第三十四話「私たちの弱点……ですか」「……舞、風さん。その答えはバトルで教えてあげよう」
第三十四話
『さぁーて、観客の皆様お待ちかね! このチームの登場だ! 常勝無敗! 黒風白雨!』
バト子ちゃんの快活な音声が会場に響き渡ると同時に、彼女らの試合を待ちわびた歓声が湧き上がる。今大会で一番の注目株といえば、まず間違いなく黒風白雨が挙げられるだろう。
「……ようやく準決勝」
「お、スゲー歓声じゃん! アタシら、期待されてんねー!」
「ここまで応援されると、少し緊張してしまいますわね」
八雲秋華を先頭に、浦沢舞、萩谷風が自分たちのマスターブースへと歩みを進める。彼女らのドールはもう既にエントリーデッキへとセット済だ。
『突如として現れた期待の新星! なんと今回の予選大会が彼女たちの初陣であり、常勝無敗を続ける奇跡のチームっ! 一体どうやってその牙と爪を隠していたのかー! そしてこの準決勝戦でもその神速を見せつけてくれるのかー?!』
神速。黒風白雨の試合はまさに神速としか形容できない。
圧倒的な強さと素早い試合運びで、一気に勝負を付けてしまうことからファンの間では神速の黒風白雨だとか、スピード・キングだのと呼称されているらしい。事実、黒風白雨の試合時間は、この本戦大会だけみても平均を大きく下回っている。
「しかし、その神速もここで終わり! 何故ならば!」
秋華は何処からか聞こえてくる声を探す。どうやら、対戦相手のブースからのようだ。
『相対するのはこのチーム! ナイツ・オブ・グローリー!』
「そう! 私たちがあなた達を倒すからよ!」
ずびし、と秋華たちを指差すのは今呼ばれたチーム、ナイツ・オブ・グローリーのマスター。その眼は自信と野心に満ちあふれ、ギラギラと光って見える。
「……人に向かって指ささないで欲しいのだけれど」
「ふっふーん! そんな口を聞いてられるのも今のうちだわ! 何故なら、黒風白雨の事はしっかりと調べ尽くして弱点も把握してるんだから!」
「…………!」
弱点。その言葉に会場全体へどよめきが伝播する。
予選大会以降、破竹の勢いで対戦相手を蹴散らしてきた黒風白雨の、弱点。本当にそんなものが?というファンもいれば、強者がその馬脚を現すの見たいという野次馬根性を見せる者もいる。
真偽の程は分からないまま、秋華は口をつぐんだままブースへとその身を隠す。
「秋華? あんな事言ってるけど?」
「私たちの弱点……ですか」
「……舞、風さん。その答えはバトルで教えてあげよう」
少し表情が硬いものの、その言葉に動揺や弱気は感じられない。ならば、舞と風は普段どおりに勝つだけだ。
『さて、両チームとも準備はオッケーですね?! バトルフィールドのセッティングも今、完了しました!』
真っ白なフィールドに3D投影される映像が、まるで実物のような風景を作り出していく。一種のARであるBDGのバトルフィールドは、設定次第でどのような世界をも作り出せる。
『それでは準決勝戦、第二試合……バトルドール・レディゴー!』
試合開始の合図と同時に、フィールドへと飛び出す陽炎たち。今回も、陽炎が近接環境ユニット[嵐]、不知火が高機動環境ユニット[天津風]、そして黒潮が遠距離環境ユニット[野分]を装備している。
滑らかな動作で降り立ったのは、古代ローマを彷彿とさせる円形闘技場。つまりはコロッセオ。平坦な砂地の広い地形と、それをぐるりとすり鉢状に囲う観客席部分。フィールドには申し訳程度の木箱や背の低いブロック壁しかなく、ほとんど身を隠せるような場所はない。
『陽炎、相手はすぐに視認できるわ。速攻を仕掛けるわよ』
