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「いちち……ヴェルっち、何処にいんのさ!」
『不知火、地上! ビルの間に隠れてるのかも!』
「……はっはーん、そゆこと? りょ!」
不知火[天津風]は一気に急降下、近代的な街並みが広がるビル群の隙間を縫い、フレイスヴェルグの姿を探す。一度光学迷彩の効果が切れれば再度使用可能になるまでいくらか時間が掛かる。出来れば今のうちに叩いておきたいところだ。
だが。
「なんで?! ヴェルっちどこにもいないじゃんか!」
ビルとビルの間や建物の陰、オブジェクトとして配置されている自動車や街路樹など、ドールが隠れられそうな場所は隈なく探していく。しかし、どこにもフレイスヴェルグの影も形もないのだ。
「どこにいんだよ〜! いだっ?!」
再びの攻撃。一度、上空から俯瞰しようと止まった所を狙われてしまった。
『そーだよ、不知火! あのフレイスヴェルグはドローン使いじゃん! どっかに潜んで攻撃させてるじゃね?!』
「おお、舞っちアタマいいー! そーと分かれば……見ーつけたっ!」
鋭い視線で不知火[天津風]はビルとビルの隙間から覗いているドローンを発見した。あれは偵察用ドローンで、攻撃能力は持っていない。しかし、今のうちに撃破しておけば後々に有利となるはずだ。
レールガンの二連射は目標を過たず命中する。黒煙を吐きながら落下していく偵察用ドローンを見やりながら周囲を警戒する。少なくとも、ドローンの類は光学迷彩の対象にはならず、そして攻撃する一瞬は必ずこちらへと砲口を向けるためにその姿を晒すはずだ。
「……そこォ!」
殆ど勘と言っても差し支えのないレベルの反射速度で不知火[天津風]はレールガンのトリガーを引く。そして紫電を纏った加速弾体は、まるで吸い寄せられるかのように一機の攻撃用ドローン、バルドルへと命中する。
「うっしゃぁ! どーよ、ヴェルっち! アタシにかかりゃあこれくらいイデッ?!」
空中でガッツポーズを取ろうとした彼女を襲ったのは、またしてもどこから撃たれたか分からないビーム攻撃だ。小規模な爆発が起きたが、幸いにも戦闘能力の低下は殆どない。しかし、不知火とマスターである舞の頭上にはエクスクラメーションマークがいくつも浮かぶ。
『うっそマジで? あーもう、わけわかんねー!』
舞の悲痛な叫びも虚しく、一体どこから放たれた攻撃かも分からないまま不知火[天津風]のHPは少しずつ削られていく。
「舞っち、落ち着くし! 攻撃用のドローンは全部で二機いたはずじゃん! それにさ、もうそろそろヴェルっち迷彩の効果時間切れるんじゃね?! どーよ?!」
『お、不知火冴えてんじゃん! 確かにそのハズだけど……居た! 正面のビルのうえっ!』
どういうカラクリかは結局不明だが、ようやく効果時間の尽きたフレイスヴェルグを発見する。その周囲には無事なドローンが数機、まるで彼女を護るかのように舞っていた。
「ふふふ……既にヴェルグちゃんの術中にはまっているとも知らずに……滑稽な」
不敵な笑みを浮かべるフレイスヴェルグ。そしていつの間にか攻守が逆転してしまった不知火[天津風]がそちらの方を見上げる。
「試合はまだまだこれからだし! いくよ、ヴェルっち!」
* * *
フレイスヴェルグと不知火[天津風]が戦闘している場所から少し離れた所では。
「だりゃりゃりゃりゃ!」
激しい発砲音と共に硝煙が辺りに立ち込める。ジャラジャラとこぼれ落ちるのは空になった薬莢で、そこに詰められていたハズの実弾ははるか彼方、鬱蒼と生い茂る木々の向こうへと吸い込まれていく。
『アルテミス〜! いいわ、その調子よ〜!』
「はいっ! 真理の為にも頑張りますよー!」
アルテミスは自身の武装、肩の迎撃用マシンガンを掃射しつつ、両手に構えたオリオンボウ・スナイパーモードを連射する。狙いは勿論、黒潮[野分]だ。
彼女らがいる森林フィールドは木々の密度が高く、目視では互いの姿は確認できない。しかし、遠距離砲撃仕様であるアルテミスも黒潮の[野分]ユニットも高性能レーダーとセンサーを備えているため、索敵自体は容易だ。
