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『……というわけで……オディール……お願いします……』
「ハイハーイ! このオディールさんにお任せあれ~! あ、シュエットちゃんも援護よっろしく~♪」
森林ステージのやや北側、ブロッサムメイツがいる地点よりも少し離れた場所。そこにはマークスマンライフルを片手に担いだオディールが、真っ黒としか形容できないフリフリのゴスロリドレスを揺らしながら次の狙撃地点目指して走っていた。
彼女が持つライフル銃は通常よりも少し大きいだけのアサルトライフルのように見えるが、いわゆるマークスマンライフルと呼ばれるものである。一般には、通常よりも高い性能を持った歩兵用の小銃を差すのだが、BDGの武装においてはアサルトライフルとスナイパーライフルの中間のような性能を持つ場合が多い。
その目的は前線の味方を後方から支援する、あるいは近距離・遠距離とのターゲットに対して臨機応変な対応を可能とする。端的に言えば、どんな距離でも一定以上の火力を持った銃器なのだ。
「…………」
「分かってるわよ~。一番厄介なのは、あのコスプレ巫女でも、歩く戦車でもない。あの†漆黒の堕天使†(笑)でしょ~?」
無口なシュエットの、無言の問いかけにあっけらかんとしたオディールの返答。
決してAIの言語機能が不具合を起こしているとかそういうのではなく、シュエットはもともと無口な性格らしい。しかし、彼女が何を言っているのか、それが分かるのは彼女のマスターであるマリアと、オディールだけだという。
そしてシュエットが装備しているのは大口径・長砲身の正真正銘スナイパーライフルである。もはや対物ライフルと言っていいほどの大口径銃弾を使用するソレは、BDG用の銃器の中でもトップクラスの射程と威力、そして命中精度を誇る。その分、扱いが難しかったりコストが重めではあるが、狙撃に特化した性能のドールが握れば鬼に金棒、無類の強さを発揮する。
取り付けられたスコープも特別製で、彼女は今も金と銀のオッドアイでブロッサムメイツに照準を合わせ続けているはずだ。装甲も殆どなく、制限コストの殆どをこのスナイパーライフルと索敵用レーダー等に費やしている。
前線で格闘技主体のオデットがかき乱し、それをオディールが支援、さらにシュエットの精密な狙撃で敵を仕留めるというのが彼女たち、レベヂィーノエ・オーゼロの必勝パターンなのだ。
ただし、これまでのバトルではシュエットの狙撃でトドメを刺すことは少ない。マスターの裏工作も勿論あるのだが、それ以上にオデット・オディールのコンビネーションが強力だという証左でもあった。
「…………」
「りょーかい! まずはアタシがあいつらを分断するから、シュエットちゃん後よろぴくね~♪」
ちなみに、このオディールはマスターであるモアとは正反対な性格というか、やたら明るいノリと軽い口調でいつも周囲を困惑させるドールだ。マスターとドールは似たもの同士か、あるいは凸凹コンビが多いという通説があるが、それにしてもこの二人の組み合わせは極端にすぎる。
前線ではオデットがブロッサムメイツを一人で引きつけている。その間にオディールは軽やかな身のこなしで倒木を飛び越え、目的地へと滑り込む。そして無駄のない動作で片膝を着いた射撃姿勢を取り、ライフルのスコープを覗き込む。
「……よーし、タゲ捕捉。オデットちゃん~? 十秒後に射撃開始、それから作戦発動だから~♪ 上手く合わせてねん?」
立ち木の間を上手くすり抜け、さらにはその纏っているドレスの探知妨害機能によってオディールの位置は特定されていない。ブロッサムメイツとはわずかな距離、アルテミスが一帯を吹き飛ばしてくれたお陰で照準は容易に付けられる。
「さーてと、それじゃあ七面鳥撃ち……始めちゃいますか!」
* * *
「銃撃?! どこから!」
