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38-3

38-3


『アルテミス~? ()()攻撃は順調みたいね~』


「はいっ! 今の所、気づかれた様子はないですっ!」


 にっ、と悪戯な笑みを浮かべるアルテミスは背部キャノン砲から榴弾を連発しつつ、脚部のホバーでスイスイと移動していく。戦闘が進むにつれ周辺一帯の樹木はあらかたなぎ倒されてしまったので、今は少しでも身を隠そうとしているのだ。だが、目的はそれだけではない。


「……! ヴェルグちゃんさんからの位置データ取得っ! 発射のタイミングはキッカリ5秒後……3、2、1、いまっ!」


 フレイスヴェルグから受け取ったというデータを基に諸元入力、そして狙撃銃の形態となったオリオンボウを黒潮の方へ……ではなく、その遥か向こうの方へと撃ち込んだ。


「着弾まで二、一、……やたっ、また命中ですっ!」


『流石よ、アルテミス~! あなたの狙撃はドールでも一番だわ~!』


「でへへ……そんなことはありますっ!」


 虚空へと消えたオリオンボウのビームは果たして何を貫いたのか。


『アルテミス、今の狙撃はタイミングがコンマ1秒遅かった。危うく外れるところだったとヴェルグちゃんは分析する』


「ゔっ……いや、当たったんだから良いじゃないですかー!」


『そろそろバレるとはいえ、少しでもダメージを与えておきたい。もう少し正確に狙撃するように』


 むぅ、と頬を膨らませるアルテミスだが、その間にも各武装は絶え間なく射撃を続けている。


『まぁまぁ〜、アルテミスはよくやってわよ〜? だってこんな遠距離を他の誰にも気付かせずに狙撃してるんだもの〜()()()()()()に向けてね〜』


 そう、アルテミスが攻撃の合間に遠くに放った一撃、あれは外れたのではなく、遥か向こうでフレイスヴェルグと戦闘している不知火[天津風]を狙ったものなのだ。


 フィールド全体のおよそ三分の一の距離、さらに超高速で飛翔する彼女を正確に、それも眼前で戦っている黒潮[野分]やそのマスターに気付かせない絶妙なタイミングで狙撃。その難易度は計り知れない。さらには黒潮[野分]を攻撃しているように見せかけるため、その細かい位置取りも行いながらだ。


「おっと……またヴェルグちゃんさんからデータ受信ですっ! 今度は時間も指示通りに……っと!」


 いくらフレイスヴェルグの行動分析による未来位置の予測があったとしても、文字通り針の穴を通すような超ピンポイント狙撃が出来るドールはそう多くない。むしろ、この二人だからこそ出来る連携でもあるのだろう。


『アルテミス〜? そろそろ弾薬尽きそうだから〜10秒後に補給パック送るわね〜』


「了解ですっ! じゃんじゃんばりばり撃ちまくりますよーっ!」


 黒潮[野分]のマスターである(ふう)の予感は正しかったのだ。最初からアルテミスは攻撃力で劣るフレイスヴェルグを支援する為に超遠距離狙撃を行っていた。しかしそれではすぐにバレてしまうだろうと考えたブロッサムメイツは、アルテミスの武装特性に目を付けたのだ。


 それはつまり、彼女の武装が広範囲への支援に優れている反面、一箇所への火力投射が苦手という点だ。(本来は、それを補う為のオリオン・ボウの狙撃銃モードなのだ)


 適度に黒潮[野分]を攻撃しつつ、しかしその命中精度にバラつきを持たせる。そうすることで一発や二発、大きく逸れてしまっても相手は違和感を覚えにくい。現にアルテミスの大火力を警戒している(ふう)と黒潮らは、明後日の方向へと飛んでいった砲弾やビームの行方までは気にしていられない。


