33-3
33-3
空中で大口径キャノン砲の直撃を受け、小さな爆発の中から力なく落下するオデット。今や、その美しいドレスは泥と煤で見る影もなかった。
『はぁぁぁぁぁあああああ?!?! オデット?! なんで私のオデットがやられちゃってるわけ?! ふっざけんなし、お前らなにやってんだよ?!』
『うるっさいよ! そもそも何だよ?! 下手な妨害工作なんてしなくても良かったんだってば! あーもうリノアの口車になんか乗らなきゃ良かった!』
『……そういう……マリアさんも……ノリノリでしたよ……?』
とうとうリノアの怒声がハッキリと会場にまで響く。今やレベヂィーノエ・オーゼロのマスターブースは修羅場と化しており、リノアとマリアが言い争い、それを横からモアが火に油を注ぐ発言をする始末である。
「……は? オデット? オデットちゃん? なんで? え?! どうして?! なんで愛しのオデットちゃんがやられてんのよ?!」
「……なんか、向こうの方から凄い声が聞こえる気がするんだけど?」
「う、何だか背筋がブルってしましたっ!」
オデットを撃破した直後、森林のとある方向からオディールらしき叫び声が響き渡る。何かを言っているようなのだが、支離滅裂な内容と絶叫か悲鳴に近い叫びからは意味を汲み取れない。
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
ブツブツと同じ言葉を呪詛のように繰り返すオディール。いったい、何が彼女を変えてしまったのか。
「よし決めた。アイツラ全員皆殺し」
それまでの陽気な笑顔は剥がれ落ち、本来の彼女が表に現れる。その目は少しも笑っておらず、唇はただただ引き攣るばかり。
そもそも、オディールが普段、演じている陽キャムーヴはあくまで仮のもの。本来の彼女は少々話が通じないタイプの性格をしており、特定のモノに強烈な執着を見せるのである。そして、その執着の対象とは……もちろん、オデットである。
「なんなのアイツラなんなのアイツラよくも私とオデットちゃんの仲を引き裂きやがって分かってるんだろうな分かってるんだろうな」
彼女は今まで携えていたマークスマンライフルの銃身の方を掴み、伸び放題となっている下草をガサガサと掻き分けて進む。その足取りは虚ろなような、それでいて確固たる目的があるような。
「へぇ、よくもまぁ私達の前に姿を……って、なに?! 顔怖っ!」
「ひぃっ?!」
現れたオディールの表情を見て、叢雲とアルテミスは思わずその身が凍りつく思いをする。顔はだらんと弛緩しているにも関わらず、その血走った眼だけは爛々と昏い光を湛えているからだ。
「うわぁぁぁあああ!!!」
なんの前触れもなく、オディールは跳躍する。オデットと同じく身軽な身体能力を最大限に、いや限界以上の出力で翔んだ彼女は、両手に掴んだライフルをまるで鈍器かのように振り下ろす。
「わっ、わっ?! 危なっ?!」
「こ、怖いです! 助けて真理っ!」
「避けんなゴラァああああああ!!!」
狂人そのものとなったオディールは力の限りにライフル銃を振り回す。
冷静に観察すればその格闘性能は決して高くない事は明らかなのだが、しかしその鬼気迫る殺気の前にはさしもの叢雲も怖気づいてしまっている。
「お前らァ! オデットの仇ィ!」
「ふぅ……やれやれ。叢雲もアルテミスもだらしない。やはりヴェルグちゃんがいないと何も出来ないとみえる」
と、虚空からフレイスヴェルグの声が。しかし辺りを見渡してもその姿は見当たらず。
「何処にいやがるこのクソボケェ! 八つ裂きにしてやるから出てこいィィィ!!!」
「うわ、こんな下品なドールの前にはちょっと……というわけで、ほい」
不可視の相手に、オディールはブンブンとライフル銃を振り回すが、ただただ空を切るばかり。それどころか、何かに躓いたようで彼女は派手に転んでしまう。
「くそッ?! なんなんだァ?!」
どうにか立ち上がろうとするオディール。しかし、何故かその度にバランスを崩して再び地面へともがき倒れてしまう。
「クソがァァァァァァ!!!」
「おっと、マントが……」
もがき暴れる彼女が虚空の何かを掴む。不可視のそれはバサリとめくれ、そしてその向こうにはフレイスヴェルグがいた。
種が明かされればなんという事はない。フレイスヴェルグは光学迷彩マントで己の姿を隠し、オディールに対して足払いを仕掛けていた。通常は使用者が攻撃を仕掛けると光学迷彩の効果は失われるのだが、足を引っ掛けているだけではシステムに攻撃と見做されないという、システムの裏を突いた嫌がらせだったのだ。
「てめぇ……!!! おちょくりやがってェェェ!!!」
「それはこちらのセリフ。ふざけるのも大概にしてもらいたい」
フレイスヴェルグが音も無く投げたのは、一本のナイフ。接近戦を苦手とする彼女がソレを抜くのは珍しく、だがしかし白刃は真っ直ぐオディールのライフル銃を弾き飛ばす。
「まったく、確かにバトル外での情報収集やマスター同士で接触することはよくある事だろうし、あなた達のしたことは何かしらのルールに違反するものではない。だがしかし、少々やりすぎた」
フレイスヴェルグの腰に装備されているウエポンコンテナから二機のドローン、ミーミルの眼が射出される。ミーミルは回転翼を小気味よく鳴らしながら、今にも飛びかかってきそうなオディールの両腕の袖を引っ掛けてしまった。
「んなッ?! 離ッ、離せッ!!!」
フリフリのドレスはミーミルに絡め取られ、動けば動くほど余計に外れない。そうしているうちに、オディールはまるで磔のように吊り上げられてしまった。
「ぷぷぷ。あなた達風に言えば、とても無様な姿を衆目の前に晒している」
「うるせェッ! てめえェらアタシの怒りを思い知れェ!!!」
「何を言っている、ヴェルグちゃんの方が怒っているのは当たり前であり、当然の帰結である。……そろそろ騒音が煩いし、叢雲? アルテミス?」
「エッ?! あっ、ハイ」
「な、なんでしょうっ?!」
クルリと振り返り、叢雲とアルテミスにアイコンタクトを送る。何をすればいいのか、分かった二人は静かに得物を持ち上げた。
「……?! よ、よせッ! やめろッ!!! 分かった! 今までのこと、全部詫びるからァッ!!!」
「あーなったフレイスヴェルグは怖いわね……今後は怒らせないよう気をつけないと」
「で、ですね。ドールは見かけによらないというか……ブルルっ!」
「ヤメロォォォ!!!」
叢雲の十種雲形と、アルテミスの全弾発射の直撃を受けたオディールは断末魔を残すことも許されはしなかった。
「勝った。マスター、マスター、ぶいっ」
今回登場した相手チーム、レベヂィーノエ・オーゼロはずおさん(https://mypage.syosetu.com/1478755/)の原案でした! ご協力ありがとうございました!
ずおさんの最新作「先日伯爵家を追われました。幼馴染とふたりで業務改善アドバイザーとして生きていきますので、もうこっち見ないでください。」(https://ncode.syosetu.com/n6533gx/)もよろしく!




