第三十三話「アンタは最後に倒すって言ったかもしれないけど……あれ、やっぱ嘘だわ」
第三十三話
「と、いうわけでー♪ 撃っつよー? 無様にやられる姿を世間様に晒してちゃってねー!」
乾いた銃声が、森の中にこだまする。
歯を食いしばり、被弾に備える叢雲とアルテミス。
何かが壊れるような音が響いたものの、その素体には少しも衝撃が走ることはなかった。
「これは……フレイスヴェルグの……!」
「ドローンさんですっ!」
二人が目にしたのは、フレイスヴェルグが操る攻撃用ドローン、バルドルとヘズの半壊した姿だった。二機は自らが盾となって叢雲とアルテミスを凶弾から守ったのだ。
「ちょっ……なにそれ? つまんない。つまんなーい!」
森の中からは拍子抜けしたような、それでいて苛立ちを隠せないオディールの声が。彼女のAIでは、今の銃撃で身動きの取れない二人を嬲った末に撃破するつもりでいたのだ。その目論見が、このようなツマラナイことで崩されるとは。
「落ち着いてください、オディール。なれば、あの死にぞこないを先に始末すればよいでしょう?」
「うぐ……はぁ、そうだね。オデットちゃんがそう言うなら……ったく、†堕天使ちゃん†の癖に、小賢しいことしてくれちゃって!」
* * *
「叢雲、アルテミス……」
「ちょ、あんた大丈夫なの?!」
「ヴェルグちゃんさん、下手に動かないで!」
「大丈夫。いや、大丈夫くない。今やヴェルグちゃんは蹴り一発で撃破されてしまうような状況。そこで、二人にこの危機的状況を打破する秘策を授ける」
「はぁ?! 秘策とかいいから、そこ動かないでよ!」
「叢雲、少し思考プロセッサを冷やすといい。アルテミス、今ここですべき事は何か?」
「えと……あのイヤな人たちを倒すことですか?」
「その通り。しかし、今のブロッサムメイツでは到底なし得ない目標。一体、あなた達は何をしているのか」
口調こそ普段どおりの抑揚がないフレイスヴェルグ。しかし、その言葉の裏にはハッキリとした抗議の意が込められている。少なくとも、叢雲はそう感じ取れた。
「確かに相手チームの策略は周到で、何より実力も伴っている。普通に戦ってもこちらが苦戦するのは必至とヴェルグちゃんは判断する」
「……っ!」
「うう……」
「叢雲。叢雲はどうしてこの大会に出る気になった?」
「そ、それは……吹雪の為でしょうが! あいつ一人じゃ何も出来やしないんだから、私が戦って勝つのよ!」
「それなら、アルテミス。アルテミスは今のこの状況で負けて、それで納得できる? 相手の作戦にハマって、マスターとドールが仲違いして、それで負けて、二人はそれで良いと思っている?」
「嫌……ゼッタイに嫌ですよ、そんなのっ!」
「ならば、やるべきことはもう決まっている。後はそれを実行するだけ」
* * *
「叢雲……」
「アルテミス……」
ブロッサムメイツの、吹雪たちがいるマスターブース。レベヂィーノエ・オーゼロの攻撃に苦戦する自身の相棒を見て、そしてフレイスヴェルグの言葉を聞いて、吹雪と真理はその口を固く引き結ぶ。
「お二人とも、少しは頭が冷えましたか?」
美空の言葉に吹雪と真理はお互いに見つめ合い、そして美空にペコリと頭を下げる。
「ごめん、美空! 私、私……!」
「言い訳はしないわ~! 私が悪かったの~!」
「謝るべきは私じゃありませんよ。それよりも、とっとと反撃に移りましょう。ヴェルグはほぼ戦闘不能ですし、お二人が勝利の鍵ですからね。頼みますよ?」
「了解! 叢雲、エネルギー残量は余裕あるからいつでも十種雲形いけるよ!」
「アルテミス、まずは敵を捕捉しないと駄目だわ~! それまで弾薬は節約してね~!」
先程とは打って変わって二人の指示に精彩さが戻る。美空はそんな二人を横目で見つつ、やれやれ手間のかかる、とその口角をわずかに持ち上げた。
* * *
「よし、その作戦で行くわ。アルテミス、覚悟は良い?!」
「バッチコイですよ! それより叢雲さんも、外さないでくださいね!」
オディールからの攻撃がくる僅かな時間で作戦は決まった。あとは、やるだけだ。
「健闘を祈る。ヴェルグちゃんはここでダラダラ見物している」
かたや、フレイスヴェルグはよほどダメージが大きいのか、先程からピクリとも動かないでいる。よく先程はドローンを操作してオディールからの攻撃を防いだものだ。
「なになーに? 悪巧みしちゃってー♪ 私も混ぜてくんない~?」
やはり己の位置を悟られないよう、森の中をあちこち移動しているオディールが何処からか話しかけてくる。射撃用のセンサーを備えているアルテミスも、この森林の中では俊敏に動き回る彼女を捉えきれない。
「はっ! 混ぜてやってもいいけれど、それなら土下座して頼みにきなさいっての!」
「むかっ! そういう態度取っちゃっていいのー? シュエットちゃーん? あいつら痛めつけちゃってー?」
「ふんだ! あなた達の豆鉄砲なんて痛くも痒くもありません! 私の、この装甲の前には無力ですからっ!」
仁王立ちに立ち上がったアルテミスは、どこから狙っているともしれないシュエットに挑むかのような目つきで虚空を睨みつける。手にしていたオリオンボウもその場に放り投げ、完全に無防備な体勢だ。
「はぁ~? いくら固いっつっても、ウチのシュエットちゃんにかかれば紙同然の装甲じゃん。アホらし、シュエットちゃーん?」
「…………」
オディールが合図を出す前から、シュエットの右目は精確にアルテミスの胸部装甲を射抜いていた。その恐るべき索敵センサーと、特別製の狙撃プログラム、そして大口径スナイパーライフルの3つが組み合わさった威力はもはや語るまでもないだろう。
そしてさらに言えば、この森林ステージの鬱蒼とした木々を抜け、銃口から標的までの間には障害物は無い。大質量の銃弾は亜音速で発射され、遠く針の穴を通すような精度で、何者にも阻まれることなく、十分な威力を保ったままアルテミスの装甲を叩き割り、そして苦もなく撃破することだろう。
「…………ッ!」
普段であれば、その大威力を以て一撃で撃破することはない。序盤でフレイスヴェルグを撃ったときのように、ギリギリにHPを残したり、わざと外すというのは、もはやシュエットの癖でもあった。
何故そのような事をするのか?
それは単に、そのほうが面白いから。
だが、この一発は問答無用で叩き込む。このドールらはいちいち癇に障る、さっさと倒して決勝戦にコマを進めたい。そうシュエットのAIは思考していた。
『シュエット、頼むってー! 一撃で決めちゃってねー!』
マスターであるマリアの言葉も半ば無視するかのように、シュエットは引き金を引く。小気味良い反動と、大量の発砲炎を模したエフェクトが目の前を掠める。ここから一瞬のタイムラグを経て、あの戦車のようなドールは地面に倒れ伏すだろう。
そう、誰もが思った。




