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37-3

37-3


『それでは……皆さんお待ちかね! チーム・黒風白雨の紹介です!』


 バト子ちゃんが右手を振り上げると、バトルフィールドを挟んだブロッサムメイツの反対側にスポットライトが集中する。そこにはやはり、黒風白雨の面々が悠然と立っていた。


『こちらも期待の新星! 彼女たちは今回の予選大会までその鋭い爪と牙を隠し続けた驚異のチーム! 圧倒的な戦闘力を見せつけた予選大会は今後十年は語り継がれるといっても過言ではない! そしてなんと……黒風白雨はその予選大会でブロッサムメイツと同じ会場だったのです!』


 ブロッサムメイツと黒風白雨はかつて同じ予選会場で戦った、いわば因縁のチーム同士なのだ。本戦大会へと駒を進めるにはバトルロイヤル形式の予選大会を勝ち残らなければならないのだが、そこで両者は激しい戦闘を繰り広げたのだった。


『予選大会ではその強力な戦闘力を見せつけ、ブロッサムメイツを含めた全チームを鎧袖一触とばかりに蹴散らした黒風白雨! しかし、何の因果か再び決勝戦で相まみえるとは! 黒風白雨が再び力の差というものをその身体に刻み込むのか、それとも生まれ変わったブロッサムメイツが真の実力を開花させるのか! 注目の一大決戦! さぁ、それでは黒風白雨のドール紹介といきましょう!』


 やはり大型ディスプレイや空中の立体映像にドールの戦うムービーが流れ出す。一番手はもちろん、陽炎だ。


『まずはこの娘、陽炎(かげろう)! 口数少ないシャイガールと思いきや、その身に纏った武装は苛烈にして強烈! 接近戦を主体とした武装を基本とし、その大剣捌きは眼を見張るものがあります!』


 黒風白雨のドールは全員が環境対応ユニットと呼ばれる武装を纏っている。その中でも陽炎は揺らめく炎のような色をした近接環境ユニット[嵐]をメインにしていた。


『この黒風白雨独自の換装ユニットは驚異のテクノロジーと精緻なパーツ構成によって実現しており、その最大の特徴は……なんと、バトル中にお互いのユニットを交換することが可能なのです!』


 通常、BDGでは汎用性のあるライフル銃や剣、盾などをチーム内で交換するということはままあることだった。しかし、この環境対応ユニットはその一歩先を行き、バトル中にお互いの武装を丸々交換することが出来るのだ。これによって幅広い戦術とあらゆる状況に対応することが可能なのだ。


『近接環境ユニット[嵐]は大剣をメインウエポンとし、前面装甲とブースターを強化した強襲タイプといえる武装ですね。その名に相応しい暴風となって敵陣深くに切り込む作戦を得意としています!』




 力強く大剣を振るう陽炎から、青空を切り裂く蒼天のような装甲を纏ったドールの映像へと切り替わる。


『お次はテンション高めなギャル系ドール、不知火(しらぬい)! 纏う武装は高機動環境ユニット[天津風(あまつかぜ)]だ!』


 バックパックの大型ウイングと高推進力を秘めたスラスターが風を裂き、その機動力は随一を誇る。まさに空高く吹き抜けるという意味の天津風の名に恥じない武装だ。


『この[天津風]ユニットの最大の武器はなんといってもその機動力でしょう! 戦場を駆け抜ける一陣の風! このユニットを纏った不知火は誰にも止められない!』


 流線型をした装甲は極限まで薄く、ほとんど防御力を捨てているといっても過言ではない。しかし、その機動力を以てすればどのような攻撃も無意味なのだ。それゆえ、固有の武装も肩部に一対のビームソードしか装備されていない。


『同じく飛行型であるフレイスヴェルグとの戦闘が楽しみです! 果たして決勝戦の大空を制すのはどちらなのか!』




 最後に登場したのは、これまた重武装、そして迷彩色をした装甲のドール。


『最後はこの娘! たおやかな雰囲気に騙されてはいけない! その火力、その装甲はまさにバケモノ! 遠距離環境ユニット[野分(のわき)]を纏う大和撫子、黒潮(くろしお)!』


 両肩から突き出した二門の大型チェーンガン、多数のミサイルコンテナ、さらにはそれらの照準を司る高性能レーダー及びセンサーを搭載した重装甲。野分とは、古い言葉で台風を意味するという。


