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シュエットの放った弾丸は、いくつもの木々をくぐり抜け、バトルフィールドの高性能演算処理に従って物理運動を行う。空気抵抗や重力の影響を受け、真っ直ぐには飛翔しない弾道を、的確にアルミテスの下まで辿っていく。その間、時間にしてわずかコンマ五秒にも満たない。
ドール用の武装としては重火器のカテゴリーとなる銃身から放たれたのは、これまた特別製の銃弾である。先端を特別製のBDプラでコーティングされ、大抵のドール用装甲は難なく貫通してしまう性能を持ち、その重量は運動エネルギー増大させることで大威力を実現する。
その精確な狙撃を支えるのは過剰とまで言えるセンサー類だ。長距離レーダー、及び動体反応、赤外線センサー、さらには超音波探知機をも備えている。これらのセンサーが拾うわずかな反応すらシュエットのAIはたちどころに解析することで、どんなに離れた相手も、どんなに上手く隠れた場所ですら、一瞬にして見抜いてしまうのだ。
そう、シュエットはまさに魔弾の射手なのだ。バトルフィールドのどこからでも精確に獲物を狙い、絶対に外さない。どのような相手でも、一撃で仕留める戯曲の狩人。
だが、しかし。
「そんなもの、真理が作ってくれたこの装甲には効きませんっ!」
『いきなさいアルテミス~!』
まるで、巨大な釣り鐘をハンマーで打ち据えたのか、あるいは分厚い鋼が割れたのか。それほどの金属音がフィールド全域に轟き渡る。
アルテミスの胸部装甲は、果たして大きな穴が空いてしまったものの、貫通には到らなかった。
「…………?!」
「へっ?!」
その事実に、誰もが目を疑った。とりわけ、絶対の自信を持っていたシュエットとマスターであるマリアなどはポカンと口を開けた間抜けな顔を晒してしまっている。
そして、その一瞬の放心が命取りとなった。
『エネルギーは十分! 叢雲、今だよ!』
「分かってるわ吹雪! 十種雲形・積雲! アルテミス、方角はッ?!」
「見えました! ここからちょうど真北の方向ですっ!」
叢雲の握る天之叢雲剣が青白い光を放ち、その刀身からは極大のエネルギーが放出される。
フレイスヴェルグの作戦とは、アルテミスはわざとシュエットの攻撃を食らうことでその位置を逆算する事だった。これは賭けでも何でもなく、アルテミスが自身のマスターが作った装甲を信じているからこそ出来た芸当であり、吹雪の作った天之叢雲剣を信頼している叢雲だからこそ出来る、反撃の狼煙。
「喰らいなさい!」
『いっけぇ!』
十種雲形・積雲は大量のエネルギーを指向性の極太ビーム砲と化す大技の一つ。その威力は費やすエネルギーに比例し、それはつまり、殆どすべてのエネルギーを投入すればバトルフィールドの端から端までをも撃ち抜くことも可能となる。
「うそ……?」
シュエットが零した声は誰にも届かなかった。もともと無口な彼女のことだ、それが聞こえたとしても誰が発したのかは分からずじまいだったのだろうが。ともあれ、彼女は一度もその姿を衆目の前に晒すことなく撃破されたのだった。
「まずは一人ッ!」
叢雲が叫ぶのと、何処に潜んでいたのかオデットがその身を翻して強襲してきたのは、ほぼ同時だった。
「させませんっ!」
オデットの鋭い蹴りをその身で受け止めたのは、アルテミス。例え胸部装甲が大破していても、彼女の全身にはまだまだ強固な装甲があちこちに施されている。
「これまた、鈍重なのが出てきましたね」
「ふんだ! 遅い代わりに、あなた達の攻撃なんてビクともしませんからねっ!」
「オデットちゃん♪ 貴女のオディールちゃんが援護しちゃうわよん! くぉら、このボンクラッ! さっさとくたばれッ!」
「オディール、御託はいいのでさっさと撃ってください」
どこからかオディールの銃撃が飛来するが、シュエットの強力な一撃すら耐え抜いたアルテミスの装甲に有効打を与えることは出来なかった。アルミテスは両腕で胴体部及び頭部を守りながら、しっかりとオデット・オディールのコンビネーションを防御しきっている。
しかし、このままでは防戦一方というもの。
肩の迎撃用マシンガンでオデットの動きを牽制しようとするが、流石に彼女の俊敏な身のこなしに弾丸が追いつかない。それを見てオデットは一気に懐へと間合いを詰める。元より接近戦が得意な彼女ではあるが、アルテミスのような射撃に特化したドールは特に格闘技のような超近距離での間合いは苦手とする傾向にあるのだ。
「さっさとお仲間と一緒に寝ててくださいまし」
「ぐふふふ、喰らえ二人のラブラブ攻撃! 相手は爆発四散!」
「オディール、貴女少し黙ってなさい」
