルテミスは前のめりになりながら、背部キャノン砲をやや下向きに発射させた。当然、榴弾は黒潮[野分]ではなく、その少し手前で爆発する。
「きゃっ?!」
ダメージは殆ど無いものの、巻き上がった砂と爆煙で彼女の視界は真っ白になってしまう。
『目くらまし?! 黒潮、防御姿勢! それと自動迎撃!』
アルテミスの狙いはこれか、と風は悟り、黒潮[野分]は咄嗟に自身の身を守る。装甲の厚さに賭けた、一か八かの特攻攻撃。
しかし、[野分]ユニットの高性能レーダーは例え土煙だろうが爆煙だろうが、高度なジャミングでもない限りは接近する相手を簡単に捉えてしまう。あとはチェーンガンをターゲットと連動させれば。
「そこね?!」
自動で相手を追尾した砲塔からはモーターのような音と共に無数の弾丸がばら撒かれる。この近距離ならば細かい精度など気にせず、とりあえず撃てば当たるという勢いだ。
果たして金属の板が悲鳴を上げるような音が聞こえたのち、白煙の中から一条のビームが反撃してくる。
「今更そんな攻撃! これでおしまいよ!」
ビームは武装の一部を灼いたが、大したダメージではない。お返しとばかりに背部コンテナのハッチが次々と開き、整然と並んだマイクロミサイルが一斉射される。僅かな距離を上昇した後、ミサイルの群体は地上のアルテミス目掛けて――――
『?! ミサイルが……誘導されない?!』
マスターブースから風が見たのは、明後日の方向へとバラバラに飛んでいくミサイル達だった。
一つとして制御されていない、完全に無秩序なミサイルは周囲一帯へと着弾してしまう。これは一体どういうことなのか。
『そんな……アルテミスがジャミング兵器を装備しているなんてデータ、無かったはずだわ……!』
風の言う通り、アルテミスにはジャミング、及び電子戦の類は装備されていない。もしそうであれば、これまでのバトルで使用していたはずだし、武装を見た限りでは新しく装備していた様子もない。
「違うわ、マスター……。どうやらこちらの眼を潰されたみたいよ」
黒潮[野分]はそう言いつつ、背部ユニットを見せる。
『センサーが……! そういう事、だからダメージ覚悟で接近してきたのね……!』
そこには、先程のビーム攻撃で破壊された[野分]ユニット眼であり、耳でもある高性能センサー群の無惨な姿があった。
射撃に特化したドールは遠距離でも正確に的を狙えるよう、外付けでセンサーやレーダーを取り付ける。特に、ミサイルや迫撃砲などはセンサー類の補助無しにはまともに照準が付けられないのだ。
だからこそ、通常は狙われにくい背部へと配置するのが一般的なのだが、アルテミスはキャノン砲での目くらましの際に大きく回り込んでセンサーを破壊したのだろう。オリオンボウでの反撃で灼いた武装とは、まさしくこのセンサーだったのだ。
今の黒潮に残されたのは己の眼と耳のみ。自身のドールとして感覚センサーだけで手動照準を付けなければいけないし、この白煙の中からアルテミスを見つけなければいけない。
「くっ、この! ……どこに行ったの?!」
先程までの余裕もどこかへ吹き飛び、黒潮[野分]は初風を右へ左へ遮二無二な様子で向ける。あれだけ楽しかった銃撃戦も蓋を開ければなんてことは無い、自分が優位な銃撃戦だからこそ楽しかったのだ。
ホバーの特徴的な音は聞こえない。いくら静粛性があったとしても、この距離では簡単に居場所を特定されてしまう為に停止させているのだろう。
右か。左か。それとも後ろか。裏をかいて前から?
黒潮[野分]のAIは必死にアルテミスの行動を予測しようとするが、しかしフレイスヴェルグのように上手くはいかない。
まだか。まだ来ない。いっそのこと、この周囲を攻撃して先手を打つか?
思案し、演算し、しかし時がただ流れていくのみ。やがて砂煙が少し晴れだした頃、それは突然やってきた。
「やぁぁぁあああっ!」
「?!」
気勢を上げながら弓矢を構えたアルテミスが真正面から突進してくる。一瞬の反応が遅れた黒潮[野分]は、やや遅れて初風をそちらへと向けようとした。
(だめ、間に合わない?!)
オリオンボウ・アーチェリーモードに番えられたビームアローが淡く輝き出す。いくら初風・レールガンの初速が速かろうと、コンマ何秒かの差でビームが先に着弾する。もはや、間に合わないのだ。
「…………っ!」
黒潮[野分]は思わず目を瞑りながら、初風の引き金をがむしゃらに弾いた。
何度も、何度も。必死に、自分の負けを認めたくがない故に。
だが、予想していた被弾の衝撃と撃破メッセージは一向に流れてこない。不思議に思っていると、そこへ誰かが寄りかかるように倒れてきた。
「な……ど、どうして……?!」
そこには、初風のレールガンに貫かれたアルテミスが。見れば、手にしていたオリオンボウは破損している。
「う……さっきの攻撃で……壊れてた……みたいですね……」
アルテミスが黒潮[野分]のセンサーを破壊する直前に放ったチェーンガンの迎撃は、オリオンボウへとかなりのダメージを与えていたらしい。それがどういうめぐり合わせなのか、このタイミングで限界に達したのだ。
そして、レールガンの連射は残っていたHPを容赦なく削り取る。最後の最後まで、彼女自慢の装甲を貫通することは無かったのがせめてもの救いだったか。
『チーム・ブロッサムメイツ! アルテミス撃破ー!』




