34ー2
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「ふん、笑止千万!」
不知火[天津風]の放った初風による斬撃は、しかしてラケシスの大盾によって阻まれてしまった。
「遅いってぇの! この不知火よりも!」
だが不知火[天津風]は全身の装甲に配置されたスラスターー巧みに操り、空中でくるりと身を翻す。そしてすかさず初風を突き出した。
「だから、笑止千万と言っている!」
あらゆる物体を切断する初風の高速振動刃が盾を躱し、内側にいる無防備なアトロポスを貫こうと奔る。しかしその刃は途中で遮られてしまった。
「ちょっ?!」
それはクロートーとラケシスが携えた短槍だった。二人の槍が初風を万力のような力でしっかりと挟み込む。これでは押す事も引くことも出来ない。
「非力! あまりにも非力!」
さらに、クロートーとラケシスは壁のような盾を左右に大きく開き、その内側へと不知火[天津風]を引き込む。初風を抑えられた彼女は一瞬の判断に迷い、そしてそのわずかな隙は重大なミスだった。
「ぎっ……?!」
不知火[天津風]のAIは一瞬、何が起きたのかを理解出来なかった。分かるのは、HPの半分ほどを一撃で持っていかれたことだけだ。
クロートーとラケシスはそれぞれが持つ大盾を、まるで城門を閉じるかのように不知火[天津風]を挟みつけたのだ。特別製の大盾はそれ自体が鈍器、いや破城兵器のようなもの。それを渾身の力で叩きつけられればどんなタフネスなドールも前後不覚に陥ってしまうだろう。
「そらっ! もう一撃!」
再び開門した大盾が、もう一度閉まる。
「不知火! 今助ける!」
「むぅ!」
そこへ[嵐]の固有武装である大剣を陽炎がぶち当てた。あまりの衝撃にクロートーはバランスを崩し、門が閉じるのを防ぐ。そこへ援護とばかりに黒潮[野分]のミサイル攻撃が。
「うひぃ……陽炎っち、助かったわ……メンゴメンゴ」
「いい……それより戦闘は?」
「あー、機動力が二割減。スラスターがいくつかサゲサゲ的な? あとは……うげ、初風がイカれてら」
不知火[天津風]を小脇に抱えながら一旦、離脱する陽炎[嵐]。彼女の損傷は見た目ほど酷くはないが、メインウエポンである複合兵装・初風は先程の攻撃で破壊されてしまった。高い機動力そのものが武器と言える[天津風]ユニットではあるが、その攻撃力を大きく削がれてしまった。
『[天津風]は固有武装がビームサーベルくらいしかないかんね、どっする? 秋華?』
『……これはちょっと予想外の展開ね』
『秋華、ここは体勢を立て直したほうがよろしいのでは』
『ん……風さんの言うとおりね。三人共、一旦距離を取って――――』
「そうはさせるか! アトロポス、どんどん射掛けろ!」
「委細承知!」
またもやクロートーとラケシスは大盾で強固な壁を作りつつ、その後ろからアトロポスがビーム弓を放つ。なるほど、グローリー・オブ・ナイツの戦法は即席のトーチカによる漸減作戦なのだろう。防御と砲撃を兼ね備えた単純な策ではあるが、だからこそなかなかに破り難い。
「くっ……」
「ちょっ?! ちょっ?! マジ止めてって!」
「陽炎、不知火! 回避に専念してください!」
ビーム矢の速度はかなりのものではあるが、陽炎らのスペックからすれば回避はそう難しくはない。だが、その威力と着弾時の小規模な爆発を考えると途端に立ち回りが難しくなる。
「……反撃しようにも……黒潮!」
「分かってるわ、陽炎! これはどうかしらぁ!」
[野分]ユニットの武装は大型チェーンガン二門と多数のマルチロックミサイル、そしてそれらの照準管制するための高性能レーダー群で纏められている。しかしそれとは別に、ドール各人に複合兵装・初風が与えられており、近接戦闘用に微細な高速振動によってどんな装甲をも切り裂くブレード、そして。