息もつかせないような連撃がアルテミスを襲う。ロングブーツの先端に伸びた鋭い仕込みナイフは僅かずつだが、しかし確実にダメージを蓄積させていく。
「…………っ!」
「どうやら言葉も出ないようですね?」
逆立ち状態からの華麗な蹴り技を披露し、さらには体操選手もかくや、というような身のこなしでアルテミスを翻弄していく。オデットの動きに合わせてそのドレスがぶわりと広がり、はためき、いちいち視界を塞いだりオデット自身の動きを隠してしまうのである。これには大抵のドールは対処できないだろう。
さらに、その死角から的確な支援攻撃が飛んでくる。オディールのやや重めの感情を背に受けながらもオデットは見事にアルテミスを追い詰めていく。
「……ですがその分、装甲が薄いと見ました! それならっ!」
「なっ?!」
アルテミスは全身のミサイルコンテナを展開、直上へと射出する。だが、いくらミサイルといえどオデットの動きを捉えることは出来ないはずだ。ましてや、この至近距離では自分にもダメージが及んでしまうだろう。そのような愚策、普通は犯すはずがない。
「そのまさかですよっ!」
頭上を一定距離飛翔したミサイル群は、そのまま反転してアルテミスとオデット目掛けて直進するではないか。しかもピンポイントではなく、二人を中心に広い範囲へと次々に着弾していった。
「そんな……! 馬鹿な……!」
そもそも、アルテミスの自慢の装甲は並の攻撃では傷すらつかない。例え自身のマイクロミサイル一斉射の直撃を受けたとしても、それはアルテミスにとってさほどのダメージにもならないのである。
対して、どうにかミサイルの直撃は避けたものの、至近距離であれだけの爆風を浴びてしまったオデット。その純白のドレスはあちこちが煤け、ボロボロになっている。このままでは不味いとばかりに大きく連続バク転で距離を取ろうとしたのだが。
「あら、一体何処へ行くつもりなのかしら?」
「くっ……!」
逃げた先には、叢雲が待ち構えていた。
「オディール! 支援を! 今すぐに!」
必死に叫ぶオデットだが、その要請も虚しく森の中に木霊するだけであった。
「……?! そういうことですか、この土煙を……煙幕にして……!」
見れば辺りはアルテミスのミサイルが巻き上げた土煙で一面が覆われていた。これでは森の中にいるオディールからはすっかり視界が遮られているのだろう。
「くそっ! 何も見えないじゃん!? シュエットがいれば……!」
そう、例え視界が塞がれた程度では彼女たちに何の支障も無い。シュエットの高精度センサーの前には殆どの障害物や煙幕は意味を成さず、それを頼りにオディールは照準を合わせるだけで良かったのだ。そう、そのはずだったのだ。
その刹那、オディールのマスターであるモアが仕方ないとばかりに通信を入れてきた。
『オディール……いいから……とにかく、撃ちなさい……』
『はぁ?! そんな事したらオデットちゃんに当たるかもしれないでしょ?! フレンドリーファイアで撃破とか、めっちゃ恥ずいから絶対に止めてよね?!』
『そんな事を……言っている場合ですか……』
『まま、二人共落ち着いて……ね?』
『マリア! あんたは一番に落とされてんじゃないわよ! お陰でチームの眼が塞がれちゃったじゃないの!』
『な、なんですと?! それを言い出したらリノアんとこのオデットさんがあの武者巫女をちゃんとボコってたらシュエットはやられなかったんですけどー?! 責任取ってくださいよねー?!』
マスターブースは音声が外に漏れないよう、防音対策が取られているのだが、レベヂィーノエ・オーゼロのブースからはその言い争いが観客席にまで聞こえようとしている。
「あらあら? マスター同士で仲間割れかしら? 流石、アンタんとこのマスターは一流ね?」
「ぐっ……! このッ!」
ここは引くべきか、それとも一か八か攻めるべきか。マスターに指示を仰ぐことも出来ないオデットは一瞬、ほんの一瞬だが動きが止まってしまった。
「遅いっ!」
迷いを見せた相手を前に、叢雲の放った一閃が容赦なく叩き込まれた。上空へと吹き飛ばされたオデットは、しかしギリギリでHPが残っている。
(……! このままの軌道を描けば、森の中に落ちる。そうすればオディールと合流、反撃へと移れます)
確かに、大きく放物線を描くオデットの向かう先は森林の中程。この木々の中ではオデットの機動力を以てすればゲリラ戦による逆転もあり得るだろう。咄嗟のシミュレートだが、まだ負けてはいないと確信した彼女は、冷たい表情がわずかに緩んでしまう。
「あ、そうそう。アンタは最後に倒すって言ったかもしれないけど……あれ、やっぱ嘘だわ。アルテミス?」
「狙いはバッチリです!」
背部パックパックから伸びたキャノン砲、その砲口がオデットを狙っていることを、彼女はついぞ気がつく事はなかった。




