34-3
34-3
チーム・黒風白雨のドール、陽炎、不知火、黒潮は通常のドールに比べて破格の性能を誇る。それぞれ各戦法に特化した相互に交換可能な換装ユニットを装備しているのもあるが、それ以上に基礎能力が高められているのである。
『でも、公式バトルだと武装コストやAI構成の都合上、どうやっても他のチームと大差なくなってしまう。それを私たちは常時バフ効果を発動させることで限界突破しているのよ。それにかかるエネルギーは少なくないし、でもその分、陽炎たちは最高のスペックを手に入れた』
秋華の言う通り、陽炎たちは筋力や瞬発力、反応性向上といった一通りのバフ効果が常に発動するよう調整されている。
だがBDGのバフ効果は、例えば叢雲の十種雲形・高積雲でもそうなのだが、効果量に合わせたエネルギーと引き換えに一定時間のみのパワーアップというのが普通なのだ。そうでなければエネルギーを際限なく使ってしまう上に、そもそものバトルバランスが崩れてしまうからだ。
『それを私たちはバフの効果量を抑えたり換装ユニットのエネルギー効率を調整することで、一戦くらいは十分に戦えるようにしたの。でもそれは、こちらの圧倒的性能で相手を封殺するのが大前提』
『真っ当な強化方法では、トップクラスのチームは出し抜けないですものね。でも、秋華の考えたこの方法は諸刃の剣でもあるのよ』
言ってしまえば、黒風白雨の取ったこのカスタムは、限りある燃料を使って性能を無理矢理ブーストしているに過ぎない。その燃料が尽きてしまえば、本来の、素の性能に戻ってしまうのは至極当然の話である。
そのため、黒風白雨のバトルはなるべく早く終わらさなければならない。それはドールのエネルギーが尽きる前に勝つのは勿論のこと、長時間の戦闘はそれだけ多くのデータを他チームに提供するようなものであり、遠からず己の首を締めることに繋がるからである。
さらに言えば予選大会の時も、黒風白雨は序盤から積極的に動いていなかった。それは長丁場となるバトルロイヤルモードで戦い切る事を念頭に置いていたからであったのだ。もし最初から全開で戦っていたならば、あるいはブロッサムメイツとの対決にもっと時間が掛かっていれば、黒風白雨は予選敗退していたのかもしれない。
『あー、大会に参加を決めるときに秋華が言ってたやつね~。なんだっけ? この秘密がバレると他のチームは必ずその弱点を突いてくる、だっけ?』
『そう、だから極力情報を漏らさないようにこれまで地方大会や野良バトルすら禁止してきたの。まぁ、舞はそれを忘れてブッキー……ブロッサムメイツにちょっかいを出したけど』
『いや、あん時はほんとゴメンて……』
『でも、事態は思ったより深刻よ。いつかは私たちへの対策を取ってくるチームが現れる事を予測してはいたのだけれど……どうする、秋華?』
風からの問いかけに、秋華は黙ってしまう。
ナイツ・オブ・グローリーは元々、その重装甲を活かしたパワフルな接近戦を得意とするチームのはずだった。そこで黒風白雨は機動力を活かした撹乱と、遠距離からの射撃での牽制、そして一気に接近戦で勝負を決めるという戦術を用意していたのだ。
しかし、相手はこちらへの対策を万全に行っている。確かに陽炎らのスペックは並のドールを遥かに上回るが、だからといって大人が赤子の手をひねるように勝てるわけではない。
(どうする……? どうする秋華。あの装甲と盾は簡単には破れない。かといってこのまま手をこまいていたら、バフ効果でエネルギー切れ。相手はそれを狙っている……試合前にあのマスターが言っていた弱点……ふふ、本当に弱点を見抜いていたわけね)
無言で思案する秋華。こうなっては彼女の中で問題が解決するまでいくら話しかけても無駄だ、そう悟った舞と風は、それぞれ自身の相棒へと指示を飛ばす。
『不知火ぃ~、まだまだ飛行は出来るっしょ。とにかく場をかき乱しちゃって~!』