「くぅ! この威力、なかなかやる! だが!」
クロートーの持つ大盾に凄まじい着弾の音と衝撃が奔る。初風には遠距離戦闘用に、高出力のレールガンが備えられているのだ。
一発、二発。投入するエネルギーを増やすほど、連射性能と引き換えにその初速と威力が高まるレールガン。特に[野分]装備時にはより精密な射撃も行えるその銃撃は。
「……! 効いてはいるけれど、ダメージとしては微々たるものねぇ」
黒潮[野分]の笑顔を絶やさない柔和な顔つきがやや曇る。大きなエネルギーによって凄まじい加速力を得た弾体は、音よりも疾く大盾と衝突する。だが、その威力も盾の質量と硬度の前には為す術もなく減衰させられるのだった。
「……不知火は一旦退避。黒潮、私と合わせて」
「りょ! でも無茶しちゃ駄目だよん!」
「タイミングは陽炎に合わせますわ!」
陽炎[嵐]と黒潮[野分]はナイツ・オブ・グローリーからやや離れた、コロッセオ中央部に並んで立つ。そして二人とも初風を構え、一点を見据える。
「ふん、小賢しい。我らが信念が不滅のように、この盾も不壊である!」
来る攻撃に備えるかのように、クロートーとラケシスは手にした大盾を地面に突き立て、その場にどっしりと構える。こうなっては余程の威力でなければびくともしないだろう。
対して、初風の砲身と刀身を兼ねた、少し短めのフレーム部からは紫色の放電が巻き起こる。どうやら、叢雲の持つ天之叢雲剣のように、ドール自身からのエネルギー供給によってその威力を高めることが出来るようだ。低く唸りを上げるコンデンサには限界寸前までエネルギーが溜め込まれ、その暴力を解放する時を今か今かと待ち構えている。
『陽炎! あまりチャージに時間は掛けられない! もうすぐ次のビームが……!』
「マスター、大丈夫」
チラリと隣の黒潮[野分]を見やった陽炎[嵐]。次の瞬間、コンデンサのエネルギーが瞬間的に空になった衝撃と、加速弾体が音速を突破した衝撃が二人を包み込む。
「ぬおおおおっ?!」
「クロートー、無事か!?」
コンマ何秒という差も無く、二丁の初風から放たれた二つの加速弾体は、精確に二つの大盾の片方、すなわちクロートーが持つ盾の中心に着弾した。ほぼ同時と言っていいその着弾は、一発ずつよりも遥かに効率よく運動エネルギーを盾に与え、それはつまり、より大きな破壊力となる。
「…………!」
「あらら……これは参っちゃうわね」
だが、それでも貫通するには到らなかった。
「黒潮、もう一度……!」
『駄目、駄目よ陽炎! 最大威力での射撃はエネルギーが……!』
「ふはははは! いいぞ、もっと撃ってこい! その調子で貴様らのエネルギーを使い果たさせてやるわ!」
尊大な笑い声と共に、アトロポスの矢が降り注いでくる。すぐさまその場から離脱し、ビーム着弾の衝撃に備える二人。今回もダメージは僅かではあるが、この状況に黒風白雨のマスターらは浮かない顔色を覗かせる。
『そうか……この重装甲と盾は身を守るためじゃないんだわ……』
『ん? どゆこと秋華?』
『相手チームはね、陽炎たちのエネルギーを消耗させるのが目的なのよ』
『そういう事ですか……それは厄介ですね……』
『んんん? 秋華と風は分かったかもしんないけどさ、アタシは全然サッパリなんですけどー?!』
『いい、舞。ドールはエネルギーが無くなっても戦闘そのものは続行できるし、時間経過で回復するけど……あんたの不知火、エネルギーが切れたらどうなる?』
『そりゃ、不知火たんの武装に回してるエネルギーも無くなっちゃうわけだから……あ゛』