「ミサイル全弾はっしゃー!」
短い噴射音と白煙を残し、無数のマイクロミサイルが宙を舞う。樹木群の少し上を飛翔したそれらは、しかし目標へと届く前に爆発してしまう。
「うふふ、こうやって全火力を投射出来るのって楽しいわね!」
聞こえてきたのは黒潮[野分]の声。さきほど、アルテミスのミサイル群を迎撃したチェーンガンからは硝煙と高熱が立ち昇っていた。
『そうね、こういう機会はなかなかないもの。黒潮、存分に楽しみましょう?』
たおやかな声はしかし、言葉通りに戦いを楽しんでいる風にも聞こえる。黒潮のマスター、風は慣れた手付きでタッチパネルを操作し、少ないコストポイントをやりくりして用意していた予備の弾薬を手配する。
「ありがとうマスター。それで? 他の子の状況はどうなの?」
自身の目の前にいきなり出現したアーミーカラーの弾薬箱、そのフタを手際よく開けると自動で武装の残弾が補充された。再び飛来してくるミサイルを迎撃しつつ、マスターへ他の戦況を確認する。
『そうね、不知火はフレイスヴェルグと戦闘中。今はやや苦戦しているようだわ。援護してあげたいところだけれど……』
「この弾幕を相手に、余所見はしてられないわね」
アルテミスの最大火力を前に迂闊な行動は出来ない。いくら重装甲大火力を誇る[野分]ユニットを装備してはいるものの、油断は禁物な相手なのだ。
『それと、陽炎は叢雲と睨み合ってるわね。膠着状態ってところかしら』
「膠着? あの子のらしくないわね……それだけ強敵という事なのね」
センサーの一部を別の方向に向ければある程度の状況は把握できるだろうし、なんならミサイルでの支援攻撃も可能だろう。しかし、今はセンサーの機能をフルに活用しなければ、アルテミスの弾幕を捌くことは出来ない。
『黒潮、今は目の前の相手に集中よ? 気を抜いたら、いくら貴女でも蜂の巣にされちゃうもの』
「ふふ、それは御免被りたいわ」
両肩から突き出るように伸びたチェーンガン、それと両手でしっかりと把持した初風・レールガンを一点に集中して放つ。
その過剰ともいえる火力は射線上の木々を文字通り削り飛ばしていき、着々と目標へ近づいていく。今までも何度か命中弾はあったはずだが、アルテミスの装甲は非常に堅牢ならしく、おそらくは殆どダメージになっていないだろう。
「っ! 目視で確認したわ!」
『いいわ黒潮! そのまま火力を一点に集中して!』
黒潮[野分]の眼差しが捉える遥か先。森の木々は一直線上になぎ倒され、まるで道か、それとも竜巻がそこだけを通過したかのようになっている。その先に、アルテミスは居た。
『あの子のデータはバッチリ取ってあるわ。確かにあの装甲と火力は驚異なのだけれど、それでも命中精度と火力の集中という点では黒潮、貴女が勝っている』
「一対一を想定しているか、一対多を想定しているかの違いね。乱戦になればあちらの方が有利だけれど……この状況では私たちが有利!」
基本的な所で、黒風白雨の戦術は一対一に特化している。これは武装やドール性能の高さからくるのだが、その方が彼女たちに取っては好都合なのである。例え、複数を相手に戦闘を繰り広げても十分に勝つ自信はあるのだが、もし万が一、武装の相性などで手間取った場合のエネルギー切れが怖いのだ。
そしてBDGの試合は三対三が基本である以上、それぞれのドールが一対一の状況となればもはや黒風白雨が負ける要素はほぼ無い。それを見越しての武装構成なのだが、対するアルテミスは異なる設計思想の武装というのは事前のデータからも分かる事だった。
『それにしても少し変ね……? あの子の火力なら、もう少しこちらのダメージが大きくなると予想していたのだけれど……』
「残りHPはまだ八割以上あるわね。でもこれくらいなら誤差の範囲でなくって?」
『……そうよね。秋華みたいに私も少し、考えすぎちゃったかしら』
確かにアルテミスの総合火力は今大会でもトップクラスに入る。その彼女を前にして、いささか被ダメージが少ないと風は感じているのだ。しかしバトルとは常に想定通りには進むものではないし、黒潮の言う通り誤差と言えばそれまでだ。
しかし、風は心の奥で何か、嫌なもの感じるのであった。