『その制圧火力は圧巻の一言! 彼女に狙われたが最期、その周囲一帯は完全に破壊されつくされることでしょう!』


 [野分]ユニットは同じ系統であるアルテミスと同様、機動力や敏捷性はイマイチと言わざるを得ない。しかし、そのデメリットを補って余りある火力と装甲のお陰で足を止めての撃ち合いはどのドールよりも得意なのだ。


『皆さんもお気づきでしょう! 黒風白雨とブロッサムメイツ、奇しくもその武装、得意とする戦闘スタイルが同じなのです! これは戦う方も、観る方も悩ましい! 白兵戦、空中戦、遠距離砲撃、それぞれが各個に雌雄を決するのか、それとも戦力を偏らせて一人ずつ確実に倒すのか! 両チームのマスターによる頭脳戦も見どころですよ!』


 バト子ちゃんの解説と立体映像を巧みに使った演出に、観客のボルテージは順調に上がっている。バトルが始まるのを今か今かと堪えきれず、思わず立ち上がってしまう者も少なくない。






 * * *





「美空、真理センパイ」


 ブロッサムメイツのマスターブース。そこで吹雪は二人の顔を見やる。


 美空も、真理も、その表情は頼もしく、そしてこれから始まるバトルへの興奮がにじみ出ているようだ。


「必ず……勝とう!」


「ええ。優勝あるのみです」


「ここまで来たら、もう勝つっきゃないわよね~」


 その意思を瞳に宿し、吹雪はバトルフィールドの向こう側――――黒風白雨のマスターブースに視線を向けた。






 * * *





「ブッキー……」


 黒風白雨のマスターブースでは、どこか落ち着かない様子の秋華がいた。


(昨晩はブッキーにああ言ったけど……本当に勝てるの……? ブッキーたちは確実に強くなってる……それに比べて、私は陽炎たちに何もしてあげれない。武装を改良することも、戦闘用のプログラムを効率化させることも……そんな状態で本当に……)


「ちょいちょいちょい~! 秋華さぁー、眉間にシワ寄ってるって! 顔ブサってるって!」


「そうですよ。この晴れ舞台に、そのような顔をしては勝てる勝負も勝てなくなってしまいます」


「舞……風さん……」


 秋華の両隣には、普段と変わらないチームメイトが。


『……マスター』


「陽炎? どうしたの?」


 普段から無口な陽炎が、こうしてバトル前に話しかけてくるのは珍しい。少し驚きつつも秋華は平静を装う。


『……マスターは、何も心配しなくていい……』


「え?」


『……絶対に勝つ』


 いつもは自分の気持ちを面に出さない陽炎が、勝つと言い切った。それはおそらく初めてのことであり、それはどういう心境(AI)の変化なのだろうか。


『ヘイヘイヘーイ! 陽炎っち、バトルは一人でやるもんじゃないっしょ~?』


『私たちもいること、忘れないでほしいわ?』


「不知火、黒潮……」


「そゆこと! どーせ秋華はまーた一人で考えすぎてるんだってー。もっと気楽にバトろうぜ???」


「舞はもう少し思慮深くなったほうがいいわよ? ……秋華、私たちはみんなで黒風白雨なの。その意味を考えてね?」


 確かに秋華はこのチームの実質的リーダーであり、司令塔だ。環境対応ユニットを考案したのも、これまでの作戦を立案したのもすべて彼女だ。秋華が居なければ本戦大会に出場できたかどうか、いや予選大会を突破できるかすらも怪しいだろう。




 だが、秋華一人だけではここまで来れなかったのも事実だ。




 いつも我が道を行く(マイペースな)舞と不知火。優しくチームを見守ってくれる風と黒潮。


 そして、いつだって秋華の作戦を、無茶を支えてくれる陽炎がいる。


「うん……そうよね。私たち、全員で黒風白雨なのよね」


 黒風白雨(こくふうはくう)。その名前が意味するところは、激しい風と強い雨が入り乱れる様。すなわち、暴風雨を表している。


『……マスター、行こう』


 黒風白雨を、秋華がチーム名にした理由。それはバトルドールにおいて、自分たちこそが台風の目となるため。


「ええ! 勝って、私達の強さを日本中に教えてあげましょう!」



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