『黒潮、貴女の初風を不知火さんに渡してあげて。その後、全力を以てあの騎士さんたちの行動を封じてください』
「りょ! 舞っち、良い作戦考えてよ~?」
「風、少々はしたないですけど……乱暴にしてもよろしいかしら?」
不知火[天津風]は受け取った初風のグリップをしっかりと握り、大型ウイングを展開。スラスターを全開にして大空へと飛翔する。そして黒潮[野分]はこちらへとビーム攻撃を仕掛けようと狙いすましているナイツ・オブ・グローリーへと向けて再度、チェーンガンの掃射をミサイル攻撃を敢行する。
二人のドールはマスターからの指示通りに、いやそれ以上の事を汲み取って行動し始めた。
そして、陽炎は――――
「ぐぅ……」
なんと、その場に座り込んでしまい、あまつさえ眠りだしてしまった。
「お、おい……マジかよ?!」
「黒風白雨、試合を投げちまうのか?」
「でも、ここから逆転は難しいんじゃないのか? グローリーの作戦通りなら、このまま戦ってもエネルギー切れは必至だし」
「ううん……でもなぁ……」
「陽炎ちゃん、寝てるし……」
会場に動揺が広がる。黒風白雨びいきの観客は諦めと落胆に、反対にナイツ・オブ・グローリーのファンは固唾を呑んでこの状況を見守っている。
(どうする……? どうする秋華……何か、何か突破する方法は……)
マスターブースで一人、作戦を考える秋華。彼女の脳内は陽炎、不知火、黒潮、そして予測されるナイツ・オブ・グローリーのスペックから様々な戦術・展開をシミュレートする。だが、そのどれもが決め手に欠けている。あの大盾と装甲を貫くのは至難であり、生半可な攻撃を続けていてもジリ貧なのは間違いない。しかも向こうの作戦はこのまま防御を固めて時間稼ぎをするつもりだ。
([天津風]ユニットのビームサーベルは……だめ、あの盾を切り裂くほどの出力は無いし……[野分]ユニットは制圧力を重視した装備だから、一撃の威力に劣る……)
こちらの武装、あちらの武装。こうまで相性が悪いとは思いもよらなかった。試合前の作戦は既に意味を成さず、ここにきて換装ユニットの汎用性の低さを呪った。
([嵐]ユニットの大剣なら……あるいは……? でも不確定要素が大きい……なにより、元の作戦では牽制を掛けた上で一気に叩かないといけないほど、グローリーは接近戦に強いチーム……)
この大会に勝つために、多くのデータを見てきた。
優勝するために、勝つ方法をいくつも考えてきた。
ただ、ひとえに強さを証明するために。
それは誰の強さを?
「陽炎……」
見れば、陽炎は一人でぽつんと座り込んでいる。恐らく秋華が指示を出していないので、独自に行動するよりはエネルギー温存したほうが良いと彼女のAIが判断したのだろう。
(こんな時、ブッキーならどうするのかな……?)
ふと、脳裏に浮かんだのは久々に再会した、親友の顔。そして、あの高飛車な、ドール。
「ぷっ……あはは、あははは!」
「ちょいちょい! 秋華、急に笑いだしてどったのさ?!」
「もう、笑えるような状況ではありませんよ!」
突然の事に舞と風は驚きつつも、しかし冷静にドールへ指示を出し続ける。ひとしきり笑った秋華はやけにスッキリした顔で二人の顔を見やった。
「あー、ごめんごめん……いや、なんていうかさ、ちょっと頭でっかちになってたわ。私」
「え゛。いまさら?」
「秋華はいつも作戦だとか予定を考えるばかりですからね。みんな知っています」
「うそ、ほんと? や、今はそれより……この試合に勝たなきゃね」
「お? その顔は何か思いついたっしょ? こう、いつもの調子で悪どい作戦とか!」
「舞~、悪どいは秋華に失礼でしょう? 悪辣と言ってあげてちょうだい」
「風さん、それフォローになってないわよ……よし、それじゃあやってやりますか! 陽炎! 起きて!」
『……スリープモードを解除。マスター、指示を』
「ええ、とびきり最高の指示を出してあげるわ!」
黒風白雨の反撃が、今はじまる。




