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「はあああぁぁぁ!」
背部のブースターが轟音を上げながら炎と共に莫大な推力を生み出していく。近接環境ユニット[嵐]には突撃・強襲といった役割もあるため、瞬間的な推力だけを見れば[天津風]にも引けを取らない。
「このっ、小癪なっ!」
この状況でも、相変わらず剛毅な態度を崩さないクロートー。だが、彼女の持つ女神が象られた大盾はもはや破壊寸前だ。
バトル序盤、黒風白雨がこの盾を破壊しようとレールガンの最大出力発射を試みたが、結局は貫させることは出来なかった。しかし、全くの無傷だったというわけでもない。
盾の中央よりやや上、女神のちょうど胸辺りには大きな穴が穿たれている。さすがの高硬度を誇るBDプラ製であっても、レールガンの威力を完全に減じることは出来なかったのだ。
「もう……少しっ!」
そしてその穿孔に突き刺しているのは近接環境ユニット[嵐]の大剣だ。今や、ほとんどのエネルギーをこの大剣のビームに回してその攻撃力を最大限に高め、突き破ることに全力を注いでいる。
「陽炎、がんばって!」
『もう少しですよ! 黒潮も不抜の精神で臨んでください!』
後方からチェーンガンの掃射で援護をする黒潮[野分]と、その様子を固唾を呑んで見守る風。
「やっちゃえ、陽炎っち!」
『いけいけ~! ここでやんなきゃ女がすたるってやつっしょ!』
さらに、周囲を縦横無尽に駆け巡り初風のレールガンで牽制する不知火[天津風]と、テンションアゲアゲな舞。
『陽炎……お願い!』
そして、祈るように手を組む秋華。
「……マスターの為に、私たちは……勝つ!」
陽炎[嵐]は眼を見開き、片手で大剣を支えつつもう片方の手に[嵐]装備のブーメランを取り出す。それを眼下の盾目掛けて思い切り投げつけた。
「な、なにィ?!」
それがトドメとなり、クロートーの持つ大盾は真っ二つに分かたれた。そしてそのまま、猛烈な勢いを味方に付けた大剣はいともたやすく堅牢な装甲ごと彼女を貫いてしまう。いくら頑強な装甲といえど、この一撃を防ぐには到らなかった。
「クロートー!」
「おのれェ!」
仲間が撃破され激昂するラケシスとアトロポス。しかし、時既に遅し。
「懐に……入った!」
クロートーを撃破した陽炎[嵐]は即座にラケシスとアトロポスの間に割り込むようにして降り立ち、その手に持った大剣を音もなく振り抜いた。
「せぇい! ……ふ、ふふふ! 油断したな! いかにお前が素早くとも我が盾は破れん! そしてェ! 今だ、やれアトロポス!」
「承知! この至近距離、我が一撃を避けられると思うなよ!」
「……いや、一手遅い」
大剣を盾で受け止めたラケシスは、そして今にも引き絞った弓を放とうとしているアトロポスは、陽炎[嵐]が何を言わんとするのかを理解することが出来なかった。その瞬間、陽炎の身体からはまばゆい光が生じ、その纏っている装甲に幾何学模様の筋が浮かび上がった。
「近接環境ユニット[嵐]、キャストオフ!」
陽炎の掛け声と同時に、その装甲群は弾けるように飛び散る。まるで散弾のように全周に撒き散らされたソレはラケシスの盾には殆ど通用しないが、装甲を極限まで削っているアトロポスには――――
「ぐあぁぁ?!」
コスト制限のため普段よりも防御力の低いアトロポスにとってはまさに至近距離で榴弾が弾けたようなものだ。大きなダメージにはならなかったものの、衝撃で彼女の身体は宙に浮いてしまい、そしてその一瞬を見逃す黒潮[野分]ではなかった。
「残った弾薬、遠慮なく持っていってください!」
黒潮[野分]はユニットに残っているマイクロミサイルを全弾発射。何条もの白煙を曳きながら空中のアトロポスに次々と命中し爆炎と衝撃をあたりに撒き散らす。
「不知火、私に合わせて」
「おけまる! テンションぶち上げ!」
ミサイルの爆炎を背に、陽炎と不知火[天津風]は手にした得物を構える。狙うは、ラケシス唯一人。
「なっ……」
一閃。
ラケシスが反応する間もなく、二人は交差するように駆け抜けた。
