35ー3
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「いやいや、今更通報しても無駄デスよ。なにより、ルールブックにはそういうプログラムの組み方が違反とは明記されてないデスし、現に今までのレギュレーションチェックにも引っかかって無いデス」
「むぅ……。とはいえ、無敵って訳でもないんでしょう? さっきだってあれだけ苦戦してたんだし」
「うむ。黒風白雨の弱点はおよそ見当が付いてるデス! まず一つ目、ナイツ・オブ・グローリーが狙ったように、黒風白雨のドールはエネルギー効率が本当は最悪デス。これは常時バフの代償デスねー」
先生の説明によると常にバフを掛け続けるデメリットとして、本来は時間経過で回復する分のエネルギーも使用しているのだという。
バトル中、ドールはビーム兵器や特殊な攻撃、あるいは特殊スキルを発動させると、その効果に応じた量のエネルギーを消費する。そのため、マスターはその消費量を考えながら武装をカスタマイズさせていくのがセオリーとなっているのだ。
しかし、時間経過によって回復していくはずのエネルギーがマイナスであれば? 黒風白雨の場合、もしもバトル中にエネルギーが底をつけばレールガンのような一部武装が使用不可能になるだけでなく、常時発動のバフ効果が消え去ってしまうのである。戦闘不能になるわけではないが、これは大きな戦力低下となるだろう。
「だから、シューちゃん達は速攻でバトルを終わらせたり、予選大会じゃ余分なバトルを避けたんですね?」
「その通りデス。黒風白雨は言うなれば、短期決戦型、一気に強襲して相手を叩きのめさないと、自分達がピンチになってしまう諸刃の剣みたいなチームなのデス」
「それなら〜、私達もそのエネルギー切れを狙うっていう作戦はどうなのかしら〜? 単純だけど実際に効果は高いと思うのだけれど〜」
「いえ真理先輩、それはお勧め出来ないでしょう。先程の準決勝戦を見ても、彼女たちの底力は驚異的です。現状ではエネルギー切れまでバトルを長引かせるのはイチかバチかという賭けの要素が強いですね」
「葛城の見立ては概ね正しいと私も考えるデス。そこで、我々は黒風白雨のもう一つの弱点を突くデスよ!」
「もう一つの弱点? そんなもの、本当にあるのかしら?」
作戦会議が長引きだし、少し退屈してきた叢雲はあくび混じりに先生へと尋ねた。
「ではその答えを言う前に……叢雲、お前はこの本戦大会の黒風白雨を見て何か思う所はあったデスか? 些細な事でも良いデスよ」
「ハァ? そんなもん、私が知るわけ無いでしょ! あいつら、予選大会の時から変わらずムカつくやつらじゃないの!」
予選大会でボコボコにされた記憶が蘇ったのか、叢雲の顔は赤く鼻息も荒くなる。
「む、叢雲、落ち着いて……! でも先生、陽炎ちゃんもシューちゃんも、遠目には予選大会と変わらなかったですよ?」
「そう、何も変化が無いんデスよ!」
ズビシ!と人差し指を突き出し、先生は的を得たとばかりに機嫌を良くする。吹雪らは何の事やら……とポカンとするが、美空とフレイスヴェルグは気が付いたようだ。
「そうか……武装……」
「マスターに同意。予選大会と本戦大会のデータを比較しても、黒風白雨の武装、及び戦術に僅かな差異も認められない」
「ど、どういう事なんですかっ?! 真理、私にはわけが分かりませんっ!」
「大丈夫よ〜アルテミス。私も良く分からないから〜」
「なに、簡単な事デス。黒風白雨のドールは完成され過ぎているだけデス」
完成され過ぎている。果たして、それは弱点足り得るのか? 逆に強さの証明となりそうな先生の評価に吹雪らは首を傾げる。
「皆さん、私達は予選大会のあと、ヴェルグたちの新しい武装を作ったり、他のチームに手伝ってもらって特訓を積みましたよね? 私たちブロッサムメイツだけじゃなく、本戦へと駒を進めたチームは大なり小なり、何かしらドールをパワーアップさせているんですよ」
「えと、つまり……シューちゃんたちは、それをしてない……?」
「Exactly! それは何故か? 黒風白雨ほどのチームならば、これ以上の強化は不要デス? いやいや、あいつらがいくら強くたって、東日本で一番強いドールとマスターを決める大会デス、そんなフザけた理由じゃないんデスよ」
「んもう、勿体ぶって話すわね。要点を言いなさいな、要点を!」
先生の言わんとする内容が推測出来ず、叢雲は思わず語気を荒げる。しかし、吹雪や美空、真理はなんとなくその理由とやらに勘付いたようだ。
「そっか、強化しないんじゃなくて、出来ないんだ……!」
「そういう事ね〜? だから先生は完成され過ぎているという言葉を使ったのね〜」
「ええ、そういう事であれば……!」
「ま、真理〜! ちゃんと説明してください〜! ぐすん……」
「ほら、アンタ達のせいでアルテミスが泣いちゃったじゃないの! 早く説明してあげなさいな!」
「叢雲、アルテミスをダシにしてないで、少しは自分のAIを使用すべき。只でさえ古いプロセッサを使っているのだから」
「だ、誰の頭がポンコツでロートルですって?!」
「あー、口やかましいドール連中はほっといて……吹雪の言うとおり、黒風白雨の武装はこれ以上手を加えられないデス! これも種を明かせば簡単、常時発動バフなんて面倒なものを組み込んでいる以上、そのプログラムと武装の相性は少しでも弄るとスグに破綻してしまうんデス」
先生の推測が正しければ、陽炎たちに施されている常時バフ効果、これは非常に複雑かつ、絶妙なバランスでプログラムされているはずだ。そのため、下手に武装を改良したり、新たなプログラムやMODの追加はおろか、僅かな改修も許されないだろう。
そしてそれはつまり、AIの成長阻害をも意味するのだ。
「端的に言うデス。今の黒風白雨は、予選大会のあの時とおなじ強さしか持ってないデス! それはもう例えるなら、RPGでステータスがカンストしてしまったようなものデスね。そして作戦も筒抜けの上にいまさら変更のしようが無いなんて、もはや付け入る隙は十二分にあるデス!」
先生は胸を張り、声を高らかにする。それはまるで、吹雪たちを鼓舞するかのように。
「そして、お前たちはあの日から特訓を重ね、武装も改良したデス! 確実に前進し、成長してるデスよ! それは黒風白雨には出来なくて、ブロッサムメイツに出来た事!」
叢雲、フレイスヴェルグ、アルテミス。それぞれが予選大会の時の悔しさを、無念を、そして後悔をバネにして奮起してきた。
そして、吹雪が、美空が、真理が。
先生も、生徒会長も、多くのチームも。
皆がブロッサムメイツを支え、そしてここまでやってこれた。
それならば、何も不安は無い。
「よっし! それじゃあ改めて作戦を考えよう! 打倒、シューちゃん……じゃなかった、黒風白雨! いっくぞー!」
決勝戦は明日。
吹雪たちは最後の最後まで、努力を続ける。