 そして、この作戦にはまだ次の段階が控えているのだ。





 * * *





 赤茶けた大地広がる荒野。遥か彼方に遠雷のような砲撃音をバックに鋭い剣戟音が奏でられる。


「ふっ! はっ! やあぁぁぁ!」


「……っ!」


 分厚い刀身を備えた大剣を器用に操り、まるで疾風のような斬撃を防いでいく陽炎[嵐]。そして容赦なく猛攻を仕掛けるのは叢雲だ。


「ほらほら?! さっきまでの威勢はどうしたのかしら?!」


 叢雲が振るう長剣・天之叢雲剣は、陽炎の得物と比するとやや貧弱に見えてしまう。だが、その強度と切れ味は勝るとも劣らず、むしろその軽さから息もつかせない連撃を繰り出せるのだ。


「……調子に……乗らないで……!」


 鬱憤を晴らすかのように陽炎[嵐]は大剣を思い切り地面に叩きつける。その衝撃は大地を容易に砕き、その破片はまるで散弾のように飛散する。


「その程度!」


 まともに喰らえば少なくないダメージだが、叢雲は十種雲形・層雲(そううん)を発動し、自身の前方へ強固なシールドを短時間発生させる。青白いエネルギー障壁は石礫を完璧に遮断し、そして煙が霧散するかのように消えていった。


「……まだまだ……!」


 防御姿勢のままワンテンポ遅れた叢雲へと肉薄する陽炎[嵐]。大剣の柄尻を鈍器代わりに叩き込もうという腹だ。


「甘いッ!」


 その程度の動き、見切っていたと言わんばかりに流麗な体捌きで叢雲は彼女を後方へといなしてしまう。思わずつんのめってしまった陽炎[嵐]は、しかしどうにか受け身を取ることに成功する。


 そこへ叢雲の油断ならない連続突きが襲う。それをゴロゴロと地面を転がって回避、[嵐]ユニットのブースターを吹かせてアクロバティックに宙返りで立ち上がった。


 そのまま両者は動かなくなる。お互いに自身の間合い、迂闊に攻撃を仕掛ければ反撃されると悟った二人はジリジリと牽制し合っているのだ。


 二人の戦いは互角、いや、明らかに叢雲が陽炎を手球に取っているように見えた。叢雲だけではない、フレイスヴェルグも、アルテミスも、黒風白雨を相手にバトル全体の主導権を握っている。予選大会の時とは立場が逆転したかのように、ブロッサムメイツが有利な展開へと進んでいるのだ。


『叢雲! その調子! 陽炎ちゃんを抑えておいて!』


「分かってる! それより他の二人は作戦通りなのね?」


 作戦通り。本来であれば、黒風白雨のほうが単純なスペックでは勝っているはずの戦いを、ブロッサムメイツは綿密に計画した作戦のみで凌駕しているというのだ。




『陽炎! 一旦距離をとって!』


「……了解」


 マスターである秋華の指示通り、初風のレールガンを牽制代わりに連射する。流石の叢雲も、牽制と分かっていてそこへ突っ込むほど愚かではない。果たして一時の膠着は破れ、そしてお互いに様子見の攻撃が散漫とする状況へと入った。


(あのドール……叢雲……予選の時より断然強いじゃないの……一体どういうことなのよ……!)


 秋華の思考はまるで蜘蛛の巣の如く複雑に絡み合う。物事をより深く分析し思案できる反面、それ以外の事が疎かになってしまうのは、彼女自身も悪癖だとは認識していた。


(どう対処する……? もし互角のままバトルが長引けば、エネルギー切れで不利なのは陽炎の方……いっその事、一か八かの勝負に出たほうが良いの?)


 その視野狭窄的な思考が、目の前で戦っている陽炎の姿を見えなくしている事に秋華は気付いていない。


「フン、あんたのマスターは忙しくて()()()()のようね?」


「…………」


「無口同士、お似合いって事かしら!」


 正中に構えた長剣を翻し、叢雲は大地を蹴る。左右にフェイントを入れながら一気に間合いを詰め、天之叢雲剣を横薙ぎに思い切り振り抜いた。


 叢雲の言葉にワンテンポ反応が遅れた陽炎[嵐]は、しかし全身のブースターを吹かしてどうにか回避する。だが、長剣の鋭い切っ先が装甲の一部に引っ掛かったらしく、バランスを崩して派手に転んでしまった。


「ぐっ……!」


「これも勝負のうちよ! 恨まないでね!」


 これを好機と見た叢雲はさらなる追撃を試みる。強襲や近接戦闘用にチューンされた[嵐]ユニットの装甲は多少の攻撃ではびくともしないが、それでも天之叢雲剣の一撃は侮れない。当たりどころによっては、このまま撃破もあり得るだろう。


(負ける?)