「了解、マスター」
秋華の言うとおり、相手チームのドール三人はコロッセオの反対側に降り立った所だ。このフィールドは序盤から激しい戦闘になりやすい為、こういう大会では人気のある反面、如実にチーム同士の実力が表れると言われている。
「うーし、んじゃまずはアタシから行きましょうかね!」
ズバ、と飛び立ったのは不知火[天津風]。高機動環境ユニット[天津風]の大型ウイングとスラスターは素晴らしい加速を見せつけて空を切り裂いていく。
「遠距離環境ユニット[野分]起動、不知火が接敵と同時に援護射撃いくわよ!」
鈍い音を立てるのは[野分]の兵装である二門の大型チェーンガンだ。大量の弾丸をばら撒く事を主眼においたこの武装はあらゆるドールを蜂の巣にしてしまう。黒潮[野分]は不知火[天津風]が上空から牽制している隙に一斉射しようと大地にしっかりと踏ん張る。
「先制攻撃、もーらいっ!」
風を切り裂きながら不知火[天津風]は複合兵装・初風のレールガンを連射する。このレールガンは投入するエネルギーによって連射性能、または一発当たりの威力を上げるか自由に選択できる。
「いくわよ〜? 喰らいなさい!」
空と地上から、無数の弾丸が一箇所に撃ち込まれる。あまりの激しさに一帯は土煙が巻き上がり、何も見えなくなってしまった。
高速回転するモーターのような音が静まり、チェーンガンが停止する。黒潮[野分]の足元に散らばった無数薬莢の数が、その恐ろしさを間接的に示していた。これでは並のドールはたちどころに撃破されてしまうだろう。
「……黒潮?」
「駄目ね、流石は準決勝ってところかしら?」
端正な顔が険しいままの黒潮[野分]は土煙の向こうに向ける。やがて、煙が晴れたそこには――――
「ふっ、その程度の攻撃……我々には通じない!」
――――無傷のドールが三人。
白銀に輝く、戦闘的機能美。流麗ながらも質実剛健を伺わせるその出で立ち。身の丈ほどもある巨大な盾には厳かな雰囲気の女神のレリーフが。
絢爛豪華な西洋甲冑を模した装甲を纏ったナイツ・オブ・グローリーの三人、すなわちクロートー、ラケシス、アトロポスだ。
「うはっ、パネェくらいにテカってんじゃん! まぶしっ! つーか、装甲厚すぎじゃね?」
上空を旋回する不知火[天津風]は彼女らのダメージ具合を確認するが、そのいかにもな重装甲と盾は少しも傷が付いていない。よほどの防御力だ。
「我ら、ナイツ・オブ・グローリー! その信念は何者にも害されず、その身体はあらゆる攻撃を跳ね返す!」
「そして喰らえ! 不届き者を滅する天罰の一撃を!」
巨大な盾を構えるクロートーとラキシス、そしてその後ろにいるアトロポスが長大な弓を引き絞る。アルテミスの持つオリオンボウ・アーチェリーモードよりも遥かに高出力なビームアローが形成されていく。
「うわっ?! これはちょっちヤバいよ〜?! 陽炎、黒潮避けるし!」
放たれた矢は二人を目掛けて円弧を描く。連射性は低いのだろうが、その欠点を補って余りあるほどの威力が予想される。
「……くっ!」
「きゃあ!」
咄嗟の回避行動で直撃は免れたものの、その余波だけでいくらかダメージが入ってしまった。陽炎らの装甲は比較的平均値な為、これを真正面から防ぐのは難しいだろう。
「避けたか! しかし、この程度では終わらんぞ!」
再びアトロポスが弓を引き絞る。だが、ここで引き下がる黒風白雨ではない。
「そうそう何度も撃たせないし!」
[天津風]のウイングをキラリと反射させ、不知火が急降下していく。そして猛禽類の如き身のこなしでアトロポスに襲いかかった。
「ふん、笑止千万!」