陽炎と不知火[天津風]の刃は盾を躱し、ラケシスの装甲へと叩きつけられる。これが別々の攻撃であれば自慢の装甲を以て余裕で受け止めたであろう。しかし、大剣のビーム刃と初風の高速振動ブレードが数コンマの狂いもなく、同時に重なりあうことでその破壊力を何倍にも高めたのだ。
「……無念……ッ!」
かろうじて己の撃破を悟ったラケシスは膝から倒れ伏した。それと同時にアトロポスが重力に引かれて地面に叩きつけられる。
『バトル終了ー! 勝者、黒風白雨ーっ!』
バト子ちゃんの音声が会場に響き渡る。それを合図にするかのように、バトルフィールドの映像が消失していき、真っ白な大地が広がっていく。
「……バトル、終了。勝った」
『はぁ……、お疲れ様。陽炎』
「……マスターの要望通り」
『ん、そうだね。ありがとう』
「ぷはぁ~、あー終わった終わった! もー不知火ちゃんは疲れたっての!」
「もう、不知火ったらお行儀の悪い……さ、陽炎。マスターのところに戻りましょう」
「……」
コクンと小さく頷く陽炎。先程までの必死な表情はどこへやら、いつも通りお人形さんのような澄まし顔になっていた。
* * *
「シューちゃん……陽炎……」
場所は変わってブロッサムメイツの控室。備え付けのディスプレイで吹雪たちは黒風白雨の勝利の瞬間を目撃していた。
「やはりというか、決勝戦の相手は黒風白雨ですね」
「当然よね〜。そうでなかったら拍子抜けだもの〜」
美空も真理もなんてことない風に装うが、その眼差しは真剣そのものである。
「フン、それにしても無様な勝ち方よね。最後なんか裸になっちゃってるじゃないの」
「それだけ黒風白雨もピンチだったとヴェルグちゃんは分析」
「確かに、今までのバトルに比べてとっても苦戦してましたねー」
叢雲はともかく、アルテミスらの言っている事は当然チェックすべき点である。事実、黒風白雨のこれまでの平均バトル時間は、準決勝という点を差し引いても長かった。
「ま、それだけナイツ・オブ・グローリーが強かったってことデスよ。それに、弱点そのイチを的確に突いてきたデスしね」
「先生の言ってた通り、陽炎たちの武装はエネルギー効率に問題があったんですね。それでは、私達も基本戦術は同じに……?」
「まぁ待つデス葛城。それでは今のバトルと同じ結果に終わるデスよ」
「そうだね、シューちゃんと陽炎を倒すにはまだ足りないと思う」
吹雪の表情は固く、ライバルの強さと底力を再確認しているようだ。予選大会で黒風白雨に手も足も出なかったのはブロッサムメイツにとって一種のトラウマであり、そう簡単に楽観視は出来ない。
「改めて整理しましょうか〜。黒風白雨のドールは三人共、近接戦闘、高機動戦闘、遠距離戦闘に特化したユニット装備をしているわ〜。オーソドックスなスタイルとはいえ、奇しくも私達と似た構成ね〜」
「ユニット固有の武装はそれぞれの得意距離に合わせて非常にシンプルなものですね。それと、三人が共通に装備しているのが、高速振動ブレードとレールガンを複合した初風と呼ばれる遠近両用の武装です。これにより、より柔軟な戦い方を実現しています」
大抵のチームではそれぞれ得意な戦闘距離や武装を特化させる傾向にある。例えば叢雲であれば剣による近距離へと特化させるため、他に武器は持たせていない。
とはいえ、それでは遠距離攻撃主体のドールには一方的に攻撃されてしまう。その為にチーム内で得意な戦闘距離をバラけさせて全体的なバランスを保つ場合が多い。もちろん、本来のナイツ・オブ・グローリーのように近接に特化させるチームもあるが、これは上級者ゆえの戦略だろう。
「それに、陽炎ちゃんたちは常時バフ効果を発動させてるんだよね。常にステータスを上昇させるなんて裏ワザみたいな方法、なんていうかシューちゃんらしいなぁ……」
「そうデス。通常のバフ効果はエネルギーを大量に消費したり時間制限がセットされてるデス。そうしないとそもそものバトルバランスが崩れるデスからね。でも黒風白雨は絶妙な武装とプログラムのバランス調整を施すことで、バフ効果と持続時間を大幅に引き上げたに違いないデス」
「何よそれ、殆ど反則なんじゃない? 今からでも運営に抗議してきなさいな」