 迫りくる白刃を前に、陽炎のAIはひどく冷静だった。


 これまで、ありとあらゆる戦闘状況を想定した特訓の中には、こちらが圧倒的不利なシチュエーションも多くある。だが、たとえどんな困難な状況でも秋華が作ってくれた換装ユニットと戦闘プログラム、そして彼女の指示があれば突破可能だったし、陽炎の感情プログラムも常に正常値(冷静さ)を保っていた。


(ここで……負けたら……マスターの願いは叶えられない……)


 そんな陽炎のAIが今、処理しきれないデータによってフリーズ寸前にまで陥っている。


(私は……私は……!)


 その瞬間、陽炎のAIは昨夜、叢雲が言っていた言葉を思い出す。




あいつら(マスター)の代わりに身体張ってバトルしてあげてるんだから、吹雪が私に奉仕するのは当然だし、それでようやく対等な存在になるってものよ!』


『まぁ、分からなくても仕方ないわ。アンタみたいな、マスターの言うこと()()を素直に聞いているだけの奴にはね』


『アンタ、ひょっとしてマスターに口ごたえの一つもしたこと無いんでしょ? 一回くらい、反抗したほうがよっぽど健全ってものだわ』


『マスターとドールなんて、喧嘩の一つや二つくらいしてこそ背中を預けられる相棒になるってものよ。覚えておきなさい』






 突如、陽炎の全身が光り輝き、叢雲の身体は衝撃によって吹き飛ばされてしまった。


「いたた……。まったく……ようやく吹っ切れたってわけね?」


「そう……そうなのかもしれない。私は……そう、吹っ切れたのかもしれない」


 陽炎は纏っていた[嵐]ユニットや装甲群を周囲に浮遊させながら立ち上がる。相変わらずの無表情なのだが、彼女のその顔はどこか晴れやかだと叢雲は感じた。


『か、陽炎!? 危ない場面だったとはいえ、いま装甲パージしたらエネルギー消費が……!』


()()!」


「ひゃいっ?!」


 突然に名前を呼ばれた秋華は思わずブースにあるディスプレイの前で変な声を出してしまう。陽炎が今の今まで、彼女を名前で呼んだことなど一度も無かったからだ。


「秋華、あなたは本当に凄い。私たちにここまで戦える力をくれたし……色んな作戦を考えてくれた。だから……私は……勝つ。勝って、黒風白雨のみんなで勝って、秋華の凄さをもっと沢山の人に知ってもらいたい」


『陽炎……』


 表情や感情、性格に関連するプログラムはアセットのものに多少、手を加えただけの陽炎のAIはこれまで自己主張というものが殆ど無かった。彼女と接する上ですこし物足りなさはあったが、秋華もこれが陽炎の個性だと割りずっと切って接していたし、マスターの好みで無闇に性格をいじくり回すのは勝手がすぎると思っていた。


 だが、陽炎は秋華が思っているほど感情が無いわけではなかった。ただ、その表現の仕方が下手なだけだったのだ。


 そんな陽炎がこうまで言っているのだ、ここで応えてやらねばマスター失格だ。


『分かった……陽炎、勝って。勝って頂戴!』


「……任せて!」


 大剣を握る手に力がみなぎる。各部のダメージもまだまだ許容範囲、戦闘に支障はない。エネルギー残量は少々心許ないが、あまり問題にはならないだろう。


 一度パージした装甲群が再び陽炎の全身へと吸い付くように装着されていく。近接環境ユニット[嵐]の本領は強襲及び、近接白兵戦だ。一気に相手を制圧する能力には長けている。


「……叢雲、あなたは強い。でも、私の方がもっと強い」


 陽炎[嵐]は大剣と複合兵装・初風を二刀流に持ち、眼前の叢雲へと斬りかかっていった。


「ふん、ようやく本番って所かしらね!」


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