天之叢雲剣の一太刀をオデットが大きく後方に避けた直後、彼女は何故か森の中へと姿をくらました。追いかけるべきか一旦体勢を立て直すべきかを逡巡していると、間を置かずどこからか銃弾が襲ってくる。叢雲は何発か喰らってしまったものの、その銃撃は彼女自身を狙ったものではないらしく、さほどのダメージにはならなかった。
「うわっと! すみません叢雲さん!」
同様に銃撃を回避したアルテミスが叢雲と背中合わせにぶつかってしまう。反対にフレイスヴェルグは向こうの方へと大きく避けたようで、彼女とは距離が離れてしまった。
「ここは分散したら不味いかもしれないわ、急いでフレイスヴェルグと……ッ?!」
叢雲とアルテミスが駆け出そうした瞬間、フレイスヴェルグの身体が大きく跳ねた。
そのまま力なく地面に倒れ伏した彼女はピクリとも動かない。
「そ、狙撃?! 叢雲さん、伏せてください!」
「また銃声が聞こえなかった……! 一体、どれだけ遠くから狙ってきてんのよ!」
「そ、それよりヴェルグちゃんさんは無事なんでしょうかっ?!」
確かめに行こうとするが、二人の頭上をライフル銃の掃射が掠める。二人はその場で伏せながら周囲を確認するが、相手の姿は見えないままだ。
「チッ、どういうつもりなのよ!」
「次、撃ってきませんね……恐らく私たちも狙われているはずなのに」
この森林ステージの平坦な地形からして、叢雲とアルテミスもいつ狙撃されてもおかしくない状況だ。だが、この状況で相手チームの攻撃が無いのは奇妙としか言いようがない。
『ヴェルグ、大丈夫?』
「うう、大ダメージ……。HPの残りゲージはきっとミリしか残ってない」
『……恐らく、相手チームのスナイパーはわざとヴェルグを撃破しなかったのでしょう。何かの罠……?』
相手のスナイパーライフルの威力と命中精度を鑑みれば、一発でフレイスヴェルグの薄い装甲を貫き撃破することは比較的容易なはずだ。にもかかわらず、一撃で仕留めないのは何か理由があると考えるべきだろう。
と、その時。森のどこからか甲高い笑い声が聞こえてきた。
「あははは! 良いザマだねー♪ まるで地面を這いつくばるウジ虫みたーい!」
オデットとは異なる声と口調。挑発的なセリフを投げかけてきたのはオディールだ。
「そっちの死にかけな†堕天使ちゃん†、辛そうだねー? ほらほら、急いで助けにいかないでいいのー???」
「こンのぉ……!」
「む、叢雲さん! 落ち着いて!」
思わず立ち上がろうとした叢雲のすぐ側を一発の銃弾が掠めていく。またしても銃声が聞こえなかったところから、遠距離にいるスナイパーだろう。オディールとシュエットは一発撃つごとに移動しているのか、先程からすべて異なる方向からの銃撃ばかりだ。
「キャハハハ! 手も足も出ないって、こういう状況のことかな~♪ あ、でもでも~? ウジ虫だし手足が無いのは当たり前だよねー!」
声がする方向もその都度変わっている。こうして位置を探らせないことで不意の反撃を防いでいるのだろう。
『叢雲、下手に動かないで!』
『アルテミスもここは相手の様子を伺うのよ~!』
マスター二人からの指示だが、ドール二人はそれに従うまでもなくこの状況下では文字通り指の先も動かせないでいた。ライフルの方は被弾覚悟で動けばなんとかなるが、スナイパーの方は恐らくアルテミスの装甲を以てしても大ダメージは必至だろう。
それにすぐ近くにカポエイラ使いも隠れ潜んでいる。迂闊な行動は文字通りの命取りになってしまうのだ
「相手の位置も掴めないし、このままじゃ反撃どころかヴェルグちゃんさんを助けにいくことも出来ませんよ?!」
「あいつら……私たちを嬲るつもりね」
「せっいかーい! 普通にバトって勝ってもいいんだけどー? もう準決勝戦だし、ここいらでギャラリーの皆さんにもちょっとしたスリルを楽しんでもらおうと思ってねー♪」
「楽しんで……ですって?!」
「そんなっ?!」
(まー、本当は私達が気持ちよく勝ちたいだけなんだけどねー?)
「と、いうわけでー♪ 撃っつよー? 無様にやられる姿を世間様に晒してちゃってねー!」
乾いた銃声が、森の中にこだまする。




